映画の豆

映画の感想をだらだらと。
本サイトは
http://heme.sakura.ne.jp/333/index.htm

「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」

2020年01月29日 | 美学系

企画が難航し、何度も流れ、
キャストも変わり、けれど監督が根性で完成させた作品。

若手鬼才映画監督が、スペインで撮影中に、
かつて自分が学生時代に「ドン・キホーテ」を撮影したことを思い出す。
プロの役者は使わずに、現地の一般人に演じてもらったその作品が懐かしくなり、
監督は現場を抜け出して撮影した町に向かう。
しかし、主役を演じた靴職人の男が、
撮影をきっかけに自分をドン・キホーテと思い込むようになり、
またヒロイン役の娘も、セレブの仲間入りを夢見て都会に行き、
身を持ち崩したと聞き、主人公は罪悪感を持つ。
運悪く事故で警官を傷つけてしまった主人公は、
自称ドン・キホーテの狂人と旅をすることになるが…というあらすじ。

最近引っ張りだこのアダム・ドライバー氏が、ちょっと傲慢な若手監督を演じます。
監督の持ち味である絢爛豪華な怪奇シーンは健在で、スペインの風景も美しい。
微妙に原作に沿いつつ意外性のあるラストは良かった。
しかし、ギリアム監督作品を初めて見る人にとって
この作品はどうなのかは分からない。
年齢80歳近くでいらっしゃるので、女性のキャラクターはさすがに、まあその古い。

一瞬だけ犬の虐待シーンがあります。

ラストばれ

個性的な女性を描くのが巧いワイティティ監督作品を見たあとなので特に際立った。 
アイリッシュマンの時も思ったが、女性が妻・母・ヒロイン・娼婦のテンプレしかいない。
上手い女性キャラクターっていうのは、男性に変えても成り立つけど
なぜか女性の方がしっくりくる、そういう感じだと私は思う。

あと17世紀初頭のスペイン侯爵家を模した館で(たぶん)、
余興の巨大な山車を運んでくるのが、
アフリカっぽい腰蓑と扮装の男たちというのは少しやばい。
メインの登場人物女性2人は男性から暴力を受けており、
管理職らしき女はいない。暴力を受けている女は救済措置がなく
公衆の面前で夫の靴を舐めさせられる、これも少しやばい。
でも一番やばいのは、ムスリムの女性たちがニカブを取ったら
男性であることが分かるシーン、
「自爆テロだ!」って皆が叫んで警護がボスを体でかばう余興。

誰かなにか意見しなかったのか。
やばいというのはキレキレという意味じゃなくて、
大学生が糞便と性器しかジョークの持ちネタがないみたいな、その類のやばいです。

靴職人がドン・キホーテとして、若い娘を酔漢から助け、
狂気が芽吹くシーンはとてもよかった。
その狂気が継承されるところも。

靴職人の憑依型俳優ってもしかしてダニエル・デイ=ルイスと言いたいのかな?

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「キャッツ」

2020年01月26日 | ミュージカル映画
日本公開前から本国で、
ホラーより恐ろしい悪夢のような映画だと評判になり、
ネットでもザワザワしていた映画です。
こういう作品はオーバーな表現を競う大喜利のお題になって、
色々読んだ結果自分の意見を見失うので、早めに行ってきました。
舞台は太古の時代に一度見ました。

ジェリクルキャッツたちの間には一年に一度、
選ばれた猫が天上へのぼり、生まれ変わるという儀式があった。
彼等はお祭り騒ぎを楽しみながら、一匹一匹が己の魂の歌を歌い、
選ばれるのを待つのだった…というあらすじ。
ミュージカルなので起承転結はあまりない。

これが怖さの原因かな?と考えたのは2つ。

・CGによるネコ人間。
皆さんスタイルがよろしく、腕も足もすらりと長くて頭が小さく、
それでネコだよ!と言われると違和感がある。
どっちかと言えばサル?
まあでもゲームの獣人のCGってあんな感じだし。

・人間が演じてるブリ虫やネズミを食う。
これは人によっては無理かも。まあでも血などは出ないし、
実際ネコは食べるしさ…。

このへんは舞台を見たことがあればクリアすると思う。

みんなどこかで一度は聞いているだろう「メモリー」ですけど、
作曲技法的にはクラシカルな部類になると思います。
でもやっぱり常に新鮮で力強くてエモーショナルな曲ですね。
終盤何人か泣いているかたがいらっしゃいました。

映画としておすすめとかではありませんが、
ホラー映画って貶されるほどでもないです。
劇場ネコを演じるサーイアンが若者からチヤホヤされている様子がかわいい。
ジュディ・デンチさまは相当なモフ度で、わりとネコに近い。キュート。
逆にイドリス・エルバ氏は、コートを脱いだら、エッ!裸体…?!
というくらいの見事なヌード感でした。サービスなのかな…?

