読書な日々

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『ヌヌ 完璧なベビーシッター』

2019年07月03日 | 現代フランス小説
レイラ・スリマニ『ヌヌ 完璧なベビーシッター』(集英社文庫、2018年)

フランスはヨーロッパでもトップクラスに女性の就労率が高い国だ。80%を超えると思う。

女性が働くためにはいろんな条件が整っていなければならない。

第一に、出産の自由。年齢を含めた自分なりの人生設計だけでなく、仕事の条件などによって、望むときに妊娠・出産ができるということは女性にとっては大事なことだ。

それを可能にしてくれるのは現在のところは避妊薬である。いわゆる低用量ピルというやつ。日本では自由化されているがわずかに2%しか使用されていない。

他方フランス人女性では50%の使用率。使用していない女性が使用したくないわけではなくて、必要なら使用することができるということを考えるなら、ほぼ100%と言っていい。医師の処方箋がなくても簡単に薬局で買える。

第二に子育てのしやすさ。フランスの大学はほぼ国立大学で、その上小学校から大学まで授業料が無料。子ども手当が、二人目から20歳になるまで毎月1万4000円を始めとして段階的に支払われる。

7月8月の二月もある長いヴァカンスも臨海学校、林間学校などが豊富で、親なしで子ども見てもらえる。

したがって、子育てで一番たいへんなのがこの小説の主題になっている3歳から全入となっている保育園・幼稚園までの3年間の育児期間だ。

いわばこうした入れ物の部分だけを議論しても中身の真実は見えてこない。それを埋めるのが小説や映画といった芸術なのだと思う。その意味では、入れ物の違いだけで、人生の、あるいは人間の幸不幸を論じることはできないのかもしれない。

この小説で、私なりに興味深く読んだのは、150ページあたりに出てくる、ポールの母親のシルヴィの話である。ある冬にポールとミリアムと子どもたちは冬休みをポールの両親の山の家(別荘)で一週間過ごすことになる。

もともとポールの母親のシルヴィとミリアムの関係はよくない。シルヴィというのは1970年代に青春時代を、そして80年代に子育ての時期を過ごした、私なんかと同じような世代になっている。

語り手は言う。「シルヴィが若かった頃、同年代の人たちは世界を変えていくことだけを夢見ていた。(…)シルヴィは長いこと男女両方による革命が起こり、生きていることを実感し、日々の生活を楽しむ時間のある世の中が生まれると信じていた。」(p.150)

社会変革を望み、そのためにそれぞれの立場で運動してきたが、何も変わらなかった、いやもっと悪くにさえなってしまった今、そしてそんな時代に生きている息子たち・娘たちの世代と対立している親の世代がこっそり書き込まれていることに感心した。



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