イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

刹那でも偽りでも

2009-05-23 16:42:57 | ミステリ

『夜光の階段』は全何話なのかな。6月いっぱいまでの3ヶ月クールなら、せいぜい10話、たぶん9話でしょう。21日放送の第5話で、あらかた折り返し点を過ぎたことになります。

なんだかもったいない。2話辺りから、これは失敗した『金色の翼』07年)かな…という気もしていました。

『金色~』自体、些少とは言えない欠点を抱えたドラマだったたので、より正確には“もっと成功に近づけたかもしれない『金色~』”かな…ですね。

 松本清張さんの原作未読ですが、連続ドラマにするなら、佐山道夫を“同情すべき傷もある孤独な色悪”として主体にせず、“羨まれる境遇・地位にいるが、それぞれに欠乏感を秘めた女たち”を刺戟し欲望とエゴを曝させて行く“触媒”として取り扱ったほうが、ずっと成功可能性が高くなるはずです。

そのためには、女たちを、登場いきなり醜悪に、エロ剥き出しに、食えなく描かず、木村佳乃さん扮する花形女性誌記者は凛と自立に生きる知性派に、夏川結衣さんの報道誌記者は辣腕かつ竹を割ったような親分肌に、室井滋さんの証券会社社長夫人は貞淑な賢夫人に、南野陽子さんの料亭女将は囲われ者の分をわきまえた耐える女風情にして、それぞれの“ビフォー佐山”→“アフター佐山”の、だんだん暗黒に堕ちるグラデーションと落差を際立たせていくほうがいい。

いまのままでは、女たちが軒並みろくでもなく、仕事そっちのけで色欲満々なため、見ようによっては“こんな女どもとかかわるから、露見しないでもいい過去の犯罪が露見して、佐山キノドク”とすら見えなくもありません。

 いまさらですが、佐山道夫役は、“どんな女もひと目で虜になる美貌”の部分だけヴィジュアル説得力があれば、もっと無名の、色のついていない俳優さんを起用したほうがよかった。

 藤木直人さんはすでに押しも押されもせぬ、多くのファンを持つ二枚目俳優であり、女性視聴者必殺の“定番催萌商品”ですから、ドラマ作りがどうしても“佐山が切なくカッコよく見えるように”“視聴者の女心をくすぐり「悪でもいい、一度ナニされたい」と思えるように”という方向に組まれてしまう。ゴールデンのドラマである以上、キャストクレジットに華がなければならないし、これは致し方のないことでしょう。

以前、ここで『夜光~』映像化における歴代佐山役俳優を振り返ったとき、「ゴーオンブルー片岡信和さんはどうかな?」なんていう勇気ある(←自分で言うな)提案をしてみたのですが、たとえば『カブト』風間大介前の加藤和樹さんや『キバ』名護さん前の加藤慶祐さんを起用して、九州からかつかつで上京逃亡してきた裸一貫の佐山が、行く先々でなぜか女が皆チヤホヤしてくれる、「オレってこういう天賦の才があるんだ、おっしゃあ、これで成り上がったるぞ」という意識を固め、根拠なき自信に溺れていくような描写をすれば、「ちょっと、あの、見たことないきれいな顔の俳優さん誰?」と問い合わせが殺到して、結構面白い転がり方をしたような気もするのですが。

色のついていない新人イケメンくんに、所属事務所がやらせたいような役でないことも確か。

『金色の翼』は“触媒”役に国分佐智子さんをあて、贅沢な隠れ家リゾートに集うなんちゃってセレブ、“お品よく見せてわけあり”の人々が“夫殺し疑惑の世界的富豪未亡人”に出会うとどう変わり、どう動き、どう摩擦衝突するか…という興味で前半を牽引しました。失礼な表現ですが、認知度知名度において国分さんを上回る、大物感・実績ある女優さんをこの役にキャスティングしていたら、早い段階でこのドラマはぽしゃっていたはずです。

 主役が“主体”でなく“触媒”であるドラマは、うまくいけばおもしろいけれど、うまくいかないリスクも高い。『金色~』も、修子の出自や過去を台詞で説明して行き、昼帯ドラマ定番の“視聴者が応援したくなるような逆境ヒロイン”にスライドさせようとした後半で、案の定ぼやけてしまいました。国分さんはよく演っていたのですけれどもね。

『金色~』の放送中、たびたびダフネ・デュ‐モーリア作『レイチェル』(←←←左柱のオールタイムフェイヴァリット)を思い出しましたが、触媒役を触媒役のまま、自然と心惹かれるゆかしき存在に描出して、読者(or観客)を「自分がこの女性の立場だったら、この状況で何を考え、どういうハラでいるだろうか?」と想像せずにおられなくさせては、そのたびに共感を拒否し、拒否されても拒否されてもゆかしく思うようにさせ翻弄した挙句、触媒役のまま忽然と退場させるのは、地上波連続ドラマではむずかしいのかもしれません。

『夜光の階段』で言えば、佐山が上京後就職した美容室オーナーの妻役・荻野目慶子さんの使い方ももったいなかったですね。なぜあんなに早く出番終了する役にあてたのか。

『女優・杏子』の荻野目さんですもの、大女優藤浪竜子役でよかったじゃないですか。それでも出番全然足りないけど。赤座美代子さんの、“若づくりと虚勢が本能”みたいな演じ方もさすがで、悪くはないけれど、荻野目さんなら、たとえば“ビフォー”を“演技ではあだっぽいのに私生活は男の匂いがしない”浮き世離れしたイメージに演じ、“アフター”で徐々に崩れた、場末じみた肉感にしていくぐらいのことは平気でできたはず。

理想のお嫁さんタイプだった木村佳乃さんの、体当たり“イヤ汁”女演技もほとんど報われていないし、いろんなところがもったいなさ過ぎるドラマだと思います。

コメント
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