映画の豆

映画の感想をだらだらと。
本サイトは
http://heme.sakura.ne.jp/333/index.htm

「異人たち」

2024年04月21日 | 人情系


山田太一さん「異人たちとの夏」の二度目の映画化。
アンドリュー・ヘイ監督。主演はアンドリュー・スコット氏。
舞台はロンドン、主人公が同性愛者の男性という設定になったが、
そうするとドミノのようにぱたぱたとあらすじの意味合いが変わって、
おおー、という感じでした。

脚本家の主人公は仕事に追われて暮らしていたが
ふと気が向いて子供のころに住んでいた町を訪れると
そこに父がいて…というあらすじ。

30年前の人間の同性愛に対する偏見発言あり。
家族へのカミングアウト描写あり。

ラストまでばれ

日本の幽霊話の体裁の大林宣彦監督版が好きです。
抒情的に撮られている両親のパートも、
まあ言ってしまえばミスディレクションで、
でもだからこそ美しいような。
名取裕子さん演じる女の苦悩も投げっぱなしで
ただ哀れで綺麗な女なんですよね。残酷なんですが好きです。

この映画はもっとこう、
登場人物の心に細やかに寄り添っています。
自分が同性愛者であると告白できなかった、
その後悔を現代で解消するわけです。
勿論両親は30年前の人間なので、
差別的な言葉がどんどん出る。
苦しいけど、でもそれでも愛しているので
泣いて泣いて、ハグして、一緒に居る。
代償としてゴーストストーリーの部分は霞んだけども。

冒頭、ハッピーエンドにならんかな?
と思っていたら早々にハリーが来て
「これはだめだ…」と思ったが、案外駄目じゃなかった。
原作では死者と一緒に居ると生者はどんどん衰弱していくので
それで両親はもう会わないよって言うんですけど
この映画では「あなたが前に進めないから」とかそういう理由になって、
なぜ?と思ったらあのラストのためかー!
でも明らかに主人公体調が悪くなってたよね…?
あとお母さんが、「いつまで会えるかは
自分たちでは決められない」とも言ってたのでそれを考えると
まあまあのメリーバッドエンドではないかと思います。

・大林監督版だと「なんてひどいやつだ!お前が悪い!」
 という感じでしたが、今回は「うん…まあ仕方ないよね…。
 防犯的見地から断るよね…君は悪くないよアダム」と思った。
・お父さん役はジェイミー・ベル氏。
 お父さんっぽさを出そうとして成功していたような気がする。
・ゲイとクィアにそんなニュアンスの違いが…。
・「お前が同級生だったらいじめてた」って言葉を聞いて
 それでもなお父親を愛せるのは結構すごい。
 あと英国のいじめ、本格的。
・狂犬病、なくなってないよ!?英国が清浄国なだけだよ。
・ロンドンダンジョンが「ロンドン塔」と訳されていたが
 知名度を鑑みてだろうか。英国残酷史ホラー見世物小屋。
 現在は移転してテーマパークみたいになってるそう。



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「バーナデット ママは行方不明」

2023年09月25日 | 人情系

真面目に主婦業をやっていた、 少し変わった性格の女性が、
隣人とのトラブルをきっかけに突然何もかもを投げ出して
南極に向けて旅立つハートフルコメディだと思っていたが、
かなり違って、若くして業界の注目と期待の的だった天才建築家が、
現在は主婦業をやっており、
天才特有の社会性の欠落からトラブルを起こし、
それでも彼女なりに必死に家族へ愛を向けようとした結果…という話だった。

類型としては 「破天荒な天才話」。
でも男性主役の天才話と、 女性主役の天才話は展開が違って面白い。
「TAR」 も破天荒な天才話ですが、
全然違う人に見えるので演じ分けがすごい。
そしてエキセントリックな女性が何事かを成し遂げる話という事で
「ロスト・キング」とフォルダが同じ映画ともいえますが、
どちらも配偶者の夫が超超いいひと。
(破天荒男性主役の癒し系妻or彼女ちゃんの男性版ですね)
同時に母と娘の物語でもあります。
(破天荒父話には彼をリスペクトする息子くんが付いてくることも多いですが、 反転版だ)

