2016年に読んだ本ベスト5
年々読書数が減っており、ベスト5を選ぶのも気が引けるのだが、今年はとくに興味深いものがあったので、難なく選ぶことができた。たぶん来年からはまた通勤電車のなかで、仕事以外のものが読めるようになると思うので、読書数も増えてくると期待している。
1.立花隆『武満徹・音楽創造への旅』(文藝春秋、2016)
武満徹の音楽がどうやって創造されてきたのか、出生から戦争経験、音楽教育も受けずに始めた作曲、肺結核で生死の境をさまよったこと、そして研ぎ澄まされた音への感覚など、実際に武満徹の音楽が好きでたくさん聴いてきたという立花隆によるこの評伝は、音楽の素人にも分かるように噛み砕いて説明している武満徹の声をできるだけ多く引用し、また素人である立花隆自身が理解している言葉で語ることによって、じつに読みやすいものになっている。
2.三野博司『カミュを読む 評伝と全作品』(大修館書店、2016年)
2013年はカミュの生誕100年にあたっていて、その記念に出版された本。日本でカミュ研究の第一人者として知られる人の本だけあって、興味深い。それ以上に、私としては、この著者が2015年3月に奈良女子大学を定年退職する直前に、著者の出身大学である京都大学の仏文学会で特別講演を行ったものを収録した「アルベール・カミュとともに」という講演のほうが感銘を受けた。著者のカミュとの関わりが何の衒いもなく書かれており、この著者の幸運な研究生活と著者の朴訥とした人柄が伝わってくる、よい講演である。
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3.ミシェル・ウェルベック『服従』(河出書房新社、2015年)
来年2017年4月にはフランス大統領選挙がある。現在の大統領である社会党のオランドが出馬を断念し、共和党のジョスパン、社会党のバレス、国民戦線のル・ペンの三つ巴の戦いになりそうである。今年のアメリカ大統領選挙の結果やヨーロッパ諸国の情勢は排外主義的傾向に国民の支持が傾きつつあることを示しており、2022年のフランス大統領選挙で排外主義を訴えるル・ペンとイスラム主義者の候補者の対決になって、イスラム主義者が大統領に当選するという、この小説の設定もあながち夢想と切り捨てることができない様相を呈している。本当にウェルベックというのは面白い作家だ。目が離せない。
4.前田洋平『国立がんセンターでなぜガンは治らない?」(文春新書、2015年)
最近のいろんな報道を見ていると、がん治療は新しいステージに入ったことが分かる。例えばオブジーボのように、人間がもともと持っている、ガン細胞によって弱体化扠せられている免疫細胞へのガンによる作用をやめさせてこの免疫力を活性化させることによってがん細胞を弱化させるという治療がある。またこの間NHKでやっていた番組によると、個々の患者に固有の遺伝子を調べることで、確実に効く薬を処方することで、ほとんど副作用のないがん治療ができるようにもなっているらしい。そうした方法を国立がんセンターが中心になって地方の医療機関で先進的に検証していくことをしていると報道していた。つまりこの本で指摘されていた国立がんセンターの弱点が克服されたのかなと思ったのだが、どうなんだろうか。いずれにしても、「神の手」とか言って特定の技量をもった医者にしかできないという治療を普遍化するような行政が進んでいくことを願っている。
5.千葉優子『箏を友として評伝宮城道雄』(アルテスパブリッシング、2015年)
『春の海』で知られる宮城道雄の生涯を明らかにした評伝で、宮城道雄そのものが非常に稀有な人生を送った人として興味深いだけでなく、彼の作曲が明治から大正時代において位置づけられ、つねに宮城道雄の生きた時代の背景を解き明かしている点も、この著書の価値を高めている。同じ著者が書いた『ドレミを選んだ日本人』(音楽之友社、2007年)も興味深い
年々読書数が減っており、ベスト5を選ぶのも気が引けるのだが、今年はとくに興味深いものがあったので、難なく選ぶことができた。たぶん来年からはまた通勤電車のなかで、仕事以外のものが読めるようになると思うので、読書数も増えてくると期待している。
1.立花隆『武満徹・音楽創造への旅』(文藝春秋、2016)
武満徹の音楽がどうやって創造されてきたのか、出生から戦争経験、音楽教育も受けずに始めた作曲、肺結核で生死の境をさまよったこと、そして研ぎ澄まされた音への感覚など、実際に武満徹の音楽が好きでたくさん聴いてきたという立花隆によるこの評伝は、音楽の素人にも分かるように噛み砕いて説明している武満徹の声をできるだけ多く引用し、また素人である立花隆自身が理解している言葉で語ることによって、じつに読みやすいものになっている。
2.三野博司『カミュを読む 評伝と全作品』(大修館書店、2016年)
2013年はカミュの生誕100年にあたっていて、その記念に出版された本。日本でカミュ研究の第一人者として知られる人の本だけあって、興味深い。それ以上に、私としては、この著者が2015年3月に奈良女子大学を定年退職する直前に、著者の出身大学である京都大学の仏文学会で特別講演を行ったものを収録した「アルベール・カミュとともに」という講演のほうが感銘を受けた。著者のカミュとの関わりが何の衒いもなく書かれており、この著者の幸運な研究生活と著者の朴訥とした人柄が伝わってくる、よい講演である。
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3.ミシェル・ウェルベック『服従』(河出書房新社、2015年)
来年2017年4月にはフランス大統領選挙がある。現在の大統領である社会党のオランドが出馬を断念し、共和党のジョスパン、社会党のバレス、国民戦線のル・ペンの三つ巴の戦いになりそうである。今年のアメリカ大統領選挙の結果やヨーロッパ諸国の情勢は排外主義的傾向に国民の支持が傾きつつあることを示しており、2022年のフランス大統領選挙で排外主義を訴えるル・ペンとイスラム主義者の候補者の対決になって、イスラム主義者が大統領に当選するという、この小説の設定もあながち夢想と切り捨てることができない様相を呈している。本当にウェルベックというのは面白い作家だ。目が離せない。
4.前田洋平『国立がんセンターでなぜガンは治らない?」(文春新書、2015年)
最近のいろんな報道を見ていると、がん治療は新しいステージに入ったことが分かる。例えばオブジーボのように、人間がもともと持っている、ガン細胞によって弱体化扠せられている免疫細胞へのガンによる作用をやめさせてこの免疫力を活性化させることによってがん細胞を弱化させるという治療がある。またこの間NHKでやっていた番組によると、個々の患者に固有の遺伝子を調べることで、確実に効く薬を処方することで、ほとんど副作用のないがん治療ができるようにもなっているらしい。そうした方法を国立がんセンターが中心になって地方の医療機関で先進的に検証していくことをしていると報道していた。つまりこの本で指摘されていた国立がんセンターの弱点が克服されたのかなと思ったのだが、どうなんだろうか。いずれにしても、「神の手」とか言って特定の技量をもった医者にしかできないという治療を普遍化するような行政が進んでいくことを願っている。
5.千葉優子『箏を友として評伝宮城道雄』(アルテスパブリッシング、2015年)
『春の海』で知られる宮城道雄の生涯を明らかにした評伝で、宮城道雄そのものが非常に稀有な人生を送った人として興味深いだけでなく、彼の作曲が明治から大正時代において位置づけられ、つねに宮城道雄の生きた時代の背景を解き明かしている点も、この著書の価値を高めている。同じ著者が書いた『ドレミを選んだ日本人』(音楽之友社、2007年)も興味深い