映画の豆

映画の感想をだらだらと。
本サイトは
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「ズートピア」

2016年04月28日 | アニメ映画

肉食動物と草食動物が本能を克服して
共に文化的生活を送っている世界で、
子供の頃から警官になるのを夢見て
努力してきたウサギのジュディは
種族として初めて採用され、理想都市ズートピアにやってきた。
その頃問題になっていた連続行方不明事件の捜査に
加わりたいと望むジュディだが、
任されたのは駐車違反の取り締まりで…というあらすじ。
差別を許さないというメッセージと多様性礼賛のめっちゃ重いテーマを、
サスペンスとバディコメディにふんわりと完璧にくるんであります。

キャラクターの立て方が上手く、サスペンス部分もよく出来ており、
ギャグもレベル高いという、まったく隙のない脚本です。
たぶん絶賛するのは女性の率が高いと思いますが、
アナ雪ほど男性の拒否感は強くないと思います。
世界中のたくさんの男児くんと女児ちゃんに見てほしいです。
(こわがりの子には、ちょっとだけ怖いシーンがありますが)

原案は7人体制で、
ラプンツェル副監督、シュガーラッシュ監督、ベイマックス脚本家、
シュガーラッシュ・WALL-E脚本家、アナ雪監督が参加しています。
アベンジャーズ状態です。
それでも我の張り合いで話が破綻したりせず、融和しているのがすごい。
あと途中に出てきたアイテムやセリフやシチュエーションを
後半にうまく拾って使っているシーンが無数にあります。
この作業は複数人でやるのが難しいと思うんですが、
うーんプロだなあという感じ。

少し内容ばれ

冒頭のわずか数分の寸劇で、原始時代じゃないんだから、
草食動物だって警察官になれる!と幼い主人公が語ります。
そして肉食動物も獲物を追わなくてよく、強さを強要されない!
という主張もされます。
(これ駄目な脚本だと終盤に持ってきて、15分くらいかけて主人公が語ります)
でもそのあとで、主人公は両親から
「幸せになるためには高望みしないのが肝要だ」って諭され、
更に、弱い者いじめをしていたキツネに注意したら、
力で抑えつけられ、顔に傷を付けられ、ウサギであることを馬鹿にされます。
これが女性や有色人種の差別シーンだったら大人でもつらくて見てられないし、
差別のお手本を子供に見せる事になってしまうので、
キャラクターが動物なのは絶対必要条件です。

内容ばれ

大抵の映画の泣かせどころは、別離とか献身とか病気とか、
抗えない苦難な訳ですが、
この映画は主人公のジュディがあまりに真っ直ぐに強くて、それにガツンときて
がんばれ!って思って泣いてしまう感じです。
そしてどんな逆境でも絶対泣かずに乗り越えたタフなジュディが、
自分がニックを傷つけてしまったのを痛感してボロボロと泣く、
(いや私は基本加害者は泣く権利ないですって思う方ですけどジュディは許す)
あのシーンでも泣いてしまいましたね。
そう、主人公も間違えるし、一方的な被害者とかいないっていうのも、
一歩先に進んだお話って気がします。
動物ヌードねたとナマケモノねた、狼ねた、
ゴッドファザーねたがが好きだったんですが、
これ二次創作したら楽しそうだなあぁぁ!って思います。
動物の特性を生かしたオチの警官バディものミステリーとかね!
ジュディとニックは今風の完全対等コンビなので、
ブロマンスものと、もはや差異はない感じ。


絶賛しましたが、王道もの、歪みのないものが好きでない方には
この作品は地雷だと思います。
複数人原案・脚本家体制の唯一の欠点が、
作家性や偏りのようなものを出すのは難しいという点なので。
あと好みの点で言えば、私はズートピア<ベイマックスです。
ズートピアの方が隙と荒がなく、より完璧に近いんですけどね。



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「レヴェナント 蘇えりし者」

2016年04月25日 | サバイバル系

映像美が凄かったです。
色がきれいとか風景が美しいとかではなく(いや風景も美しいですが)、
世界の奥行や空の高さを感じさせる撮影技術が。
普通人間がアップになっていると後ろの自然は背景ですが、
遠景がくっきりと鮮明なので手前にいる人間が
妙に小さく心細く見えるという不思議。
梢はどこまでも伸びて遠く、空は果てしなく大きく、
人間ってちっこいんだなーって思いました。
あとオープニングの交戦シーンが圧巻です。
逆にあらすじは単調なので、小さなモニタでの鑑賞向きではない。

