ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

エジプトの夜の標的

2012-10-27 22:44:05 | イスラム世界

 ”Aktar Men Ale Waqt”by Laila

 アラブ・ポップスの世界においては、まさに”今が旬”と言わんばかりのノリで攻勢を強める湾岸サウンド、”アルジール”の、天地を揺るがすようなポリリズム攻撃の快感にただ身を任せるばかりの私だったのだが、その間を突いてこんな具合にグッと重心を落として迫る一枚も出てくるのだから、アラブの音楽魔界はますます深い。
 エジプト出身の若手だとのこと。彼女、見た目もエロいが歌声も十分エロい。ジリジリと摺足で目標に迫る中世語りものの腕利きの刺客、なんてものを想起させる、地を這い回るようなテンポを落としたリズムに乗せて、官能的な、だが刺すような怜悧なものも内に秘めたライラ女史の歌声が発火する。

 うっかり親戚の法事の席の帰りに聴いてしまったせいか、このアルバムを支配するリズム、念仏のテンポと同じだよな、なんて思ってしまう。あるいはヤクザのタンカバイか。
 ともかく今のアラブ世界でこのテンポでジットリと迫る人は、あまりいないはずだ。何やら凶悪な(しかもセクシーな)ケモノに狙いを定められ追い詰められた気分。
 そのノリはアナログ盤の用語で言えばA面が終わり、B面に移ったところで一気に燃え上がる。リズムは一気にアップテンポとなり、狂おしく燃え上がるライラ女史の粘度の高い唄声は、そのまますべてを焼き尽くしてしまうのだった。

 初めて聴いたときは、「なんか地味だなあ」とか感じたものだったが、聴き返すたびに味わいが増し、奥行きが広がってゆくようで、これはすごいものに出会ってしまったかな、などと思ってみたり。





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