映画の豆

映画の感想をだらだらと。
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「スオミの話をしよう」

2024年09月16日 | コメディ

監督脚本 三谷幸喜
久しぶりの三谷さんの監督映画作品。
入場者も満席に近く、好調なスタートのようです。

スオミという女性が姿を消す。
彼女は有名詩人の妻であるが、
その前には刑事と結婚しており、
彼女の捜索はその刑事に一任される。
しかし現場にやってきた刑事の上司や
その家の使用人は悉く彼女の前の夫であり、
今でも彼女を憎からず思っている。
しかし前夫たちが話すスオミはそれぞれ大きな違いがあり…
というコメディ映画。

伏線の緻密な悲壮なお話、その中にも笑いがあるという
「鎌倉殿」のような作品と共に
今回のような、ちょっと寓話っぽいコメディは
三谷さんの両手のようなものですが、
私はどちらかといえば後者に三谷さんらしさを感じる。

演技、オーバーアクションで笑わせる系なので
舞台っぽい所作が苦手な人はやめておいたほうがいいかも。
登場人物の平均年齢が高く、人生を俯瞰して眺める要素があるので
大人向けかもしれません。私は好きです。
長澤まさみさんの「コンフィデンスマンJP」で磨かれた
色々な人物の演じ分けが遺憾なく発揮されてました。
西島秀俊さんの真面目さを生かした笑いもうまくハマってた。

ねたばれ

解決シークエンスのあと西島さんが、自分だけ呼ばれた時の
抑えがたい優越感の笑み、とてもとても良かった。
前夫だけが同席できる場所へ自分も行くと言い張る瀬戸さんの動きも笑った。

シリアスな意見になるが
男性たちは男性同士の連帯や信頼、ライバル心、崇拝、好意について
よだれを垂らすほど好きなのに、
男性同士の性的な関係は断じて許されぬと強烈に刷り込まれているので
そういう人にとってこれは究極の、理想的なボーイズクラブなのではないかと思った。
血のつながりはないが家族に近い、強いきずながある(スオミという)。
逆ハーレムとボーイズクラブという、
男女ともに夢の関係を合体させた話ではなかろうか。

薊さんに気付いたのはママ友のあたりだけど、
魚山さんの過去パートでふき出してしまった。
三谷さんの作品で、血のつながりのない女性同士の
シスターフッドが描かれたのって初めてじゃないだろうか。
(やっぱり猫が好き、紫式部ダイアリーは観てます)
夫が5人もいて、今後も増えていくだろうスオミだけど
歳をとったときに一緒にいようと考えるのは薊さんなのかっていう。
偶然ですが、女性が女性に「おばあちゃんになっても一緒にいたい」って言う映画を
連続で2本見たよ。

相手の期待している人格を演じるタイプの女性、
実際に現実世界にいらっしゃるけど、
元々の自我が薄くてそれが可能なんだろうなと思うことはある。
スオミは思春期の家庭環境で、ああいう技能を身に着けてしまったのかも。
私は映画を見ながら
「相手に合わせて自分の自我を曲げることは今後も絶対にしないし、
誰かに対してこうなってほしいという押しつけもしないぞ!」
と思いました。

スオミは「フィンランド」という意味で、
小林聡美さんの代表作のひとつ「かもめ食堂」に出てきたカフェの本当の名前。
(だったんだけど、映画を見てやってくる日本人があまりに多くて
「ラヴィントラ カモメ=かもめ食堂」に改名してた。2016年。知らなかった)
フィンランド、旅行するだけなら意外とお安く行けたように記憶してるので
まずは薊さんと1週間ほど行ってみればいいのに。
ヘルシンキの歌が耳に残って今もグルグルしてますが
最終的に執着するのが自分のルーツ、(嘘かもしれない)お父さんの話なのかと思った。
三谷さんが宣伝のために出演していた番組で
息子さんにムーミンの読み聞かせをしている話や
お父さんが子供のころに亡くなれられた話をなさっていたので
どうしてもつなげて考えてしまう。

最後みんなで歌って踊って夢のようにわーっと終わるの、
舞台劇みたいでいいですね。
薊さんの一人称で書かれた「スオミの話をしよう」を読んでみたいです。
「メタモンみたいな女だな、と最初は思った」から始まる感じの。






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「カラオケ行こ!」

2024年01月14日 | コメディ
原作 和山やま
監督 山下敦弘
脚本 野木亜紀子

合唱部部長をつとめる高校生の主人公は
コンクール会場で突然、やくざの男に声を掛けられる。
男の所属する組では定期的にカラオケ大会が催され、
最下位の組員は組長によりへたくそなイレズミをいれられるという。
イレズミを回避したいやくざは、歌の特訓を依頼してくるが…というあらすじ。
やくざと高校生の友情コメディー。

脚本の野木さんがうまく、原作エピソードと
映画オリジナルエピソードの継ぎ目が分からないくらい自然。
狂児役綾野さんは、いつものやくざ演技ではなくむしろソフトで、
原作よりも悪くてやばい狂児だった。
ただ歌が普通に上手いので、裏声がそこまで気持ち悪くないのが唯一の欠点。

エンドロールおまけ映像あり。

内容ばれ

映研、からのビデオデッキ破壊、からのやくざに捕捉のあたりとか
原作もそうだっけ…?ってなる埋め込みかただった。
傘とか、副部長とか、後輩君とかも。
映画版は青春色が強く出てると思う。

聡実君役のひとは、角度により子供のような大人のような、
男性のような女性のような、如何様にも見える、
絶妙な年齢と顔立ちだなと思った。

音楽も何気によかった。
特に使われていた合唱曲。

「影絵」
覚和歌子 詩
横山潤子 作曲
天国は穏やかで平和ないいところらしいけど
神様が注ぐ永遠の光は景色や物に影をこしらえないから
どんなに天気がいい日でも影絵遊びができないんだ
だから僕死んだって天国なんかに住んだりしない

狂児が死んだら地獄に行くという設定と合わせると
神懸った選曲。



私が落ち着かないので未成年者に一応書いておきますが
保護者に伝えず未成年と会おうとしてくる成人は
その人がどんなに優しく話を聞いてくれて、食べ物をおごってくれて
君は他の子供とは違って特別だと褒めてくれて、才能や容姿に感心してくれ
自尊心を満たしいい気分にしてくれる人でも、
たとえ学校の先生や塾の先生といった立派な立場のひとでも、
中身はあまりよくない人物である可能性が高いので警戒をした方がいいですよ。

あとこれは老若男女に対して警告ですが
暴力的な人物があなたに対してだけは優しく、
暴力を行使して守ってくれるというフィクションは注意して鑑賞してください。
やくざが子供や女性やましてやカタギに手をださないというのはやくざファンタジーです。
反社会勢力の構成員に、名前や住所を知られ個体認識されるのは、
かなりやばい事態です。



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「翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~」

2023年11月26日 | コメディ

関東の中で見下されてきた埼玉県が
尊厳を取り戻すコメディファンジーの続編。
今回は関西にスポットが当たります。

和を勝ち取ったのも束の間、
県民の心がバラバラになるのを察した麗は、
埼玉に海を作る計画を発表する。
まずその第一段階として、
和歌山の白い砂を持ち帰ろうとするが、
途中座礁して仲間たちとはぐれてしまう。
流れ着いた彼が見たのは、
大阪府知事に支配される
和歌山県民たちの哀れな姿だった…というあらすじ。

関西で見てましたがわりとクスクス笑いが起こっていました。
ギャグの特性として、
誰に対しても刺さる広範囲向けのねたよりも
わかる人間の少ないねたのほうが深く刺さる。

嘔吐シーンがあるよ。

内容ばれ
サラダパンとか、平和堂のシンボルとか、
すぐ止まる湖西線とか、最強岸和田軍団とか
なぜか堺市disとか。
それにしても滋賀や奈良や和歌山のひとは
あそこまで底辺描写をされて大丈夫だったろうか…。

飛び出し注意の男の子の看板が滋賀県産だったとは知らなかった。
(西川貴教さんは絶対出るだろうなと思ってました)
(ヴォーリズねたもあると思ったがなかった)

現実部分の、浦和と大宮の対立とか、
熊谷が暑いとか(力士が倒れるほど!?)は、
へー!そうなんだ!という感じ。



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「アステロイド・シティ」

2023年09月03日 | コメディ

ウェス・アンダーソン監督

劇作家と俳優が集まって舞台劇を作ろうとしているらしい。
劇はアメリカ南西部のアステロイド・シティで
ジュニアスターゲイザー賞授賞式のために様々な家族が集まってくるくるという内容。
そのなかのスティーンベック家は問題を抱えており、
母親が亡くなったことをスティーンベック氏は子らに告げられずにいた…
というあらすじ。

いつもの監督の、絵画のような凝った色彩、完璧な構図。
風変わりな人物たちによる奇妙な会話。シュールな話の流れ。豪華な出演者。
今回は起承転結が希薄寄りなので、通好みかな?という気はする。

内容ばれ

最近、オッペンハイマーの予習のために本を読んだばかりなので
実験のキノコ雲が出たときに、ロスアラモス!ニューメキシコ!ロズウェル事件!
とすぐに繋がった。

偉人の名前を挙げていく遊びで突然北条時行が出てきてびっくりしたが、
義時じゃなくて時行っていうのは、「逃げ上手の若君」経由…?
ウェス・アンダーソン監督(またはロマン・コッポラ氏)、松井先生をご存じなんだろうか。
ユーモアのセンスに通じるところがあるような気がする。

音楽はいつものデスプラ氏だが、
寂れた行楽地のスピーカーから聞こえてくるようなカントリーミュージックで
なんとなくデスプラっぽくない感じがしたが、映画にはドンピシャだった。

3魔女ちゃんたちがかわいらしかった。


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「バービー」

2023年08月14日 | コメディ
グレタ・ガーウィグ監督
バービーワールドで毎日おしゃれでハッピーで最高の生活を送っていたバービーは、
ある日、死について気にかけるようになる。
そうするとなぜか足裏が平べったくなり、セルライトができ、
キラキラの生活に影が差す。
街はずれに住む変わり者バービーに相談すると、
人間界へ行き、自分の持ち主と会えば元通りになるだろうとアドバイスされるが…
というあらすじ。コメディです。

バービーハウスでの暮らしの表現が良かった。
バービーマニアック知識が随所で学べたが、
頭がおかしかったのかな?という廃盤の商品が色々あった。
大人でもバービーが欲しくなる映画で、
マテル社にとってはプラスになっただろうけど、
脚本の段階でよくOK出したな?という内容だった。
(わりとマテル社が悪く描かれている)

女性監督、歴代興行収入NO1とのことで、めでたいです。
名前で世界的にお客が呼べる男性監督は無数にいらっしゃるけど
名前で世界的にお客が呼べる女性監督はほぼゼロですからね。
グレタ・ガーウィグ監督、頑張っていただきたい。

単発洋画にしては座席は結構埋まっていた。
英語話者とみられるお客さんがとても多く。
私には分からないところで笑い声があがって、羨ましかった。

ラストまでばれ

生活がキラキラじゃなくなるところ、天人五衰を連想した。
あと、女性優位の国で生きてきて、
セクハラを知らないバービーが初めて性的な言葉をかけられ、
意味は分からないなりに憤慨していたところは切なかった。

ところで、少女と会って彼女の問題を解決し
めでたしめでたしというのが主軸かなと思っていたが
全然そうではなく、むしろケンを描く物語だったのがとても意外だった。
ケン=男を馬鹿に描いている!と怒っている感想がSNSで流れてきたが、
むしろ、なんというかあの世界のケンは現実世界の女ではないかと思った。
すべての職を片方の性別が占有して、
片方の性別だけで集まって楽しく遊び、
もう片方は家も財産も教養もなく、異性の歓心を買うしか生きるよすががない。
なので、男性が感情移入すべきなのはバービーワールドのバービーなのではないか?

そしてこの世界の女性がやるべきことは、
ケンたちがやったような逆転世界を作るクーデターではなく
男性も女性も同じ種族として敬意をもって接し、
機会が平等に得られる社会の創造なのでは。
悲しい時は寄り添いましょう。ともに笑いましょう。
でもそれは性愛とは違います…ということなのかと思いました。

あと母親と反抗期で狼のような娘、という取り合わせで
「レディバード」を連想したが、今回の母子の関係は良かった。
レディバードはお母さんが少し気の毒だったから。

コメディ映画なので、
コメディおよびコメディセンスに価値を見出さない人の評価は下がるかも。
しかし2001年宇宙の旅パロディや、
車移動で後部座席に人がいて叫ぶ天丼、
マーゴット・ロビーの顔で言ったら台無しというメタジョーク、
ユーモアセンスに特に方向性がないので
本来はジョークがお好きではなく、意識的に取り入れておられるのかな?
などと想像しました。
(突然の高慢と偏見、スナイダーカットなど、どう受け止めていいか分からないねたもあった)
対して皮肉のセンスには方向性があり冴えていた。
スポーツに疎い振り、PCに疎い振り、財テクに疎い振り、ゴッドファーザーの解説を聞きたがれば
ケンはチョロく釣れるわよ…のところとか。
アメリカの若い男性ってコッポラ好きな人が多いの?ずいぶん渋いな?
ダークナイトじゃないんだ…。

ラスト、ハンドラー姓を名乗ったので書類上は
ルース・ハンドラー氏の縁者ということになったんだろうか。

それにしてもこの内容の映画が大ヒットして人が押し寄せる国は
観客が成熟していると思う。




Barbernheimer(バーベンハイマー)問題
映画の内容とは関係のない、備忘録のようなものなので
興味ない方は下記、読む必要はありません。
同日公開のノーラン監督「オッペンハイマー」と「バービー」、
まったくジャンルの違う映画がどちらも好調で、
両方の映画を楽しむ、まあ焼き肉ビールの後にシメはパフェてきな
「Barbernheimer」というタグが作られ盛り上がりました。
それは近頃配信に押されがちの劇場にとってよかったんですが
バービーと原子爆弾、きのこ雲のコラ画像がファンによって作られ始め、
バービーのSNSアカウントがその画像に対し
「忘れられない夏になりそう!」てきな返事をしました。
それに日本からの抗議が殺到、
まずワーナージャパンが謝罪、次にワーナー本社が遺憾の意を記事にして、
問題になったレスは削除されました。
謝罪はしないだろうと私は予想していたので、意外でした。
謝罪が出たことで、今後似た問題は起こりにくくなったと思います。
それは今回すぐに抗議してくださったたくさんの人たちのおかげです。

(ワーナー規模の企業はSNS運営などは外注に出すらしいですが)
原子爆弾について、アメリカでは戦争終結に必要だったと考える人が多く、
ポジティブなイメージがあるらしいので、担当者は深く考えなかったのでしょうけど
今後はSNS運営にも監修の必要性を感じます。

あと本気なのか冗談なのか、またはなりすましなのか、ロシアがいっちょ噛みしてきて
「アメリカひどーい!アメリカって本当にひどいよね!」
という投稿を見かけましたが、
娯楽作品販促SNSの範疇を超えた危うい局面だったのかも…分かりませんが…。

日本側も911の画像にバービーをコラージュした投稿を始めたりなどして
それに対しおそらくアメリカの人が「真珠湾って知ってる?」と尋ねていたが
(21世紀にリメンバーパールハーバーが活用されるのを見てしまった)
私も、「何の罪もない市民が犠牲に!」という論調の方が多かったので少し疑問でした。
宣戦布告なしに真珠湾を攻撃したのは日本だって教育は今もされてるよね…?と。
別に強制されたわけでも、騙されたわけでもなく前のめりで戦争してたってのと
我々はわりと簡単に他国を憎むようになるし、
おだてられるとすぐに調子に乗って戦う側に回るよ!って自覚してないと
また戦争になってボコボコにされてしまう…。
あとアメリカくんは、自国軍がミスをして撃ち漏らした核兵器が
頭上に落ちる可能性がちょっぴりある現在、
大量破壊兵器に対する認識はそのままでいいのかな?とは問いたい。



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