裏庭続きのご近所に、晴れた日の夕方の数分間、黄金色に光り輝く家がある。
今からずっと昔の、子どもの頃に読んだ物語に、同じように黄金色に輝く屋根の家が登場した。
挿絵や写真があったわけでもないのに、なぜかその風景がくっきりとわたしの頭に焼きついていて、夕陽を受けて輝く家や屋根を見つけると、必ずその物語を思い出す。
激しく落ち込んだ数ヶ月の間、そういえば窓の外を見た記憶が無い。
外にもほとんど出なかった。
仕事と家事とピアノの練習だけは続けていたけれど、SNSを自分から遠ざけた。
今居る場所でやるべきことをやるだけで精一杯だった。
時々ツイッターだけは覗いた。
不安や心配や憂鬱の薄い膜に覆われて、息がし辛くなって、何度吸っても十分に肺が満たされなくて、肋骨に指を入れて引っ剥がせたらどんなに楽になるだろうなどと思ったりした。
そんなヨタヨタの心を救ってくれたのは、作家重松清氏の物語だった。
貪るように読んだ。
それから韓国ドラマをたくさん観た。
今から3年半前に、自分がハマった韓国ドラマをグイグイ勧める夫に根負けして二人で見始めた。
ドラマのタイトルは『秘密の森』。
当時、字幕は英語しか無く、しかも一言二言の短い台詞になんでそんなに単語が必要なのかと文句を言いたくなるほどの英文が出てくるので、役者たちが何を話しているのか聞き逃すことが多くてイライラしたけど、内容が面白過ぎてやめられなかった。
とにかく役者の演技がとてもうまい。
それに脚本や演出もとても良い。
このドラマをきっかけに、夕飯後の夫と二人で過ごす時間はまず韓国ドラマを観て、まだ余分な時間があったら英語物を観る、という風に変わった。
今ではNetflixだけでは物足りず、楽天のVikiというサイトにも会費を払って観るほどの気の入れよう。
夫は五十の、わたしは六十の手習なのである。
やっとこさハングルは読めるようになったけど、それからドラマの役者がよく言う言い回しは覚えたけれど、字幕無しではまだまだほとんど分からない。
でも韓国がすごく身近になったし、習慣や文化や韓国食がどんどん好きになってきた。
平素の会話の中にハングルが混じるし、それがきっかけで二人して笑うことも増えた。
こちらでも、漫画やドラマをきっかけに日本のことが大好きになる若者たちがいる。
目をキラキラさせて、日本大好き!と言う人たちに会うととても嬉しい。
先日のお味噌作りに付き合ってくれた友人がお土産に持ってきてくれた行者ニンニク、しめじと一緒にごま油で炒めていただいた。
それから彼女の家の庭にいっぱい生えてるらしいこの葉っぱは、名前を聞いたのだけど忘れてしまった。
彼女が発案したレシピ(マッシュドポテトに肉と葉っぱを一緒に炒めたのを混ぜてオーブンで焼く)を真似て作ってみた。
ミンチ肉が無かったので薄切り肉を細かく切って使った。
上にパン粉を乗せるのも、グルテンフリーの我々にはできないので割愛した。
葉っぱはほんのりと苦味があって、すごく美味しかった。
日曜の今日は週末恒例の畑作り。
やっと芝生剥ぎが終わり、今まで使っていた深い方の菜園の木枠を解体し、土を移動させた。
それにしても土が多い。
この土がダンプカーで運ばれてきた時、わたしがいくら「大丈夫だからあのレイズドベッドが置いてある所まで入ってください」と頼んでも「規約だからできない」と言って、ベッドから程遠いドライブウェイにザザーッと落としていった。
あの時の絶望感ったら無かった。
どうすんのよコレ、コレを運べってわけ、わたし1人で…。
でも今日は歩美ちゃんと夫とわたしの3人だ。
シャベルも3つだし、一輪車もあるし、なんといっても男手がある。
結局フェンスの網を張るところまでには至らなかったけど、とりあえずここまで進んだ。
体長30センチものミミズを何匹も見た。
大小長短細かったり太かったり、ミミズにもいろんな種類があるんだな。
5年使ったベッドの木枠はかなりボロボロだけど、あと数年頑張ってもらおう。
友人や家族と一緒にやる外仕事はやっぱり気持ちがいい。
頭の中がいい感じに空っぽになる。
また明日から平常の仕事が戻ってくる。
結局ワクチンは打たなかったし、のんびり何もせずに過ごしたという日は無かったし、あっという間に終わってしまったけど、なんだかすごく長い間生徒たちに会っていないような気もする。
それだけ元気が戻ってきたっていうことかな。