


父の失踪を機に、オクラホマの実家に帰省したバーバラ、アイビー、カレンの3姉妹。それぞれ問題を抱えた娘たちに、癌を患い薬物中毒となっている母のヴァイオレットは、辛らつな態度をとり続けるが…
トニー賞やピューリッツア賞を受賞した舞台劇の映画化だそうです。とにかく、毒母ヴァイオレットの言いたい放題、やりたい放題の大暴れっぷりが圧巻。細木カズコどころじゃないズバリ言うわよ!ぶりで、ズバリすぎて非道すぎて笑える半面、こんなママぜったいイヤだ~!とドン引き。自分の母親が天使に見えてしまいました。いくら病気や夫との愛憎に心身ともに絶望し苦悩を抱えていても、あそこまで他人に意地悪で攻撃的になるものなのでしょうか。私もヴァイオレットみたいな境遇になったら、ああなってしまうのかなあ。怖い。生々しく激しい彼女の人間の業、女の業が、悲しいほど醜かったです。神さま、どうか私が苦しい悲しい人生の末期を迎えても、思いやりや優しさを失わずにすみますように…

本音や鬱憤を抑えながら、何とか穏便に表面をとりつくろうとするバーバラたちと、平和をブチ壊すことが歪んだ悦びになってるようなヴァイオレットとの攻防が、かなりシニカルでブラックな笑いを誘います。バーバラがキレてヴァイオレットにつかみかかる修羅場で、でも笑いはピークを迎えます。だんだん笑うに笑えないヘヴィーな展開になるのです。ラスト近くに暴露される、ある秘密。それが重い、重すぎる。ドロドロ血縁関係から、横溝正史ワールドに変貌してもいいようなムードさえ。親の世代の罪が子どもに受け継がれるなんて、皮肉すぎるというか残酷です。
豪華なキャストのアンサンブル演技が、しんどい悲喜劇をパワフルに痛々しく紡いでいます。
毒母ヴァイオレット役は、現代映画界の演神メリル・ストリープ。演技に自信がある俳優たちが共演すると、負けるかってんだ!な火花が散るものですが、もはや神の領域にあるメリル・ストリープが相手だと、彼女に勝とうなんてハナっから思わないのか、この作品の共演者たちからも彼女の足を引っ張るのだけは避けよう、という謙虚ささえ感じられました。とにかく、ド迫力の鬼気の中にヒリヒリするような痛ましさを滲ませた名演には、圧倒されつつ惹きこまれます。これぞ女優って感じ。日本の女優では、まず味わえない衝撃と感銘です。彼女はこの映画で、18回目のアカデミー賞ノミネートという自身の記録を更新しました。
バーバラ役のジュリア・ロバーツも、なかなかの好演でした。常にイライラカリカリしてて、まさに爆発寸前の爆弾状態。触るな危険!って雰囲気が笑えた。怒髪天演技は迫力満点で、こ、怖い!ジュリア・ロバーツにあんな風に怒鳴られたら、新人女優とかスタッフとかビビって泣いちゃうでしょう。ほんと彼女、強そうですよね~。恋愛ものとかラブコメのヒロインをやるには、もう“あがってる”女優ですが、今回のようなキツいおばさん役はハマってた。適材適所だと、やっぱ演技力のある素晴らしい女優なんだよな~と、長年ハリウッドでトップを張ってきてるだけの実力と魅力を再認識することができます。彼女はこの映画で久々に、アカデミー賞にノミネートされました。

バーバラの夫役は、ユアン・マクレガー。ユアンもずいぶんおじさんになりましたが、今でも可愛いですよね。ジュリロバと一緒だと、どうシブい外見を作っても年下にしか見えないし。あんな威圧的で冷徹な鬼嫁がいたら、浮気のひとつやふたつしたくなるよな~と、耐える夫ユアンに同情。反抗期娘役のアビゲイル・ブレスリン、大きくなったけど美人にははらなかったね…
ヴァイオレットの妹の夫役はクリス・クーパー、その息子役はベネディクト・カンバーバッチ。似てる!目のあたりとか、ほんとの父子みたい。コワモテだけど心優しいクーパー氏に、ちょっとときめいてしまいました♪息子を傷つける妻への激怒は、なかなか感動的でした。日本でも人気のバッチさん、ワタシ的には男前でもイケメンでもない、どちらかといえばヘンな顔したお兄さんですが、すごく個性的ではありますよね。オドオドしたドヂでマヌケなヘタレ役が、可愛くもイタましかったです。