映画の豆

映画の感想をだらだらと。
本サイトは
http://heme.sakura.ne.jp/333/index.htm

「スティーブ・ジョブズ」

2016年02月24日 | 実話系
ダニー・ボイル 監督

ジョブズの人生における3度の重要なイベント、
その直前の慌ただしいリハや打合せの間に
彼を訪ねてくる親しい人々、その人たちとの会話を通して
彼の人生の変遷や変化を表現する映画。
会話を中心に進む舞台劇のようでした。

スティーブ・ジョブズの人柄や業績、人間関係については
知っている事が前提となっているので
詳しくない人は2013年の「スティーブ・ジョブズ」を見ておいた方がいいかも。
緊張感のある会話劇として楽しむ事も出来るけど、
登場人物がジョブズに対してどういう立ち位置なのか知ってた方が
何倍も面白いので。
2013年の「スティーブ・ジョブズ」は
歴史を追うことで一杯一杯だった映画なので、
これと足して割ると丁度いいと思う。

スティーブ・ジョブズ役は マイケル・ファスベンダー。
地声よりもやや高い声で、歯を剥きだす演技もちょっと控えて、
ろくろこそ回していなかったものの細やかな手先の演技で
物真似ではなく2人の人間が融合したような魅力的なジョブズを作りだしていました。
ファスベンダーさんと言えば黙って立っていても被害者に見える
物悲しそうな声と表情をしているひとなのですが、
ジョブズのクズエピソードとファスの被害者オーラが力比べをした結果、
(脚本の後押しもあり)ファスがやや押し勝ちました。
いやでもまさか、本人が「認知しない!」って頑張っていた
実の娘の話が中心に据えられるとは思わなかったです。

内容ばれ

過去何があったかという事はほとんど描かれないので
ウォズニアックさんの天才エピソードがほとんどなくて、
予備知識のない人には謎の謝辞謝辞おじさんだったのではなかろうか…。
スティーブ・ウォズニアック役はセス・ローゲン。
セス・ローゲンに別れを切り出されて涙をこぼすファスベンダーさんのシーンが、
絶 対 あ る に 違 い な い !って思ってたのになかった…。
残念です。
「2進法とは違う。才能と人格は共存する」
っていうセリフは良かったですね。
でもウォズニアックさんには奇跡的に両者が共存しているだけで、
残念ながら通常それらは両立しないですよと私は思います。

同じIT業界の成功者マーク・ザッカーバーグを題材にした
「ソーシャル・ネットワーク」と脚本家は同じアーロン・ソーキン。
(あちらの監督はデヴィッド・フィンチャーだけど)
物語の起承転結は、この映画の方がかなり薄い目。
何となくですが、フィンチャー監督の芸風のほうが
IT業界という題材に合っている気がする。冷たくて早い感じ。

電子音楽とクラシック音楽が混在していましたが、
ジョブズの心情に合わせてパート分けしてあったのかな?と後で思いました。



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「シャーロック 忌まわしき花嫁」

2016年02月22日 | サスペンス映画

BBCドラマ現代版シャーロック・ホームズ、
本国でスペシャルドラマとして放映されたものが劇場公開されました。
今回は19世紀のロンドン世界で、シャーロックが大活躍します。
でも話としては独立してないので、ドラマ版を見てないと
人間関係が把握できないと思う。
逆にドラマ版が好きな人は見に行った方がいいですよ。
限定公開なのでお気をつけて。

トリックは少々大味だったけど、犯人は面白かった。

おちばれ

ていうかめっちゃシーズン3から続いてますからね…。
これ同人誌で読んだら「天才かなこの人…」ってたぶん思った。
「充分に発達した公式は、同人と見分けが付かない」ということですかね?
サービスシーンの連続すぎて息ができませんでした。
(初見の人が、単独の映画として見た場合は、残念ながらあまり面白くはないというか、
すごい疎外感を感じると思いますが、ドラマ版のファンの人は問答無用で行くべきです。

もう10回くらいあちこちで書いてますが、
ライヘンバッハに関して、原作でもグラナダ版でもBBC現代版でも他映像化でも
私はともかくずっと怒ってきたのですが、(いちばんむかついたのはグラナダ版かな…)
今回はライヘンバッハ完全補完きた!って思いましたね。
ドラマの方でもジョンが怒り狂って若干すっきりはしたんですが、
今回本当に気が済んだというか、ワトソンがイケワトソンすぎました…。
1人ウェーブしたかった…。
ホームズはワトソンのこと、騎士かなにかだと思ってるのかな?

