野原に出て坐つてゐると、
私はあなたを待つてゐる。
それはさうではないのだが、
たしかな約束でもしたやうに、
私はあなたを待つてゐる。
それはさうではないのだが、
……

池のほとりの黄昏は
手ぶくろ白きひと時なり
草を藉(シ)き
静かにもまた坐るべし
…… (草の上 三好達治より抜粋)
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吹き渡る葛の嵐の山幾重 たかし
葛が生いしげる野原に出た。 いくつもの山が出来ている。 はい上がり生きもののような逞しさで大樹を絡め取っている。 低いところでも花は広葉のかげで衣かづきさながらに、 顔を隠している。
幾重にもなる葉をかき分けて、 ようやく紅紫の塔が覗いた。
豆の花に似て蝶形の花が下から咲きのぼる。
いつか葛菓子をいただいた。
ほんのりとした甘さが舌のうえでやさしく溶ける。
上品な贈り主を想いだす。
歩いていると匂いの風が近くなる。
あたりにきっと葛がさいている。 また 探してみよう。