映画の豆

映画の感想をだらだらと。
本サイトは
http://heme.sakura.ne.jp/333/index.htm

「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」

2022年01月31日 | 美学系

ウェス・アンダーソン監督
スタートと同時に
「情報が多い!待って!止めて!設定語らないで!静止画にして!そのビルの完璧なデザイン何!?アー!」
となりました。
雑誌の体裁のオムニバスという知識くらいはあったほうがいいかも。

映画というより、天才小説家と天才画家のコラボを見ているようだった。
この小説を書ける人は世界に何人かいるだろうし、
この絵を描ける人も世界に何人かいるだろうけど、
この映画を作るためにはその2つの才能が1人の脳に宿る必要があって、
いまのところそんな人間はウェス・アンダーソン監督しかいない。
どんなに予算をかけても、人をたくさん集めてすごいCGを使ってもこの映画は作れない。
しかしその代わりに、興行収入でてっぺん取れるタイプの映画ではない。

相変わらず役者にモテモテで出演者が非常に豪華。
ビル・マーレイ、ベニチオ・デル・トロ 、フランシス・マクドーマンド、
エイドリアン・ブロディ、ティルダ・スウィントン、ティモシー・シャラメ、
レア・セドゥ、リーヴ・シュレイバー、エドワード・ノートン、
ウィレム・デフォー、クリストフ・ヴァルツ、シアーシャ・ローナン。
(でもどこに出ておられるか、私には分からなかった人もいる)

内容ばれ

全シーンが凝ってた。凝ってないシーンが一瞬もなかった。
美しい映像って、天候や植物が美しい、人間の顔が美しい、色が美しい、
色々ありますが、ウェス・アンダーソン監督は
人間の全身及び人工物の形の美しさ、その美しいものを画面に配置した構図の美しさだと思います。
ちょっと仕掛け時計を連想します。
(でもアニメは、うーん…?アクションを実写でやるとトーンを統一できないという判断かな?)

特筆すべき映像が多すぎてさすがに全部は覚えきれなかったが、
(私は牢獄の画家の話がとても好きです)
殺そうと決意した瞬間、顔面に光がさしてカメラがスライドして
奥の厨房で肉を解体している人物が映るところ、
なんでこんな演出を思いつくのか分からないし、
なんでこんな完璧なリズムで撮れるのかも分からない。
わあーって思いました。

ネスカフィエ氏の「期待に応えられないのが怖かった。異邦人だから」ってセリフ、
いつもウェス・アンダーソン監督の色彩設計って
根本的に有色人種向けではないんだよなあとは思うのですが
努力はなさってる気がする。



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「ドライブ・マイ・カー」

2022年01月30日 | 淡々と暗い系

予告を見た限りでは、妻を亡くした中高年男性と
暗い過去を持つ若い女が互いの心の傷を吐露して
最後は五穀豊穣、子孫繁栄を祈願して性行!ドコドコドコ…という、
むかしのアダルトゲームみたいなあらすじなんだろうな…と思ってました。
原作村上春樹氏だし(偏見)。
でも海外でものすごく評価されたと聞いて、じゃあラストは性行祭りじゃないの?
と思って見に行ったら、ちがいました。誤解しててゴメンネ!
でも妻との性行シーンはあるので、ご家庭での鑑賞向きではないかも。

2年前に妻を突然亡くした役者の男は、
広島で「ワーニャ伯父さん」の公演を行うべくオーディションを開始した。
彼専属のドライバーとして紹介されたのは、若い女性だった…というあらすじ。

こういうトーンの作品にしては珍しく心情を細かくセリフで説明してくれるので、
察しを強要する話が苦手な人にいいかも。

岡田さんに与えられた役がとてもよくて、
とくに終盤の車内での語りのシーンとか、上手い人が演じると本当に映えますね。
西島さんはどちらかといえば共演者の荒ぶりを受け止める役。
北斗の拳で言えばトキ。そういえば彼は受け手の役が結構多いような。

ラストまでばれ

小説だったら2年後からスタートすることが可能ですが、映画だと難しいですね。
逆に文章だとあの朗読のテープが現実とリンクしている演出が難しい。
章の冒頭とかで戯曲の一節として引用する感じになりますかね。
それと手話での演出も、文章だと難しい。
(チェーホフ、予言の書などと同じで汎用性が高い言葉が多いということだろうけど
綺麗にハマってたな。それと輪唱するように音さんの創作と現実の共鳴が始まる演出もよかった)

