ミシェル・ウェルベック『服従』(河出書房新社、2015年)
近未来の2022年のフランス大統領選挙の第一回投票で、移民排斥を訴えて急伸した国民戦線のマリーヌ・ル・ペン(実在の政党で実在の党首)とイスラム同胞党のモアメド・ベン・アッベス(フィクションの政党で党首)が第一と第二になり、決選投票になる。フランス人は、ファシストかイスラム主義者かという選択を迫られることになる。
この小説ではイスラム主義者のモアメド・ベン・アッベスが大統領になり、大学はイスラム化されて、イスラム教徒でなければ教員になれない。そのため主人公のフランソワは、まだ40代なのに(定年まで働いた場合と同じだけの)高額の年金をもらって退職するが、学長になったルディジェに説得されてイスラム教徒に改宗して大学教員に戻ることになる。
実際の議論は見ていないが、たぶんいろいろ議論のあるところだろう。たとえば、このような究極の選択を前にして、社会党(現在のオランド大統領の政党)やUMP(サルコジの支持基盤政党)がファシストよりはイスラム主義者のほうがましと考えるだろうか。フランス人のイスラム感情が根強いとすれば、棄権して、どちらの政権ができても打倒のための戦いを起こすだろうか。国民戦線にせよイスラム主義者にせよ、政権を取れば、そんな簡単に引き下がるわけがない。たぶん強権的な態度にでるだろうから、内戦のようになるのではないか。しかし今の国民に、社会党にそんな根性があるのか。
こんな小説を書き始めた限りは、ウェルベックは内戦という究極の結論も念頭にあったはずだが、彼はそんな結論にはしないで、大方の国民はおとなしくイスラム主義政権に「服従」するという結論にした。早い話が、フランス式の「長いものには巻かれろ」という物語である。
私にはまったく腰砕けの展開としか思えない。ある意味、ミシェル・ウェルベックもつまらないものを書くようになったなとがっかりするばかりだ。
近未来の2022年のフランス大統領選挙の第一回投票で、移民排斥を訴えて急伸した国民戦線のマリーヌ・ル・ペン(実在の政党で実在の党首)とイスラム同胞党のモアメド・ベン・アッベス(フィクションの政党で党首)が第一と第二になり、決選投票になる。フランス人は、ファシストかイスラム主義者かという選択を迫られることになる。
この小説ではイスラム主義者のモアメド・ベン・アッベスが大統領になり、大学はイスラム化されて、イスラム教徒でなければ教員になれない。そのため主人公のフランソワは、まだ40代なのに(定年まで働いた場合と同じだけの)高額の年金をもらって退職するが、学長になったルディジェに説得されてイスラム教徒に改宗して大学教員に戻ることになる。
実際の議論は見ていないが、たぶんいろいろ議論のあるところだろう。たとえば、このような究極の選択を前にして、社会党(現在のオランド大統領の政党)やUMP(サルコジの支持基盤政党)がファシストよりはイスラム主義者のほうがましと考えるだろうか。フランス人のイスラム感情が根強いとすれば、棄権して、どちらの政権ができても打倒のための戦いを起こすだろうか。国民戦線にせよイスラム主義者にせよ、政権を取れば、そんな簡単に引き下がるわけがない。たぶん強権的な態度にでるだろうから、内戦のようになるのではないか。しかし今の国民に、社会党にそんな根性があるのか。
こんな小説を書き始めた限りは、ウェルベックは内戦という究極の結論も念頭にあったはずだが、彼はそんな結論にはしないで、大方の国民はおとなしくイスラム主義政権に「服従」するという結論にした。早い話が、フランス式の「長いものには巻かれろ」という物語である。
私にはまったく腰砕けの展開としか思えない。ある意味、ミシェル・ウェルベックもつまらないものを書くようになったなとがっかりするばかりだ。