P 10011 HAŃCZA
←17:Palac Kultury i Nauki ワルシャワの摩天楼からの続き
2013年1月1日
今朝は年が明けて、2013年の元旦。
夜明け前に起きだして身支度を整え、枕元にチップの1ユーロ硬貨を置き、必要最低限の物だけを手提げ鞄に詰めたら、
まだ真っ暗な中ホテルを出てワルシャワ中央駅へと向かいます。
新年早々の早朝の駅は、人もまばらです。
巨大なコンクリートの吹き抜け構造で、まるで東西冷戦下の要塞のような構造のワルシャワ中央駅のコンコースには、
それでも精一杯ホリディシーズンを盛り上げようというポーランド国鉄当局の心遣いか、
クリスマスツリーや壁一面のイルミネーションが飾り付けられ輝いています。
つい最近まではこの駅舎の内部も、一面が埃の染み付いたどす黒いコンクリート打ちっ放しの実に殺風景な空間で、
重苦しい共産主義時代の空気がそのまま残っているような雰囲気だったそうなのですが、
新しい時代のポーランドの首都を代表する表玄関にふさわしい駅へと生まれ変わるべく、
実に丁寧に清掃と改装工事が行われたようです。今ではとても清潔で感じの良い場所になっています。
地下のプラットホームも地上の駅舎同様に徹底的に清掃整備されたようで、
明るい照明にブルー系統の色調デザインで統一された近代的な駅構内となっています。
地下駅に付きものの、薄暗くて陰気な感じが無いのがいいですね!
ちょうど地下ホームには、これも近年に新規開業したばかりのワルシャワ・フレデリック・ショパン空港へと直通する連絡路線の、
流線型のスマートなデザインの列車が停車中。
そんな、近代的に生まれ変わったワルシャワ中央駅から僕が今から乗車するのは…
これまた近代的な、と言うかヨーロッパでは西側諸国の鉄道駅でもあまりお目にかからない高精細な液晶モニター表示式の
発車案内表示板の上段に表示された、07:20発の列車。
行き先はSestokai…セストカイと読むのでしょうか。聞いたこともない地名です
(実際、僕が高校時代から愛用している世界地図にも載っていませんでした)。
インターネット地図で地名検索してようやく見つかったその場所は、
ポーランドの国境を越えて隣国リトアニアの領内へとほんの十数キロほど入った場所に位置する、
平原の真ん中にある小さな集落の駅でした。
「何故、ポーランドの首都発の列車、それも僅かな距離とは言え国境を越えて走る歴とした国際列車の終着駅が、
こんな何も無いような場所にあるんだ?
この列車は一体何なんだ?…これは、面白そうだ。このよくわからない国際列車に乗ってみたいぞ!」
…今回の旅の計画を立てていた時、元日は特に予定も無かったので、
何かいい「暇つぶし」の方法は無いものかと思いながらなんとなくインターネットの時刻表検索サイトで
ワルシャワ発の列車の運行ダイヤを眺めていて、この列車を見つけた瞬間、
そんな「『乗り鉄』の血が騒ぐ思い」が湧き上がってきたのです。
新年2013年の鉄道乗り初めは、この謎の国際列車から!
さぁ、正体不明の列車に乗って見知らぬ街Sestokaiへと出発しましょう!
