今年のトップテン
毎年年末に今年読んだ本のトップテンをピックアップしている。今年このブログで取り上げたのはは112冊の本ということになる。実際にはこれ以上の本を読んだのだが、読んでもこのブログで取り上げなかった(しょーもない本とか、仕事関連のためにここに載せるのに適当でない本とか)本もある。2007年が125冊、2006年が194冊だから、ずいぶんと減少している。まぁそれでも3日に1冊のペースで読んでいることになるのか。食わず嫌いをしないで、もっとアンテナを研ぎ澄まして、情報を集めて、面白い本をたくさん読んでみたい。(右の写真は、「大山王国」ロッキーさんの写真を借りました。)
次にあげる10冊は決してどれが1位でどれが10位ということはない。順番をつけたわけではない。心に残った10冊ということでのトップテンだ。また出版年に関係なく、私が2008年に初めて読んだ作品ということで今年のトップテンとして挙げてある。
1.井沢元彦『逆説の日本史』(小学館文庫、1998年)
思想的には真逆といっていいような考えを持った人だが、日本の歴史学がもつ弱点・矛盾をついたその論点は小気味よい。彼の仮説をきちんと批判できない古代史研究者、日本史研究者なんて存在価値はない。どうせ彼らは井沢の仮説を素人と馬鹿にしているのだろうが、彼らこそ重箱の隅をつつくようなことをやっているだけで、日本史研究になんの役にも立っていない。
2.村上龍『半島を出よ』(幻冬舎、2005年)
一小説家というカテゴリーを越えて、政治・経済・金融などの分野にも関心をもってさまざまなリサーチを行い、コメントを発している村上龍がやっと時代と自分を一致させることができるような小説のテーマを得た。水を得た魚とでも言えばいいのか。やっと本領を発揮できる場を見つけたとでも言えばいいのか。とにかく世界に誇れる小説を書いたのだから、これを外国語に翻訳してほしい。
3.清水良典『MURAKAMI 龍と春樹の時代』(幻冬舎新書、2008年)
村上春樹と村上龍という同世代の作家を並べて、時代の趨勢を折りませながら作品論を展開している。じつに読みやすいし、著者と同世代の私には自分が生きてきた時代の意味を学びなおすことができるという意味でも、一見するとしょうもない作家論に思えるが、意外と優れものの著作である。私が日ごろからモットーにしている(だからといってそれができているという意味ではないから誤解のないように)、作品を時代の中に置いて見るという批評の日本現代版の優れた成果といえる。
4.堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』(岩波新書、2008年)
私たち日本人にコイズミ「改革」が実行してきたものが、じつは現在のアメリカの姿だということを知らしめる啓蒙書である。どんなに貧乏でもセーフティネットがしっかりしていたコイズミ以前の日本は安心して暮らせる国だったが、いまや派遣切りの横行によって住む場所もなくなるとか、救急車を呼んでも死を免れないとか、公立病院のあいつぐ閉鎖とか、公教育の崩壊と高すぎる私学教育など、日本は確実に崩壊に突き進みつつある。
5.内田樹『街場の中国論』(ミシマ社、2007年)
「街場の中国論」が優れているというわけではない。内田樹の論理やレトリックがじつに秀逸なので、たまたま読んだこの作品を挙げたまでのことで、別にどの作品でもよかったはずである。彼のブログを読むたびにその思いを強くする。ほんとに頭の切れる人だ。
6.野沢尚『恋愛時代』(幻冬舎文庫、1998年)
10年も前の小説で、いまさらという感じがしないでもないが、韓国版ドラマともども、じつに面白かった。
7.カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』(土屋政雄訳、2006年、早川書房)
クローン技術が何を人間にもたらすのか? かつて、たとえば手塚治虫などが描く未来社会はきらきら輝いていたが、最近の映画などが描き出す未来社会は、まるで廃墟だ。クローン技術やip細胞の技術が誕生した現在においてそれらに伴って作り出されているイメージはバラ色みたいだが、ほんとうのところはどうなるのだろうか。映画の未来社会と同じで、じつは暗黒のように暗いものではないのか? クローン人間の臓器を切り取って命を永らえる、それだけの価値があるのか? この小説はそういう問題提起をしている。メロドラマのようなタイトルにしたのは、作者の戦略?
