映画の豆

映画の感想をだらだらと。
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「首」

2023年11月25日 | 時代劇


「龍三と七人の子分たち」以来約8年ぶりの監督脚本作品。
信長統治下の不安定なパワーバランスを、
監督の独自解釈でシニカルに描くR15作品。
タイトル通りバンバン首が飛びます。
げろもあります(それ以外にも色々ありすぎるが)。

内容ばれ

男同士の友情をBLにするなとはよく聞く意見ですが、
北野監督は今回、寵愛や謀反などの武将同士の関係の変化を、
性愛による嫉妬懸想が原因でもあるという風に解釈した。
しかし日本にあった衆道関係とも違い
そこには権力勾配がなく(光秀と村重には)
どちらかといえば西洋の同性愛関係に近い。
かと思えば本来の衆道に近い関係もあり(信長と蘭丸)本当に独特である。
ファンタジーホモソーシャル時代劇という感じ。

村重おまんじゅうエピソードは文献にあるらしい。
村重はあのあと箱の中から脱出して生き延びたことになるが、
一体どうやった?フーディニかよ!?

光秀は、西島さんの平常力の強い演技が生きた、
とても味のある狂人造形だった。
あの中にいると常識人に見えるけど
全然そんなことないという。
「以前から懸想しておりました!」
てきなことを咄嗟に言ったところの表情とか
「命が惜しくて咄嗟に口走ってしまった…」
てきなセリフのところとか。
(北野監督、麒麟がくるをご覧になっていたのか?)

造形としての首の出来具合は今一つのように見えました。
最初に出てきた、中からザリガニがこんにちはしてるやつはよかった。
(首じゃないけど)

監督は、やはり少し年を取られたな、と思う部分もあり、
家康の草履を懐に入れた後で3人でわちゃわゃしている
アドリブっぽいシーン、ここは10秒くらいでいいのでは?
っていうのが切られずに長々と入っていたりとか、そういうの。
あと細かいことを言うと「とんでもございません」とかメジャーな誤用が
(現在では言葉の変遷として定着しつつあるが)
時代劇のセリフに入っていると、格が下がるように感じた。

でもまあ湿度の低い、とぼけたような味わいの死と暴力を描けるのは
北野監督の芸風だなあと思いました。




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「ダウントン・アビー 新たなる時代へ」

2022年10月02日 | 時代劇

20世紀初めのヨークシャーの伯爵とその妻、3人の娘、
そして使用人たちが、カントリーハウス「ダウントン・アビー」で過ごす日常を描いた
英国のドラマシリーズ、映画版続編です。

今回はヴァイオレットお祖母様が若い頃に交流のあった侯爵からフランスの別荘を遺され、
家族全員仰天するが、その侯爵の子息から招待を受けて別荘に赴くパートと、
ダウントンで映画撮影をしたいという申し込みがあり
屋敷の修復費が必要だったメアリーが了承して撮影が始まるパートが交互にあります。

あい変わらず映画版は、誰も裏切らないし誰も不貞を働かないし暴力沙汰も変死もなく平和。
私はドラマ版を吹き替え放映で見ていたため、今回も吹き替え版を見たのですが
訛りと言葉遣いネタがあったため、吹き替えで良かったかもと思った。
たぶん英語だといまひとつ分からなかった。

ラストまでばれ

いつかはそうなると思ってましたがとうとう…。さみしい…。
イザベルさんを一番信頼なさってたんだなというのがよく分かる行動とセリフでした。
ヴァイオレット様はクリノリンの登場や(あ、モスリンだったかも)
写真機の発明、様々なものを見守ってきた、いわば歴史そのもの。
その知識や知恵や気概がグランサム伯爵家に引き継がれていくというお話ですね。
(しかしこのあともう少しすると、平民の就職口の種類が増えて人件費が上がり、
マナーハウスの暮らしが立ち行かなくなってくる)
メアリーに仰った「私たちのような女は二通りの道しかない。ドラゴンか、愚か者よ」
というような意味の言葉、グランサム伯爵家の女性たちはみなドラゴンになりそうですね…。

今回もお屋敷、衣装、調度、何もかもよくて堪能しました。
みんな仲良くて何よりだが、独身者の存在は許さないとばかりに
根こそぎ誰かとくっつけようとする巨大な圧力にちょっと笑ってしまった。
パットモアさんまでカップルにするというこだわりぶり!

トーマス…強引な男に弱い。
しかしお前が本編中でやらかした非道の数々を贖うには、
あと10回くらいは男に捨てられなければならない…。




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「燃えよ剣」

2021年10月22日 | 時代劇
司馬遼太郎による同名小説の映画化。
1年に1回くらいは様々なメディアで目にする新選組ですが
これは真祖というか本家というか。
遠い昔に読んだ原作と比較すると、
土方さんが策を弄する非情な男というより、
思慮深く素朴でナイーブな面が強調されていてよかった。
お雪さんへの言葉遣いが丁寧なのとか。
話は土方さんの半生語りの体裁で、
多摩から始まり函館まで駆け足で描写します。
配役が良かったし、殺陣も、役者さんの頑張りと
カメラワークのアシストで、うまい具合に収まってました。
なにより主演の岡田さん、格闘の基礎は剣道にも通じるのか
(まあ足技も出るガラの悪い剣法という設定ですが)
ガチで強そうだった。

