読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『ナンバーシックス』

2009年11月06日 | 現代フランス小説
Veronique Olmi, Numero Six, Actes Sud, 2002.
ヴェロニック・オルミ『ナンバーシックス』(アクト・シュッド書店、2002年)

医者の家長(という言い方がまさにまだフランスで活きていた時代の話なので)を中心とした大人数家族の末っ子のファニーの視点から見た父ルイ・デルヴァスや母親、兄弟姉妹の旧弊な世界を描いたもの。

六人兄弟姉妹の末っ子であるファニーは父親が50歳のとき、母親もそろそろ閉経を迎えようかというころに生まれた。長兄から20歳も年が離れているだけでなく、すぐ上の兄からも10才離れている。つまり予期せぬときに生まれてきた末っ子ということになる。日本だと(もちろん人によっても違うだろうが)、とくにそれが女の子だったりすると、溺愛されるパターンが多いが、ファニーはどちらかというとネグレクトされた。それがかえって父にたいするファニーの(一種近親相愛的な、もちろんファニーの側からの一方的なものだが)愛情となって、この物語を書かせることになった。だから、この小説は一人称はファニーだが、つねに二人称は父親に向けられている。

時間系列を完全に無視して、2ページから3ページにわたるひとまとまりの話・エピソードが、断片風に語られるという形式をとっているために、話が分かりにくい。一応、ざっとまとめてみると、父は第一次世界大戦に医療担当者として従軍し、弟のエミールを自分のすぐ近くで死なせてしまったことで悪夢を見るようになる。

戦争中の彼の唯一の慰めは、テノールの綺麗な声を持っていたので、教会でテノールを歌うのが好きで、結婚式や聖体拝領式などに呼ばれて歌うことを喜びとしていた。

昨年2月に100歳の誕生日を祝った。20人の孫と58人のひ孫がいる。

ファニーの兄弟姉妹はクリストフ、パトリス、ジャック、ルイーズ、マリーの5人だが、どういう順番なのかは私には分からなかった。パトリスは実業家で、結婚もしているし家庭ももっている。クリストフは18歳のときに親友のポールの母親エリザベトと相愛の仲になってしまう。エリザベトの夫には愛人がいて、ほとんど家にいなかった。二人はそれぞれに本当の性愛というものを知ってしまう。エリザベトが妊娠したために安ホテルで中絶しようとしたが、失敗し、そこからクリストフが家に電話いてきて、駆けつけた父がすぐに病院に送ったが数時間後に死んだ。その後父はクリストフを家から追い出した。

デスバス家では性の話はタブーで、三人の娘たちを処女のままに結婚させるというのが教育の目的だと考えられていた。だからクリストフによって家庭が「汚された」と両親は思っていたという。

ファニー以外の兄弟姉妹はみんな結婚して独立したが、ファニー一人だけがリウマチを患ったことなどもあって、一人残って、いわば一人っ子になった。自分の立ち位置をナンバーシックスだと気に入っていた。

ファニーが大学生だった頃に起こった68年の5月革命にファニーも運動に立ち上がり、成長したという。

上にも書いたように、エピソードの積み重ねという手法がとられていて、明確な像を結ぶことが難しいが(たぶん伝統的な手法で描いたら、それこそ数巻にもおよぶ大小説になっただろう)、まさにアニー・エルノーの私小説にも匹敵するような、伝統的なフランス人の姿が、ぼんやりとではあるが、浮かび上がってくるようになっている。そういう意味で、ちょっと毛色の変わった私小説風な小説と言っていいだろう。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「サイードとともに読む『異... | トップ | 岩湧の森 »
最新の画像もっと見る

現代フランス小説」カテゴリの最新記事