8.小熊英二『<民主>と<愛国>』(新曜社、2002年)
戦中戦後思想の総決算とも言える大著。自分が生まれた時代の直前の時代って、知っているようで知らない。知らなさ過ぎる。最近は、みんなが当たり前と思っていることがいつ頃どんな風にして形成されてきたのかを綿密に解き明かしていく研究がちらほら見られる。新しい研究テーマの作り方だと思うのだが、出来上がった成果の見かけ以上の膨大な研究が要求される。そういう研究の走りだろうか。とにかくすごい!の一言。
9.海堂尊『チーム・バチスタの栄光』(宝島社、2006年)
医学推理の面白さではなく、白鳥と田口公平のやり取りの面白さがこの小説の持ち味だということを、ドラマ版が再確認させてくれたといえる。その意味で、田口公平を女にした映画版は本質をとらえそこなっている。
10.長部重康『現代フランスの病理解剖』(山川出版社、2006年)
教育、福祉、社会保障など日本から見たらうらやましいような制度があるにもかかわらず、さまざまな問題に苦しんでいるフランス社会。そういう問題がいったいどういう経済政策や社会政策から生じたのかを詳細に分析した本で、まさに現代フランスの病理を解剖してみせるタイトルどおりの本といえる。
毎年年末に今年読んだ本のトップテンをピックアップしている。今年このブログで取り上げたのはは112冊の本ということになる。実際にはこれ以上の本を読んだのだが、読んでもこのブログで取り上げなかった(しょーもない本とか、仕事関連のためにここに載せるのに適当でない本とか)本もある。2007年が125冊、2006年が194冊だから、ずいぶんと減少している。まぁそれでも3日に1冊のペースで読んでいることになるのか。食わず嫌いをしないで、もっとアンテナを研ぎ澄まして、情報を集めて、面白い本をたくさん読んでみたい。(右の写真は、「大山王国」ロッキーさんの写真を借りました。)
次にあげる10冊は決してどれが1位でどれが10位ということはない。順番をつけたわけではない。心に残った10冊ということでのトップテンだ。また出版年に関係なく、私が2008年に初めて読んだ作品ということで今年のトップテンとして挙げてある。
1.井沢元彦『逆説の日本史』(小学館文庫、1998年)
思想的には真逆といっていいような考えを持った人だが、日本の歴史学がもつ弱点・矛盾をついたその論点は小気味よい。彼の仮説をきちんと批判できない古代史研究者、日本史研究者なんて存在価値はない。どうせ彼らは井沢の仮説を素人と馬鹿にしているのだろうが、彼らこそ重箱の隅をつつくようなことをやっているだけで、日本史研究になんの役にも立っていない。
2.村上龍『半島を出よ』(幻冬舎、2005年)
一小説家というカテゴリーを越えて、政治・経済・金融などの分野にも関心をもってさまざまなリサーチを行い、コメントを発している村上龍がやっと時代と自分を一致させることができるような小説のテーマを得た。水を得た魚とでも言えばいいのか。やっと本領を発揮できる場を見つけたとでも言えばいいのか。とにかく世界に誇れる小説を書いたのだから、これを外国語に翻訳してほしい。
3.清水良典『MURAKAMI 龍と春樹の時代』(幻冬舎新書、2008年)
村上春樹と村上龍という同世代の作家を並べて、時代の趨勢を折りませながら作品論を展開している。じつに読みやすいし、著者と同世代の私には自分が生きてきた時代の意味を学びなおすことができるという意味でも、一見するとしょうもない作家論に思えるが、意外と優れものの著作である。私が日ごろからモットーにしている(だからといってそれができているという意味ではないから誤解のないように)、作品を時代の中に置いて見るという批評の日本現代版の優れた成果といえる。
4.堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』(岩波新書、2008年)
私たち日本人にコイズミ「改革」が実行してきたものが、じつは現在のアメリカの姿だということを知らしめる啓蒙書である。どんなに貧乏でもセーフティネットがしっかりしていたコイズミ以前の日本は安心して暮らせる国だったが、いまや派遣切りの横行によって住む場所もなくなるとか、救急車を呼んでも死を免れないとか、公立病院のあいつぐ閉鎖とか、公教育の崩壊と高すぎる私学教育など、日本は確実に崩壊に突き進みつつある。
5.内田樹『街場の中国論』(ミシマ社、2007年)
「街場の中国論」が優れているというわけではない。内田樹の論理やレトリックがじつに秀逸なので、たまたま読んだこの作品を挙げたまでのことで、別にどの作品でもよかったはずである。彼のブログを読むたびにその思いを強くする。ほんとに頭の切れる人だ。
6.野沢尚『恋愛時代』(幻冬舎文庫、1998年)
10年も前の小説で、いまさらという感じがしないでもないが、韓国版ドラマともども、じつに面白かった。
7.カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』(土屋政雄訳、2006年、早川書房)
クローン技術が何を人間にもたらすのか? かつて、たとえば手塚治虫などが描く未来社会はきらきら輝いていたが、最近の映画などが描き出す未来社会は、まるで廃墟だ。クローン技術やip細胞の技術が誕生した現在においてそれらに伴って作り出されているイメージはバラ色みたいだが、ほんとうのところはどうなるのだろうか。映画の未来社会と同じで、じつは暗黒のように暗いものではないのか? クローン人間の臓器を切り取って命を永らえる、それだけの価値があるのか? この小説はそういう問題提起をしている。メロドラマのようなタイトルにしたのは、作者の戦略?
8.小熊英二『<民主>と<愛国>』(新曜社、2002年)
戦中戦後思想の総決算とも言える大著。自分が生まれた時代の直前の時代って、知っているようで知らない。知らなさ過ぎる。最近は、みんなが当たり前と思っていることがいつ頃どんな風にして形成されてきたのかを綿密に解き明かしていく研究がちらほら見られる。新しい研究テーマの作り方だと思うのだが、出来上がった成果の見かけ以上の膨大な研究が要求される。そういう研究の走りだろうか。とにかくすごい!の一言。
9.海堂尊『チーム・バチスタの栄光』(宝島社、2006年)
医学推理の面白さではなく、白鳥と田口公平のやり取りの面白さがこの小説の持ち味だということを、ドラマ版が再確認させてくれたといえる。その意味で、田口公平を女にした映画版は本質をとらえそこなっている。
10.長部重康『現代フランスの病理解剖』(山川出版社、2006年)
教育、福祉、社会保障など日本から見たらうらやましいような制度があるにもかかわらず、さまざまな問題に苦しんでいるフランス社会。そういう問題がいったいどういう経済政策や社会政策から生じたのかを詳細に分析した本で、まさに現代フランスの病理を解剖してみせるタイトルどおりの本といえる。