『牛肉と馬鈴薯』。
青春のいつのときかに、みんな一度は読んだ本でしょう。
久しぶりに読み返しました。この本も、中学生で読んだときとまったく違う印象です。
もうなくなったという明治倶楽部にある冬の日にあつまった紳士たちの談笑です。大学を卒業して12年、35歳くらいの男たちが、人生をふりかえり、人生観を語る。
「理想に従えば芋ばかし喰っていなきゃアならない。ことによると馬鈴薯も喰えないことになる。諸君は牛肉と馬鈴薯とどっちがいい?」
若いころは、みんな詩人だった。馬鈴薯にあこがれたという。「諸君はみんな詩人の古手なんだ」「その昔はみんな馬鈴薯党なんだね」
しかし、岡本はいう。どちらにもなれない。「出来ないのです」どちらにも決められない。「実をいうとどちらでも可(い)い」
そこから、岡本のせつなく哀しい恋の話がつづく。その少女(むすめ)は、2人で北海道に旅立とうとする直前になくなった。北海道は、理想の象徴でもあった。
近藤が口をはさむ。その少女が死ななければ、「必ず死の悲惨に増すものが有ったに違いない」「何となれば、女は欠伸をしますから・・・・」「生命にうみたる欠伸は男子の特色、恋愛にうみたる欠伸は女子の天性」であると。恋において、「女という動物は三月たつと十人が十人、飽きて了う。」これが近藤の考え方だ。
岡本は、そこで、「若し僕の不思議なる願いというものを聴いて呉れるなら話しましょう。」という。「飽きる」ということから、話は展開していく。
みんな、その岡本の願をいぶかる。想像がつかない。
岡本「言いましょう。吃驚しちゃアいけませんぞ。」早く早くとみんながせかせる。
岡本「吃驚したいというのが僕の願なのです。」
みんなあきれる。
しかし、岡本はまじめだ。宇宙の神秘もなにもかも日常生活のなかで、習慣的になり、あたりまえになり、驚きもなくなっている。
岡本が求めるのは、馬鈴薯でも牛肉でもない。新鮮なおどろき、エキサイティングな人生、輝くいのちだろう。
「古び果てた習慣の圧力から脱(の)がれて、驚異の念をもってこの宇宙に俯仰介立したいのです」
「彼らは決して本物を見ては居ない。」「習慣の眼が作る処のまぼろしを見ているにすぎません。」
岡本の気持ちは、「心霊の叫びである。」
「僕は人間を二種に区別したい。曰く驚く人、曰く平気な人・・・・」
みんな死ぬときはじめて驚く。「マサカ死のうとは思わなかった。」
岡本は、だれにも理解されなかった。
国木田独歩「牛肉と馬鈴薯」
青春のいつのときかに、みんな一度は読んだ本でしょう。
久しぶりに読み返しました。この本も、中学生で読んだときとまったく違う印象です。
もうなくなったという明治倶楽部にある冬の日にあつまった紳士たちの談笑です。大学を卒業して12年、35歳くらいの男たちが、人生をふりかえり、人生観を語る。
「理想に従えば芋ばかし喰っていなきゃアならない。ことによると馬鈴薯も喰えないことになる。諸君は牛肉と馬鈴薯とどっちがいい?」
若いころは、みんな詩人だった。馬鈴薯にあこがれたという。「諸君はみんな詩人の古手なんだ」「その昔はみんな馬鈴薯党なんだね」
しかし、岡本はいう。どちらにもなれない。「出来ないのです」どちらにも決められない。「実をいうとどちらでも可(い)い」
そこから、岡本のせつなく哀しい恋の話がつづく。その少女(むすめ)は、2人で北海道に旅立とうとする直前になくなった。北海道は、理想の象徴でもあった。
近藤が口をはさむ。その少女が死ななければ、「必ず死の悲惨に増すものが有ったに違いない」「何となれば、女は欠伸をしますから・・・・」「生命にうみたる欠伸は男子の特色、恋愛にうみたる欠伸は女子の天性」であると。恋において、「女という動物は三月たつと十人が十人、飽きて了う。」これが近藤の考え方だ。
岡本は、そこで、「若し僕の不思議なる願いというものを聴いて呉れるなら話しましょう。」という。「飽きる」ということから、話は展開していく。
みんな、その岡本の願をいぶかる。想像がつかない。
岡本「言いましょう。吃驚しちゃアいけませんぞ。」早く早くとみんながせかせる。
岡本「吃驚したいというのが僕の願なのです。」
みんなあきれる。
しかし、岡本はまじめだ。宇宙の神秘もなにもかも日常生活のなかで、習慣的になり、あたりまえになり、驚きもなくなっている。
岡本が求めるのは、馬鈴薯でも牛肉でもない。新鮮なおどろき、エキサイティングな人生、輝くいのちだろう。
「古び果てた習慣の圧力から脱(の)がれて、驚異の念をもってこの宇宙に俯仰介立したいのです」
「彼らは決して本物を見ては居ない。」「習慣の眼が作る処のまぼろしを見ているにすぎません。」
岡本の気持ちは、「心霊の叫びである。」
「僕は人間を二種に区別したい。曰く驚く人、曰く平気な人・・・・」
みんな死ぬときはじめて驚く。「マサカ死のうとは思わなかった。」
岡本は、だれにも理解されなかった。
国木田独歩「牛肉と馬鈴薯」