関係ないですが、
全身の骨の名称を言いながら、折ることもできる、とかいう感じの
予告で見たセリフ、悪人に対してのものかと思ったら
シャーロックに言ってたのかよワトソン!

気になるのは、Mの存在。
死亡したのは間違いないってシャーロックがラストで言ってましたが、
どういう事なんだろう。今後はシャーロックの脳をリソースとして
存在し続けるということ…?

犯人については途中で、「あー、そう繋げたか!」って思ったんですが
メアリも一味かと思ってました。
一定年齢より下の女性が挙げる
「むかつく日本文学」の上位に必ず食い込む「舞姫」も
同じパターンで殺人事件化してほしいですね。

いつものテーマ曲の背景に流れる現代ロンドンの風景が
19世紀ロンドンに変わってるだけでどきどきしました。


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「キャロル」

2016年02月16日 | 恋愛映画

百貨店で売り子をしている女の子が、
客として売り場にやってきた美しい人妻に恋をして
彼女にのめりこんでいくというあらすじ。

原作がパトリシア・ハイスミスなので「絶対暗黒ラストだ…」
って行くのをためらってましたが、
先に見たかたから「大丈夫ですよ!」って教えて頂いて鑑賞しました。

人妻をケイト・ブランシェット、
百貨店の売り子娘をルーニー・マーラが演じます。
ともかく細部まで美意識の行き届いた映画でした。
女優さんの服装、髪型、小物、メイク、靴は当然ながら、
仕草や姿勢や、1950年代の街並み、
当時のレストランやホテル、その調度や色彩全部。
わざと昔の映画風に撮ってある、
褪せた色やピントのシャープじゃない所も。

性行為のシーンがあるのでご家族向きではない。
男性登場人物は酷い描かれ方と扱いなのでカップル向きでもないです。
(美意識高い系カップルならあるいは?)

ラストばれ?

2人は車で旅をするのですが、
運転中に人妻の毛皮のコートをキャッキャ笑いながら脱がせてあげるシーンや、
人妻が売り子娘にお化粧をしてあげる遊びや、香水を付けてあげた場面、
The百合!という感じで良かったです。
あと、機関車のミニチュアについてちょっと喋って、
自分が幼女だった頃に機関車のおもちゃが欲しかったというのを売り子娘から聞いて、
人妻が自分の娘に機関車を買うシーンも好き。

監督さんが原作者さんかどちらかは分からないけど、
この人はたぶん外見や仕草で人を好きになるタイプだな…と思った。
というのは、互いがどういう人なのか、どういう生い立ちでどういう本を読み
どういう宗教で、どういう料理を好み、どういう動物が好きで、
どんな欠点があるのか、それらに関して会話するシーンはあまりなくて、
知っていくうえでの驚きや喜びや興味などの感情は描かれてなかったので。
会話や人となりよりは、やはり仕草や表情をじっくり撮ってあった。

人柄と感情に恋をする、男性同士の愛を描いた
同じく美意識炸裂映画「シングルマン」と両極だな、という気がした。なんとなく。

物語としてでなく、恋愛を見た場合、
人妻と売り子娘では経験値とスキルが違いすぎてあまりに不平等なので、
一度別れて、売り子娘が恋愛経験値を積んでからもう一度付き合った方が…と思います。
というか、ぼんやりとしていて、「話を聞いてる?」とよく人に尋ねられ、
誰に対しても拒否せず、彼氏がいるのに他の男性にキスされても
怒りを態度で示すわけでもない売り子娘が、
人妻と付き合う事で急速に大人になり自我を形作って、
結局は人妻と別れる道を自分の意思で選択するというラストか…綺麗にまとめたな…
と思ってたら違ったのでびっくりした。

しつこいですが、ハイスミスなので原作は自殺か心中エンドでしょう…
と決めつけてましたが、本屋さんでぱらっと見てみたらラストは同じでした。
検索してみたら、この作品はハイスミスが別名義で書いた作品で、
彼女の実体験を元に書かれており、現実ではキャロルにあたる人妻は自殺なさったのだそうです。
…せめて物語の中でだけは幸せに系創作でしたか…。



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「オデッセイ」

2016年02月08日 | サバイバル系

アンディ・ウィアー「火星の人」映画化。
火星滞在中の事故で死亡したと誤認された宇宙飛行士が、
1人火星に取り残され、専門の植物学の知識でサバイバルをするという
ドキュメンタリー風の内容ですが、
主人公がスーパーポジティブで、悲壮感があまりなく、
登場人物ほぼすべて賢い人のため、展開が早いです。

