映画の豆

映画の感想をだらだらと。
本サイトは
http://heme.sakura.ne.jp/333/index.htm

「哀れなるものたち」

2024年01月28日 | 美学系

ヨルゴス・ランティモス監督
アラスター・グレイの同名小説を映画化。
天才外科医のゴドウィン・バクスターは、
身投げした女性の遺体を蘇生させ、彼女の頭に生きた胎児の脳を移植し
ベラ・バクスターという女性を創造する。
彼女は幼児ほどの知能しかもたなかったが、
次第に自我が芽生え、様々なことを学び、世界へ飛び出してゆく。

死体損壊罪がないことからも分かるように、
科学が発達した別世界の話です。馬車に蒸気の動力が付いていたので
スチームパンクに分類できるかも。
牡蠣や耳、脳、軟骨、などを思わせる
曲線を多用した衣装や美術がべらぼうに美しかった。

ここ数年見た映画の中で一番セックスシーンが多かった。
嘔吐、動物が死ぬ、性器が映る。
人体を切る、突き刺す、脳や内臓が映る。
ご家族での鑑賞や初デート向きではない。
満席一歩手前だったが、みなは一体何目当てなんだろう。

最後までばれ反転

ラスト、いい感じにシスターフッドを絡めて終わったが、
ランティモス監督が世間を学習しなさっただけで
彼が本当に撮りたいのは、無慈悲な女性がカエルを潰したり
人間が耳に食いついたりする行為ではないかと勝手に思っている。

なるほど、売春が汚らしい罪深い行いであるというのは
一部地域の価値観で、女性は自由にそれを楽しみ、金銭と学びも得ることができる、
という考えは分かる。
しかしそれは感染症のリスク、妊娠のリスク、世間の大半の人からの蔑視、
売春婦を下等人種と見る集団から犯罪被害に遭う確率が上がる、
というデメリットを本人が完全に理解している場合に限り有効だと思うのだが
この映画では後者になるほど考慮されていないように見える。
(このへんの問題をクリアして、なおかつ女はセックスを楽しみまくれ!
でも最後はシスターフッドだぜ!で締めたのが
SFポルノ「バーバレラ」だと思う。1968年の作品)

放蕩三昧をしてきた女泣かせの弁護士が、ベラにめちゃくちゃにされるのは
コメディとして楽しかった。
マーク・ラファロ氏、ベソかきながらキレる演技上手かったな。

男たちは女の学習や自由な行動を阻むが、
ベラはお構いなしにやりたいことをやり、自我を構築していくという
フェミニズム文脈なのだが
「バービー」の時のようにボコボコに叩いている日本の一般男性は
今のところ見当たらない。
まあ後半ずっとセックスシーンなので啓蒙部分の記憶は残らないのかも。知らんけど。

ゴドウィン・バクスター、父親からモルモット扱いを受けて育った
不能のマッドサイエンティストというインパクトあるキャラクターだったが
ウィレム・デフォー氏が巧く演じて、過度に生々しくも可哀そうにも醜くもならず
適度な狂人だった。
ただ、ベラがいない寂しさを新たな女型蘇生死体で埋めるという行為がえぐすぎて、あのエピソードを入れるなら彼の最期をあの安らかなものにした処理はやや優美さに欠けるように感じた。ベラが「怪物たち!」と吐き捨てたあの流れのままでいくか、せめて美しい青年の2号蘇生死体にするべきだったのでは。

映画の話ではないが、女の体を蘇生した怪物とメアリ・シェリーがバディとなる、
シスターフッド、フェミニズムを描いた物語ということで
藤田和日郎さんの「黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ」を思い出した。



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「ゴールデンカムイ」

2024年01月21日 | バトル映画


監督 久保茂昭
脚本 黒岩勉

ヤンジャンの同名人気漫画を実写化。
監督はHiGH&LOWシリーズを撮った久保監督。

日露戦争を生き残った杉本は、ある事情から金銭を必要としており
北海道で砂金をあさっていた。
そこで、アイヌの金塊のありかを記した地図が
脱獄囚24人の体に刺青として彫られている、という奇妙な噂を耳にした彼は
アイヌの少女を協力者として、金塊探しを始める…というあらすじ。

戦争、暴力、刑務所、ゴア、アイヌ文化、狩猟、食文化、
猟奇殺人、ヒグマの恐怖、様々な素材のごった煮である原作の映像化は
相当難しかったと思うけど健闘されている。
とくに熊はCGでも難しいのか、ハリウッド作品でも「!?」ってのを見かけるけど
この映画は撮り方が上手く、こわかった。
それとメイクのかたの腕前か、
鶴見、土方は特に、漫画のままの顔面だった。
それと令和の役者の白いなめらかな顔を
明治の戦争帰りの男性の肌に近づける汚しテクが素晴らしかった。