ラストまでばれ

タイトルと内容紹介が少しミスディレクション気味に感じられるが
昔はすごかった変わり者のママの自分探しの物語ではない。
でもまあ普通の身近な存在の女性主役でないと集客できないというのは分かるし、
その読みは多分正しい。

まず彼女は天才で、 そんな彼女が創造をせずに普通の暮らしを送るのは、
スーパーカーが自転車と並走するようなもの。
そして彼女は重度の鬱病で自殺の危険があるという疑いがかけられますが、
精神科医は普通の人間の精神には詳しくても、おそらく天才の精神のプロではない。
天才のスランプが、 鬱病の症状と酷似している可能性があるのでは?
あと鬱病や双極性障害は、普通の人間が健康的に過ごし、
毎日労働し周囲とコミュニケーションをとるのには障害となるが、
天才が創造性を発揮するには不可欠なプロセスなので治療は不要では。
(当人が健康と長寿と交流を犠牲にしても創造したい場合に限るけど)

ラストのバーナデッドがパワーに満ち、 全開の笑顔だったので
私は長期スランプだった説をとりますけども。

今の南極の基地ってあんなAT-ATみたいなデザイン?って調べたけど
英国の研究基地ハリーVIで、デザインコンぺで勝利した
ヒュー・ブロートン建築事務所のアイディアのようです。
すごく画期的でスーパークールなデザインらしい。
しかしよく風圧で転倒しないな。



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「モンスーン」

2022年01月17日 | 人情系

ベトナム戦争後に難民となり、イギリスに移住した男の子が
30年後に両親の遺灰を散骨すべく祖国を訪れる話。
ヘンリー・ゴールディング 主演。
余談ですが「GIジョー 漆黒のスネークアイズ」を見たばかりなので
「嵐影のプリンセスT三郎にあやまれ……」という気持ちがまだ少し残っています。
他の男と乳繰り合うとはどういうつもりだこのやろう。

ベトナムの風景をゆっくり見られる、ロードムービーのようでもあります。

内容ばれ

バイクのカオス、最初はこんな道路渡れない!ホテルから出られない!
ってなるんですけど数日後にはひょいひょい歩けるんですよね。

鳥瞰が多用されている。
あと、1階をうろうろしている主人公が次のシーンで2階にいるのも。
(あの廻廊型のマンション、雰囲気ありますね)

移動に疲れた。ふう…休憩…→ベトナムの風景→身の上話
が何回かループする。
他国に逃れた人と逃れられなかった人は、
同じ世代の血族であっても、もう別の国の人間なのだなと思った。
(お土産の浄水器のエピソードとか、絶妙ですね)
お母さんが英国を亡命先に選んだ理由の話とか好きです。

この監督は確実に食べ物に興味がないひとで、
おいしそうな食べ物が出てきて「おいしそうだ」ってセリフがあるのに
つつきまわして食べないし、ビールも一口飲んで放置されている。
あとビールを手に持っていて、少し移動してまたビールを注文して、でも飲まないってシーンがあって
私が代わりに飲んでやるからそのグラス4つ分寄こせよ!!!!!!!って思いました。



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「アナザーラウンド」

2021年09月07日 | 人情系
高校で歴史を教えるマッツ・ミケルセンは、父兄から意見されるほど授業に精彩がなく、
家庭でも妻との会話が途絶え、明るさのない日々を送っていた。
しかし悪友グループで集まった際に「アルコール血中濃度0.05%で日常生活を送れば
すべての効率が上がり良い結果をもたらす」という説を聞き、
全員で実践してみたところ、授業は生徒たちから好評で、
妻との仲も改善し、なにもかも上手くいくと思われたが…というあらすじ。

内容が内容なので、泥酔人間仕草が苦手な人は見ないほうがよいです。
あと当然ですがげろあり。酒好きのマッツファンは、
ウォッカ、シャンパン、赤ワイン ビールを用意して見ること。
余裕があればキャビアもあったほうがよい。