19世紀初頭、アメリカ先住民族の妻を持ち子をなした白人の主人公は、
土地勘をかわれて毛皮業者の一団に道案内として雇われるが、
好戦的な部族に追われて山に分け入った際に、
熊に襲われて大怪我を負う。
主人公を看取る役目を金で請け負った男は、
本隊から遅れるのを嫌い、まだ息のある主人公を殺そうとする。
止めに入った主人公の息子をはずみで刺殺してしまった男は、
主人公を埋めて逃げる。
主人公の復讐のためのサバイバルが始まるというあらすじ。

結構血が出て体の部分が取れたり、動物が死んだり、
内臓が映ったりします。苦手な人にはハードル高いかも。

照明は自然光のみ、役者さんは雪を求めて地球を大移動したり、
川に漬けられたり生肉食わされたりして過酷を極めたそうです。
トム・ハーディーさんは自分が監督の首を絞めている写真を
Tシャツに加工してスタッフに配ったらしい(笑)
あっでも瞳孔の散大収縮による瞳の変化とかが
綺麗に映ってましたよ。

内容ばれ

熊こわいし、頭撃っても止まらないし、
あの「お腹空いてないけどとりあえず殺しとくか」っていう嬲り殺し
すげえ嫌だし、銃は連射できないし、
主人公がゴールデンカムイを読んでいれば…って思いました。

事前に熊×レオって聞いてたんですけど、
本当に熊×ディカプリオさんのシーンが長くて、
これ以上続いたら笑ってしまうのでやめて!って思いました。
あと隊長さんがディカプリオさんの事を狙いすぎていました。

ずっとディカプリオさんがハァハァフゥフゥいうのを聞いている156分です。
もうちょっと短くしてもいいと思う。
あと演技で言えば「ウルフ・オブ・ウォールストリート」のほうが
テクニカルだと思うんだけどどうだろう。
役者が過酷な目に遭うのと演技のうまさはイコールじゃないですよね。
まあでもともかくディカプリオさん主演男優賞おめでとう。

実在の人物の話のようです。熊に襲撃されて見捨てられたけど、奇跡の生還をして、
自分を見捨てた連中に復讐するため追跡するという。
作中の主人公、ちょっと超人すぎって思いましたが実話なら仕方ない。



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「スポットライト 世紀のスクープ」

2016年04月18日 | 実話系
トム・マッカーシー監督
ボストン最大手の新聞ボストン・グローブに
新編集長が就任する。
彼は、少人数で長期間の取材を行う「スポットライト」という
コーナーを担当する部署に、
ゲーガン神父の性虐待事件を追ってみるよう指示する。
4人の記者は戸惑いながら調査を開始するが、
やがてそれは1人の神父の犯罪にとどまらず、
カトリック教会が長年隠蔽してきた、
おぞましい事実を明らかにしていく、という実話を元にした作品です。

派手なエンタメ的表現はなく、事実に誠実な作りです。
記者達は人生を破壊された被害者たちから地道に話を聞き、
残業してひたすらリストをチェックしていき、信仰が揺らぎ、
それでも職業倫理と自分の良心に従って仕事をします。
そして仲のいい善良な友人たちから調査を取りやめるよう
あくまで丁寧に相談されます。

悪と戦う善!という体裁ではなく、
被害者がいて、普通の人間がいて、という感じです。
それでも途中すごくどきどきしました。

カトリック教会という組織の大きさが怖かったです。
彼等は何百年も、もしかしたら千年以上ずっと
被害者に沈黙を強いてきて、
現代になっても司法を取り込んで
加害者は罰せられず、その事を誰も疑問に思わなかった。
けれど千年前に比べると格段に人権は尊重されるようになり、
当然子供の人権も同様で、
また子供の性虐待の知識も皆が共有するようになった。
教会は変化を取り入れるのを怠り、それに気付かなかった。
人口の半数近くをアイルランド系、イタリア系が占め、
カトリックの強い都市ボストンで、
皆が黙認してきた慣例を引っくり返すきっかけを作ったのが、
外部から来たユダヤ人の編集長と
アルメニア系の弁護士というのが面白いなと思いました。

