映画の豆

映画の感想をだらだらと。
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「オッペンハイマー」

2024年03月29日 | 実話系
クリストファー・ノーラン監督。
第96回アカデミー賞監督賞作品賞受賞。
理論物理学者ロバート・オッペンハイマーを描いた作品。
伝記映画だと思って彼の誕生から死までを予習していたが、
ロスアラモスと、原子爆弾投下以降がメインで
ポリティカルサスペンス風の場面もあり意外でした。
人物関係の把握がやや困難だった。
ノーラン監督作品のなかでは1番エンタテインメント性が低い(と思う)。

嘔吐あり注意

ラストまでばれ

私が伝記を1冊読んだ彼の印象は、
繊細で、愛情深く、理解が早く、記憶力が抜群に優れている。
才能ある学者を深く愛するが、無能な人間は冷淡に切って捨てる。
調整役に向いているので、核兵器開発の環境を整え、
人員を正しく配置する適性があった。
権力者、父権的なものに弱い面がある。
当時の科学者の多くが持っていた軍への嫌悪感がない。
社会的に見ると少し危なっかしい、だったのですが、
ノーラン監督の造形はかなり違って、
ものすごく繊細な面があるが、尊大な一面もある。
才能ある優れた科学者。しかし人間の感情に疎く、
めちゃくちゃ!めっちゃくちゃに!危なっかしく脇が甘い。
「もっと気にしろ。世間知らずめ」
と温和なローレンスに言わせるくらいに。

モノクロとカラーのシーンに分かれている。
最初は単純に過去と現在かと思ったが、すぐにそうではないと分かり、
太陽と陰のたとえ話があったからそれか?という気もしたが違った。
そういえばオッペンハイマーに果物をひと房渡して、
彼がそれを無心に食べている間にローレンスを視線で制止し、
(ローレンスもその意図を察し)
オッピーが無用に傷つくことから守ってやる場面、
何とも言えない慈愛、友愛シーンで
この映画の中で一番好きな箇所かもなのですが、
あのシーンはモノクロだったので、
もしかするとカラーはオッペンハイマー視点、
モノクロは神視点なのかもしれません。
(聴聞会で突然全裸になってセックスを始める演出はカラー。
意味は分かるんだけど、これ必要!?って言いたかった)

この映画、小さなエピソードはもちろん創作シークエンスが使われているが、
大きな出来事については現実に準じている。
なのでジーンの死のシーンについては
オッペンハイマーの主観にして自殺と他殺、両方の映像が交互に流れた。
(関係ないですがサンスクリット語を読ませながらの性行為は色っぽいなと思いました。
あれ、場面転換しましたけど、朗読を続けられない様子を楽しむんですよね)
(ジーンはノーラン監督の典型的な女性キャラクターなので
ピューさんの演技力がもったいないよぉ…と少し思いました)
(キティと描き分けできてる!?)
オッペンハイマーが自責の念にかられているか、かられていないかは
資料から判定できなので、そこは映画でも明確にされていない気がしました。

ラミ・マレック氏、まさかあの
「署名しないうえにその感じ悪い態度!?」
という顔芸だけの登場か!?と思ったけど、
比較的重要なシーンを見事に決めた。
ストローズにとって人間はすべて損得勘定、
利害によって動くものなので、
ヒル博士の、単に正しいと思うことをしたあの証言は
予測できないし理解できなかっただろう。
そして彼にはオッペンハイマーとアインシュタインの会話の内容も同様に
予測できないし理解できなかったのだ。

核分裂が大気に及んで、世界を破壊する可能性はほぼゼロと彼は読んだので、
オッペンハイマーは実験を行い、賭けに勝った。
しかし社会的には大量破壊兵器の開発競争連鎖が世界に及び、
人間と星の寿命を決定的に縮めてしまった。
彼はプロメテウスとなり賭けに負けた。

そして出オチ(名前)のようなJFK。



被爆描写が無いことに関して

バーベンハイマーの件もあり、批判が多かった。
配給会社が決まりませんでした。ビターズ・エンドさんに感謝。
(バービーのページにも書きましたが、
「バーベンハイマー」という言葉自体は、全然違う映画を楽しめる自分!
という一種の自慢、ひいては映画の劇場鑑賞促進のキャッチフレーズだった)

一応科学者の間で、核兵器使用に関する反対署名や討論会があり、
敗戦濃厚な国への大量破壊兵器使用、と状況の正しい認識の言及描写もあった。

投下都市の選定のシーン、
発言後の他メンの表情から皮肉のシーンだと分かるが
(実際はもう少し時間をかけて選定されたようです)
皮肉と茶化しの判別がつかないひとが結構多いように感じられるので少々不安でした。

