南斗屋のブログ

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酒気帯び運転のみで公務員に懲戒免職処分(名古屋高裁判決から)

2021年04月01日 | 地方自治体と法律
(飲酒運転に対する厳しい目)
 飲酒運転についての市民の眼は非常に厳しくなりました。
 私が社会に出たころは、酒気帯び運転の罰金の上限は5万円で、検挙1回目罰金5万円、検挙2回目も罰金5万円、検挙3回目にしてようやく正式裁判となっていました。懲役刑の上限は3か月でしたから、正式裁判1回目であれば懲役3月執行猶予3年というのが標準的な刑だったように記憶しています。
 しかし、刑事罰として酒気帯び運転は法定刑が2002年以降厳格化し、その後も法定刑の上限が引き上げられて、現在は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金とされています。
 厳罰化の一つのきっかけとなったのが、福岡市職員が飲酒して死亡事故を起こした事件でした(2006年)。
 このようなこともあり、酒気帯び運転をした公務員の懲戒処分も厳罰化しました。
 そこで今回は、酒気帯び運転のみで地方公務員を懲戒免職処分を肯定した裁判例を見ていきます。

(名古屋高裁平成29年判決の事案)
 今回取り上げるのは、名古屋高判平29・10・20(判例地方自治436・19)です。
 まず、事案の概要です。
 判決をそのまま引用します。
「本件は、名古屋市上下水道局の職員であった1審原告が、酒気帯び運転で検挙されたことを理由として、名古屋市上下水道局長(処分行政庁)から平成27年9月3日付けで受けた懲戒免職処分(以下「本件懲戒免職処分」という。)及び退職手当支給制限処分(以下「本件支給制限処分」といい、本件懲戒免職処分と併せて「本件各処分」ともいう。)はいずれも裁量権を逸脱又は濫用した違法なものであると主張して、1審被告(以下、単に「市」ともいう。)に対し、本件各処分の取消しを求めた事案である。」
 地方公務員に懲戒免職をし、退職手当を支給しないというのは、2つの処分となります。①懲戒免職処分と②退職手当支給制限処分の2つですね。引用したところからは、わかりにくいのですが、②の退職手当支給制限は実質的には退職手当全額について制限されています。つまり、懲戒免職のうえ、退職手当は支払わないという処分を受けたことになります。退職金は計算上2000万円以上となったということですから、この処分が確定すれば、処分を受けた職員は、職も失うし、2000万円も失うことになるわけです。


(免職処分を肯定する事情)
 裁判所が考慮した事情のうち、免職処分を肯定する方向にいくものは次のとおりです。
①本件酒気帯び運転の性質、態様は極めて悪質。その経緯も含めて酌量の余地はない。
・アルコール濃度は呼気1リットル当たり0.29ミリグラムで、道路交通法違反で処罰される基準値の約2倍。
・酒臭は強く顔色は赤く目の状態も充血しており、原告自身も酔いの感覚が多少あったことは自覚していた。
・しかるに、原告は、事務所や車内で仮眠を取るなど飲酒運転を回避するための行動を取ろうともしなかった。
・事務所から原告の自宅までの距離やその当時の天候等からすれば、原告が徒歩やタクシーで帰宅することも容易であったはず。原告が車を運転して帰宅しなければならない必要性も緊急性も全く認められない。
②公務への影響・市政に対する信頼の失墜
・原告は、職務上公用車を使用することが多かったのに、本件酒気帯び運転で検挙されたこと等により、夜間勤務を他の職員と交替せざるを得ない事態を招いた。現に、公務の遂行に支障が生じている。
・近時、飲酒運転の撲滅が強く叫ばれ、市や水道局においても様々な取組を精力的に行っていた。市政や水道事業さらには市の職員に対する市民からの信用を著しく失墜させた。
③勤務状況は良好ではなかった。
・懲戒処分歴はないが、公用車の駐車違反等によって始末書の提出を命じられたり、部長から厳重注意を受けるなどもしており、勤務状況は良好ではない。

(処分を軽くする方向の事情)
①私生活上の非違行為である。
・本件酒気帯び運転は、原告の水道局での勤務の終了後、任意参加の野球部の懇親会(二次会)が終わってから行われたものであるから、私生活上の非違行為にとどまる。職務に連続した行為であると評価することはできない。
②飲酒運転の計画性はなかった。
・被告は、原告が当初から懇親会で飲酒の上で車の運転に及ぶことを意図していたとも主張するのであるが、そこまで推認することのできる証拠はない。
③本件酒気帯び運転は、幸いにも事故を伴うものではなかった。
④原告は、検挙後直ちに、勤務先の上司への報告を試みた。
⑤原告は、昭和52年4月から38年間以上にわたって水道局に勤続してきたものでありながら、本件懲戒免職処分によって地方公務員としての地位を失うこととなるばかりでなく、退職手当の受給権を失う可能性があるなど、生活上も経済的にも多大な不利益を被ることになる。

(処分は妥当との判決)
 以上のような、事情を考慮しつつも、裁判所は免職処分は適法としています。
 また、高裁判決は、退職手当支給制限も適法としています。

(最後に)
この判決は少し厳しい判決かもしれません。
酒気帯び運転のみでの懲戒免職処分を取消した裁判例もありますので。
ただ、こういう厳しい判決が出ることもあることは肝に命じた方が良いかもしれません。

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