読書な日々

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『秘密諜報員ベートーヴェン』

2024年03月12日 | 評論
古山和男『秘密諜報員ベートーヴェン』(新潮新書、2010年)


政治の世界とは無縁と思われている音楽家(作曲家)が、当代の政治に深く関わっていたという話は、最近になってぽつぽつと研究が進み始めた分野である。

その嚆矢となったのは、ヘンデルが、後にイギリス王ジョージ1世となるハノーファー選帝侯ゲオルク・ルートヴィヒの諜報部員として、先にイギリスにわたり、イギリスの政治情勢を報告していたということを詳細に研究した山田由美子の『原初バブルと《メサイア》伝説』(世界思想社、2009年)である。これについては、こちらに書いている。

ジョージ1世の理想を支えるべくイギリスの敵対人物たちの社会に入り込んでスパイまがいのことをしていただけでなく、ジョージ1世を文化的に支援すべく音楽を創りだしたというヘンデル像は、はっきり言ってすごい驚きである。なんらかの理想を抱いていて、それを実現すべく、音楽家として関与するということは、あって当然のことだろう。

それと同じように、封建制を打破し、自由で民主的な社会の実現しようという大きな理想を抱いていたのがベートーヴェンであったらしい。彼はナポレオンのヨーロッパでの改革に期待を抱いていた。それが1812年のナポレオンによるロシア遠征の失敗によって、旧体制の復活というなかで、晩年をすごすことになったという。

この本では、<不滅の恋人>への三通の手紙と言われている有名な手紙の解読を軸にして、1812年のベートーヴェンの動きをヨーロッパの政治情勢と関わり合わせて、解き明かすという内容になっている。

最初はたんなるとんでも本だと思っていたのだが、読んでみると、中身のしっかりした素晴らしい本だった。


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