軌道エレベーター派

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「知の欺瞞」にまつわる欺瞞

2010-11-04 18:57:55 | その他の雑記
 先週紹介した宇宙エレベーター協会の年会報に、経歴詐称と論文の盗用を理由に、東大から博士号の取り消し処分などを受けた人物の特集が載っているのですが、この事件を「ソーカル事件」に例える記述を何度か見かけました。
 ソーカル事件というのは、米国で1990年代に起きたニセ論文事件です。哲学などの分野の学者たちが、自分たちの論文にまるで関係も根拠もないデタラメな数式を持ち込んで書いたりして、理解してもいないのに理系学問を弄ぶような真似をし、それがもてはやされる時期があったんだそうです。読んだ人は権威に負けてわかったふりをしてたんですかね? で、それを見かねたアラン・ソーカルという物理学者が、似たような、しかし見る人が見ればデタラメなのが明白で、しかも一種のひっかけの数式や記号をちりばめた哲学論文を雑誌に寄稿。それが査読に引っかからずに掲載され、本人が「あの論文デタラメだよーん」なんて暴露した事件でした。編集者は大恥をかいて、イグ・ノーベル賞に選ばれたらしいです。
 
 今回述べたいのはこうした事件の是非とかではなく、ちょっと別のことなんですね。ソーカル事件について語る人の多くが、事件について知りたい人に、ソーカルと共著者による「知の欺瞞」(邦訳は岩波書店)という本を薦めています。問題となったエセ論文や、ソーカルに批判された学者たちの数学的にトンチンカンな論文などの原文を載せている、貴重な1冊です。しかし、これを薦める方々に問いたい。

 本当は読んでないでしょ? (  ̄▽ ̄)

 あれに目を通した人であれば、他人に薦めるとはとても信じられません。難解だし、読んでも「木を見て森を見ず」にしかならず、事件の沿革や背景を理解する役には立たない上、何より面白くない。私も買って読みましたが、途中をすっ飛ばしました。全部読み通すのはかえって時間の無駄ではないかと。
 あくまで一次資料として価値があるのであって、第三者に事件全体や背景を理解してもらうのには向いているとは思えません。これを薦める人って、他人の受け売りをしているだけで、結局ソーカルに担がれた編集者と同じことをしてるんじゃないのか? などと思ったのでした。
 ちなみに、ソーカル事件を含む、当時のアカデミズムの混乱について、私は「サイエンス・ウオーズ」(金森修、東京大学出版会)をお薦めします。読み物として面白いですよ。ではまた。

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