監督脚本 三谷幸喜
久しぶりの三谷さんの監督映画作品。
入場者も満席に近く、好調なスタートのようです。
スオミという女性が姿を消す。
彼女は有名詩人の妻であるが、
その前には刑事と結婚しており、
彼女の捜索はその刑事に一任される。
しかし現場にやってきた刑事の上司や
その家の使用人は悉く彼女の前の夫であり、
今でも彼女を憎からず思っている。
しかし前夫たちが話すスオミはそれぞれ大きな違いがあり…
というコメディ映画。
伏線の緻密な悲壮なお話、その中にも笑いがあるという
「鎌倉殿」のような作品と共に
今回のような、ちょっと寓話っぽいコメディは
三谷さんの両手のようなものですが、
私はどちらかといえば後者に三谷さんらしさを感じる。
演技、オーバーアクションで笑わせる系なので
舞台っぽい所作が苦手な人はやめておいたほうがいいかも。
登場人物の平均年齢が高く、人生を俯瞰して眺める要素があるので
大人向けかもしれません。私は好きです。
長澤まさみさんの「コンフィデンスマンJP」で磨かれた
色々な人物の演じ分けが遺憾なく発揮されてました。
西島秀俊さんの真面目さを生かした笑いもうまくハマってた。
ねたばれ
解決シークエンスのあと西島さんが、自分だけ呼ばれた時の
抑えがたい優越感の笑み、とてもとても良かった。
前夫だけが同席できる場所へ自分も行くと言い張る瀬戸さんの動きも笑った。
シリアスな意見になるが
男性たちは男性同士の連帯や信頼、ライバル心、崇拝、好意について
よだれを垂らすほど好きなのに、
男性同士の性的な関係は断じて許されぬと強烈に刷り込まれているので
そういう人にとってこれは究極の、理想的なボーイズクラブなのではないかと思った。
血のつながりはないが家族に近い、強いきずながある(スオミという)。
逆ハーレムとボーイズクラブという、
男女ともに夢の関係を合体させた話ではなかろうか。
薊さんに気付いたのはママ友のあたりだけど、
魚山さんの過去パートでふき出してしまった。
三谷さんの作品で、血のつながりのない女性同士の
シスターフッドが描かれたのって初めてじゃないだろうか。
(やっぱり猫が好き、紫式部ダイアリーは観てます)
夫が5人もいて、今後も増えていくだろうスオミだけど
歳をとったときに一緒にいようと考えるのは薊さんなのかっていう。
偶然ですが、女性が女性に「おばあちゃんになっても一緒にいたい」って言う映画を
連続で2本見たよ。
相手の期待している人格を演じるタイプの女性、
実際に現実世界にいらっしゃるけど、
元々の自我が薄くてそれが可能なんだろうなと思うことはある。
スオミは思春期の家庭環境で、ああいう技能を身に着けてしまったのかも。
私は映画を見ながら
「相手に合わせて自分の自我を曲げることは今後も絶対にしないし、
誰かに対してこうなってほしいという押しつけもしないぞ!」
と思いました。
スオミは「フィンランド」という意味で、
小林聡美さんの代表作のひとつ「かもめ食堂」に出てきたカフェの本当の名前。
(だったんだけど、映画を見てやってくる日本人があまりに多くて
「ラヴィントラ カモメ=かもめ食堂」に改名してた。2016年。知らなかった)
フィンランド、旅行するだけなら意外とお安く行けたように記憶してるので
まずは薊さんと1週間ほど行ってみればいいのに。
ヘルシンキの歌が耳に残って今もグルグルしてますが
最終的に執着するのが自分のルーツ、(嘘かもしれない)お父さんの話なのかと思った。
三谷さんが宣伝のために出演していた番組で
息子さんにムーミンの読み聞かせをしている話や
お父さんが子供のころに亡くなれられた話をなさっていたので
どうしてもつなげて考えてしまう。
最後みんなで歌って踊って夢のようにわーっと終わるの、
舞台劇みたいでいいですね。
薊さんの一人称で書かれた「スオミの話をしよう」を読んでみたいです。
「メタモンみたいな女だな、と最初は思った」から始まる感じの。