地球散歩

地球は広いようで狭い。言葉は違うようで似ている。人生は長いようで短い。一度しかない人生面白おかしく歩いてしまおう。

2008-11-05 16:27:04 | ペルシャ語

کوه(クーフ)

イランの風土を思い浮かべる時、砂を孕んだ風が吹き過ぎる沙漠性の乾いた大地が自ずと脳裏に浮かぶ。同時に、4,5000m級の山々が連なる雄大で起伏に富んだ風景をも思い描く。
イランの国土を北西から南に縦断して走るザーグロス山脈と、テヘランのすぐ北に聳えるイランの最高峰ダマーヴァンド山(海抜5,671m)を抱えるアルボルズ山脈。イランは、このふたつの山脈によって気候風土が大きく分断されている。
高い山が存在するという事実は、それによって隔てられた地域同士の文化・習俗をも違ったものとして決定付ける。
実際、アルボルズ山脈によって生まれる差異は顕著だ。カスピ海からもたらされる湿った風が山脈によって遮られ、日本のような雨の多い気候を生み出している北部沿岸地方ではその気候もさることながら、放牧の牛が徘徊し、木造の軒の低い家屋が緑濃い田畑や茶畑の間から見え隠れする牧歌的な懐かしい光景が、イランに対する人々のイメージを見事に裏切る結果となっている。

私が住むテヘランは、カスピ海と平行して走るアルボルズ山脈の南側に位置する。テヘランのすぐ南には荒涼とした土漠の大地が横たわるが、ダマーヴァンド山の雪解け水の恩恵に預かるテヘランは、緑も多く水も豊富だ。
ダマーヴァンド山の麓には、小洒落たチャーイハーネが立ち並ぶエリアがあり、涼やかな水音を聞きながら、日がな水タバコの煙を燻らす人々の姿が見られる。
山の中腹には温泉保養施設も存在し、日本の温泉地さながら水質や効用を記したプレートが掲げられ、非常に簡素ながら宿泊設備を併設した温泉もある。決して観光地とは言えない場所だが、温泉好きの人は一度は訪れてみるのもいいかもしれない。

冬の間雪に固く閉ざされた山も、寒が緩み雪解け水を麓の街にもたらす季節、その稜線は野生のチューリップの赤い絨毯で覆われる。標高の高い山々の季節の変遷はダイナミックだ。その急激な冬から春への変化は、麓に住むテヘランの人々にも、なんとなくソワソワした昂揚感を呼び覚ます。普段、心の内をあまり見せることのないイラン人の内部に潜む情熱的な性質は、イランの気候風土の激しさを連想させる。

一方、酷寒の季節へ向かう今、ダマーヴァンドの山は雪帽子のサイズを日々大きくする。テヘランの市街地から汚れた空気を透かして望む峰は、夏場よりも幽玄さを増し、その神秘的な風貌は、現世をいくらか遠ざけているかのようにさえ見える。この山のシンメトリーな整った美しさゆえに、形の似た富士の山を、ダマーヴァンドと並べ愛でるイラン人も多い。

ペルシャ神話の世界で、黄金時代の王イマを殺害した悪魔アジ・ダハーカが、終末の時まで幽閉された場所とされるダマーヴァンド山。美しいながらもどこか禍々しいまでの高貴さを湛えたこの山が、「永遠の牢獄」として神話の世界で機能したのも自ずと頷ける。
ペルシャ神話に見られる
壮大な想像力は、時に人の命を奪う険しい山々が生み出す、情緒豊かな自然の賜物ではないだろうか。半ば雲に覆われたダマーヴァンドの頂を見上げ、ふとそう思う。(m)

*「十戒」の山(アラビア語)、神話と遺跡の山(ギリシャ語)、信仰の対象(日本語)の富士の山、聖書の山(トルコ語)。世界の山の頂を目指してまだまだ「散歩」は続きます。
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4 コメント

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山とは (yuu)
2008-11-09 14:37:08
う~ん、山って雄大…にして、厳か。
なので、私は山を遠くから見るのが好きです。
一度近くに泊まった時、あまりに山が大きくて
畏れを感じたのでした^^;;;
それにしてもイランにはすごい山が連なって…
ふと思いましたが、スキーとかって…
できないものなのでしょうか、さすがに?
yuuさん (mitra)
2008-11-09 20:19:14
ああ、分かる気がします!山は近くにあると、
畏れ多いもの・・・という意識が私にもあります。
迂闊に入っていけないような。
雄大な自然を目の前にした時に起こる、人間の
ナチュラルな感情なのかもしれませんが。
ところでスキーですが、本文には書かなかったの
ですが、イランでスキーできますよ!
テヘランの北に聳える山にはスキー場があって、
イランの小学校のペルシャ語の教科書にも
「イランでは冬にスキーをします」なる文章が
出てくるようです。
また、近隣の雪が降らないアラブ諸国(主に
UAEだと思います)から、スキーをしにイランに
旅行に来るツアーがあると聞きました。
はじめまして (たびねこ)
2008-11-13 01:29:22
ちょこちょこと読ませていただいております。
4、5000m級の山々が連なっているなんて、富士山もびっくりです。世界は広いな~~
ダマーヴァンドの山を見てみたいし、温泉に入ってみたいです。永遠の牢獄の温泉になるのですね(笑)ちょっとこわい(笑)
ペルシャ神話もとても面白いので、次のも楽しみにしていま~す。
たびねこさん (mitra)
2008-11-13 17:51:43
たびねこさん、初めまして。
「永遠の牢獄の温泉」、長崎の雲仙、地獄岳も
びっくりの命名ですね~。
ペルシャ神話の話は、神話好きなもので、今までも
度々登場させましたし、これからもちょくちょく
するかと思います。今後もどうぞよろしく
お願いいたしますね。

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