読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『印象派という革命』

2012年04月27日 | 評論
木村泰司『印象派という革命』(集英社、2012年)

印象派という革命
木村 泰司
集英社

マネの『草上の昼食』や『チュイルリー公園の音楽祭』そして『オランピア』、モネの『ラ・ジャポネーズ』『日傘の女』そして大作『睡蓮』、ルノアールの『ムーラン・ド・ラ・ギャレット』『踊り子』そしてあの有名な『ピアノに寄る娘たち』や『浴女たち』、ドガの『エトワール』や『舞台上のバレエの稽古』などの踊り子もの。もちろん日本人だけがというわけではないが、日本人は印象派が好きだ。

そしてこの本の序章は、文字通り「なぜ日本人は「印象派」が好きなのか」について書かれている。印象派以前の近世から近代にいたるフランス絵画(もちろんイタリア絵画もそうだが)はほぼ古典主義的で、ギリシャ・ローマ神話やキリスト教の内容が主題になっており、そういうヨーロッパ的教養をもたないと理解できないそれらの絵画と違って、印象派は19世紀のフランス人の日常生活や風景が主題となっており、そういう教養をもたない日本人にも理解できるから、というのがこの著者が与えている説明だ。常々不思議に思っていたことが、これで氷解した。

この本は、古典的絵画を見るときに必要なギリシャ・ローマの神話やキリスト教的教養がどのようにその時期の絵画に現れているかも、口絵を載せて簡単に触れているから、わかりやすい。

もちろん主体は印象派のための本なので、それに何章も当てられているが、個々の印象派の画家について説明する前にまず、古典主義にたいする変革の第一段階として、「何を描くのか」という視点から古典主義に反旗を翻したクールベ(写実主義絵画と言われる)やバルビゾン派の革新性を指摘し、さらにそれを継承する形で印象派が「いかに描くか」を問題にすることで絵画「革命」を遂行したことが解説されている。

第二章以下は最初に挙げた印象派の画家について一章ずつ当てて詳しく記述されている。

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『グレン・グールド』

2012年04月24日 | 評論
青柳いづみこ『グレン・グールド』(筑摩書房、2011年)

グレン・グールド―未来のピアニスト
青柳 いづみこ
筑摩書房


今でも初めてグレン・グールドの『ゴールドベルク変奏曲』(1981年版)を聞いたときの衝撃は忘れられない。私はすでにマリア・ティーポというイタリア人のCDを持っていて、何度か聞いていたのだが、聞くたびに、いったいどんな曲なのか、さっぱり分からないという思いをしていた。ところが、アリアからして、もうぜんぜん違う。旋律線は明確で、本当に三人あるいは二人の人が別々に旋律を弾いているかのように、独立して聞こえる。

それからというもの、たまたまレコード屋で見つけたグレン・グールドのモーツァルトのピアノ・ソナタ全集を買ってみたり、バッハの平均律クラヴィーア曲集を買ってみたり、あれこれ聞きまわったわけだが、私にはこの『ゴールドベルク変奏曲』を超えるものはないように思われる。

私は、あれこれのピアニストの演奏や、あるいは同一ピアニストの異なった演奏を聞き比べるほどの趣味はないから、同じグレン・グールドの『ゴールドベルク変奏曲』でも55年のデビュー盤の演奏とこの81年版を比べてみるとか、過去の演奏をYouTubeで探して聞き比べるというようなことはしない。それよりもグレン・グールドという人がどういう人なのか気になる。それからあれこれ本を読んでみたが、これは凄いとうなるようなものには出会わなかった。この本もそうだ。

たしかにいろんな発見はあった。よく知られている演奏会での奇行や演奏会嫌いは別としても、グレン・グールドがいわゆるクールと言われる前には(あるいはそれ以降でも)19世紀的ロマン派の音楽感覚を持ち続けていた人であるとか、10歳台に相当の練習を積んだせいか、後年になってからはほとんど練習をしなかったとか。同じピアニストならではの、指の形状、身体の使い方、運指の話も面白かった。だがグレン・グールドの『ゴールドベルク変奏曲』を聞く喜び、興奮を解き明かしてくれるものではない。ないものねだりなのかもしれないが。

バッハ:ゴールドベルク変奏曲(1981年録音)
グレン・グールド
SMJ(SME)(M)


バッハ:ゴールドベルク変奏曲(55年モノラル盤)
グレン・グールド
SMJ(SME)(M)



