報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「東京での一夜」 2

2017-03-31 19:25:19 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月26日17:45.天候:曇 東京都千代田区 ホテルメトロポリタン丸の内・客室]

 マリア:「ん?そろそろ夕食の時間だ」
 稲生:「あっ、そうですね」

 2人でテレビを観ていた大魔道師の弟子達。

 マリア:「夕食はこのホテルで?」
 稲生:「そうです。大師匠様はお疲れでしょうから、あまり移動しない方がいいでしょう」
 マリア:「そうだな」
 稲生:「ちょっと先生方に連絡を……」

 稲生は室内の電話を取り、イリーナとダンテの部屋に掛けてみた。

 稲生:「あっ、すいません、稲生ですけど。あの、そろそろ夕食に行こうかと思うんですが……はい」

 稲生は電話を切った。

 稲生:「すぐに出れるみたいです」
 マリア:「そうか。じゃあ、私も準備してくる」
 稲生:「エレベーターの前で待ってますんで」
 マリア:「ああ、分かった」

 稲生はクロゼットに掛けていたスーツの上着を取ると、ネクタイを締め直した。
 現代の魔道師はスーツ姿であることも多い。
 アナスタシア組など、男性魔道師は黒スーツ着用を義務付けているくらいだ。
 時代の変遷と共に、服装も変わってきているということだ。
 それは宗教の世界においてもそう。
 日蓮正宗では未だに僧職は着物の上から袈裟を羽織るが、浄土真宗などはワイシャツにネクタイ着用の上から袈裟を羽織っている姿を公式サイトで確認できる(恐らく、自分達は本来の意味での「僧侶」ではないことを自覚しているのだろう。因みに浄土真宗では、「功徳は回向するものではない」という教えなので、「功徳は回向して当然」という日蓮正宗とガチ論争になるところ)。

 稲生は革靴を履いて、部屋を出ようとした。

 稲生:「おっと!カードキー!……危うく締め出されるところだった」

 稲生は慌ててカードキーを持ち出した。

[同日18:00.天候:曇 同ホテル27F・レストラン“TENQOO”(テンクウ)]

 大師匠ダンテと師匠イリーナと合流した稲生とマリアは、夕食会場のレストランに向かった。

 稲生:「既にレストランは予約してあります」
 ダンテ:「そうか。用意周到だね」
 マリア:「国内の魔道師達が挨拶に来られたそうですが、お疲れですのに大丈夫でしたか?」
 ダンテ:「なぁに、心配要らん。こういうことにはもう慣れている。多くの弟子を抱えた師範の義務だよ」
 イリーナ:「やっぱりナスターシャとマルファが、空気も読まずにやってきたわ」
 稲生:「そうでしたか。まさか、夕食も一緒になんて……」
 ダンテ:「いやいや。あくまでこれは旅行の一環なんだから、私は認めなかったよ。そもそも、稲生君は4名で予約したのだろう?」
 稲生:「そうです」
 ダンテ:「なら、大丈夫。何も心配要らない」
 稲生:「は、はい!」

 エレベーターを降りて、稲生達はレストランの中に入った。

 稲生:「予約していた稲生です」
 スタッフ:「はい、稲生様。4名様ですね。お待ちしておりました。どうぞ、ご案内させて頂きます」

 予約していただけに、テーブルは眺望の優れた窓側の所が確保されていた。

 イリーナ:「ユウタ君、電車が見たいなら代わるよ?」
 稲生:「あ、いえ、結構です。部屋で十分見てますので」
 イリーナ:「あはははっ!そう?」
 稲生:「先生はどうぞ、窓側に」

 というわけで、本来のビジネスマナーの通りになった。
 飲み物はワインを注文した師匠達だったが、稲生とマリアはカクテルを注文した。
 特に稲生の場合は、アルコールを低めに抑えてもらった。
 案内者が酔い潰れては元も子もないからだ。

