「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

薄野や漢の去りて完の文字 米澤惠美子 「滝」12月号<滝集>

2014-12-26 04:38:47 | 日記
 薄野が風に揺れ、夕焼けに透けて美しい。完の文字に終わ
る映画。漢は、十一月に相次いで亡くなった高倉健とも菅原
文太とも思われます。二人の俳優の人生の完結が、映画の
余韻にひたるように惜まれ、句になったものと思う。薄が
「銀幕」とか、「ロマンスグレー」といった色を紡ぎ出し、
二人の後ろ姿が夕日に溶けて行く。合掌。(H)

立冬やガソリン臭き傘ひらく 谷口加代 「滝」12月号<滝集>

2014-12-25 03:57:34 | 日記
 「なぜ傘がガソリン臭くなったのだろう」と、作者の謀に
はまってはいけない。秋から冬への季節の移ろいの繊細かつ
微妙な変化を感じればいいのだ。岐路に立つ作者なのかも
しれない。捨ててしまおうと思っていたものを又拾い、臭
いを我慢すれば傘は雨を凌ぐ役目を立派に果たすではない
かと考えてしまう。自画像的な句かと思われます。(H)

ランナーの鎖骨枯野を明るくす 赤間 学 「滝」12月号<滝集>

2014-12-24 04:44:37 | 日記
 タンクトップ姿で走る女性のマラソンランナーですが「枯
野」ですから、レースではなく練習している姿を見掛けたの
でしょう。ただ茫々とひろがる冬の原を背景に、行き交う人
もめったにない道を走っていたのでしょう。鎖骨が詠まれた
のは訓練により削がれたアスリートの痩身の美しさ。枯野の
紅一点です。作者の感動、分かる気がします。(H)

振り向けば石になるかも萩の声 越谷双葉 「滝」12月号<滝集>

2014-12-23 06:03:23 | 日記
 作者の後ろに萩叢があってザワザワと風が遊んでいます。
振り向こうとした瞬間に「石になるかも」と、何とも突飛な
妄想が楽しい句。ダルマサンガコロンダの鬼になった気分で
しょうか。萩でなければ出せない感じを、口語でじょうずに
救い上げました。(H)

スポイトで夕焼ためるガラス壜 越谷双葉 「滝」12月号<滝集> 

2014-12-22 04:51:15 | 日記
 あまりにも美しい夕焼けなので、いつまでも見ていたいと
云う心象句と思う。スポイトでガラス壜にいっぱいためて、
子供の時のように、夕焼けを一人じめするメルヘンの世界が
広がります。「もうすぐ、ご飯ですよ」と母親の声が聞こえ
てきそうです。(鈴木弘子)