ラストまでばれ

舞台版ではグリザベラは他ネコから顧みられなかったのですが、
今回、ヴィクトリアと長老ネコから気にかけられる演出になって、
分かりやすくなった。

メモリー、溜めの部分は惨めに弱々しく歌う演出ですけど、
あんたが最強なのは知ってるんだぞ!!!!
ドラゴンボールのようにじわじわ上げていかずに、
最初からフルパワーで殴ってくれー!!!!ってなりました。

でも、そもそもネコって、
年老いても汚くなってもいつもかわいいじゃない…?



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「リンドグレーン」

2020年01月24日 | 実話系

スウェーデン・デンマーク合作

それが好きな人が多いのは知ってるのですが、
私は他人が病気になって恋愛して死んだり、
妻帯者に騙された未成年女子が妊娠して出産して云々って話に全く興味が持てない。
それならまだ人間の体が4つに裂ける映像を見てるほうが楽しいです。

スウェーデンの童話作家リンドグレーンの伝記的映画。
17歳のアスリッドは就職先の新聞社の編集長と肉体関係をもつ。
彼はアスリッドの父親と同年代の妻子持ちで、妻とは離婚係争中だった。
身ごもってしまったアスリッドは、
信心深い村の住人たちに気付かれないよう外国へ渡り出産する。
息子を人に預け、編集長との結婚を夢見て懸命に働くアスリッドだが…というあらすじ。

リンドグレーンの創作秘話とか、そういう話だと思ってたんですが、
妻帯者と道ならぬ恋に落ち、定番の離婚するする詐欺で、
愛する息子と涙の別れ!!っていう演歌っぽい話が2時間続きました。
えっ。これリンドグレーンさんじゃなくてもよくない?
それと、17歳の少女、しかも従業員に手を出す妻帯者のオッサンの
スリーストライクな犯罪を恋愛っぽく撮っていて、
えっ、スウェーデンが全体的にこうなのか、
監督さんがアップデート出来てないのかどっち?って思いました。
いまハリウッド映画だと、戦争帰りの狂ったヤバい男という設定でも
「おっと、未成年?捕まるのはごめんだぜ」という時代ですよ。

全体的にばれ

(ちなみに肉食系のアスリッドは21歳のときに、
お金持ちでイケメンで独身のリンドグレーン氏と結婚するので
結果オーライと言えばオーライです。
でも実家近くの教会で不倫デブオヤジと出くわして、
遠くから黙礼するのとか、田舎の共同体あるある過ぎてゲーとなりました)

望まない妊娠をした女性を助ける活動をしている弁護士の女性がいて、
里親を斡旋しつつ複数の子供を育ててくれてるのですが、
アスリッドの子供が弁護士さんを慕って母に見向きもしないシーンで、
The悲劇!みたいな撮りかたをされていて、意味が分からなかった。
2年も3年も預けっぱなしじゃ当たり前じゃないの…。
むしろそんなに慕われるほど優しく育ててくれた弁護士さんに感謝の五体投地しなよ!
自己投影型の話は、周囲の人の苦労に無頓着で、自分!自分!自分!になるから苦手です。

幼い少女が大人の女になり、そして母になることで強くなり、男は捨てられる。
ほろ苦い恋愛…ととらえている感想もネットに溢れているので、
物事は見る人によって全く違うというのを実感できます(笑)。

しかしゴッホの伝記的映画で彼の芸術論に触れず
性愛の話しかしないってあるだろうか。
リンカーンの功績には一切触れず、
彼の結婚と子供にのみ絞った伝記映画ってあるだろうか。
児童文学を卑小化しすぎてはなかろうか。
いっそ吸血鬼と戦ってくれたほうが、まだよかった。
ヴァンパイアハンター・リンドグレーン。