 稲生:「先生方、今日はお疲れさまでした」
 ダンテ:「うむ。ありがとう。明日が正念場となるから、キミ達にも迷惑を掛けることになるだろう。こんなことを言っておきながら何だが、今から覚悟しておいてくれ。向こうは何をしてくるか分からんからな」
 稲生:「はい」
 マリア:「承知しました」
 イリーナ:「恐らく、稲生君がネックになると思います」
 稲生:「えっ!?」
 マリア:「日本人だから、本来は東アジア魔道団の一員になるはずだったのに、ダンテ一門で取ってしまったからですか?」
 ダンテ:「確かにそういう不文律はあるけどね、交通が発達した現代においては、ほぼ形骸化したものだよ。現に、東アジア魔道団にだって、東欧出身者が含まれている」
 イリーナ:「そうですね。特に、トランプ君は向こうさん推しでしたから、尚更勢いづいていますものね」
 ダンテ:「うむ。だからこちらも、手は打たせてもらった。韓国人のチェ師が手引きしていたパク大統領には、その職を降りてもらうことにした」
 稲生:「!?」
 イリーナ:「東アジア魔道団朝鮮支部ですが、どうも内ゲバの予感がします」
 ダンテ:「向こうさんも苦労していることだろう。政治的にも火種の場所だからね、この日本は良い防波堤になるわけだ。東アジア魔道団としても、何としてでもこの国でのシェアを確保したいところだろうね」
 イリーナ:「私達にとっても、ここは“魔の者”からの良いシェルターですわ。北海道での事件では結局、“魔の者”はエネルギー供給元がヨーロッパにしか無い為に十分な補給ができなかったのも、私達に負けた要因であるとのことです」
 ダンテ:「そうだな。だから我々にとっても、日本をシェアにしたいところだ。この辺が大きな論争になりそうだな」

 稲生にとっては難しい話が飛び交っていて、とてもついて行ける内容ではなかった。
 マリアは手帳を取り出して、師匠達の会話をメモしている。
 後で魔道書に書き写すつもりだろう。
 契約悪魔の関係で物臭な性格になっているということだが、そこはまだ勉強熱心なところがある。

 食事が運ばれて来てから、ダンテは日本国内の食材がふんだんに使われている料理に舌鼓を打った。

 ダンテ:「食事が美味い国には未来がある。これだけでも、この国をシェアしたいくらいだな」
 イリーナ:「ですねぇ……。マリアが“魔の者”からの疎開先に選んでくれて良かったですわ」
 マリア:「私はダーツを投げただけです。それがたまたま日本に刺さっただけです」

 魔道師に成り立ての頃、まだマリアは“魔の者”の脅威にさられていた。
 イギリスは元より、ヨーロッパ全土が危険地帯だということで、そこ以外の地域に逃げる必要があった。
 そこでイリーナはマリアに世界地図に向かってダーツを投げさせ、そこに刺さったのがたまたま日本であったのだ。

 イリーナ:「この国土の小さい国でも、ちゃんと魔界の穴が空いているのですから便利ですわ」
 ダンテ:「何しろ、アベ首相が魔界に行くくらいだからなぁ。世界的に見れば、実は日本はそんなに国土が狭い国では無いんだよ」
 イリーナ:「なるほど。そうかもしれませんね」

 長旅の疲れもあるのか、夕食の後はすぐに部屋に戻った師匠達。
 稲生達もそうしたのだが、マリアは稲生の部屋に行って、一緒に映画を観て過ごした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「東京での一夜」

2017-03-31 15:01:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月26日16:15.天候:曇 東京都千代田区・鉄鋼ビルディング1F→ホテルメトロポリタン丸の内]

 バスは首都高速をひた走って東京都心へ出た。
 そして、新しく建て直しをされた鉄鋼ビルディングの1Fにあるバス乗り場に到着する。

 稲生:「到着しました」
 ダンテ:「うむ。では、降りよう。……イリーナ、いい加減起きなさい」
 イリーナ:「……はっ!」
 ダンテ:「寝る子は育つと言うが、もうそんな歳じゃないだろう?」
 イリーナ:「失礼しました!」