特筆すべきはロケ地のすごさ。
めちゃくちゃ顔の利く人がまとめたのだと思うが、
こんな豪華なロケ地を取り揃えた邦画は滅多にない。
見てて分かったのは渉成園、あと市川崑監督でおなじみ広兼邸、
最後の撮影協力で確認できたのは東寺、東本願寺、西本願寺(並んでいた)。
あとで調べたが、桜の美しかったのが奈良の長谷寺、
近藤さんが「土方くん」って言ってたのが吉備津神社、
どこも美しかった。

暴力表現は、時代劇としては強めでメッタ刺しあり、
血だまりでのたうちまわったりします。馬が好きな人は注意。
性暴行表現があります。

キャラクターとしては沖田さんがとてもよかった。
優しくてポリコレ剣士なのも勿論ですが、
人殺しを仕事と心得ている強いメンタルと、
懐いた人間の傍から離れない猫のようなところ、
あと自分の才能に対し謙遜も奢りもしないところも好ましかった。

内容ばれ

若い指導者と構成員が大勢、社会に対して強い変革を求め
常に行動を共にしているとそのうちに内ゲバが始まって
瓦解していくのは古今東西のお約束事で、
この身食いする獣のような苛烈さを何割入れるかで
新選組創作のカラーは随分変わります。
この映画は流血こそ多いものの、それほど地獄ではなかった。
最初に創造したのは司馬遼太郎先生なのかな?
土方歳三を「自分の思想や野望よりも、
推しをセンターに立たせたい思いが強いというP気質の人物」にして
彼を芯に据えると、お話から多少脂臭さが抜けるし、
昔から変わらぬ日本の副官・献身萌えにヒットする。

お雪さんは、歴史の転機のエンタテインメントに登場する
女性キャラクターにありがちな、
「泣く」「心配する」「愛情を吐露する」
しか行動コマンドのない不気味さはなくて、
心配のパッションを人命救助で発散するという行動力が良かったですね。
ちょっとその健脚と機動力はファンタジーぽかったけれど。
ファンタジーと言えば土方さんと共寝した
あの立派な庭のある家はどこという設定なのかとか(宿?)、
ご婦人方が天下を語るシーンの聞香、そんな吹きさらしの場所で?とか
少しだけ面白い感じの場面が幾つかあったが、不気味よりは全然いい。

時々真上からのショットが入るのは監督の癖なのか分かりませんが印象に残りました。
特に芹沢鴨絶命。
池田屋でビゼーのハバネラがかかったのにはびっくりしたが、
若い監督さんだと転調部分まで鳴らして極彩色にしてしまうだろうけど
そうしないのは上品だと思いました。

土方さん関連のアクションは岡田さんの指南が入っているようで
締め技が極まったりして、いつもの岡田さんだった(笑)

私のベスト新選組は三谷幸喜さんの「新選組!」で、
NHK大河ドラマのベスト作品でもあります。
見る機会がありましたらオススメです。
隊士1人1人に潤沢なエピソードが与えられた、大好きな群像劇です。



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「みをつくし料理帖」

2020年11月01日 | 時代劇

髙田郁さんの同名長編小説の映画化。
テレビ朝日版、NHK版と2度ドラマ化されている。

享和2年の大水で両親を失い、幼馴染とも生き別れた主人公は
料亭のおかみに拾われ、その天性の料理の腕を磨いてきた。
江戸に出てきた彼女は、日本一の太夫といわれている花魁が
行方不明になっていた幼馴染であると知るが…というあらすじ。

角川春樹さんが最後の監督作品であると宣言なさっています。
めっちゃ百合だったので、
そうかー、そんなに百合がお好きなのかーと思いました。
役者さんがなかなか豪華で、セリフが1つしかないチンピラモブが
松山ケンイチさんだったり、
最初にちらっと出る易者が反町隆史さんだったりしました。

お料理がとてもおいしそうなので、
お腹が減った状態で見ないほうがいいかも。
パンフには映画に出てきたお料理のレシピが載っています。

内容ばれ

「うちらは何があってもずっと一緒や」という誓いを胸に
幼馴染を思い続ける主人公を、
曲亭馬琴さんは、「お前の料理の腕で、親友を身請けしてみせよ」
と鼓舞します。
馬琴さんも百合萌えかー。

そして主人公といい雰囲気だった小松原様は、
主人公が親友を取り戻すと決意するのを陰から聞いていて
すっと身を引きます。
百合の間に挟まる男は死ぬと古事記にも書かれているので
学のある小松原様は危機回避したのでしょう。
(小松原様は挟まろうとはしてないけど)

太夫の身請け代は4~5億円くらい。がんばれ主人公!
ちなみに「とろとろ茶碗蒸し」は600円くらいのようです。
食びたい!とろとろ茶碗蒸し!

登龍楼がギャフンといわされないのはちょっと気になったし、
というか雨の日に放火してなんであんなにボーボー燃えるのかとか、
ごりょんさんの息子さんは伏線で松山ケンイチさんだと思ってたら違って
息子さん最後まで出てこなかったし、
主人公と医者先生がお話している背景にぶら下がった亀?がバタバタしてたり、
イモリの黒焼き?があったり、妙に気になる愉快な箇所がところどころあった。
ところで手皿はマナー違反だと思うんだけど(庶民はいいとして小松原様)
江戸時代はそうじゃなかったのか…??と調べたけど分からなかった。

主人公が親友を身請けできたかどうか心配になって
原作小説のあらすじを調べてしまった…。


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