徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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読書ノート:栞子さんの本棚 ビブリア古書堂セレクトブック 2 (角川文庫)

2022年06月21日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

栞子さんの本棚 ビブリア古書堂セレクトブック2』は三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズの作中に登場した作品の中から13作品をセレクトした本です。

  1. 江戸川乱歩『孤高の鬼』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖4
  2. 小林信彦『冬の神話』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖4
  3. 江戸川乱歩『黄金仮面』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖4
  4. 江戸川乱歩他『江川蘭子』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖4
  5. 江戸川乱歩『押絵と旅する男』~ビブリア古書堂の事件手帖4
  6. 江戸川乱歩『二銭銅貨』~ビブリア古書堂の事件手帖4
  7. 小沼丹『黒いハンカチ』~ビブリア古書堂の事件手帖5
  8. 寺山修司『われに五月を』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖5
  9. 木津豊太郎『詩集 普通の鶏』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖5
  10. 太宰治『駆込み訴え』~ビブリア古書堂の事件手帖6
  11. 黒木舜平(太宰治)『断崖の錯覚』~ビブリア古書堂の事件手帖6
  12. シェイクスピア(河合祥一朗訳)『ヴェニスの商人』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖7
  13. シェイクスピア(河合祥一朗訳)『ハムレット』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖7
巻末に「栞子さんの解説」と題して本書収録作品の『ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ』での登場シーンが掲載されています。
セレクトブック1の方では作者・三上延の作品への思い入れのようなものが書かれていて、それはそれでファンとしては作家・三上延を知ることのできる嬉しいあとがきでした。
でも、それぞれの作品が『ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ』本編のどこでどのように使われていたのかを改めて確認するのもとても面白いと思いました。
本編を読んでから何年も経っており、正直詳しいことは覚えていないので、ほんのちょっと「復習」して、ストーリーを思い出すことができてよかったです。

さて、収録作品についてですが、太宰治の『駆込み訴え』(イエス・キリストを裏切ったユダが主人公で、裏切りに至るまでの心情を吐露する話)とシェイクスピア作品は読んだことがあったので飛ばしました。読んだことない方にとっては話の雰囲気が掴めて、先が気になるかどうか分かると思いますので、まずは抜粋を読んでみるというのはいいかもしれません。

江戸川乱歩の『孤高の鬼』は、あり得ない状況で発生した連続殺人事件の犯人を追ううちに、ある一族の残した暗号文の謎に巻き込まれていく探偵小説で、抜粋を読んだだけでも気味が悪い感じで、「傑作」と言われるものでもあまり読みたい気にはなりませんでした。

小林信彦の『冬の神話』は1968年に刊行された長編小説で、作者自身の体験をもとに太平洋戦争中の学童集団疎開を描いた作品です。級長を務める主人公が陰険な暴力に支配されていく生徒たちの中で次第に孤立し、追い詰められていく話らしいのですが、とりあえず、陰で自分たちの食料の上前を撥ねている疎開先の寺の夫婦の悪事を発見して、ある生徒が「もはや、敵は英米じゃない」と言うところが印象的です。
確かに子どもたちにとっては見たこともない英米という敵国よりも目の前で自分たちの食料を巻き上げている人間の方がずっと現実的問題で、憎悪を向けやすいですよね。
あまり先を読みたいとは思いませんでしたが。

江戸川乱歩の『黄金仮面』は『怪人二十面相』に並び称される昭和初期の有名な怪盗の話で、私も題名は知っていたのですが、これまで読んだことはありませんでした。ここでは黄金仮面が当時としてはとんでもない大金の20万円の価値がある真珠を鮮やかに盗み出して逃走する最初の部分だけが掲載されています。全体的な設定の古さや文体の古さに最初こそ違和感を覚えますが、読んでいるうちに慣れてどんどん先を知りたくなります。
ただ、改めて全部読む気になるかと言うと、そこまでの興味は持てませんでした。他に何も読むものがなくて、『黄金仮面』だけが目の前にあったらもちろん読むでしょうけれど、積読本がまだ90冊近くある中でわざわざこれを読む気にはなれません。

江戸川乱歩、横溝正史、夢野久作などそうそうたる顔ぶれが合作した探偵小説『江川蘭子』の江戸川乱歩執筆部分の抜粋がここに掲載されています。幼い頃に両親を惨殺された美少女・江川蘭子が成長して快楽と暴力の世界におぼれて数奇な運命をたどる物語らしいですが、ここでは江川蘭子の幼少期と成長して快楽と暴力の世界に足を踏み入れるところまでが抜粋されています。
こんな合作企画があったのは面白いと思いますが、江川蘭子の異常性に興味が持てなかったので、わざわざ先を読もうとは思えませんでした。

江戸川乱歩の『押絵と旅する男』は昭和4年に発表された幻想的な短編で、作者自身も深い愛着を持っていたという代表作の1つ。魚津の蜃気楼を見に行った主人公が帰りの汽車の中で大きな押絵を持った奇妙な男に会い、ずっとお互い無言だったものの、主人公が好奇心に負けてついに男に近づき声をかけたら、その男がその押絵を見せてくれ、なぜそれを持って旅をしているのか身の上話をしてくれるという話です。その男の話す思い出話も実に現実離れした(兄が押絵の中に入ってしまっているという)話でしたが、その男自身も語り終わった後に汽車を降りて闇の中に消えて行くという謎めいた去り方をするので、狐につままれたような印象が残ります。
私が持つ江戸川乱歩のイメージとはかけ離れた作品で意外な驚きでした。

江戸川乱歩の『二銭銅貨』は日本最初の本格推理小説と言われ、傑作に数えられているものです。友人と二人暮らしの貧乏青年が主人公で、主人公が手に入れた二銭銅貨の中が空洞になっていて、その中に暗号文のようなものが入っていることを友人が発見し、その暗号文を読むうちに最近逮捕された紳士怪盗が隠した大金5万円の隠し場所が記されていると確信し、やがて大量の紙幣を持ち帰って来るという話です。この二人は普段から知恵比べのようなことをしていて、その友人は得意がって自分がいかに暗号文を説いて大金を手に入れたかを語ってくれるのですが、実はそれは全て主人公が仕組んだことだったという結末が小気味いいですね。
暗号文に南無阿弥陀仏の六文字のみを使っているところが実に凝っています。

小沼丹の『黒いハンカチ』は若い女教師が周りで起こった小さな事件を次々と解決していくシリーズ作品の1つで、たまたま試験中の生徒たちを監視しながらクロスワードをやって考え事をしてふと窓の外を見たら男女二人組の訪問者が学校に入ってくるところを見かけ、その後、女の方が教室の横を通ってお手洗いに行き、出てくるときに黒いハンカチを持っていたのを見て、さらにその数分後に今度は黒いハンカチを胸ポケットにしまった男が裏門から出て行くところを見たのでおかしいと呼び止め、それが事件解決につながるという話です。
他愛もないと言えば他愛もない話で、どことなくアガサクリスティーのミスマープルのシリーズを彷彿とさせます。

8、9の詩集は一応目を通しましたが、私とは相性が悪いようで、読んでも何も入って来ないという感覚でした。

それはともかく、このような作品集には普段の自分の読書傾向とは違う本との出会いがあって面白いですね。
本の概要を解説してくれるYouTube動画も多くありますが、このように作品そのものを集めて提示してくれるセレクトブックの方が自分で読んで味わいながら判断できるので、本好きとしてはこちらの方がありがたいです。