Uva(ウヴァ)
旬のお題「ぶどう」をイタリアで・・と考えたときに思い浮かんだのは、ローマのボルゲーゼ美術館にある絵画、カラヴァッジョの「病めるバッカス」である。バッカスとはギリシャ神話に登場するブドウ酒の神「ディオニソス」のローマ名。アテネ国立博物館にある大理石のディオニソス像は細面の端麗な顔立ちに髪がブドウという姿。そんなイメージを持っていた私にとって強烈な作品であり、描いたカラヴァッジョという画家の存在も強く記憶に残った。
ブドウの葉の冠、果実を手にした姿は定型とはいえ、筋肉質の肉体やこちらに向けられた眼差し、血の気のない肌や唇が「病める」という言葉と共に生々しく迫ってきた。美術館の解説には風刺的自画像と書いてある。
カラヴァッジョはバロック絵画の巨匠。徹底したリアリズムでルネサンス以来の流れに革新を起こした。通例であった美化を捨てて聖人を庶民やみすぼらしい姿で描き、また静物は枯れ朽ちる葉や腐敗する果実をも写し取ることで表現。劇的な明暗の世界も大きな特色で、後続のレンブラント、フェルメール、ルーベンス、ベラスケスに大きな影響を与えている。あまりの現実主義に教会の祭壇から取りはずされたこともあったそうである。
彼の激しさは絵画表現にとどまらず、私生活で度々問題を起こしている。35歳の時に殺人で告発されて賠償から逃れるため、ローマを離れてナポリ、シチリア、マルタを転々とさまよい、恩赦を嘆願する為に描いた絵画を教皇庁に送って返答を待っている間に熱病に倒れて、38歳の短い生涯を閉じた。
カラヴァッジョの肖像画は最後の10万リラ紙幣に採用されたが、人殺しを紙幣の顔にするのかとの批判もあったそうだ。しかし彼の残した絵画に揺るぎない価値があることは、絵の前に立つと深く理解できる。
ボルゲーゼ美術館は枢機卿の荘館(写真)で、代々収集してきた数々の美術品を展示している。かつては広大な敷地にブドウ園やワイン倉もあったということでバッカスが住むにふさわしい邸宅だったようだ。(さ)
参考文献 『ボルゲーゼ美術館ガイド』 『絵画の見かた』(視覚デザイン研究所)
いつもありがとう!Grazie ! 旬のブドウは日本、イラン、エジプト、トルコ、沖縄、ギリシャなどなど目白押し。また賞味されていない方は是非!ぶどうだけでなく、ワインも飲みたいな。ディオニソス(バッカス)に乾杯クリックよろしくね。人気blogランキングへ
戻ってきました~のご挨拶が遅くなってしまいまして、すみません。
ブドウのまつわる各国のエピソード、面白く拝見しました。太古から親しまれているフルーツだけあって、話題も盛りだくさんで、またまたいいお勉強をさせて頂きました。
ところで、このバッカス君、今まで見てきたディオニソスのイメージとは全然違って、何だか可愛いです。「病める」という言葉もそのまま、退廃的な雰囲気も醸し出していますね。表現するアーティストによって、こうも描き出され方が違うのか、とびっくりです。
カラヴァッジョって、名前しか知らなかったんですけど、ちょっと親しみを感じてしまいました。あの時代に、このような現実的な表現を出来たこと、素晴らしい芸術家です。
早速のコメントありがとうございます。
今が旬のブドウ、各地いろいろで面白いです。
トルコは碧が旅をした中で出会ったブドウジュースを書いていますが、まだまだ様々なブドウネタがあるのでしょうね!
そうなんです。バッカス君、びっくりですよね。もう一枚、フィレンツェのウフツィー美術館にもカラヴァッジョのバッカスがあるんですよ。こちらは自画像ではなく庶民的な青年ですが、やはり退廃的な雰囲気です。
日本ではあまりメジャーな画家ではないんですよね。私もボルゲーゼに行くまでは名前だけ聞いたことがあるかな・・という程度でした。宗教画は、当時はいろいろ言われていたようですが、素晴らしい作品が沢山ありますよ。
ウフィツィ美術館の方のバッカス
(↓下は、Wikipedia英語版の「ウフィツィ美術館」に載っていたバッカスの画像です)
http://en.wikipedia.org/wiki/Image:Michelangelo_Caravaggio_007.jpg
マユの感じやふっくらした頬からそう思うのか、私には日本人にしか見えません。「病めるバッカス」の方は、リアル過ぎて、薄気味悪いほどですね。こういう絵を描くところがカラヴァッジョの真骨頂なのかもしれませんが。
イタリアは何度も旅行をしているのですが、ブドウの季節でなかったせいか思い出がありません。ワインは過去に記事にしてしまったし・・ということでカラヴァッジョが登場しました。住んでいたら、また別のテーマがいろいろありそうですよね。
それからウフツィー美術館の画像もありがとうございました。なるほど、日本人っぽい顔立ちですね。何となく女性的でアンニュイな感じも漂うバッカスです。「薄気味悪いほど」という言葉がピッタリな「病めるバッカス」を見ると、カラヴァッジョが美化を捨ててリアリズムに徹していったことがわかりますよね。
単なる明るい酒飲みの私としては、ウフィッツィにあるヴァッカス位がほどほどでいいですね~(笑)
ウフィッツィにあるのなら、見たはずなんですけど、あの広い美術館を一日で見学したので、記憶がゴチャゴチャになってしまったのだと思います。
ボルゲーゼ美術館の方のバッカスは筋肉質っぽい身体に妙に似合わない流し目が、ちょっと不気味ですね。
ウフィッツィーの方はオルサさんが仰るとおり、身体を除けば天平美人のようにも見えるし、葡萄の葉を纏った黒髪が、芸者さんのようにも見えます。
両方の絵とも、目に酔いが表れていて、物憂げですね。
私も明るい酒飲みですから(笑)、ウフィッツィくらいのバッカスがいいです。欲をいえば、アテネの美男がいいです。
確かに「しもぶくれ」の顔立ちは天平美人。今、鳥毛立女屏風に描かれた女性を思い出してしまいました。芸者さんにも見えますね~。バッカスですから青年なのでしょうが、どう見てもアンニュイな女性です。
アテネに住んでギリシャ神話に親しんだせいか、どこの美術館に行っても神話を描いた絵を見たくなります。カラヴァッジョのバッカスは、その不気味さのせいか妙に心に残りました。
お題からいろいろ連想するにしても、詩句など文芸・芸術に疎い私には勉強になります。
そろそろ、「秋の芸術シリーズ」に触発されそうなお話です。また、会社をさぼって行かないと(笑)
それにしても、「病めるバッカス」とは耳が痛い。気をつけないと・・・
パックツアーだとどうしてもそうなっちゃいますね…。
「病めるバッカス」は東京都庭園美術館にも来たようですが、私は見てませんね…。
カラヴァッジョの作品は何点か拝見しましたが、印象に残っていないのはちゃんと見ていない証拠…。
今度機会があったら、脳裏に焼き付けておきます。