広島の被害状況のスライド映写、資料朗読をするシーンで
オッペンハイマーが目を背ける描写、
スピーチ前後に顔の皮膚がめくれる女性、炭化した遺体を踏む幻覚を見る場面。
全てにおいて抑え気味のノーラン監督にしては多いと感じた。
このうえ、破壊される広島と長崎を映し、劇的な音楽を流し、
膝をついて慟哭するオッペンハイマーのシークエンスが必要なら、
聴聞会のシーンとはまったく合わないので全部削って別の監督が撮るべきだと思う。

死者への愚弄は当然抗議すべきだが、
分かりやすい虐殺シーンを撮らない、時間を割かない、イコール人種差別である、
とは思わなかった(私は)。





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「ネクスト・ゴール・ウィンズ」

2024年02月26日 | 実話系

タイカ・ワイティティ監督
ワールドカップ予選で0対31という壊滅的な敗北を喫した
世界最弱のサッカーチーム、アメリカ領サモア代表。
そこに、問題行動で左遷されたオランダ人監督が赴任し、
互いに影響を受けながら奮闘するという、
事実を基にしたコメディ映画です。
主演マイケル・ファスベンダー。

ゆるい感じのコメディ映画が好きな人はハマると思う。
タイカ・ワイティティ監督の本来の持ち味に近い。
(もっとゆるくて、もっとシニカルだと思うけど)

エンドロール後におまけがあります。

内容ばれ

サモアについて何も知らなさ過ぎて恥ずかしいですが
独立国サモアとアメリカ領サモアに分かれていることすら
知りませんでした。
当然ファファフィネのことも、
敬虔なキリスト教信者が多いこともなんも知らんかった。

映画とは全く関係ない話。
あるスポーツの名門校にいたひとからじかに聞いた話ですが
全国大会常連校だったそのチームは、体罰上等
しごき上等、先輩の命令絶対服従だったが
その人の代でそういう常軌を逸した体制を全廃したらしい。
そうすると、なんと全く勝てなくなったとのこと。
スポーツ、とくに団体競技というのはそういう面があります。

おいつめられた白色人種の初老の男性が
ピュアな島民に癒されて、人生を見つめ直す…
みたいなやつにならずギリで踏みとどまっているのは、
監督のバランス感覚だと思います。
会長のセリフ、私たちはあなたから学びたい、
でも我々が下だとは思ってないです…みたいな気持ち、
世界すべての教育、指導、師弟関係、の場に行きわたれー。

ただ監督の娘の事故死エピソードを入れるなら
(留守電のエピソード、シビルウォーのやつやね)
スカウト成功した選手が目の前で
車にはね飛ばされるコメディシーンは採用すんなし…。

サモアのお母さんのスリッパしばきは絶対入れないといかんのか?
国の伝統的な何かなの?



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「ダム・マネー ウォール街を狙え!」

2024年02月11日 | 実話系
2021年に騒動になった、ゲームストップ株の価格変動を映画化。
ポール・ダノ氏主演です。
「あの件、映画を見たら理解できるようになるかな…?」
くらいの熱量だったんですが、面白かったです。
ここ数年とくに、どの国でも
平民と上級国民の経済格差が酷くなった気がしますが、
そんな鬱…とした気分を吹っ飛ばしてくれるエンタテインメント寄りの内容でした。

世界レベルの成功者のルポを読んでいると
必ず登場するのがファンド関係の人々。
彼等が重要視するのは利益をもたらすユニコーン企業と
主に中東方面の大口投資家のみで、
個人投資家などはゴミカス以下なのだそうです(と書いてあった)。
成長する会社に寄生し、思う存分吸血し、
弱い企業を見つけると襲い掛かり肉を食らう。
天敵のいない頂点の生物です。
世界の富を独占する巨人を相手に
ごく普通の市井の人々が戦います。

ラストまでばれ

私はなんとなく多人数のチームがやったことだと思ってたのですが違って、
本当にキース・ギル1人が訴えかけたことが偶然に広がった、
奇跡的な現象だったのか。

やっぱりポール・ダノ氏演じる善良な人には圧倒的説得力がある。
おっとりとした人柄の描き方も良かったが、
故人の姉、弟、妻子などの周囲の人とのやりとりもよかった。
ゲイブ・プロトキンはセス・ローゲンでした。
WEBインタビューの直前にストレスでよれよれしている様子がかわいかった。
(セバスチャン・スタン氏はブルガリアからの移民でオンライン証券CEO役)
(デイン・デハーン氏はショップの店長だったのか!)

