3月4日から11日までの1週間、計90マイル(145キロメートル)を祈りながら歩き、行く先々の町で出会った人たちに、水を守ることの大切さを訴えたPeace Walkerたち。
日本山妙法寺ニューヨーク・グラフトン道場を守る安田純法尼が企画されたこのWater Walk for Lifeは、無事に終わり、関わった人たち全てに、大きな達成感とたくさんの出会いをもたらしてくれました。
純さんのことも、日本山妙法寺のことも、アメリカンインディアンのことも、ほとんど知らずにいたわたしに、情報だけがどどっと押し寄せてきたので、かなり戸惑った1週間でもありました。
人と出会うことによって生まれる、つながりの妙。
そして新たに知ることによって生まれる、怒りや悲しみ。
とても混乱し、考え、悩み、自分を見つめ直したり、思いを馳せたりする毎日でした。
結局、行進に参加できたのは、最終日だけ。
開始日のウォーターセレモニーと最終日のウォーターセレモニーは、強風が吹き荒れる極寒の中で行われ、骨まで冷えるような寒さでしたが、
スタンディングロックで抗議行動をしていた人々に比べたら、という思いがふつふつとわいてきて、祈りがより深くなったような気がしました。
純さんは、平和運動という場に欠かすことのできない人です。
水や大地という、生き物にとって欠かすことのできない、そして汚してはならないものを守ろうと、祈り続けている法尼さんです。
その祈りの深さ、真さは、アメリカインディアンとの連帯を生み、アメリカ国内のみならず、世界中を巡り歩いては、平和の太鼓を打ち鳴らしています。
純さんのことは、少し前から、歩美ちゃんから何度も聞いていて知っていました。
純さんが地べたに座り、太鼓を叩きながら「南無妙法蓮華経」と祈る姿を、映像で何度も見ていました。
そんな純さんから「5人泊めていただけますか」とお願いの電話がかかってきた時、とうとうわたしもお手伝いの真似事ができると、心がワクワクしました。
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二日目の5日の夜は、9年間暮らした町モントクレアの教会に、宿泊していただくことになりました。
わたしの生徒のクラウディアが会員である教会に打診してもらったところ、オッケーの返事をもらったので、宿泊する部屋と夕食の確保をお願いすることにしました。
この部屋は、わたしの生徒の発表会の、1部と2部の間の休憩時間(スナックタイム)のために、いつも使わせてもらっている部屋です。
予定より1時間も早く到着して、くつろいでいるWalkerさんたち。
円座を組んで話し合う、純さんと沖縄からの参加者さんたち。
焦りまくっているキッチンのみなさんを捕まえて。
右端の女性がクラウディア。今回はすごく頑張ってくれました。感謝!
若手Walkerのジムが、飛び入りで参加。
さあ、夕飯の時間です!
夕食後、大きな円になって、自己紹介をすることになりました。
ホワイトセージの煙で、わたしたちを清めてくれるジャネットさん。
そして、太鼓を叩きながら、祈りの歌を唄ってくれるジャネットさん。
さあ、それでは大切な話を聞きましょう、と太鼓を叩いて知らせる純さん。
まずはジャネットさんからのお話。通訳は歩美ちゃん。
ピルグリムパイプラインのことについて話します。
このパイプラインは、コークブラザーズ(オイル富豪・日本でいうと日本会議のようなもの)が関連している会社のもので、ニューヨーク州アルバニーからニュージャージー州リンデンまでの170マイルもの距離に、設置される予定です。
パイプラインはほぼ平行に2本。
1本は原油のために、そしてもう1本は精製されたオイルのために、ということで、予定地の中には、高速道路の87号線を挟み込むような形で設置されるところもあり、多くの非難が上がっています。
さらに、スタンディングロックと同じように、アメリカインディアンのラマポー族の聖地の辺りも通ることになっていて、
そこにはハイランドラマポー水脈と呼ばれる、とても美しい水脈があることがわかっています。
ちなみに、広大なハドソン河は、もともと氷河が削られてできたもので、その堆積物が積まれて造られたのがロングアイランドなんだそうです。
ハイランドラマポー水脈は、ラマポー川の下の深い深い所を流れています。
ラマポーという名前はスイートウォーターという意味で、だからラマポー族はずっと、水を守ってきた種族なのです。
そのラマポー族は、ニュージャージー州からは認定されているのですが、連邦政府からは認められていません。
なぜかというと、ラマポー族として認定し、居住地を与えると、そこにカジノができる可能性があるということで、
アトランティックシティのカジノ街で大儲けをしている、トランプ(現大統領)氏を始めとするカジノ所有者が、こぞって反対したからです。
そしてまた、コネチカット州からペンシルバニア州に渡る山奥で、長い間狩猟をしながら暮らしていた彼らのもとには、様々な事情で逃げてきた黒人やヨーロッパ人たちの血が混じりました。
連邦政府が認めるのは純粋な一族であることもあって、ラマポー族は今も、アメリカンインディアンとして正式に認定されていません。
けれども彼らは誇り高く、そして大地と水を守るために闘い続けているインディアンに変わりはありません。
ラマポー族のチーフペリーが、スタンディングロックに9ヶ月ほど行き、そこで起こっている運動を目の当たりにして、
自分たちにも、運動の拠点となるようなものーー「キャンプ」が必要だと確信し、自分たちが所有している土地にティーピーを建てました。
その土地のすぐ近く(道路を挟んだ向かい側)に、高級住宅地があり、景観を壊すだの、不動産の価値が下がるだのと、住民からの苦情が出ているのだそうです。
でも、そのティーピーが建てられている場所は、少し多めに雨が降るとすぐ洪水になるような土地で、暮らすには不適切なのです。
元々は、彼らインディアンが暮らしていた場所に、白人がどんどん入り込んできて、お前たちは出て行けと言ったのです。
「この土地は私たちの土地だ」と抵抗するインディアンに、「じゃあ税金を払え」と言う白人。
そんな社会で暮らしたことがないインディアンに、税金というシステムがちゃんと理解できるはずもなく、「払えないなら土地を売れ」と言われて、二束三文で売ってしまいました。
もちろん、銃などの武器による殺戮も頻繁に行われ、90%以上ものインディアンが、何らかの方法で殺されたといいます。
さて、反対運動によって、今はまだ認可されていないこのパイプライン。
いくつかの自治体は、反対の決議を出しています。
ということで、パイプが設置できないうちは、貨物列車で運ぶことになるのですが、その列車が通る橋の老朽化が激しくて、いつ崩れるかわかりません。
なので、オイル会社は、パイプラインが通るとこの列車(バム<爆弾>トレインがあだ名)を使わなくて良くなると言って、賛成の人々を取り込もうとしています。
パイプラインが設置され、そこをオイルが通ってしまうと、必ずどこかから漏れて、土と水が汚されてしまいます。
土と水を守る闘いが、アメリカ全土のあちこちで起こっています。
タイラーさんのお話。
スタンディングロックで暮らした話をします。
僕は、ミズーリー州のアシュラム(エコビレッジのような感じ)から来た、ガンディアン(ガンジーの教えに沿った生き方をしている人)です。
なので、スタンディングロックで、ノンバイオレント(非暴力)のトレーニングや祈りを教えている、シェリル・エンジェルさんと仲良くなりました。
ラコタ・サティアグラハ(ラコタではナヒと呼ばれている丹田の辺り)のところからくるエネルギーが、命と繋がっていると教えてもらいました。
命の力の源です。
(純さんの師である)日本山妙法寺の開創者、藤井日達山主は、アメリカインディアンとの繋がりが深く、彼は一貫して「人を殺すな」という教えを説き、インディアンに非暴力の運動を教えました。
彼らインディアンの精神には、怒りの感情が根強く残っているから、それが行動に出てしまう。
だけども、だからこそ、彼らのために祈りなさいと教えました。
なぜなら、彼らの方が、祈りが必要な人たちなのだからと。
でも、実際には、キャンプは全て撤去されてしまいました。
そしてオイルは通ることになっています。
その現実を受け止めてなお、祈りなさい、祈り通しなさい。
そうシェリルさんは教えてくれました。
とにかく祈りの時間が多かった。
ノンバイオレントの教育の時間にも、祈りの時間がありました。
さて、今、ワシントンでは、抗議する人たちを逮捕できる、抗議すること自体を犯罪にできる法律が、作られようとしています。
そのような動きに対し、徹底的に反対しなければなりません。
米憲法修正第1条(言論・集会の自由)に反します。
そして、戦争に関係するようなことに、税金を払うのをやめましょう。
自由裁量予算と言って、動かせない予算以外の、議会がいじることができる予算のうちの54%が、軍事予算に当てられています。
だから本来は、議会が変えられるはずなのに、これまでじわじわと増え続けています。
その54%の税金を、せめて25%に減らすこと。
そしてその分を、社会福祉や教育に回すこと。
タイラーさんが歌ってくれた歌の詞。
People gonna rise like the water.
All colors(肌の色) and all creeds(信仰).
Hear the voices of my great grand daughters.
Saying Mni Wiconi (Water Is Life).
