ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

アマゾン河が語りかける

2011-09-14 03:24:26 | アンビエント、その他

 ”Aguas Da Amazonia”by Uakti

 ブラジルの実験音楽集団の1999年のデビュー盤であります。
 この連中、自分たちで自己流の楽器も作ってしまうという主義のようで、塩化ビニールの管を切ってフルートや打楽器関係を作ったりひょうたんで弦楽器を作ったり。そんな得物を手に演奏を行う。そんな連中がミニマル・ミュージック界の有名人、フィリップ・グラスの、ブラジルのモダンバレー集団のための書き下ろし作品を演奏しているのが、このアルバムであります。
 というと音程あやふやな楽器をたどたどしいテクニックで操る、愛嬌で勝負のフリーマーケット的外見の楽団を想像しますが、これがそうでもない。なにしろ彼ら、ブラジルでは名のあるクラシックの楽団メンバーでもあるとかで、すべての楽器はきっちりとチューニングがなされ、テクニックも万全、隙はない。

 その独特の楽器たちの中で印象に残るのは、塩化ビニール製のパーカッション。音は確かに、ポンポコと中身が中空の物質らしい、ある意味間抜けな音を響かせます。空洞のある木などを叩いた時の暖かい音ではなく、さすが塩化ビニールというか、どこか生命のあるところから響いてくるのではない、奇妙な虚のエコーを伴っています。未来世界の哀感を先回りして音で聴いてしまったみたいな。この音が妙に心に残る。
 グラスの曲は、シンと静かな、でもどこかに広大なアマゾンの自然への畏敬を滲ませた、奇妙に湿った体温みたいなものを感じさせるものです。あ、言い忘れてましたが、このアルバムに収められた曲にはそれぞれアマゾン川の支流の名が振られていて、盤そのもののテーマがアマゾン川であるみたい。メロディーの底に沈む深い哀感が、聴き進むうち、ジワジワと効いてきます。こんなにエモーショナルでいいんでしょうか、ミニマルミュージックが。

 そして、渋めに進行してきたアマゾン川への魂の探検行は、終り近く、ここで全支流が合流したんでしょうか、9曲目の”アマゾン川”なる曲で激しい火花を散らします。この演奏は迫力があって、ほんと息を呑む。
 それにしても音楽の全体は使われている楽器のせいで、どこか”未来からの視線”っぽい気配を帯びているのでありまして。聴き終えた感想としては、遠い未来、すでに枯れ果ててしまったアマゾン川からの現代人へのメッセージと、私には聞こえる。そして、「アマゾン川、遅かった。申し訳ない。我々はもう、未来を失ってしまったんだ」なんて回答を、この音楽は奏でているみたいに聴こえてしかたがない。こんな時勢だからでしょうか。





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