今回、長湯温泉での宿泊は「かじか庵」にて一泊お世話になることにしました。長湯に数ある宿の中でこちらを選んだ決め手は、料金設定の手頃さ、施設の清潔さ、そして肩肘張らない雰囲気などといった要素です。年に数度行けるかどうかの旅行でしたら、貴重なひと時を豪華な宿で過ごす一点豪華主義も良いのですが、薄給のくせに休暇の度に頻繁にあちこち自腹で旅行している私としては、その都度豪華な宿に泊まることなんてできませんし、その上神経質な性分なので、体調が良い時でないと商人宿や湯治宿のようなお宿では眠ることができません。そんな自分に合うお宿をネットで検索していたら、こちらのお宿に行き着いたので、今回予約させていただくことにしたおのです。なお掲題の「かじか庵」とは宿泊処の名称のようでして、こちらにはその他、日帰り入浴としても営業している湯処「ゆの花」、食事処「せり川」という3施設によって構成されています。湯処と宿泊処のフロントは共通で、気さくな感じのお爺さんが対応してくれました。
●客室・食事
客室はいくつかのグレードに分かれているらしく、私が通されたお部屋は最も食堂に近い「松の間」でした。6畳の和室にはトイレや洗面台、テレビやエアコンなどが備え付けられている他、有線LANとWifiの両方が使えますから、私のような一人旅にはピッタリです。なお冷蔵庫だけは部屋に無く、廊下に置かれている共用のものを使用します。
長湯温泉は、有名な温泉地のわりには食事処が少ないので、今回の宿泊では2食ともお宿で摂ることにしました。お食事は食事処「せり川」でいただきます。宿泊処・食事処・湯処は全て館内廊下でつながっていますから、移動に際して特に屋外に出るようなことはなく、浴衣のままで歩いても全く問題ありません。上画像は夕食の様子です。小鉢がたくさん卓上に並べられ、そのいずれもが家庭的。
左(上)画像は、メインディッシュの「エノハの揚げ物」、右(下)画像は陶板焼きです。エノハとは当地の方言でヤマメやアマゴの総称を意味しているんだそうです。余談ですが、みなさんおなじみのヤマメは、サケ科のサクラマスが陸封されたものであり、このヤマメに似て非なるものが、サツキマスの陸封型であるアマゴです。一般的に東日本はヤマメで、西日本はアマゴというように、地域によって分布域が異なり、ヤマメの南限は神奈川県とさえているはずですが、例外的に九州にもヤマメが棲息しているらしく、また養殖によってこの棲み分けも消えつつあるらしいので、このエノハがヤマメとアマゴのどちらであるかは、こうして揚げられちゃった姿からは判然としません。ま、屁理屈はともかく美味けりゃ良いわけでして、このエノハは食べごたえも味も良く、長湯の川の幸のおかげで、ご飯とお酒の両方が進みました。
食後のデザートはティラミス。コーヒーとともに。
●お風呂
受付から右手に進むと、湯処ゾーンとなります。浴室へ続く廊下には休憩用の小上がりが横長く設けられています。この湯処ゾーンには後述する大浴場の他、別料金の家族風呂や岩盤浴もあり、宿泊者はそのどちらか一方を無料で利用することができるのですが、当日に他の浴場をたくさんハシゴしてきた私は、既に体が逆上せていたため、残念ながらどちらも利用しませんでした。
落ち着いた内装の脱衣室は、手入れが良く行き届いており、明るく清潔で、気持ち良く使えました。なおロッカーには電子錠が採用されており、カギは受付で受け取ります。
壁にはこの浴場の温泉に関する案内が掲示されており、完全掛け流し且つ「源泉底入れ底出し方式」によりお湯の鮮度を維持していること、またこの方式によってお湯の表面には「湯の華が咲く」ことが説明されていました。温泉は源泉から湧出した直後からすぐに劣化がはじまってしまう繊細な「生き物」ですから、そんなお湯の良さを極力活かすべく工夫なさっているようですね。
天井が高くて空間にゆとりのある浴室も手入れがよく行き届いており、湯気の篭りなども無く、快適な入浴環境が維持されています。浴室に入ってすぐ正面に上がり湯があり、左手にはサウナ(男湯のみ)と水風呂、そして洗い場が配置されています。また右手には主浴槽が据えられています。
洗い場にはシャワー混合水栓が計7基設置されています。カランから出てくるお湯は真湯です。
浴槽は目測で2.5m×4mほどの四角形。析出が多い典型的な長湯温泉のお湯らしく、浴槽は元々の材質が何であるかわからないほど、全体的に石灰質でコーティングされ、赤茶色に染まっていていました。湯船のお湯は緑色を帯びた黄土色に強く濁っており、光の射し込み方によっては、やや赤みが強く見える場合もあります。