3巻のはじめくらいまでを映像化。
よく考えると序盤は飛ばせるところが全くないもんね。

脚本の黒岩さん、2023年は映画2本、ドラマ1本、
今年はまだ1月なのに公開映画1本、放映ドラマ1本で
仕事なさりすぎではないか。

エンドロールが終わるまで席を立たないほうがよいです。

内容ばれ

杉本の顔もだけど、
顔と体の調整、全身の傷の自然さも素晴らしかったな。
(ロケ地「鹿の湯」とありましたが、雰囲気のある温泉ですね)

熊に殴られた人間の顔面が取れるところは、
取れた瞬間にはカメラが引き気味になっていて上品かつ、
あ、取れた…的な冷静な空気がよかったです。

あとアシ(リ)パさんが、杉本の補佐っぽいヒロインになったりとか
そういう余計な映画的再解釈もなかったのでよかった。
彼女は強くて自由な児童なので。

本当に、漫画の実写化でも
原作をちゃんと尊重してくれる監督さんに当たると
こういう風にファンも初見さんもニコニコ作品になるんですよね。
(俺の才能によって何段も高尚なエンタテインメントにしてやるぜ…
うるせぇオタクの原作ファンには理解できないだろうけどな!
みたいな不幸な事故もあるのでありがたいことです)

さてラストまで映画化できるだろうか。
余計なお世話ですが山﨑賢人さんは大変じゃない?
「キングダム」と「ゴールデンカムイ」
続いている間は体型とか顔立ちとか現状をキープしなきゃだよ。
あとどっちも撮影が過酷そうなので健康管理もだよ。

ナレーションは津田さん。
黒岩さん脚本のドラマに二連続で出演されてるがそのご縁?



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「アクアマン 失われた王国」

2024年01月15日 | バトル映画
DCエクステンデッド・ユニバースの第13作目。
この作品を最後に一旦終了し、ジェームズ・ガンを中心とした新チームで
「DCユニバース」としてリブートするらしい。
ジェームズ・ガン監督がMCUファイギのような役割をなさるのかな?
キャストや設定などがどうなるかは今のところ不明。

偶然から、地下に封印された呪われた王の遺物を開放したブラックマンタは
父を殺された復讐を遂げるべく暗躍を始める…というあらすじ。

いやー、楽しかった。
天真爛漫で野性的な兄と、真面目で気位の高い弟の
フーシャー毛を逆立てあっての楽しい珍道中が見たい人は今すぐ映画館へ行きな。
私はMCUソーのラグナロクが大好きだけど、
こういうのをソーとロキでも見たかったと思わないでもない。
2のダークワールドがね…こういうのだったらよかったね…。

監督ジェームズ・ワン
脚本デヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリック

エンドロールのおまけシーンあり。
ゴ…が苦手な人は、すごいやつが2回あるので、
出てきた瞬間目をつむったほうがいいと思う。

全部ばれ

今回水中の髪のゆらめきがシルキーで
みんなトリートメントのCMみたいだった。少し面白かった。

王のお子さんが、いつもにこにこ天使の赤ちゃんじゃなくて
めっちゃ寝ない子で、アクアマンが寝かしつけでフラフラになっているのを
短い尺の中でちゃんと入れているのは良かったですね。
ワンオペ育児をしていた父へのリスペクトとかも。

そして登場早々、集団にかわいがられているオームくんのシーンで
目が飛び出して床をすべってどっかいった。

「筋肉はしまっとけ」とか「お前みたいにケツの穴の小さいのはヤダ」、
「弟を殴れるのは俺だけだ」とか「ロキの忠告はいらない(MCUがある?)」
「アズカバンの囚人に戻れ(ハリポタがある?)」とかセリフがかわいかった。
どっちが早く到着するか地味に競争してたり。
エルマニートって何語かと思ったけどスペイン語かー。
(hermanitaが妹ちゃんでhermanitoが弟くん)
地上での走り方が分からなくてダバダバしているオームくんに
兄がフォームを教えてあげたら、兄より早くなるところもよかったな…。

お母さんに諭されると涙目になって「ウン…」って感じになっちゃうんだけど
あんなに美しく強いお母さんがいたら、そりゃあマザコンになっちゃうよね。

ゴ…のシーンは、まあ一応懲らしめというか
1での悪事を清算する意味合いがあるんだろうけど
素直に信じてにこにこウマウマのオームくんがかわいそうだよ…。
私はてっきりラストで、みんなの目の前でバリバリやって、
アクアマンさんのお父さんに「言いにくいんだけど…」
って教えてもらって、
カンカンに怒って兄を追いかけ回すところで終わると思ったら違った。
脚本が描かれた時点では、3で回収予定だったんだろうか。見たい…。

ラストは突然ブラックパンサーみたいだったが、
アクアマンもリセットかかっちゃうんだろうか。
せっかくキャラクターたちが育ってきたのにもったいないよ。



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「カラオケ行こ!」

2024年01月14日 | コメディ
原作 和山やま
監督 山下敦弘
脚本 野木亜紀子

合唱部部長をつとめる高校生の主人公は
コンクール会場で突然、やくざの男に声を掛けられる。
男の所属する組では定期的にカラオケ大会が催され、
最下位の組員は組長によりへたくそなイレズミをいれられるという。
イレズミを回避したいやくざは、歌の特訓を依頼してくるが…というあらすじ。
やくざと高校生の友情コメディー。

