ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

小鳳鳳、走り続けろ!

2007-09-13 04:11:58 | アジア


 ”向前走”by 小鳳鳳

 秋ですね。先日は急にストンと気温が下がり、用事があっていつものようにTシャツと短パンでバイクにまたがったら、昼下がりの街ははっきりと”寒かった”ので、呆れてしまった私でした。まったく昨今は。猛暑は秋抜きで、いきなり冬に直結しようとしやがる。
 おかげでこの頃、風邪気味で不調ですが、皆様、いかがお過ごしでございますか。

 この日録に書いたらちょうど良いような興味深い音楽に出会い、ちょっと熱中してしまったりするのはたびたびだが、「いやいや、もう少し資料が集まって記事にしよう」なんて言っているうちに書くタイミングを逸してしまう、なんてことがある。

 まだろくにその音楽に関する知識もないし、CDの2枚や3枚聴いただけであれこれ言うのは早いかな、などと思って、音楽への感想を述べる事を躊躇しているうちに、気が付けば、もうその音楽への興味が、こちらのうちで一段落していて、特に文章を書いてみようなんて情熱は失せかけている。「余計な事をグダグダ言わずに、黙ってCD聴いていればいいや」とか何とか言っちゃって。

 実は、「その音楽の実体は良く分からないのだが、なんとなく惹かれる、匂う」なんて時点が一番面白いのだ。一番、音楽とホットな関係が成立しているのだ。資料を集めて冷静に分析してみたりするようになったら、それはもう、ある種の倦怠期なのだよ、きっと。

 そんな次第で。一時期、夢中で聴いていたのだが、ろくに記事にせずに終わろうとしているある音楽について、ちょっと書いてみる。

 そもそもは、もう10数年前、いつも利用しているレコード店の店主氏に「面白い音楽がある」と教えられたのだ。聴いてみると、チャチャチャの軽快なリズムに乗り、極彩色のアレンジを施された中国歌謡や日本の懐メロ歌謡曲の中国語ヴァージョンなどが次々に飛び出してきて、そのバイタリティ溢れる音楽世界に驚かされた。

 マレーシアあたりを中心に展開している、東南アジア各地に在住の中国系住民らの間に流布する大衆音楽とのこと。福建省から東南アジアに流出した人々が多いようで、歌われる歌詞は同じ中国語でも福建語が多く、それゆえそれらの音楽、我が日本のマニアの間では”福建もの”とか”福建ポップス”と呼ばれているそうな。私は勝手に”南洋中華街サウンド”と呼ぶことに決めていた。

 マレーシアは人口1千万余のうち、中華系は三分の一程度だが、多くは商店などを営み、抜け目ない商才を発揮して経済力を蓄える。そんな彼らに反発を覚えた”多数派”のマレー人たちの中の一部の者による”中華系国民”への焼き討ち事件なども過去において起こっていたそうで、民衆の意識の底辺には、何事かわだかまるものがあるやも知れない。まあ、この件の解説は私なんかよりもっと適任者がいることでありましょうけど。

 ともかく私は、”福建ポップス”のえげつないばかりのパワフルな大衆パワーに襟首をつかまれた感じで、夢中でカセット(が多かった)やCD(は当時、まだ少なかった)を買い集めた。
 地図の上にはその”領土”が存在しない、にもかかわらす大衆に愛される、と言う形でやすやすと国境線も超え、東南アジアを覆う、”見えない共和国”を形成してしまっている音楽、という不思議さにも想像力を刺激された。

 手に入れたカセット群の中でもひときわ輝かしい光を放って感じられる少女歌手がいた。小鳳鳳という名の、まだミドルティーンの、マレーシア生まれの華人の歌い手だった。
 ともかく、その幼さにもかかわらず、と言ったらいいのか、それとも子供ゆえの生命力からと解釈すべきか、その歌はあつかましいばかりの迫力を放ち
、喉から吹き上げる大音声で朗々と歌い上げられる中国や日本の懐メロの数々は、実に痛快で、いくら聴いても飽きることがなかった。
 これはまた。とんでもないところに素敵な歌い手がいたものだ。

 南国らしく陽気にパワーアップされたリズム、ほのかにサウンドの中に紛れ込む、現地マレーの音楽性、異境にあってもしぶとく輝きを失わない中国大衆音楽、なぜか影を落とす日本の歌謡曲、などなどさまざまな要素が混ざり合い、グツグツと沸騰した、そんなサウンドに乗って快調に流れて行く小鳳鳳の歌声。やあ、いいな、いいな。まだ、ほんの15,6、そのくらいの女の子なんだけどねえ。

 などといっているうちに時は流れ。気まぐれな私としては、いくら小鳳鳳が気に入ったからといって、福建ポップスばかり聴いてもいられず、その他のアジアやアフリカやらの音に耽溺し、ひと時、福建ものの存在を忘れた。

 そのような事情で何年間かのインターバルをはさみ、私は先日、小鳳鳳の新譜の紹介に、ある店のカタログで出会ったのだった。そこに添えられたCDのジャケット写真で、すでにベテラン歌手の貫禄を漂わせ始めた小鳳鳳の姿があった。
 こいつはちょっとショックだったね。いやまあ、そりゃそうだよ。十数年前にファンだったミドルティーンの歌手、その子は今、当然、30歳を過ぎる。それはそうなんだけど。

 でも、私の心のうちには、でかい口をあけて思いっきりパワフルに福建歌謡を歌い上げる無邪気な南国の少女の面影が、あんまりはっきりくっきりと焼き付けられていたんでね。
 で、さて、小鳳鳳の新譜、聞いてみるべきかやめといた方が良いのか?どんな歌を歌ってるんだろうねえ、今は?

 それにしても今年は・・・はたしてまともに秋は来るんだろうか、私の大好きな季節。また、「来た」と認識するまもなく、木枯しの冬に直結してしまうんだろうか。