脱衣室の掲示で説明されていたように、槽内でお湯の供給および排出が行われており、一般的なお風呂と異なって、人が入っていない時は、湯面が波立つことはありません。このため…
たとえ人が入って湯面が波立った後でも、しばらくして落ち着きが戻れば、すぐに湯面には湯の華が浮かび上がり、やがてそれが結合して膜となり湯面を覆いはじめます。長湯温泉では他の浴場でも速度の違いこそあれ、このような現象が起きやすいはずですが、こちらのお風呂は槽内にて供給と排出を行っており、湯面に動きが発生する時間が少ないため、こうしてすぐに膜が戻るのでしょうね。また、槽内排出しているとはいえ、人が入れば浴槽縁からオーバーフローするため、その際に流れるお湯によって、浴槽縁や床には鱗状の析出が現れていました。
こうした湯使いのおかげで、実際に湯船に浸かってみますと、鈍りを一切感じさせないシャキっとした素晴らしい鮮度感を堪能することができました。
露天風呂は日本庭園のような趣きとなっており、周りは目隠しの塀で囲まれていますが、ウッドデッキや植栽など浴槽以外の部分を広くとっているため、比較的開放感のある佇まいです。また庇が伸びて露天ゾーンの半分ほどをカバーしているため、私が訪れた雨の日でも露天風呂を利用することができます。
相似形の台形をつなげて横にしたような形状をしている露天の浴槽は、温度別に2分割されており、小さな方は6~7人サイズで、一般的なお風呂の深さが確保されているのですが、(私の体感で)湯加減は36~7℃ほどしかないぬる湯となっています。他の槽と異なりこの露天小槽だけは、黒いホースより吐出されるお湯が浴槽上で落とされていました(つまりここだけ槽内投入ではないようです)。一方、大きな槽は、ホースを槽内底面へ潜らせた上で源泉を投入しており、誰でも入りやすい40~1℃なのですが、寝湯を目的にして作られたのかかなり浅く、体をしっかり横にしないと肩までお湯に浸かれません。ちょうど良い深さの浴槽はかなりぬるいし、いい湯加減の浴槽はかなり浅い造りで、どちらも一長一短といった感じです。
脱衣室からも行き来できるウッドデッキには飲泉処が設けられており、棚にはコップが用意されているのですが、肝心のお湯はどこにあるのかしら…。おそらく露天小槽にお湯を供給しているホースからお湯を汲むものと想像されますので(他にお湯を汲める場所がないので)、ここからお湯をコップに注いで実際に飲んでみますと、金気の味と匂いが明瞭に感じられる他、土気の味と匂い、そしてほろ苦みや炭酸味が口の中に広がりました。金気に関しては非鉄系のものが主なのですが、鉄錆系の味も若干含まれていたように記憶しています。
たちまち湯の華を生じさせる濃いお湯ですから、湯上がりにはこの成分が肌に付着し、ベタつきや引っ掛かりが残りますが、温浴パワーは優れており、いつまでも湯冷めせずにポカポカし続けました。リーズナブルに宿泊できる上、綺麗なお風呂で、フレッシュな内湯と趣きのある露天の両方に入ることができる、コストパフォーマンスの良いお宿でした。
マグネシウム・ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩温泉 46.6℃ pH7.0 湧出量測定せず(自噴・250m掘削) 溶存物質4.377g/kg 成分総計5.082g/kg
Na+:402.0mg(30.76mval%), Mg++:304.0mg(43.99mval%), Ca++:236.0mg(20.72mval%), Fe++:3.0mg,
Cl-:187.0mg(9.65mval%), SO4--:330.0mg(12.58mval%), HCO3-:2590.0mg(77.73mval%),
H2SiO3:230.0mg, CO2:705.0mg,
加水あり
加温循環消毒なし
豊後竹田駅より大野竹田バスの直入支所(長湯温泉)行で「山脇」バス停下車、徒歩2~3分
(時刻等は大分バスのHPでご確認ください)
大分県竹田市直入町大字長湯2961 地図
0974-75-2580
ホームページ
日帰り入浴10:00~23:00(受付22:00まで)
525円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★+0.5