脚本の野木さんがうまく、原作エピソードと
映画オリジナルエピソードの継ぎ目が分からないくらい自然。
狂児役綾野さんは、いつものやくざ演技ではなくむしろソフトで、
原作よりも悪くてやばい狂児だった。
ただ歌が普通に上手いので、裏声がそこまで気持ち悪くないのが唯一の欠点。

エンドロールおまけ映像あり。

内容ばれ

映研、からのビデオデッキ破壊、からのやくざに捕捉のあたりとか
原作もそうだっけ…?ってなる埋め込みかただった。
傘とか、副部長とか、後輩君とかも。
映画版は青春色が強く出てると思う。

聡実君役のひとは、角度により子供のような大人のような、
男性のような女性のような、如何様にも見える、
絶妙な年齢と顔立ちだなと思った。

音楽も何気によかった。
特に使われていた合唱曲。

「影絵」
覚和歌子 詩
横山潤子 作曲
天国は穏やかで平和ないいところらしいけど
神様が注ぐ永遠の光は景色や物に影をこしらえないから
どんなに天気がいい日でも影絵遊びができないんだ
だから僕死んだって天国なんかに住んだりしない

狂児が死んだら地獄に行くという設定と合わせると
神懸った選曲。



私が落ち着かないので未成年者に一応書いておきますが
保護者に伝えず未成年と会おうとしてくる成人は
その人がどんなに優しく話を聞いてくれて、食べ物をおごってくれて
君は他の子供とは違って特別だと褒めてくれて、才能や容姿に感心してくれ
自尊心を満たしいい気分にしてくれる人でも、
たとえ学校の先生や塾の先生といった立派な立場のひとでも、
中身はあまりよくない人物である可能性が高いので警戒をした方がいいですよ。

あとこれは老若男女に対して警告ですが
暴力的な人物があなたに対してだけは優しく、
暴力を行使して守ってくれるというフィクションは注意して鑑賞してください。
やくざが子供や女性やましてやカタギに手をださないというのはやくざファンタジーです。
反社会勢力の構成員に、名前や住所を知られ個体認識されるのは、
かなりやばい事態です。



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「シャクラ」

2024年01月07日 | アクション映画


ドニー・イェン氏主演、谷垣健治さんがアクション監督。

丐幇の幇主をつとめる喬峯は、豪放磊落な性質で武術を極め、
信頼と尊敬を集めていた。
しかし突然殺しの罪を着せられ、
友好関係を保っていたすべての勢力から追手がかかる…というあらすじ。

ともかく主人公がめちゃ強くていい男、美男で酒豪。カリスマ。
か弱き美女を助けアクションに次ぐアクション、
小難しいあらすじとか倫理観とか要らん!
というひとにおすすめ。

全部ばれ

肉弾戦あり、剣戟あり、気の流れによる必殺技あり、
ステージも次々に変わって飽きさせません。
(でも関節技はない)
私は大テーブルの上で全員と戦う所のアクションが一番好きです。

ドニーさんの顔が若すぎるので、
10年以上前に撮影済みの映画が、いま日本で封切なのかなと思ったが
めっちゃリアルタイムの映画なのだった。
整形云々言われてますが、逆に60代があの顔になれるなら
美容整形技術がすごくないです????

序盤の、人に会いに行ったらまさに殺されたばかりのホヤホヤで
人に目撃されて「ワー!」ひとごろし!」ってのを2連続で見るのは
なんかコント風味という気がしないでもなかった。
というか真犯人はお前かよ!育児放棄しておいてでかい顔するなよな。

「強く優しい男が濡れ衣を着せられ、
様々な勢力から大悪人と目され一斉に襲い掛かられる。
結局黒幕がおり、親世代の因果が関係している、既視感…」
と思ったが『魔道祖師』だった。
それは原作の「天龍八部」作者が、
魔道祖師作者墨香銅臭さんが影響を受けたとインタビューで言っておられた
金庸さんだからなのだった。
(金庸さん、著作のタイトルの頭文字を並べると対句になるらしいんですが
この趣向、最初に考案したのは誰なんだ)

原作は複数主人公のものすごい長い小説らしく、
譬えるなら指輪物語のアラゴルン周辺のみ抜き出して映画化したような印象。
あと登場人物も現代人にとって好ましい感じになるよう
少しずつ改変してあるように思う。
原作の阿朱のお父さんは女癖の悪いすけべじいさんみたいなんだけど、
娘がいることも、何人いるかもなんも知らんというのはどういう状況かと思った。
数年おきに会って、盛り上がって性行為をするがそのあとまた何年も会わないてきな?
まあアラビアンナイトよりはあり得るかな?

星と竹(ペンダント)ってなんかの詩ねたかな?と思ったが、原作登場人物の名前?


予告
https://www.youtube.com/watch?v=NIdu6nHIQOE



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