午前7時15分頃、ワルシャワ中央駅の地下ホームに入線して来た、これがそのSestokai行き国際列車です。
3つの大きなヘッドライトがギョロ目を剥いたような、愛嬌のある顔をした電気機関車に牽引された客車列車で、
食堂車はつながっていませんが、国際列車らしく10輌編成という長く立派な編成を組んでいます。
もっとも、編成の後ろ半分は途中の駅で切り離されるようです。
僕は中欧5カ国の列車の1等車が乗り放題のヨーロピアンイーストパスを持っているので、
今日も勿論1等車に乗車します。日本を出発する前に、座席指定券も購入しておきました。
クリーム地に赤いラインの、ちょっとクラシカルな塗装の1等車は編成に1輌だけ連結されていました。
1輌だけの1等車は、途中で切り離されること無く終着駅Sestokaiまで行く事になっているので一安心です。
こんな立派な鉄板のサボも車体に掲げられています。
列車種別はP(特急や急行等の優等列車より格下の「快速列車」扱いのようです)、列車番号は10011、
HAŃCZAという愛称も付けられているようです。
ワルシャワ中央駅ではなく隣のZACH駅(Warszawa Zachodnia:ワルシャワ西駅)が始発となっていますが、
これは地下駅であるワルシャワ中央駅の構内が手狭なために
地上にある近隣駅で列車を仕立てて始発駅とする手法と思われます。
地下駅や高架駅など、構内に余裕のないターミナル駅ではよく用いられる運用方法で、
台湾の台北駅や、確か日本でもJR宮崎駅でこのような方法が行われていた筈です。
「HAŃCZA」号はワルシャワ中央駅にはわずか数分の停車で、すぐに発車します。
急いで乗車しましょう。
1等車の車内は、伝統的な6人部屋のコンパートメントスタイル。
「快速列車」であるせいか、カーテンや枕カバー等のリネン類は用意されていませんが、
座席はゆったりしているし、清掃も行き届いているので個室内はとても清潔で居心地が良さそうです。
ワルシャワ中央駅を発車した時点では1等車はガラ空きで、この先もあまり大量の乗車があるとは思えないので、
コンパートメントを独り占めしてゆっくり寛げそうですね。
ワルシャワ中央駅を発車した「HAŃCZA」号は、すぐに地上区間に出て、
ワルシャワ市内を流れるヴィスワ川を渡ります。この川はポーランドの国土を南北に貫きバルト海に注ぐ大河です。
車窓に国立競技場が見えてくるとワルシャワ東駅です。
「HAŃCZA」号は元日の朝のワルシャワ市内を離れ、そのまま東へと進路を取ります。
車窓に郊外の田園と、森が見えてきた頃、木立の向こうに太陽が顔を出しました。
2013年の初日の出です。
ポーランドは、冬は日本とは8時間の時差があるので、あの初日の出は日本では昼下がりの太陽ということになりますね。
ああ、あの太陽の下に、僕の故郷の日出ずる処の国があるんだなぁ…
「HAŃCZA」号は、すっかり明るくなったワルシャワ郊外を快調に飛ばしていきます。
今のうちに、ちょっと車内を探検してみましょう。
正体不明の国際列車だと思っていた「HAŃCZA」号は、どんな列車なのかな…?
1等車の隣の2等車は、オープンサロンの2列+2列座席の車輌。
日本の在来線L特急の普通車とほとんど同じ雰囲気です。
それにしても、2等車も空いていますね。正月早々、朝から列車に乗って出かける人はさすがに多くはないか…
コンパートメントタイプの2等車も連結されていました。
定員が2名多い8人部屋なので、1等車よりもちょっと窮屈そうですね。
…でも、何故か1等車には無かったカーテンや枕カバーがちゃんと用意されているんだよな(笑)
ちょっと面白かったのが、機関車の次位に連結されていたこの車輌。
荷物車かと思いましたが、よく見ると壁に駐輪場で見かけるような車輪固定用の治具が用意されているので、
どうやら自転車置き場のようです。
ヨーロッパでは自転車が重要な交通手段で、そのまま列車に積み込めるようになっているのが当たり前なのですが、
それにしてもこんなに立派な「自転車専用車」は初めて見ました。
しかし、1台も自転車が置かれていないのがちょっと残念。
やっぱり正月早々から自転車を列車に積み込んで遠乗りに行く人はそんなにいないか…
ちなみに自転車専用車の一画にはコンパートメント席もあって、
窓越しに愛車の姿を確認しながら乗車出来るようになっていました。
いたれりつくせりですね。
ポーランド国鉄は列車の手入れがいいのでしょうか、決して新型車輌という訳ではなく、
むしろかなり走り込んでいて年季の入っていると思われる車輌ばかりで編成されている「HAŃCZA」号ですが、
車内はとても清潔でよく整備されているという印象です。
貫通扉の窓ガラスもきれいに磨かれていて、
「HAŃCZA」号の先頭に立って頑張って走っている電気機関車の顔もよく見えますしね。
…ところがこの後、快調と思われた「HAŃCZA」号を思わぬ事態が襲うこととなるのですが、
その話はまた後ほど改めて。
一体何が起きるのか!?
→19:Bialystok 「HANCZA 」号にトラブル発生!に続く