金があればなんでもできるなあ、と思ったのは
SNSによる情報共有を、サービスダウンにより分断したことと
買い付けの強制停止。
平民はゲームのルールを勝手に変えられながら戦わなければならない。

結果としてメルビンは大大大損害を出して潰れるんですけど。
ライオンとハイエナに譬えられてましたが
パワー的にはライオンとカメムシくらいの差があったと思う。
失業した人には申し訳ないけどスカッとしましたね…。
この件が「金融界のフランス革命」と言われるわけですよ…。

この件以降、ファンドはSNSを監視し、
派手な空売りも控えるようになったとのことです。
なんとなく猫のTシャツが欲しくなりました。


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「リアリティ REALITY」

2023年11月27日 | 実話系

国家安全保障局の契約社員が
2016年の大統領選に関して
業務上知り得た機密をマスコミに流し
有罪判決を受けて4年服役したという、
実際にあった事件のFBI捜査官の取り調べを完全再現した映画。
音声記録をもとに撮られていますが、
時々実際の音声も流れます。

被告人リアリティ・ウィナーが買い物から帰ると
見知らぬ男性が声をかけてきて
あなたの機密の取り扱いに問題があり、
捜査令状が出ている。
これから家の中に入るという説明を始めます。

誰もフィクションの捜査官のように怒鳴ったりしないし
被告の女性も泣きわめいたりしない。
(彼女は元空軍所属で4か国語をマスターしている)
静かな会話で進行していきます。
でも駆け引きは確実にあって、それが面白かった。

ラストまでばれ

最初に捜査官が「自分も保護犬を飼ってて」
って発言した時は
「はい、嘘~。被疑者を油断させるための嘘~」
って思ったけど、 最後まで見ると、
あれ…嘘じゃなかった…?と思いました。

FBI捜査官のひとたち、本当に言葉の調子がソフトで、
逆に怖かったです。
君のこと大物スパイだとか黒幕だとか思ってない。
ただミスをしたなと思ってる。
って先生みたいに優しく繰り返す。
(当局が恐れていたのは被疑者の後ろに
凄腕のハンドラーがいて、
その子飼いの密告者がウジャウジャいることだろうけど)
すごく丁寧に、水飲む?座る?どこで話す?
と何度も言ってくれる。あれも話術の一種なんだろうか。

被疑者は始終冷静だけど、
やばいなと思ったところだけ笑顔になる演技が良かった。
怖いといえば、自宅の敷地をあんなふうに
「犯罪現場」 の黄色いテープでぐるぐる巻かれたら、
もうあそこは引っ越すしかない。
あとノートにこっそり描いてたナウシカのイラストとか、
残さなくてもいいやんね…
機密漏洩とかするときは創作物は全部燃やしてからやれ。
冷蔵庫のマグネットとかオタクグッズも
捜査資料として残されたくなかったら燃やせ。
それとTorブラウザ、インストールしているだけで
何らかの嫌疑がかけられたとき不利になるっぽいぞ!

被告は有能な人なのに、なんで消印のこととか配慮せず、
残りの封筒も持ちっぱなしだったのか不思議だったんですが、
どちらかというとインターセプトが
密告者に関する情報を漏らしたのが異常なのか。
そりゃあそうだよね、もう誰も危ない橋を渡って
インターセプトに情報を渡したりしないだろうし
それどころか報道機関への信頼が下がって内部告発だって減るだろう。

告発内容は、ロシアがアメリカの大統領選に干渉しようと
ハッキングをかけていた事実に関して。
演出として、 極秘情報部分になると
言葉が途切れるのはわかるんですが、
人物もドゥー…ンと消えてしまうのは、
なんだかゲームのおもしろバグみたいでした(笑)。

最後にアメリカは地球の害悪とまで言った!




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「ペイン・ハスラーズ」

2023年11月10日 | 実話系


住む家もないほど経済的に追い詰められていた
シングルマザーの主人公は、
バーでショーダンサーをやっていたが、
製薬会社勤務の男性客が気まぐれに言った、
雇ってもいいという言葉に、すがるような思いで面接に赴く。
彼女は薬のセールスで頭角を現すが、
しかし会社は業績を伸ばすために
法に触れる販売を始める…というあらすじ。

現在でもまだ解決していない
オピオイド問題を扱ったNetflix映画です。
推しが出ているので見た。
時々ずっと後の時間軸のインタビューが入ったりして、
ふわっとドキュメンタリー風にしてあった。

内容ばれ

ものすごく早く、そしてよく効く鎮痛剤があって、
それは癌患者のための薬で、
中毒性はないというデータがあった。
製薬会社は薬を売りたい。
営業は生活のために金が必要なので何でもする。
医師はチヤホヤされたいし性的なサービスを受けたい。
勿論金もほしい。
やがて癌患者以外にも薬が多用される。
しかし中毒性がないというデータは
あくまで癌患者に関する数字で、
中毒になる前に亡くなっていたとも考えられる。
中毒患者が出始める。

人類を疫病から守るために
利益度外視で奉仕をしてくれる製薬もある一方で、
こんな風に人命を月給に変えるようなことをする会社もある。
もしかすると同じ会社の別部門ということもあるかもしれない。
そりゃ陰謀論や代替医療が流行る訳だよ…という。

映画としてはおとなしめのスコセッシ作品風という感じ。
おとなしめになるのはおそらく女性主人公だからという気もする。
男性主人公ならもっとめちゃくちゃになるか、
あるいは社との戦いがもっと苛烈になったのではないか。




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