悪女というのでなく素で倫理に縛られず謎多き女でそれゆえに深く男に愛され…みたいな妻と、
深く傷つきながらも愛情を持ち続ける夫みたいなああいうラブストーリーを好む女性の感性にヒットしそう。
でも妻だけじゃなく、破滅型純情真面目サイコパス岡田君とか、
無言無表情ウルトラテクニックドライバーとか、
すぐさまサスペンスを始められそうな人ばっかり集っているので、
主人公にそういう人を呼ぶ才能があるのかもしれない。
西島さんが岡田さんに刺されるんじゃないかとヒヤヒヤしてました。

どうでもよいことだが、まばたきってタイミングまで演技の一部だと私は理解しているが、
登場人物の中で、ドライアイなのか?というくらいまばたきしているひとがいて気になった。
様々な国の人が出ている映画なので、演技の流派の1つなのかもだけど

舞台ラストの演技、手話でないとこのニュアンスは出ないなとは思いつつ
「理由は検証されてないが、私たちは毎日苦しみ続けないとならない。
楽になってはいけない。何故ならそういう決まりだから」という意味に見えて、
宗教こえー…となりました。
映画の感想から脱線すると、手話使用者キャラクターの舞台劇への登場、
既存のセリフを単に手話に直すのではなく、
手話使用者の脚本家が台本を書き直すべきと思うけどどうだろう。
手話、たとえば「相手の手を掴めば、相手の言いたいことを捻じ曲げるのが可能」
「目を閉じれば相手の言葉を完全に無視することが可能」など、
音声言語では使えない演出が多くあると思う
それを使いこなせる人が脚本を書くべきだ。
英語を話せない人が書いた英語脚本など使えないのと同じだ。

原作は未読ですが、表題作にプラスして、
怪盗やヤツメウナギの寝物語は「シェラザード」
妻の浮気を目撃する男のエピソードとバーは「木野」から採られているようです。



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「ブラックボックス 音声分析捜査」

2022年01月24日 | サスペンス映画
フランスのサスペンス。
300人以上の犠牲者を出した航空機事故のブラックボックスが開かれ、
調査局は内容を解析するが、間もなくその担当官が失踪する。
本来なら分析担当にあたる筈だったマチューは、その仕事を引き継ぐが、
やがて彼は事故の不審な点に気付き……という内容。

主人公は天才的な聴覚をもつのですが、
その代償で音に過敏で日常ではノイズキャンセラーを着けています。

ずっと室内にいて推理するタイプかなと思ったんですが、
意外と外に出て行動する主人公でした。
題材が面白いです。ブラックボックスの中身ってあんな呪物みたいになってるんだ。

ラストバレ

才能があるひとに特有のコミュ力不足で、主人公さんかわいそうな感じでした。
主人公の妄想かもよ?ってミスディレクションもあって、段々怪しく見えたりした。
表情が変わらないと得体が知れなく見えますね。
主人公は、イヴ・サンローランを演じた人だった。

「上司の家の窓を棒で叩き割る、なんてね、
そんなことできるわけないよネ……からのバーーーン!」は、ちょっと笑ったし、
やると思ってたよ。

うーん、でも90分くらいがちょうど良かった気がする。
上司くんさあ、自分で動画サイトにあげなよね!



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「ライダーズ・オブ・ジャスティス」

2022年01月23日 | 暴力orハードボイルド系
マッツ・ミケルセン主演のデンマーク映画。
軍人である主人公は派遣先で、妻が列車事故で亡くなったという知らせを受ける。
母親と一緒に事故に遭い、生き残った娘と途方に暮れているところに
車両に乗っていたという統計学者が訪ねてきて、あれは事故ではないと主人公に告げる。
彼は妻を殺した連中への復讐を始める…というあらすじ。

妻殺され復讐バイオレンスね、ハイハイ…って思っていたら、なんだか違った。
妻を殺されて即座に殺人に走る人というのは、元々どこか病んでいて、
そんな彼が社会で普通に生きてはいけない人々と寄り添って再生する、
その過程でなんかめちゃ人が死ぬ、奇妙な映画だった。
これまでに見たデンマーク映画のなかでは一番好きかもしれない。
「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」原作と「96時間」を無理やり鋳熔かして固めた感じ。
冷蔵庫の女が多すぎですが、男性同士で癒し合って問題を解決しようとする姿勢やよし。