 稲生は荷棚から自分の荷物を下ろした。
 バスから降りる。

 稲生:「宿泊先は、ホテルメトロポリタン丸の内です」
 ダンテ:「ほお、上手く揃えたね」
 稲生:「恐れ入ります」

 というのは、東アジア魔道団が会談の場所に指定してきたのは、ホテルメトロポリタン山形だからである。

 イリーナ:「あのー、他の組から抗議が来てるんですけどォ……」

 イリーナは水晶球を手に、ドヨドヨした顔で言った。

 稲生:「え?何ですか?」

 ハイヤー乗り場で待っていた他の組が、一向にダンテが現れないので待ちぼうけを食らったらしい。
 あとは、やはり世界を股に掛ける超大魔道師たるダンテを一般のバスに乗せるとは何事だというもの。

 ダンテ:「放っておきなさい。もともと私のこの旅自体が、『鈍行乗り継ぎ一人旅』みたいなものだ。あえて商業便で日本入りを果たしたのもだね、その一環であって、何も大名行列をするつもりは無いんだから」
 イリーナ:「はあ……」

 鉄鋼ビルディングから歩いて数分ほどの距離に宿泊先のホテルはある。

 ダンテ:「しばらく来ないうちに、東京も変わったね」
 稲生:「この前のクリスマスパーティは、東京へ行かれなかったんですか?」
 ダンテ:「あの時は慌ただしかったから、ルゥ・ラでの移動を余儀無くされたよ」
 稲生:「そうですか」
 ダンテ:「バァルのヤツも、人間界に遊びに来たいってうるさいものだからねぇ……」
 稲生:「ちょっ……困ります!大魔王が人間界に来たら……」
 ダンテ:「ああ、分かってる。映画の“アルマゲドン”など、ただのB級映画に見えてしまうほどの大いなる災厄が訪れることになるだろう。どうせ行くなら、ルーシー女王並みに妖力を落として、お忍びで行くくらいじゃないとって言ったら黙ってしまったよ」
 稲生:「さすが大師匠様です」

 RPGでラスボスを張る魔王と言えば殆どが男性であり、実際に魔界アルカディアの国民達もそうだと思っていただけに、今度の魔王が女王になるということで混乱したらしい。
 あくまでも最初はバァルの代理統治権を持っただけで正式に即位していなかったこともあり、その頃は今の首相である安倍春明を連れて、よく人間界にお忍びで遊びに行っていた。
 ラーメン二郎を1人で平らげたジロリアンでもある。
 そんなことを話しているうちに、魔道師一行はホテルの前に着いた。

 稲生:「ここからエレベーターで上がります」
 ダンテ:「なるほど。これが最近流行りの方式か。中・下層フロアをオフィスとしてレンタルし、高層階をホテルにするというものだね」
 稲生:「そうです」

 もちろん、ホテルまでは直通エレベーターがある。
 たまたまこのタイミングで乗ったエレベーターは、稲生達だけだったので、稲生はこう切り出した。

 稲生:「あの、部屋割りの方なんですが……」
 ダンテ:「ん?」
 稲生:「御希望がツインルームということなんですが、これは大師匠様がお1人で……という意味ですか?」
 ダンテ:「はっはっはっ(笑) それだけと人数が合わないだろう?イリーナと2人だ」
 イリーナ:「あー、ユウタ君、何か変な想像してる?」
 稲生:「あっ、いやっ!そんなことは……!」
 ダンテ:「私とイリーナとは親子のようなものだ。年老いた父親を、娘が介護するようなものだな」
 稲生:(全然そんな風に見えないんだけど……)
 マリア:(むしろ師匠の方がBBA……)

 エレベーターが27階のロビーに到着する。

 稲生:「では、ここで……わっ!?」

 稲生がエレベーターを降りてびっくりしたのは、ロビーに鉄道模型のNゲージがあったからだ。

 稲生:「凄いなぁ、こういうのが普通にあるなんて!」

 もちろんただ単に飾ってあるのではなく、ちゃんと走っている。

 稲生:「マリアさんの屋敷のギミックに、鉄道模型なんかもいいと思いますが……」
 イリーナ:「コホン!ユウタ君、それより早くチェック・インしてきなさい」
 稲生:「あ゛!すいません……」

 稲生は急いでフロントに向かった。
 ダンテはソファに座りながら、笑みを浮かべた。

 ダンテ:「まあまあ、良さそうなホテルじゃないか。一泊だけして、しかも早朝出発するには勿体ないくらいだ」
 イリーナ:「そうですね。でも、ダンテ先生を安いホテルにご案内するわけにはいきませんから」
 ダンテ:「別に、雨露を凌げればいいんだよ」
 イリーナ:「そういうわけには行きませんわ」

