羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』(文藝春秋、2015年9
羽田圭介の第153回芥川賞受賞作だということは、読後に知った。図書館の一角にある介護かなんかの特集コーナーで見つけた。中島久美子の『介護小説 最後の贈り物』という小説と一緒に借りて来たのだが、こちらが読みやすそうだったので、先に読んでみたら、面白かった。
最初はそのタイトルからして、人生なんてスクラップ・アンド・ビルド、つまり老人は若者たちに道を開けろ、的な(つまり最近喧しいイェール大学准教授の老人の集団自殺みたいな」ものかと思っていたら、まったく違っていた。
祖父、母、自分(健斗)の三人で東京の近郊都市のマンションに住んでいる主人公の祖父がうつ状態で早く死んでしまいたいと言うのが口癖になっている。健斗は三流大学を出たが、いまだに就職できず、行政書士試験のための勉強をしたりしながら、ときどき付き合っている4歳年下の亜美とセックスしたりしている。父がすでに亡くなっているので、母が働いて生計を立てているが、この母は祖父にきつい言葉で当たり散らす。
普通に考えると健斗はあれこれ世話をしなければならない祖父に対して辛く当たると思うのだが、意外と「祖父の希望通り早く苦しまずに死なせてやる」ということを考えて、祖父の世話をしている。つまり祖父が移動するのに手を貸してやるのは、祖父の身体能力を早く落とすため、衣服の整理を代わりにするのは、祖父の認知能力を衰えさせるため、という具合である。
つまり、彼の意識とは無関係に、外見的は祖父孝行の孫に見えるのだ。そういうちょっとねじれた健斗の意識が中心に描かれているので、まだ二十代の健斗がいいやつに見えてきたりするのが、面白い。
3分の2あたりから著者の筆も冴えてきて、喜劇を狙っているのかと思わせるほど、笑わせてくれる箇所が頻出するのだが、最高なのは以下の行である。祖父が突然に苦しいと言い出したので健斗が救急病院に連れ込んでしばらく入院ということになる。同じ病室には老人ばかりがおり、その中のひとり老婆が「殺されるぅ」と誰彼となく叫んでいる。何回目かに訪れたときその老婆が同じように「殺されるぅ」と言うと、若い猫なで声の女性看護師がやってきた。
老婆「殺してくれっ!」
看護師「もう少し待っててねぇ」
老婆「はぁい」
すると老婆はおとなしくなり・・・(95頁)
この箇所で思わず笑ってしまった。
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羽田圭介の第153回芥川賞受賞作だということは、読後に知った。図書館の一角にある介護かなんかの特集コーナーで見つけた。中島久美子の『介護小説 最後の贈り物』という小説と一緒に借りて来たのだが、こちらが読みやすそうだったので、先に読んでみたら、面白かった。
最初はそのタイトルからして、人生なんてスクラップ・アンド・ビルド、つまり老人は若者たちに道を開けろ、的な(つまり最近喧しいイェール大学准教授の老人の集団自殺みたいな」ものかと思っていたら、まったく違っていた。
祖父、母、自分(健斗)の三人で東京の近郊都市のマンションに住んでいる主人公の祖父がうつ状態で早く死んでしまいたいと言うのが口癖になっている。健斗は三流大学を出たが、いまだに就職できず、行政書士試験のための勉強をしたりしながら、ときどき付き合っている4歳年下の亜美とセックスしたりしている。父がすでに亡くなっているので、母が働いて生計を立てているが、この母は祖父にきつい言葉で当たり散らす。
普通に考えると健斗はあれこれ世話をしなければならない祖父に対して辛く当たると思うのだが、意外と「祖父の希望通り早く苦しまずに死なせてやる」ということを考えて、祖父の世話をしている。つまり祖父が移動するのに手を貸してやるのは、祖父の身体能力を早く落とすため、衣服の整理を代わりにするのは、祖父の認知能力を衰えさせるため、という具合である。
つまり、彼の意識とは無関係に、外見的は祖父孝行の孫に見えるのだ。そういうちょっとねじれた健斗の意識が中心に描かれているので、まだ二十代の健斗がいいやつに見えてきたりするのが、面白い。
3分の2あたりから著者の筆も冴えてきて、喜劇を狙っているのかと思わせるほど、笑わせてくれる箇所が頻出するのだが、最高なのは以下の行である。祖父が突然に苦しいと言い出したので健斗が救急病院に連れ込んでしばらく入院ということになる。同じ病室には老人ばかりがおり、その中のひとり老婆が「殺されるぅ」と誰彼となく叫んでいる。何回目かに訪れたときその老婆が同じように「殺されるぅ」と言うと、若い猫なで声の女性看護師がやってきた。
老婆「殺してくれっ!」
看護師「もう少し待っててねぇ」
老婆「はぁい」
すると老婆はおとなしくなり・・・(95頁)
この箇所で思わず笑ってしまった。
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