酔っぱらいに対して相当寛容な人むけの映画です。
様々なマッツが楽しめます。

ラストまでばれ

鼻血とか、シャワーシーンとか、腹チラとか、涙目とか。あと見事なダンス。
マッツ先生のルーズベルト、チャーチル、ヒトラーの話おもしろかった。
しかしマッツ踊ってなんとなく終わったけど、問題は山積みのままなような気がする。
特に小さい子が2人いて毎日が戦場なのに泥酔しておねしょをするところまでいった父親、
彼がどうやって許されたのか想像もつかない。
実験をもちかけた人は、お友達の死に対してもうちょっと罪悪感というか…?
いやこれは日本人的な感覚で、あくまで自己責任なのか?
たぶんこれ酒の好きな男性→酒の嫌いな男性→酒の好きな女性→酒の嫌いな女性
の順番で意見が辛くなっていくと思う。
アラフォー男性が少年に戻って仲間とキャッキャサッカーして、
泥酔して楽しいのは分かりますけどね。

作中でマッツたちの飲んでいたカクテル「サゼラック」が
とてもおいしそうに奇麗に撮ってあった。飲みたい!
本式はライウイスキーを使うみたいだけども、
映画のレシピはバーボンを使っていました。
外国のサイトで映画のレシピを公開していましたが、

バーボン90ml
アブサン15ml
ペイショーズ・ビターズ2振り
角砂糖1こ
オレンジの皮

なのだそうです。
これアルコール度数50度くらいになると思うんですが
あんなにバカバカ飲んで、アジア人とは体から根本的に違うとしか思えない。
ラストにテロップが出てましたが、
デンマークではお酒を買ったりお店で飲んだりするのは16歳から。
お家で飲むのは特に制限ないらしい。
国の推奨する飲酒量、男ビール14本、女7本までとかで
酒つよつよ遺伝子の人間ばかりなのだなと思った。

あまり関係ないが、踊りによって観客が呆然として
結末がいったん棚上げになる印象の映画、過去にあった気がする……
と思ったが、あれですね、ポン・ジュノ監督の…。




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「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」

2021年05月26日 | 人情系
旧作映画の感想は、通常1年分まとめて索引つきサイトにあげていますが
現在新作映画が見られないため別のWEB日記に書いている旧作映画の感想を順次あげます。
ひまつぶしになれば幸いです。

監督脚本グザヴィエ・ドラン
憧れの大スターに手紙をだし、
その返事をもらった少年が、以降文通を続ける。
しかしそれがきっかけでスキャンダルになり……というあらすじ。
8歳の頃にレオナルド・ディカプリオに手紙を出した
ドラン監督の記憶をもとに作られたお話です。
ディカプリオに憧れ、彼を理想化し、
彼になりたかった監督の気持ちがグイグイ伝わってきました。
たぶんリアルのレオは全く違うキャラクターのような気がしますが、
おそらくファンの数だけ こういう理想像があって、
スターは大変だなあ!と思った。
(自分の理想と違ったら怒って刺してくる人もいるよね)

内容ばれ(ジョン・F・ドノヴァンにきびしめの意見…)

ドラン監督の映画に出てくるお母さんは、
モデルが同じ人なんだろうなと思ってますが
(ゲイで繊細な神経を持つ主人公を、
がさつでヒステリックな母親や兄がズタズタに引き裂く)
監督は意識されてないと思うけど、
自分の感情にいっぱいいっぱいになって
周囲のことを振り回し傷つけるお母さんと主人公は結局わりと似てる。

例えばこの映画、ボロボロになったジョンの最後は
ひたすら悲劇的に撮られてますが、
あんな時間を過ごした直後に肉親を失う母と兄の狂乱については、
監督もジョンもおそらく考えてない。

スーザン・サランドンやキャシー・ベイツ、やっぱり存在感がつよい。
贅沢なキャスティングでした。

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