内容ばれ

この事件はあとになって日本の新聞にも載ったように記憶してます。
リアルだなと思ったのが、記事が完成に近付いた頃に9.11が起こって
調査がいったん凍結されるところ。

役者さんの演技もそれぞれよかった。
派手な技巧を凝らした演技ではなく、
市井の人々の怒り、善意、葛藤だったのが特に。

神父の性的虐待を専門に研究している人に、
「6%は性虐待を行っている筈だ」って言われて、
記者達が「ボストンにいる神父は1500人、
6%といえば90人、そんなまさか!」って調べてみたら、
結局は87人いたシーン、統計(?)すげえ!って思いました。
ところであの人からの電話が意味深に途中で切れた時、
まさか消された!?って心配したんですが、結局何だったの(笑)

その専門家の人(元神父)が言っていた、
「信仰は永遠だが、人間の作った組織はそうではない」
というようなセリフがすべての答えのように思います。

映画の最後に、神父による性的虐待が行われていた都市名が
小さい字でずらずらと並んで、ゾーっとしました。

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「ルーム」

2016年04月12日 | 実話系
監督レニー・エイブラハムソン
原作脚本エマ・ドナヒュー
(カナダ・アイルランド)

地方の、裕福でない普通の母子の話の体裁で映画は始まります。
なのでこの映画をご覧になるおつもりの方は下記あらすじを
読まれない方がいいと思います。

けれど少しずつ妙な部分が目立ってきます。
小さな部屋の扉がやけに重くて頑丈そうなこと、
「父親」が帰ってくるときに電子機器を操作するような音がすること。
「父親」が帰ってくると、子供はクロゼットに押し込まれてしまうこと。
母親と子供が一切外出していない雰囲気。
そしてとうとう、母親が17歳の時に誘拐されて
7年間監禁されている女性で、子供は犯人の子であるというのが分かります。
ある日、誘拐犯が失業して生活が困窮し始めたことを知った母親は
身の危険を感じ、決死の脱出を試みます。

かなり厳しいあらすじですが、犯人は完全に脇役で
舞台装置に等しく、役目が済んだらすぐに姿を消します。
メインは母と子の濃密な関係と、
極限状況から生還した被害者がさらされる世間のあらゆる反応、
立ち直って行く過程なので、身構えていたほどは落ち込まなかったです。

息子役の子が美少年で、予告の段階では女児だと思ってました。
監督も、思わずぐいぐい撮ってしまった!(そして編集でカットできなかった!)
という感じのシーンが散見されます。

内容ばれ
・部屋の中とテレビしか知らなかった子供が経験する、
 絨毯が広がるように果てなくどんどん拡大していく世界が
 すごく不思議できらきらして見えました。 
・脱出の過程はドキドキしました。あの警察官の女性、
 スーパー推理コンボが決まりまくりで、何か別の連ドラの主人公様じゃ?
 と思いました。
・監督の前作「FRANK フランク」とは、あらすじも台詞も進行の早さも
 現実度も何もかも違う。
・犯人の息子でもある自分の孫をどうしても受け入れられない父親、
 というのがリアル。
・「人に親切にしなさい」って教えられてきたから、
 犯人に「病気の犬を助けてくれ」って言われてついていった!
 私がいなくなっても普通に暮らしていたくせに!
 っていう被害者からの、親への叫びもリアル。
・主人公の女性の母親と現在のパートナーが、
 優しい…の一言では片付けられない、心の強い人達で良かった。
・監禁期間は確かに地獄で、こちらの世界こそが正常で健全なんだけども
 けれど「ルーム」は母と子だけの親密な時間で、
 あそこにはもう戻れないと知っていても
 母も子も、少し甘く懐かしく思うニュアンスもあった。
 (あと現実世界が厳しすぎた)
 子にとっては胎内回帰願望というか、産まれなおした感じ。
・この映画のモデルになった実際の事件は犯人が父親で、
 母親も協力していたという更に救いのない内容で、
 でも西でも東でも昔も今もこの手の事件ってずっと起こり続けているので
 異常な犯人による犯罪!と一時的に騒いで終了っていうのをやめて、
 本能的に監禁飼育したいものなのだということを全員認めて、
 恒久的に防止できる策を考えた方がいいと思う。
 申告している人数(戸籍と照合)よりも電気ガス水道の使用量の多い住宅には
 チェックが入るって手段しか私は思いつかないけど
 もっとローコストの方法を頭のいい人なら考え付ける筈。
・この手の事件に限らず、陰惨な事件を認めたくないという心理から
 被害者に落ち度を探すのは、よくない。



