ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

非在のハバナにて

2012-11-27 03:59:42 | 南アメリカ

 ”Mi Linda Havana”by Mateo Stoneman

 ひょんなことからキューバ音楽に魅せられてしまったアメリカ白人男性、すっかり彼の地の吟遊詩人になりきって、ハバナの夕暮れの甘美な夢を歌う。
 というものであるらしい、この一枚。スキモノの間で噂の一枚。
 こういうのも、例の”フィーリン”のジャンルになるんですかね。この、甘く優しい、バラードの世界。

 私が勝手に作り出した”フィーリンの評価基準”というのがあって、まず、甘く切ないバラード専門でなければならない。気ぜわしくやかましいアップテンポの曲なんて、一曲もいらない。
 で、男性ヴォーカルであるべき。女性ボーカルでは華麗に過ぎます。どちらかといえば男子ボーカルの、ある種申し訳なさをどうしても孕んでしまう負の存在感が、ここでは良い味付けになる。
 もちろん、パワフルである必要なんてまるで無し。ひたすら非力な色男の粋筋を通して欲しい。

 さらに伴奏。これは薄ければ薄いほど良い。ギターやピアノのみがベスト。それも歌手本人の弾き語りであったら、もう言うことはない。
 歌であるが、”粋”であって欲しいがいわゆる歌唱力は必要ない。むしろ邪魔だろう。たどたどしいくらいでちょうど良いのではないか。もちろんその底に、繊細すぎてあっけないほど壊れやすい蒼いセンティメントが、感傷が溢れそうになっていなければ、お話にならない。これは大前提だからね。

 なんてことを並べているが、別に普遍的な評価基準と言い張る気など毛頭ない。当方が個人的にそのようなものを聴きたいと念じているだけの話。
 で、さて、このような当方の好き嫌いの基準に、いい具合に付き合ってくれているストーンマン氏なのであるが、そもそも彼とは関係のない土地であるハバナの街を、うっかりそこの音楽に惚れ込んでしまったのが因果、うろつきまわる羽目になったその姿が、なにやら愛らしく見えるからにほかならない。

 いや、実は、彼が気になり始めてしまった本当の理由は、彼の頼りない裏声が、あのトランペッターにして不可思議ジャズボーカルの巨星、チェット・ベイカーなど連想させたからかも知れない。
 スコンと広がった空間に奇妙な裏声がヒラヒラと迷い出し、ひととき宙を舞い、消えて行く。その有り様が、なんだか場違いな星に漂着してしまって、しかもそんな自分の異変に気がつけない一人ぼっちの宇宙人みたいに見えてくるのだ。





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