 しばらくして、稲生が戻って来た。

 稲生:「お待たせしました。これがカードキーです」
 ダンテ:「おっ、ありがとう」
 稲生:「夕食まで時間がありますので、少しゆっくりできそうです」
 ダンテ:「うむうむ。ゆっくりしているといい」
 稲生:「?」
 イリーナ:「まず一発目にエレーナがポーリン組代表として、ダンテ先生に挨拶に来ると思うから。あとは、ナスターシャとマルファ辺りが空気も読まずに突入してくるでしょうね」
 稲生:「な、なるほど……」

 稲生達は今度はホテル専用のエレベーターに乗り込んで、客室へと向かった。

[同日17:00.天候:曇 ホテルメトロポリタン丸の内・シングルルーム]

 稲生:「はははっ、これは凄い!」

 稲生が入った部屋は、いわゆる『トレインビュー』というもので、眼下に東京駅を発着する列車が見える部屋であった。

 しばらくそれに見入っていたものだから、ホウキに跨る魔女が接近してきたことには気がつかなかった。
 と、そこへ部屋のチャイムが鳴る。
 さすがにそれは気付く。

 稲生:「はい!」

 稲生が部屋のドアを開けると、マリアがいた。

 稲生:「あっ、マリアさん」
 マリア:「早速だよ。大師匠様を訪ねて、国内にいる魔女達が集まって来ている」
 稲生:「いいんですかね?大師匠様は長旅でお疲れだというのに……」
 マリア:「そうだな」
 稲生:「僕達は何かすることがあるんでしょうか?」
 マリア:「師匠達からは何も言われてないから、別にいいんじゃないか?」
 稲生:「なるほど」
 マリア:「それより、夕食の時間まで一緒にいよう。せっかく、いい眺めの部屋に入ったんだし」
 稲生:「そうですね。ただ……」
 マリア:「ん?」
 稲生:「今気づいたんですが、このホテルの周りを魔女さん達が旋回してるのは何故でしょう?」
 マリア:「邪魔な奴らだな。眺望が台無しだ」

 マリアは不快そうな顔をした。
 だがそんなマリアも、ホウキで飛ぶことは無いものの、つい最近までは魔女の1人であった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「羽田空港出発」

2017-03-31 12:31:59 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月26日15:20.天候:晴 羽田空港国際線ターミナル1F・バスターミナル]

 稲生がチケットカウンターから何食わぬ顔をして、バスのチケットを購入してくる。

 稲生:「では、こちらが東京駅行きのバスのチケットです。乗る時に改札がありますので、1人ずつ持ちましょう」
 ダンテ:「うむ。ありがとう」

 ダンテもまた何の疑いも無く受け取った。
 しかし、イリーナは目を細めたまま、マリアに関しては明らかに不審そうな顔で稲生を見据えた。

 イリーナ:「ユウタ君……?」
 マリア:「ユウタ……?」
 稲生:「何ですか?」
 マリア:「何で東京駅まで移動するって言った?」
 稲生:「え?リムジンですけど?」
 マリア:「で、それ何?」
 稲生:「バスのチケットです」
 マリア:「ユウタ、自分で何言ってるか分かる?」
 稲生:「えっ?ええ、まあ……」
 イリーナ:「じゃあ、説明してもらいましょうか。私はともかく、ダンテ先生ともあろう御方をバスにお乗せするその理由を!」
 稲生:「いや、だって、ほら……」

 稲生は他の行き先に向かうバスを指さした。

 
(写真はウィキペディアより。車体に書かれた愛称に注目)

 稲生:「エアポートリムジンって……。首都圏の空港連絡バスと言えば、これが名物みたいなものですから、ダンテ先生はこれに興味をお示しだったのかなぁ……と」
 イリーナ:「
 マリア:「…………