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「マジカル・ガール」

2016年04月11日 | 淡々と暗い系

監督脚本カルロス・ベルムト(スペイン)


日本のアニメ「魔法少女ユキコ」に憧れる白血病の少女アリシアは、
魔法少女のコスチュームを身に付けてユキコに変身する事を夢見ていた。
作品20周年記念で有名デザイナーの手がけた衣装は
日本円にして90万円。失業中の父親にはとても用意できない金額だった。
彼は自分と関係を持った人妻バルバラを脅迫し、
ユキコの衣装を手に入れようとする。しかし……というあらすじ。

予告や、このあらすじから予想されるのとは全く違う展開をします。
魔法少女に憧れるアリシアは傍流のパートで、
メインはどちらかといえば人妻バルバラです。

結末ははっきり描かれないし、時系列もやや不親切なので
万人向けではありませんが、でも印象的なシーンが時々あって、
なんか後に監督が大化けなさりそうな雰囲気の作品です。

ねたばれ箇条書き
・魔法少女ユキコの衣装は、うん、「まどか・マギカ」ですね。
 90万円とか…本当日本が無茶言ってすまん…でもあり得そう…。
・と思ったけど、さすがに魔法のステッキ250万円はないわ。
 仮にあったとしても、子供が持って振回すものではないわ。
 衣装はともかくステッキは自国のレイヤーさんに頼めば
 1万円ほどで完璧なレプリカを作ってくださると思う…。
・「魔法少女ユキコ」の主題歌、いかにも昭和アニメ曲…って思ったら
 元の曲はフィンランド歌謡曲で、
 それを長山洋子さんがカバーなさったんですね。
・マコトとかサクラとか日本名っぽいハンドルネームが
 あっちの子らの間では流行ってるんだろうか…?
・スペインの不景気、酷そう。
・「北欧は理性で動き、ラテン・アラブは感情で動く。
 スペインはその中間」みたいなセリフがありましたが、
 ちょろっとスペイン映画を見る限りでは…かなり後者寄りかと思…。
・出所後の先生の家にバルバラから電話がかかってくるシーンがあって、
 次の章で時間が戻って獄中の先生のシーンがあるので混乱する。
 バルバラが先生に執着していたというのは
 パズルの1ピースが家の前に落ちていた件で
 そっと示唆するって事でいいんじゃないかな。
・「窓から投げ捨てたらどんな顔をするかと思って」
 って夫の友人夫婦の子供を抱っこしながら
 クスクス笑っちゃうバルバラですけど、
 どう考えても相応しくない状況で
 言ってはいけない言葉を言ってしまう性質の人っていると思うんですが、
 そういう人と、完全に精神を病んじゃった人の区別はどこにあるんだろう。
・SMは、内容が一切描写されないのがいいですね。
 1日で250万円かー。税金かかるのかしら。領収書とか出すのかしら。
 髪が無事だったので、酸で焼かれたとかではないと思うけど、
 あれ片方の目が潰されてたら割に合わないですね。
 スペインにはマチ金とかないのかな。
・ラスト、解釈が分かれるけど、
 私は「先生があの後バルバラを射殺した」と思う派。
 何故かというとこれまでの先生は
 愛のために犠牲的献身を行っているつもりで、
 だからこそのカウンセラーの
 「あなたは善人だと思う」というセリフが出る訳で、
 しかし今回の一件がバルバラの嘘によるものだったという証拠を
 聞いてしまった彼は、
 前回の殺人(おそらく)もバルバラの嘘によるものだった(おそらく)と
 気付いてしまい、自分の手が穢れていると知ってしまった。
 それ故の無慈悲な目撃者殺しと、子供殺しなんだと思う。
 あと冒頭のあの魔法(手品)を使った後で
 バルバラは(おそらく)先生の人生を破壊したけど、
 最後に先生は同じ魔法を使ったことで
 今度は先生がバルバラの人生を破壊するのかな、とか。
 「おそらく」使用回数多い。



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