マデリンさんのお話。
ニュージャージーでのピースアクションとして、核廃絶運動を訴えるための、千羽鶴を折るプロジェクトをしています。
5月までに、1万羽の鶴を折り、それをワシントンに届ける予定です。
協力お願いします。
お名前がわかりませんが、彼女はいつも、TDバンクという、このパイプライン計画に最も多額の資金を調達している銀行から、預金を引き出す運動を呼びかけている人です。
TDバンクはもちろんですが、日本のみずほ銀行と三菱東京UFJ銀行は、巨額の融資をしています。
三井住友銀行も融資をしていますが、みずほと三菱東京UFJに比べると、少ない方だということです。
純さんの閉会宣言。
純さんはこの後、さっさと電気を消して回り、「早く寝なさい」とウォーカーの人たちに声かけしていました。
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わたしたちの歩みを阻もうとする人たちのために、非暴力を暴力で制圧しようとする人たちのために祈る。
そのようなことをする人たちにこそ、祈りが必要なのだから。
この言葉がわたしの中で、渦巻いています。
そんなことができるのだろうか。
不可能なのではないのだろうか。
そのようなことをする人たちにこそ祈りが必要であると、思うことはできても、それを信じて行動できるようになるのだろうか。
そんなことを考えながら帰りの支度をしていたら、一人でないと眠れないと純さんが言っていたことを思い出し、うちに連れ帰ることにしました。
ついでに、体調が悪そうに見えたジャネットさんのことを尋ねると、なんと彼女が、週に2日の透析を受けていることを知り、彼女もうちで泊まってもらうことにしました。
純さんは、翌朝3時には起きて頭を剃らなければならないのでと、さっさと二階の寝室へ。
そしてわたしは、前々から知りたかった、なぜジャネットさんがインディアンの祈りの歌を歌えるのか、なぜそれほどに繋がりが深いのかについて、尋ねることにしました。
ジャネットさんから聞いた話は、まるで一冊の本を読み切ったかのような、小説よりも奇なりの見本のような、数奇な出会いが散りばめられた、小さな宇宙の物語でした。
この話は、またいつか日をあらためて、紹介したいと思います。
翌朝、6時前に純さんを、そして8時前にジャネットさんを、それぞれ教会まで送り、そこから次の集合場所であるダンキンドーナッツまで、ウォーカーの人たちを送りして、わたしのお手伝いは終わりました。
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3月8日木曜日。雨が降りました。
ラマポー族の居住区に到着するWater Walk for Lifeのウォーカーさんたちをお出迎えしようと、マワまでやって来ました。
話には聞いていましたが、まるで湿地帯のような場所で、地面はジュクジュクとぬかるんでいます。
奥に見えるのは、ティーピーと呼ばれるテント。
待っている人たちにも、祈りがささげられます。
予定より随分遅れて到着した、ウォーカーの人たち。
出迎える子どもたち(左側の女の子は、わかちゃんの娘ちゃん)。
二人とも、待っている間に、大きな水たまりの中に入り、ワイルドな水遊びをしていました。
近づいて来ました。
出迎えの笛を吹きながら、ウォーカーさんたちを出迎えるラマポー族の人たち。
聖地の入り口で、歓迎の太鼓を叩くラマポ族の人たち。
祈りの場に集まります。
儀式が始まりました。
沖縄から来たたくま君が、土を守り、水を守り、森を守ろうと闘っている沖縄の人たちとの連携を、インディアンの人たちに訴え、
祈りの人純さんが、命と水の繋がり、祈りの連帯を呼びかけました。
話でしか知らなかった、アメリカインディアンの人々に対する迫害や強要の歴史、そして今現在もなお続いている理不尽な差別を、初めて自分の五感で感じた日でした。
けれどもその辛さ、悲しみ、怒りをはるかに超える、祈りの強さと深さに、圧倒された日でもありました。
本当に、一本の道を挟んで、全く違う世界が存在しています。
パイプラインはお断り。
洪水の度合いを測る看板。
たとえ、どんなにマイノリティ(少数派)であっても、そしてやっていることといえば、世界には良い部分があると信じて、そこに向かって一心に祈るということなのだけども、
その祈りは、世界の良くない部分にもきっと届いていて、いつか変わり始める日がやってくる。
自身よりも、自我よりも、まず世界の弱い人たちのために、苦しんでいる人たちのために、そこに飛んで行って地べたに座り、太鼓を叩きながら一心に祈る。
その行為はとてもシンプルだけども、同じようにやるには、相当の勇気と謙虚さが必要になる。
純さんは祈りの人。歩くお坊さま。
ウォークはまだまだ続きます。