原作のジョークや下品ネタは残念ながら大半カット。
オタク設定もカット、ミッションもかなり省略されてましたが、
まあこれは時間の都合上仕方がないでしょう。
その代り文章では形状がよく分からなかったハブや、
RTG、パスファインダー、改造ローバー、MAV等々が
どんな形なのか見られたのは嬉しかったです。
あとワトニーを妻子持ちに変えたお涙頂戴が捻じ込まれなかったのも嬉しい。
(その方が幅広い層に受けるのは確実だから……)
(映画のワトニーは異性愛者かどうかも分からない仕様)

内容ばれ

残念な変更点は下記3つ。

・ヘルメス内部での、火星に戻る戻らないの採決の方法。
 エモーショナル重視なのは分かるけど、
 誰が反対したか開示されない投票方法を採ったところに船長の資質を、
 それでも全員一致したってところに彼等の心意気を感じたのでちょっと残念。
 (訂正:これ採決ではなく、反対意見を募る方法でした)
・ワトニーの最後のモノローグカット。
 原作を読んでいた時にビャービャー泣いたので。
・おっぱい……。

でもハードな状況なのに明るい映画の雰囲気を更に明るくしてくれるうえに、
妙に状況にあっているディスコミュージック最高でした。

それと火星での生活を終える頃のワトニーが、
痩せ衰え、皮膚も全身酷い状態になっていたのは、
原作では全然描写されてなかったので、
そうか意識しないようにしてたんだな…って考えたら
一周回ってブワワってなった。

原作と映画どっちも見てなくて、
文章を読むのは億劫だという人はぜひ映画をご覧ください。
おすすめします。
時間の都合上、映画か小説どっちかにしたい人は
小説の方をおすすめします。
映画と小説の両方を見たいという人には
映画→原作の順番がいいと思います。

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「残穢 住んではいけない部屋」

2016年02月04日 | ホラー映画

今年は、洋物ホラーNO1が「イット・フォローズ」で
和物ホラーNO1が「残穢」かなって気がします。まだ2月だけど。
和ホラーは、すごいCGの何かがバァァァーン!!って出て、
役者さんが「ンギャァァァー!!」って悲鳴をあげる怖さではなく、
たとえば「今あなたの座っている席に去年座っていた
あなたと同じ年齢の女性は自殺したんですよ…」って告げられた時の、
嫌さと不安さが混ざったような怖さなんですよ。
「残穢」はまさにそんな感じの映画です。

1人暮らしを始めた女子大生が、部屋でかすかな物音を聞くところから始まります。
彼女が体験談をオカルト系雑誌に送った所から、体験記の文字起こしをしている
小説家と交流するようになり、2人はそのマンションの建っていた土地で、
かつて何があったかを調査します。

人間の演じている部分はすごく怖い。
ちょっとノイローゼ気味の夫人が「あなたも仲間なの…?」っていう顔とか、
久保さんが家に帰ってきたら隣の奥さんが顔だけ出して喋る時の顔とか、
床下男の不鮮明な顔とか。
あと隣家の人を思い出すシーンで旦那さんだけ笑ってないのが怖い。
CGはなんていうか、あの、しょぼい。そこさえ目をつぶれば。

ラストばれ

物理的に攻撃してくる怪異ではないので
この映画を見て、アメリカ人がどう感じるかはとても興味があります。
日本人でも、肉体的なピンチにしか恐怖を感じないタイプの人には
眠いサスペンスになってしまうかも…。

原作のラストは、わりと投げっぱなしなんですが、
本の中から現実世界の私達に向かって球を投げるという高等な事をしているので、
映画には不向きと考えられたのか、改変されてました。
(まあ原作だと主人公は作者の小野さん本人ですよとはっきり書いてなくても
分かるようになっているし、実在の人物が出てきますが、
それに気付かないと怖さは3分の2くらいに減るし、
想像力を要求される怖さなんですよねつまり)

怪異は終わって平凡な日常に戻った、っていうシーンで、
赤ん坊の泣き声がかすかに聞こえているし、実は赤ん坊映ってるし、
子供たちは天井の一点を見てる、ってところは実によかった。
編集部はやりすぎというか、特に机の下にいたやつ、お前は絶対に駄目だ。
手が煤で汚れたあたりで止めておいてくれたら更によかったんだけどなあ…。

劇場の照明がついても、誰も立ち上がりませんでした。
ああいうの、ちょっと嬉しい。



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