読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『玉砕の島々』

2015年03月23日 | 評論
平塚柾緒『玉砕の島々』(洋泉社、2015年)

新聞の第一面下にある図書広告にもしこの本の広告があっても、たぶん読むことはなかっただろう。この間の新聞書評欄に載っていたから手にして読んでみたのだ。もう忘れたが、よほど興味深い書評だったに違いない。

タラワ島、マキン島、クェゼリン島といったギルバート諸島から、サイパン島、テニアン島、グアム島、そしてペリリュー島、硫黄島といった玉砕の島々の戦闘の様子をたどった本である。たぶん似たような本はあるのだろうし、個々の島での玉砕戦の回想はもっとたくさんあるのだろうが、中部太平洋の島々での玉砕戦の様子を描いた本を読むのは、水木しげる『コミック昭和史』は別として、初めてだ。

著者は太平洋戦争研究会を主宰する人で、こうした戦争時の様子を取材・執筆してきたから、その悲惨さを後世に伝えようという意味で活動しているのだろう。この本は、それほどむごたらしい描写はない。

それにしても、すでにあちこちで言われていることではあるが、ある島への補給が完全に絶たれてしまった後に、参謀本部から玉砕を命じるというのは、何ということだろうか。米英なら、もう補給できないから、投降しろという命令が下ると思うのだが、日本軍は降伏なんてあり得ないから、死ぬまで戦わねばならない。そして玉砕。

玉砕と言っても全員が死ぬわけではない。幹部は自決する。死なずに残っている人もいる。明治維新の時の戊辰戦争や会津戦争のときに、死ぬことだけを教えられてきた若者たちは集団自決して若い命を散らしたのと同じように、何も知らない下級の兵士は、人間の盾にされたり、進むべき道も分からないで、あるいは降伏するなと言われて、先が見えずにバンザイ突撃をして死ぬ。しかし物が見えている者たちは逃げて逃げて生き延びる。

戦争犯罪人たちによって殺されたも同然だろう。もちろんアメリカなど連合国の兵士の死もそういうものがたくさんあった。なんとも無念なことだ。



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