「アダムズ・アップル」を撮ったアナス・トマス・イェンセン監督。
嘔吐、暴力表現、父親から娘への怒号あり。

ラストばれ

Little Drummer Boyに始まってLittle Drummer Boyに終わる。
3人の博士は3賢者なのかな?と思ったけど、演奏も博士がやってるからどうかな。
「アダムズ・アップル」も信仰と性虐待が題材として扱われていたけど今回もそうです。
この監督はマッツをいたぶるのが性癖なのだな。

いろいろあって捻じれてしまった人たちが、互いの歪みを許容し合って生きている様子は
優しいけどなんだか痛ましかった。
顔認証システムエンジニアがパニックを起こした時、
統計学者が決まった手順で背中をトントンしてあげるのとか。

主人公の娘のボーイフレンドが、「君は僕が守る!」って感じじゃなくて
スーパーリベラルなのは面白かった。若いデンマーク男子、いまああいうひとが多いんだろうか。
でも顔面をもろに軍人パンチされて、指の骨を折られてまだ娘さんとお付き合いしているのは
わりと骨のある人だと思う。それとは別に、インスタに上げるんじゃねえ。専門家も注意しろ。

マッツの飲んでいるビール、プールしてあるカールスバーグは分かったけど
メインで飲んでたビールは分からない。
あと、目玉焼きをなぜ食べない。なぜ捨てるのだ。
些末なことながらサンドイッチとジュースで2000円もするの?
(食べ物に執着の強い豚の映画かんそう…)

襲撃の決着では「ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!!!!????」
って思いますよね。司法的にはどういう決着になったんだろう…。
監督の「反社に人権なし」という強い主張が感じ取れる。

クリスマスのダサセーターパーティー、
ここ10年ほどであらゆるフィクションで見かけるようになったが、
デンマークにも伝播してたのか。1980年代のBBCが火付け役らしい。へー。

ジャンルとしてコメディ映画に分類されているようですが、コメディには思えなかったので
暴力系にしました。


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「コンフィデンスマンJP 英雄編」

2022年01月22日 | サスペンス映画
ダー子、ボクちゃん、リチャードの凄腕詐欺師3人組の活躍を描いた
ドラマからの映画化3本目。
オーシャンズ系の話なので、
目まぐるしく事実が入れ替わっていく展開がお好きな人向け。
脚本は安定の古沢良太さん。
私は好きです。映画は1>3>2の順で好き。
邦ドラからの映画化で私がおすすめするとしたら、
これとあと岡田准一さん主演の「SP」くらいかな。

ドラマと前作2本を見ていなくても、まあ7割くらいは分かると思いますが、
過去作履修できるならしておいたほうがよいです。

ダー子、ボクちゃん、リチャードの師匠的存在であった伝説の義賊ツチノコ。
そのツチノコを名乗る怪盗がフランスに現れる。
一方、刺激のない生活を送っていたダー子たちは、
3人のうち誰が一番優秀な詐欺師か勝負することになり…というあらすじ。

エンディングのあとに1シーンあります。

内容ばれ

このシリーズの出演者さんが連続して亡くなって、
一時は呪いの映画呼ばわりをされていましたが、
キャラクターとしての彼等はまだ存在していて活動しているというのは、
私はうれしく感じました。

リチャードの章がやや苦しいかな?

城田さんはドラマ版に出ていたような気がしてましたが、気のせいでした。
めちゃかわいい役なんですけど。素のほうの彼をもうちょっと見たいです。

ボクちゃんが「ダー子を守りたい。普通の女の子になってほしい」と
平凡な邦画ムーブかましてくるのを、
ダー子さんが今回も華麗に回避してくれました。
というか(下世話な話)ボクちゃんの役者のかた、
とうとう事務所を放逐されたようなんですが、
今後続くならボクちゃんはそのままで役者さんを変えてはどうだろうか。
ファンタスティック・ビーストシリーズのジョニー・デップでも、
途中からマッツ・ミケルセンに変わるのだし、いけるのではないか。

今回特に(騙された人以外)みんな楽しそうでよかった。

関係ないんですが、同じ古沢さん脚本の「GREAT PRETENDER」に
五十嵐が出ているので、2つの世界は繋がっているのかもしれない。
私は五十嵐がツチノコでは?と疑っていたが違った。



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