ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

マルコ・ポーロ幻想

2009-08-26 00:56:27 | ヨーロッパ


 ”Die Rückkehr des Marco Polo” by Marco Ambrosini & Katharina Dustmann

 題して”マルコ・ポーロの帰還”と。ヨーロッパ中世音楽研究家で音楽クリエイターでもあるイタリア人、Marco Ambrosini氏と、ドイツ人の打楽器奏者のKatharina Dustmann女史、お二人の連名によります1997年作品であります。
 とか言ってるが、どのような人たちか知りません。どうもジャズやクラシック畑のヤンチャ者の皆さんが放った実験作みたいなんだけど。こちらとしては不思議な意匠のジャケと”マルコポーロの帰還”なるタイトルに興味を覚えただけの”一か八か勝負で買ってみた盤”であります。

 盤を廻してみると飛び出してくるのがスインギーなウッドベースに導かれ、なんとも闇の底から聴こえて来るみたいな不気味な不協和音コーラス。いや、なんか懐かしくさえある”現代音楽と前衛ジャズの融合系実験音楽”の響きでありました。”アングラ”なんて古臭い言葉がもの凄く似合うサウンドですな、これは。

 十数人に及ぶ参加メンバーは、それぞれが複数の楽器をこなし、しかもことごとく腕達者、という鉄壁振り。その方面では、いずれ名のある人々なのでしょう。
 しかも操る楽器はサックスやヴィブラフォンといった”普通”のものからニッケルアルパ、ケルティック・ハープなどというヨーロッパの民俗楽器に加えて、ウード、ダルブッカ、ベンディールといったアラブ方面のものやら、さらにはマリンバ、バラフォン、ビリンバウと世界各地のものが入り乱れ、もう手が付けられません。
 ボーカル陣も民俗調の地声コーラスで現代音楽風の譜面をこなすうち、ついにはホーミーの一発も軽くこなしてしまう凄まじさ。

 とはいえこの盤、遠い昔にマルコ・ポーロが訪れた国々の音楽がカラフルに再現される、なんてお楽しみ盤ではありませんで。どちらかといえば、伝説の旅人なるマルコの心の闇への探求を試みた、みたいな思索的な色彩が強い出来上がりとなっている。
 マルコ・ポーロの旅を内宇宙への旅と捉え、マルコの見た旅の風景が心の闇に通じ、その闇を辿ることがすなわち、マルコが地図上で行なった実際の旅を辿り直す事に通ずる、なんてややこしい構造になっているようだ。

 各楽器は凄まじいテクニックで刺激しあいながら壮絶な即興演奏を繰り出し、人の心の闇の底へ深く深く潜入して行く。その狭間に、幻のように行き過ぎる、エキゾティックな東洋の面影を宿した音塊たち。それはある時はデフォルメされたバルカンの舞曲であり、中央アジアの牧唄であり、またアメリカ大陸先住民のウォー・クライである・・・
 ともかく、こんなに不自然な音楽を演じているのに、めちゃくちゃリアルなこの手触りはなんだろう?こんなにも頭でっかちな音楽なのに、強力に発せられる、この肉体性はなんだろう?ヨーロッパの人間には、こんなに屁理屈で煮固めたような音楽が”天然”であるのだろうか?

 などと、つまらない事を考えながら凄まじく刺激的な音の絵巻を堪能したと、とりあえず夏休みの宿題の旅日記には書いておこうか。あ、試聴できるものを探したんですが、見つかりませんでした。残念。




最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。