 イリーナ組にクソ寒い風を吹き荒ばせた稲生だったが、ダンテは大笑いだった。

 ダンテ:「これは素晴らしい!感性だ!この感性が魔道師には必要なのだよ!分かるかね、イリーナ?ん?」
 イリーナ:「い、いえ……これは明らかに私の指導不足です。申し訳ありません……」
 マリア:「ユウタ、今からでもいい。このチケットはキャンセルして、急いでハイヤーとしてのリムジンを確保してくるんだ。早く!」
 稲生:「ええっ!?」
 ダンテ:「待ちなさい待ちなさい。今回のルートについては、全て彼に一任しているのだろう?ならば、彼の案を尊重すべきかと思うが、どうかね?」
 イリーナ:「ですが、先生。先生ともあろう御方が、バスなど……」
 ダンテ:「構わんよ。昔はバスどころか、貨物列車や貨物船に便乗して移動していたではないか」
 イリーナ:「それ、100年以上も前の話ですわよ?」
 稲生:「ひゃ、100年ですか……!」
 マリア:「一桁も二桁も違うのが、魔道師の世界だ、ユウタ」
 稲生:「は、はい」
 ダンテ:「ま、とにかくだ。何が言いたいかというとだな、私は全然気にしていないということだ。だから、キミ達も気にしないことだ。いいね?」
 イリーナ:「分かりました」
 マリア:「大師匠様がそう仰るのでしたら……」

 そうこうしているうちに、バス乗り場にエアポートリムジンバスが到着する。
 羽田空港〜東京駅北口(鉄鋼ビル)の路線は、東急空港交通と羽田京急バスが共同運行している。
 どちらも車体にLimousineの愛称が描かれているので、稲生にとっては世話無いことであるのだが。

 係員:「お待たせしました。15時30分発、東京駅北口(鉄鋼ビル)行きです」

 ドアが開いて係員が案内する。

 イリーナ:「申し訳ありませんね。先生ともあろう御方に、こんなエコノミークラスなお席に……」
 ダンテ:「心配無いよ。この前、アンと一緒に船旅をした時、船の手配が付かないという理由で、タンカーに乗せられたものだ。あれと比べれば、ちゃんと旅客輸送用に設計された乗り物に乗れるだけマシってなものだ」
 イリーナ:「アンのヤツ、そんなことを……。私も相当ズボラな性格ですが、あいつはそれ以上ですからねぇ……」
 ダンテ:「魔道師としての素質を持つ者には、ままある性格だよ。……ここでいいのかい?」
 イリーナ:「あ、はい。では、どうぞ窓側に……」
 ダンテ:「うむ。稲生君、このパターンからして国内線ターミナルで混雑するというものかね?」
 稲生:「恐らくそうだと思います。これから第2ターミナルと第1ターミナルと停車していく上、東京駅行きは需要がありますから」
 ダンテ:「そうか。ならばイリーナ、隣に来なさい」
 イリーナ:「は、はい。失礼します」

 大柄な欧米人同士だと、さすがに座席は狭いかもしれない。

 ダンテ:「ん?イリーナ、少し太ったかね?密着度が少しアップした気がするのだが……」
 イリーナ:「なっ……!?」

 イリーナは顔を赤らめた。

 ダンテ:「その体の耐用年数が迫っているのは分かるが、寝てばかりいないで、少しは運動した方が良い。体力が付けば、例え僅かでもその耐用年数はアップする」
 イリーナ:「わ……分かりました」

 後ろの席に座るマリアは笑いを堪えるのに必死だ。

 マリア:(さすが大師匠様。私の言いたいことを代弁して下さった)

 発車時間が迫ると、係員が乗り込んできて、メッセージボードを抱えながら車内を一巡する。
 そのボードには『シートベルトをお締めください』とか、『座席の専有はおやめください』とか書かれている。
 係員が一礼してバスを降りると、バスのドアが閉まって出発した。
 乗り場に残った係員達が一礼して、バスを見送る。
 この光景は外国では見られず、日本オリジナルのものらしい。

 マリア:「バスを降りたら、ホテルはすぐ近くなんだろう?」
 稲生:「もちろんです」
 マリア:「この前、家族旅行の際に泊まったビジネスホテルとかじゃないだろうな?」
 稲生:「大丈夫ですよ」

 稲生は大きく頷いた。
 バスはターミナルの間を移動し、乗客を拾い集めた。
 そして、最後のターミナルを出発する頃には満席に近い状態となったのである。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする