イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

女豹の香り

2007-06-30 20:47:00 | コスメ・ファッション

 『麗わしき鬼』最終話、夜の庭先で英矢とみちるが肩を並べて西瓜を食べる場面を見ていたら、一昨年安売り店で衝動買いしたジャガー ウーマンのオーデトワレを思い出しました。

 クルマ好きな方ならよくご存じの、英国製のあのジャガーブランドのフレグランスです。

 パワーストーンで言えばクンツァイト=リチア輝石を思い出させる淡ピンクと、キリッと涼しげなツヤありシルバーとのコンビネーションのパッケージに惹かれ、たまにこういう植物的な香りもいいかなと思ったのですが、お店にさりげなくいろんな香りが渦巻いていたせいなのか、試したときの月河の体調が良くなかったのか。

 買った数日後、改めてつけてみると、トップが思い切り西瓜っぽいの。

 この淡ピンクそう来たか!西瓜をあらわしていたのか!と気がついたときはあとの祭り…と言えばチョットけなし過ぎになりますな。フルーティー系のつねであくまでトップ限定。ラストのほうはかなりムスキーで女っぽい、フェロモニックな香りになるので、その振り幅広さを評価すれば、わりと傑作調香の部類かもしれません。

 しかし、フルーティー系の中でも、柑橘でもベリー類でもなく、いきなり西瓜がドーンと最前面に出てるフレグランスって、稀ではないんでしょうけど、月河は初めてだったのでかなりびっくりでした。

 西瓜を英語で“ウォーターメロン”と言いますが、ウォーターの付かない“メロン”の香り主体のフレグランスなら、ブランド名などは思い出せませんが何度か嗅いだ記憶があります。

 あと、グリーンアップル=青林檎の香りのボディーローションは学生時代好きでよく使ったなぁ。ラブ化粧品。同社のレモンの香りのファンもいました。だから体育の時間前の更衣室なんかは、そっち方面のマニアなら鼻血噴いて倒れるようなどえらいことになっていたんですが、それはともかく、単一フルーツの一本調子な香りをパシャパシャつけて気持ちよくいられるのはいま考えれば若さの特権でした。

 そんな中では、西瓜って、果物の中でも、香り・香気をおもに楽しむ系のフルーツというイメージがあんまりなかったんですね。フレグランスにされてみて、初めて「そっか、そう言えば西瓜ってこういう香りだったわ」と気がついたぐらい。

 日本では、西瓜は香りよりも、やはり暑い季節の“天然のシャーベット”として、シャボシャボした歯ざわりとジューシーさを楽しむほうが優勢ではないでしょうか。『麗鬼』では精子検査の結果良好でハッピーなみちるちゃんが、肌を露出しないワンピース姿で手団扇しながら、まだ夏本番ではないけど暑いわねぇという季節感、あんな(精子)検査緊張しちゃったワという心理を、併せて巧みに醸し出しつつ食べて見せてくれました。

 英矢「男みたいな女の子が生まれても困るなァ(笑)」みちる「贅沢言わないのッ、どんな子が授かっても有難いじゃないの、眉川家の直系としてちゃんと育ててくれなきゃダメよん」英矢「あー、そうだなぁ…」の会話のあと、庭に向かって座る2人の背中を無人の室内から映したカットがよかった。

 カメラ位置がやや上めなことを脇に置けば、小津安二郎の映画にも似た、心情の掬い取り具合でした。

 肉体的に生殖能力のない兄が、能力はあるけど精神的に異性と交われない弟の力添えで血の後継に恵まれるという構図は、産めない悠子&産める洵子姉妹協力の構図の、もうひとつのヴァリエーションとも言えます。

 そもそもこのドラマ、1話で英矢が父・鞆泰から「昔、懇ろにしていた女性(=みず絵ママ)が四谷に店を開いている、高校生になる息子(=みちる)がいるはずだから様子を見て来てくれ」と言われて、当時はまだ普通のスナックだった“壱岐”を訪ね、富弓と出会うところからすべてが始まっています。

 「お兄さんには会いたいけど、こんな(ゲイの)アタシをどう思うかしら」と緊張していたみちるに、産婦人科医の英矢が「生命の発祥はオスもメスも一緒だから、みちるクンのように身体は男でも心は女性というのは異常でも病気でもなく、むしろ自然なんだよ」と好意的に接してくれたこと、鞆泰・房子夫妻にもためらわず紹介して好感触を得たことが、最終話での代理出産協力、悠子Ⅱ世誕生につながりました。

 あのとき眉川家の誰か1人でもみちるを毛嫌いしたり、蔑んで遠ざけたりしていたら、この結末はあり得なかったわけです。

 こう考えると、このドラマは悠子洵子姉妹の数奇な運命の物語というより、若い時分から子供を欲しがってやまず、命の重さ、命を連続させることの尊さを誰より知っていたみちるが、性的マイノリティーという弱みを補って余りある人徳を活かして、めでたく“自分の子”を授かるまでのストーリー…とも読めます。

 ドラマ本編では、みちるは要所要所で一里塚的発言はしつつも、一貫して物語のナレーター・語り部に徹していました。恐らくは数々の報われない恋心や悲しい別れも体験したのであろう彼の半生に、踏み込んだ描写がほとんどなくて、野心や色欲・金銭欲、嫉妬怨恨などの負の感情からまったく自由な、妖精のような存在として描かれ通したことで、あからさまなセリフ、刺激的なシーンが交錯する濃厚なドラマに、常に一陣の涼風が吹き抜けていました。

 みちるちゃんは蒸し暑い一日の終わりに食べる、甘く素朴にシャボシャボ冷えた西瓜のようなキャラだったかもしれませんね。あの場面、啓子さんの定番・紅茶にケーキでもなく、ビールに枝豆でもなく、はたまたアイスクリームでもなく、西瓜だったことに、このドラマのセンス、みちるというキャラの愛され度合いを改めて感じました。

 ジャガー ウーマンに話を戻せば、西瓜が象徴する通り、まさに夏向きな香りでしょうね。リゾート地のホテルの、夕方のパーティーなんかをイメージするとつけやすいかも。月河の身すぎ世すぎには、かなり縁遠いシーンですが。

 西瓜メインのスイートフルーティーはトップだけで、時間が経つと結構、主張する香りになるので、つけて速攻、閉め切ったクルマに乗り込んで2人きりの親密ドライブ、なんてのにはトゥーマッチだと思います。

 ………って自分と縁のないシチュエーションばっかり引き合いに出してどうするんだ。

コメント
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