ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

わたんじの歌

2010-02-08 03:03:30 | 沖縄の音楽

 日曜の朝刊を開いたら、先ごろ亡くなった森繁久弥の回顧CDの広告など載っていた。そいつを見ながら「う~む、CD6枚組で13000円かあ・・・」などとツイッターしつつ頭を掻く。どうしたもんかねえ。
 いや、特に森繁のファンだとか思い入れがあるとかいう訳じゃないんだが、この大部の全集の隅っこにいくつか気になる曲があり、なんとなく引っかかるのだ。気になる2~3曲のために大枚13000払う訳にも行かないし。他の音楽なら、それを買った奴に聞かせてもらうという手もあるのだが、こういうものを買う奴がそう簡単に身近かにはいないだろう。

 今回の全集で言えば3枚目の、”哀しき軍歌”に入っている「ポーランド懐古」なんてのは気になる。ロシアとドイツ。なにかとナンギな両国に挟まれて苦難の歴史を歩んできたポーランドの運命に関わる歌なんだろうか。このタイトルだけで、もう歴史へのロマンとなにやら切ない思いで胸がシンとして来はしないか。
 ネットで調べてみると、”他国に領土を蹂躙されたポーランド国に同情の想いをこめて作られた”なんて解説がされていて、ほら見ろやっぱり。それ以上の詳しい解説も、もちろん歌詞の現物も見つからないので、後は想像するしかないのだが、聴いてみたい、と言う想いはつのるよなあ。

 同じく軍歌編には”バタック族の歌(戦士を送る母の歌)”などと、ますます気になる曲もある。バタックといえばスマトラ島北部に住む独自の文化を誇る民族で、イスラム国のインドネシアにおいてキリスト教を信仰する者も多かったり、何かと気になる人々である。
 これは、それらの人々をテーマにして我が国で作られた曲なのか、それともバタック族の間で歌われていた歌に日本語の歌詞でも付けたものだろうか。バタック族は音楽面でも独自の才能を持ち、興味深い内容の民族ポップスを持っていたりするので、これは気になる。
 この曲に関しても満足できるような解説には出会えず、そして両曲ともYou-tubeでも見つけることは出来なかった。

 この種の昔の歌い手の大全集の広告を見るたびに、こんな思いをしているのだが、有効な対処法はないものだろうか。時の流れの中でその面影薄れ行く、かって人々に愛された歌々と、それらが秘めていた様々なドラマ。なんとか捉えてみたいが、何しろ1曲や2曲のために13000円は痛いよなあ。
 などと、貴重な資料を得るためにはゼニなど惜しまない真面目な研究者からはセコい奴と呆れられそうなぼやきを繰り返しつつ、それでも当たってみるうち、4枚目の”老いた船乗りの歌”編に収められている「わたんじの歌」に当たりが出た。

 この歌は大正12年に、沖縄、というか八重山の宮良長包氏の作曲、大浜信光氏の作詞によって作られた「泊り舟」なるローカルの歌謡曲であるようだ。
 森繁は「泊り舟」を聴いて気に入って、舞台などで歌っていたようだが、何しろうろ覚えのメロディを例の森繁節で勝手に改変し、かつ一番しか知らない歌詞も、その後の部分を勝手に創作し書き加えてしまった。結果、本来の歌とはかなりかけ離れた出来上がりとなり、原曲を知る八重山の人々は、森繁のこの録音を聴いてかなり複雑な想いをしたようだ。

 で、この曲はめでたいことにYou-tubeに見つけることが出来た。確かに沖縄本島の歌とは微妙に手触りの違う歌で、これが八重山の味の一つなのだろう。

 「渡地(わたんじ)は風だよ 今日も泊り舟 風見の旗がホイ ちぎれるぞ」

 吹き抜ける風に海の暮らしの厳しさや寂寥感が滲むような切なさの伝わってくる歌で、森繁が惚れたのも分るような気がする。
 それにしても森繁が偶然この歌を聴いた、その成り行きというのはどのようなものだったのだろう?”ひょんなところで島唄と遭遇”というと、あの田端義男と奄美新民謡との出逢いなど連想せずにはおれないのだが。




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5 コメント

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Unknown (hasuge)
2010-02-08 09:34:23
「波蘭懐古」の歌詞は次で見られます。
http://rasiel.web.infoseek.co.jp/uta/poland.htm
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hasugeさんへ (マリーナ号)
2010-02-08 21:51:17
どうも情報ありがとうございます。
どのようなメロディが付いていたのでしょう。
どんな人がどんな思いで作ったのでしょう。
考え始めたらキリがありませんが。
そんな歌々々で世界中が溢れそうで。
凄い話と思います。
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Unknown (hasuge)
2010-02-09 17:56:44
1892年から93年にかけてベルリンからウラジオストクまで騎馬で横断した福島安正少佐の快挙に詩想を得て、歌人で国文学者の落合直文(1801~1903)が著した詩集『騎馬旅行』(1893年刊)の一部だそうです。バタック族の歌は、試聴できる部分から判断すると、日本語ではありませんね。西スマトラ民謡としてあるものもありました。
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Unknown (hasuge)
2010-02-09 19:27:26
波蘭懐古の音源見つけました。アマゾンのミュージックで、キングレコードの20世紀の音楽遺産軍歌1を検索すると、視聴サンプルがあります。
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hasugeさんへ (マリーナ号)
2010-02-10 01:32:06
再度情報提供、恐縮です。
さっそく聴いてみましたが波蘭懐古の歌、メロディラインはいわゆる昔風の軍歌で、あまりポーランドを感じることが出来ず。むしろ福島安正少佐の冒険行のほうに興味惹かれてしまいました。(ベルリンからウラジオまで騎馬でって!)
ともあれ、ありがとうございました。

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