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『さわり』

2012年04月19日 | 評論
佐宮圭『さわり』

さわり
佐宮 圭
小学館

読書な日々なんてタイトルをつけながら、最近はまったく読書でない日々を送っている。久しぶりに夢中になって読める本に出会った。

鶴田錦史という琵琶師の名前は、ノヴェンバー・ステップスの演奏とともに知っていた。初めてこの武満作品のことを知ったのは、小澤征爾の本だったと思う。初演指揮者としての奮闘や興奮が読み取れた。実際にCDを買って聞いてみて、その力強さに畏れ入った。私が持っているのは井上道義指揮の新日フィルの昭和52年の演奏録音だが、琵琶は鶴田錦史、尺八は横山勝也だ。

琵琶の、なにか恐ろしげなことが起きるぞと予言でもするような恐怖感の局地に導く連打。尺八の、人間の最後の息を吐き出すような、命を削るような凄まじい音、下手に日本人の耳に聞き慣れた旋律が一切出てこないから、余計に音を聞こうとすることになる。たぶん武満もそうしたことを求めていたのだろうと思うが。

今、ノヴェンバー・ステップスを聞きなおしてみると、琵琶という楽器は、本当にいろんな音色を出すことができるのだなと感心する。津軽三味線のような野太い連打も可能だし、軽くじゃらんと爪弾くと、女性の細やかな秘められた恋情のようなものをポロリともらしたというような音も出せる。おそらくそういった限りない可能性も、鶴田錦史が武満とのやり取りのなかで試行錯誤して創りだしたものなのだろうが、その独特の響きは、たしかにそれだけでも素晴らしい。

ノヴェンバー・ステップスのカデンツァの最後あたり、20分前後の全曲のなかで18分を過ぎたあたりから始まる琵琶の連打と尺八の咆哮は、激しい情念の吐露を思わせる。たぶんそんな激しい情念を実際に経験したものにしか出せない音なのではないかと思わせる激しさがある。鶴田錦史が実生活において経験した稀有な人生がその音のバックにはあったのだということをこの本は教えてくれる。

アメリカでの初演の様子を語る小澤征爾の本

ボクの音楽武者修行 (新潮文庫)
小澤 征爾
新潮社


ノヴェンバー・ステップスのCDなら

武満徹 : ノヴェンバー・ステップス / ア・ストリング・アラウンド・オータム / 弦楽のためのレクエイム 他
クリエーター情報なし
ユニバーサル ミュージック クラシック




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大飯原発再稼働反対

2012年04月06日 | 日々の雑感
大飯原発再稼働反対

政府が敦賀湾にある大飯原発再稼働を前提に話を進めているという報道があった。この人たちは、福島原発事故の反省というものがまったくないようだ。大量の放射能が撒き散らされ、周辺はもう人が住めない場所になってしまっただけではなく、今後人体への影響も徐々に現れてくるだろう。

敦賀湾には多数の原発がある。影響が甚大なのは、50KM圏内に琵琶湖があることだ。琵琶湖は滋賀県はもちろん京都、淀川周辺の大阪、南は堺市にいたる1400万人の水瓶になっている。これが汚染されれば、その影響は福島原発事故の比ではない。しかも長期の渇水による取水制限というような一時的な影響ではなくて、おそらく半永久的に琵琶湖の水が飲料はもちろんのこと、あらゆる用水としての可能性を放棄せざるを得なくなるという影響がでる。

政府の要人たちはこういうことがわかっているのだろうか?

今回の福島原発事故だって、津波による電源喪失がメルトダウンの原因としか東電は認めていないようだが、津波以前に地震だけですでに圧力容器が壊れていたという話が流れている。地震によっては被害はないというのは嘘だ。敦賀湾にも活断層があることがわかっているし、以前大きな地震があったことが古い文献で分かっていたのに、関電が知らぬふりをして報告書を作成していたという事実も明るみに出ている。このような東電と同じ嘘と欺瞞と隠蔽体質の関電の言うことやることに騙されてはいけない。

原発が使えないことから火力発電所稼働をふやすために重油の使用量が増えて電力料金値上げしなければならないとか言い出したら(東電みたいに)、財務だけでなくあらゆる経営をガラス張りにさせることから始めてほしい。だいたい独占を許されているのに、まったくガラス張りになっていないこと自体がおかしいのだ。

元東電福島原発のエンジニア(原子力を専門に勉強した人)で、東電の報告書偽造に耐えられなくなって東電をやめた人が、原発事故当時15km真西に住んでいて、直後に鼻血が止まらないなどの人体的影響を受けたことなどを話している動画があったので、リンクを張っておく。この人の話でも東電が嘘と隠蔽体質でできていること、また政府もそのお先棒を担いでいることがよく分かる。こちら
関西電力の隠蔽体質や大飯原発が再稼働できるような安全な状態からほと遠いということについてはこちらも参考になる。

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