読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『文盲』

2020年06月01日 | 現代フランス小説
アゴタ・クリストフ『文盲』(堀茂樹訳、白水社、2006年)

『悪童日記』三部作を書いたアゴタ・クリストフの自伝である。1989年から90年ころにスイスのチューリッヒの雑誌に連載した自伝的エッセーに手を加えて2004年にジュネーヴで出版したのが本書である。

アゴタ・クリストフは1935年の生まれなので、もともとはハンガリー王国であったが、戦後にソ連によって支配され社会主義国になる。最初の数章はそうした幼少期の頃から本を読むことやお話を作ることが大好きだったということや、すでに社会主義国になっていた時代に寄宿学校に入ってひもじさや寒さや本への渇望のなか級友たちを道化芝居によって楽しませることに喜びを見出した青春時代のことが書かれている。

そして1956年にハンガリー動乱が起きたのを期に、オーストリア経由でスイスに難民として逃れる。夫と数ヶ月の長女と一緒に。スイスのニューシャテルに定住するようになったが、フランス語がまったく話せないところから始めたことや、工場での仕事の単調さに辟易したことが書かれている。

彼女はスイスでの生活を砂漠と呼んでいる。一緒に逃亡した仲間たちの多くが、収容所入になると分かっているのにハンガリーに帰ったり、自殺をしたり、精神を病んだりしたという話は、スイスで安楽な生活ができるようになって幸せなんじゃないかという想像がいかに現実からかけ離れたものであるかを教えてくれる。

おそらくこの本で一番考えさせられるのがこの箇所だと思うのだが、アゴタ・クリストフはさらっと書くだけで、深い考察を与えていないので、これらの原因が言葉なのか、環境なのか、祖国というイメージなのか、いったい何なのかよくわからない。

『文盲: アゴタ・クリストフ自伝 (白水Uブックス)』へはこちらをクリック

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『55歳からのハローライフ』 | トップ | 『蒐める人』 »
最新の画像もっと見る

現代フランス小説」カテゴリの最新記事