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「ペット・セメタリー」

2020年01月20日 | ホラー映画

スティーブン・キング原作小説の二度目の映画化。
医師の主人公は郊外に家を買い、妻子と暮らしていたが、
家の裏手に子供たちがペツトを埋める動物墓地があるのに気付いていた。
ある日飼っていたペツトが死に、可愛がっていた娘を思って心を痛めるが、
親しくなった隣人の老人が、動物墓地の奥に猫を埋めるよう主人公を導く…というあらすじ。

前回の映画と比べて、テンポは良くなってる…気がする。
原作と大きく違う点が2つある。

(猫の死体がバッチリ映ります注意)

ラストばれ

死ぬのが弟じゃなくお姉ちゃんになってる。
それはラストをこうしたかったからかーってあとで分かります。

今回は蘇ってくる死者より、お母さんのお姉さんのほうが怖かったような。

前回映画はパスコーが目立ちすぎて妙な感じだったんですが(キング脚本&カメオ出演)
今回もパスコーはしっかりと出てます。
切っても影響ないと私は思うんですけどね。



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「ジョジョ・ラビット」

2020年01月19日 | 分類不能映画
おれたちのタイカ・ワイティティ監督。
天才だった。知ってた。

第二次大戦末期のドイツ、心やさしい少年だったジョジョは
ナチズムに傾倒し、母親を悲しませていた。
ある日無人の部屋から物音がすると気付いたジョジョは、
部屋を探索するが…というあらすじ。
本筋は割とクラシックな感じだけども、
登場人物全員がどこかユーモラスで、
セリフもなかなかパンチが効いたもので唯一無二の個性的な映画に変貌してました。
ジョジョにはイマジナリーフレンドとして常にヒットラーが見えているのですが、
総統を演じているのが監督のワイティティ監督。
コメディアンでもあり俳優でもある監督なので勿論演技も上手い。

(小動物虐待シーンが1箇所ありますので苦手な方は注意)

ラストばれ

スカヨハ演じるお母さんが特に良くて、
強くて明るくて優しくてユーモアのセンスもあって、そしてしなやか。
彼女のセリフは全部良い。
サム・ロックウェルのキャプテンKもいい演出、いい演技だった。
彼の性指向が分かるシーンが幾つかあって、
本当だったら部下の彼と仲が深まって
一生を共に過ごすパートナーになっていたのかなと思ったり。
ヨーキーは、「マイティソー ラグナロク」のコーグとミークであり、
ショートムービーに出てきた会社員のダリルでもある、
何のかんの生き伸びて、一緒にいて
最後まで付き合ってくれる気のいいやつだなあと思った。
ぽっちゃり天使。

ジョジョ目線なので、母の活動内容や逮捕に至る経緯、
街で横行するユダヤ人迫害などはぼやかされている。
それがまた絶妙の匙加減で、監督のユーモアと共に
この映画をエンタテインメントにとどめている。

戦争に関しては、なぜこんな愚行を繰り返すのか、というよりは
楽しいから、得をするから、カードとして便利だから何度もやってしまうのであって、
できないような仕組みを作らなければならないと思う。
迫害がしたいかといえば、したいという人はあまりいないだろうけど
悪辣な敵から祖国を守るために戦って皆に称賛されたくないか?と聞かれたらどうだろう。
人は思ったより頭が良くはないし、
ましてや未来の進んだ倫理から見て正しい行いなんか出来るわけがない。
何でも学習してしまうので
「ミサイル、ダイナマイト、筋肉」が格好良くて、
ダンスだの歌だのワインだのは下等で、
国家への忠誠や勇敢さが崇高で、母親を愛しているが
彼女は女だから何も分かってない、みたいなのにすぐにかぶれてしまう。
(でも女は戦争の被害者で弱くて善良な存在だという風にならないようにもしてあった)

あの笑顔のこわいゲシュタポの人、やけに大きいなあと思ったら身長2m越えだった。

「全てを経験せよ 美も恐怖も 生き続けよ 絶望が最後ではない」
が出たところで泣きました。この詩を知らなかった。

ユーモアで死の世界と戦った映画ということで
20年ほど前の「ライフ・イズ・ビューティフル」を思い出す。
あれは収容所の父親が、子供にこれは全部ゲームだと嘘をついて
毎日を乗り切る話だった。
そういえばあの映画もロベルト・ベニーニ監督が脚本と主演もなさってて
その点も同じ。

「フォードvsフェラーリ」「パラサイト」と本作
連続して封切られてますが、どれも年間ベスト級でどれも
アカデミー賞、監督賞か作品賞にノミネートされてます。贅沢な週間。


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