ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

Kへ

2009年03月13日 | 家族とわたし
分かってるよ、むしゃくしゃするんやろ。けど、また気持ちが落ち着いたら話そ。
確かにうちは車を4台持ってる。でも、その4台のうちの3台は、あんたのおじいちゃんからのお下がり。
うちはありがたいことに、おじいちゃんが裕福な人やから、車を3年ごとに買い替えては、息子やら娘に回してくれるからね。
そやから、うちにとっては身分不相応なアウディやらスバルやら、それからTが乗ってるフェアレディやらを所有できてるってわけ。
あんたの両親が自分らの甲斐性で買えたのは、今回の$700のフォードだけ。けど、それはまあ仕方がない。現役の大学生二人も抱えてたらこんなもんや。

さて、やっと我が家に住む3人が、いちいち予定をつなぎ合わせたり変更したりせんでも、とりあえず一人一台、車で移動できるようになった。
わたしとB(旦那)の頭の中では、あんたがフォードを乗る予定になってた。
けど、あの車は異様にデカいから、まずBが運転して、どんな感じがするか、安全に運転するにはどうするべきか、なんてことを調べることにした。
ただ、よく遠出するあんたには、ちょっと辛いマイレージってことは確か。だって、でっかいアメ車やからガソリンばんばん食うもんなあ。
そんなこんながあって、わたし達はまあ、しばらく様子見よかどうしょうか、くよくよと悩んでたわけ。

ところがあんたは、当たり前のように、自分の運転する車はスバルやとばかりに、大学やら友達のアパートやらに乗ってっては外泊しまくり、
車の中はジュースのこぼれたベトベト、スナック菓子のゴミ、煙草のカス、その他もろもろの、あんたとあんたの友達の残したブツでいっぱい、
これはあんただけの車じゃないんやから、乗った後はかならずきれいに掃除しなさいって言うても言うても言うてもあかん。
ほんであちこちぶつけて傷もいっぱい作った。事故もした。イージーパス(日本でいうとETC)の支払いを5倍にした。もちろんあんたにも払わせたけどね。

一昨日、とうとうわたしとBは決心した。
あんたは基本的にフォードに乗る。ガソリンの支払いの一部は助けたる。けれどもイージーパスはあんた専用の口座を作って、自分で支払う。

あんたは最近、ほとんど家におらへん。Bはそんなあんたに同情してるよ。僕があれぐらいの年やった時、親のいる家に帰るのがほんまにイヤやったって。
わたしにはそういう感覚は分からへんから、ふうん、そんなもんかって思うだけやけど……。
けど、たまに家に居る時、「ああ、やっと体にいいもん食べた」って嬉しそうに言うたりするやろ?「よく眠れた」とか言うやろ?
わたしはそういうあんたの言葉を聞くと、しみじみ良かったなあって思うし、もうちょっと頻繁に帰ってきたらええのに、とも思う。母親やってそんなもんや。

うちに居たら退屈やし、洗面所の使い方が汚いだの、部屋を掃除しろだの、自分の服の洗濯ぐらいしなさいだの、煙草臭いだの、まあほんま文句言われまくり。
友達と一緒の方が勉強するのに集中できるっていうのもあんたらしい。あんたほど年令バラバラ環境バラバラ性別バラバラの大勢の友達持ってる人知らんもん。

Tは、たまたま、というか、めんどくさがりの性格が最後まで影響して、遠い大学に行くことになって、寮生活を3年間続けた。
あんたから見たら、すべてはあいつが自分で決めたことで、あっちでどう我慢しようが苦労しようが、自分が蒔いた種を世話するのは当たり前なんやろけど、
TはTでいろいろ考えて、自分にかかってる費用が高いこと、それで親が四苦八苦してるのが分かってるから、1番安い寮の相部屋で3年間我慢して、車の免許を取るのも遅らせてきた。
4年生になる直前にフェアレディを運転できることになって、最後の1年間ぐらいアパート住まいさせてやろうと話が進み、今やっとそうなってる。
家賃とガソリン代含めて月$500ドル、バイトに費やせる時間が無いほどの猛勉強が続いてるから、このお金は今年の12月までわたし達が払うしかない。
とりあえずTには、これ以上延期せずに卒業してもらいたいからね。

さて、Kはどう思ってるんやろね、そういう、Tに対するわたし達の態度が気になるのかな?
1年と8ヶ月しか違わへんあんたとT。いっつも無意識に比べてるのを知ってるよ。
けど、Tとあんたの状況は比べようもないくらい違ってるし、わたし達はどちらにも、出来うる限りの援助をしてるつもり。
自分自身がどう生きていくのか、その方向がある程度定まってきたTを、羨ましく思うって言うたことあったね。
どんなふうに生きていきたいか、いったい自分は何をしたいのか、何に適しているのか、そういう目に見えない、考えても答の出しようのないことは、
もしかしたら、とりあえず目の前にある事柄にがむしゃらに取り組んでる最中に、ヒョイッとあんたの目の前に現れるかもしれん。
Tみたいに、とりあえず自分の得意なことを勉強し続けてるうちに、ぼんやりとこっちに進んどこかなって思えてくるのかもしれん。
または、Bみたいに、やっと社会的な仕事を得て一家揃って引っ越してきた途端にクビになって、とことん凹んだ時にピンとくるかもしれん。

まあ、大きな話はこれぐらいにして……。

一昨日、わたし達がはっきりと、今後はあんたがフォードを運転することって伝えた時、聞いてるのか聞いてないのかはっきりせん態度取ったね。
ほんで昨日、またニューヨークに行くって時、できたらスバルで行こうと企んでた。
けど、わたしらが考えを変えんと分かった途端、フォードのデカい車じゃ、クィーンズで駐車できひん。イージーパス貸してくれへんの?って言い出した。
ふて腐れて泊まりの準備してるあんたのこと、ちょっと気になったのか、Bが、食費の足しに、なんていう理由で20ドル渡しにあんたの部屋に行った。
家を出る間際にキッチンテーブルの上に置いてあった20ドル札見て、Bが「なんで持って行かへんの?」って聞くと「もらいたくない」って言うたね。

自分の思い通りにならへんこと、これまでにもそりゃあいっぱいあったやろ。
けど、これからもきっと、まだまだいっぱい、そういうことは出てくるはず。
でもそんなクサクサしてる時でも、ちょっと落ち着けるチャンスがあったら、あんたがどんなふうに支えてもらってるか、守ってもらってるか、
そして、世の中の、もっともっと辛い毎日を送らざるを得ない人達から見たら、あんたがどんなに恵まれているか、幸せな人間であるか、
そういうことも少しは考えられるような柔らかさを、自分の心の中に見つけてほしい。

昨日、ちょっと残念な別れ方してから、ずっとあんたに話しかけてる。