読書な日々

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『6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む』

2020年06月20日 | 現代フランス小説
ジャン=ポール・ディディエローラン『6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む』(ハーバーコリンズジャパン、2017年)

平凡なフランス人の平凡な日常生活とちょっとした幸せを描いた小説。

ギレン・ヴィニョールは大量の廃棄本を溶解する工場で働いている。そしてその仕事が、つまり本を溶解する仕事がいやでいやで仕方がないので、溶解されないで残った本を、毎朝出勤の電車のなかで朗読する。乗客たちもそれを毎日楽しみにしている。

彼の友人といえば、同僚で、溶解する機械の清掃中にその機械が動き出してしまい、両足を切断されてしまったジュゼッペ(今は車椅子生活をしている)と、何でもかんでもアクレサンドランでしゃべるほど古典演劇が大好きな守衛係のイヴォンくらいだ。

彼の生活に変化が起きたのは、通勤電車の中での朗読を聞いて気に入った老女に養老院でその朗読をしてくれと誘われたこと。そしてギレンはそこで歓迎され、朗読も喜ばれる。その朗読会にはイヴォンも行くことになり、彼も大歓迎される。

さらに、いつもの座席にメモリースティックがあるのに気づき、それを持ち帰って読むと、どこかのショッピングセンターのトイレの清掃係の女性が書いたものだった。その文章が気に入ってしまったギレンは、ジュゼッペにそのことを話すと、彼がいくつかのショッピングセンターの候補を絞り込んでくれて、それをもとにジュリーという女性を探すことになる。

そしてついにその時がやってきて、彼女を見つけたギレンは、彼女に花を送って、デートに誘うのだった。

朗読ということがこの小説の核になっている。フランスは朗読文化の国だ。かつてこの小説でも出てくるラシーヌやコルネイユの時代には詩の朗読によって女性を失神させるほどの官能を覚えさせることができたという話もあるくらい。音の長短、上がり下がり、音の響きそういうものが意味を形成する言語であればこそ成り立つ世界だ。映画にしたらも面白いものができるのではないだろうか。

『6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む (ハーパーコリンズ・フィクション)』へはこちらをクリック

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