徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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Frenkel & Kang著、An Ugly Truth: Inside Facebook's Battle for Domination (The Bridge Street Press)

2022年06月15日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

Blinkistというドイツ語書籍の要旨を聴けるアプリで「Inside Facebook: Die hässliche Wahrheit(フェイスブック・インサイド 醜い真実)」という本が紹介されていたので聞いてみました。
ここではオリジナルの英語版「An Ugly Truth: Inside Facebook's Battle for Domination(醜い真実:フェイスブックの覇権争いの内実)」の方を挙げておきます。2021/7/13刊行で、未邦訳です。



フェイスブックがヘイトスピーチなどを一切規制しなかったことで問題になっていたことを覚えている方は多いかと思います。
私も記憶の片鱗に留めておいた程度で、その影響力や問題の深刻さについて大して考えたことはなかったのですが、かなりの実害があるようです。
2016年にはすでにフェイスブックは米国内外合わせて数千万人の一次情報源になっており、そのユーザーたちの「いいね」を押す行動からその人の好みや行動傾向を割り出して、それに合ったコンテンツや広告を優先的に提示するアルゴリズムのせいで、ユーザーは自分の信念の正しさの確信をどんどん深めていき、過激化する傾向が見られます。
SNS内での思想の過激化が実際の暴力に発展するケースが往々にしてあり、例としてはミャンマーにおける2017年8月のロヒンギャ虐殺事件や2021年1月のアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件などが最も有名な例です。
また、2016年の米大統領選挙においてロシアからのフェイクニュースが無制約でばら撒かれ、かつ民主党議員のデータがハッキングされたため、トランプ当選に有利となったと言われています。

こうした対外的な弊害はメディアでもだいぶ報じられていますが、社内事情も酷いもののようです。ホイッスルブロワーを徹底的に探し出して解雇することを専門にする専任エンジニアの存在など、ぞっとする企業ガバナンスです。

問題の根源はマーク・ザッカーバークその人にあります。企業成長すれば何でもありという態度は社内でも反感を買っているらしいのですが、ぎりぎりまで「言論の自由」の建前の元に明白な誤情報や誹謗中傷・ヘイト投稿などの規制に反対の立場を取り、世間の非難をかわすためだけの実効性の少ない措置ばかり講じてきたとのことです。
2020年以降、フェイスブックはデータ保護や投稿・広告のコンテンツ規制に注力するようになりましたが、どの程度本気で、どの程度実効性があるのかについては時が経ってみないことには分かりません。