報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「鳴子中央ホテル」

2019-08-31 23:04:42 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月23日15:15.天候:曇 宮城県大崎市鳴子温泉 鳴子中央ホテル(架空のホテル)]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 鳴子温泉駅に到着した私達は駅前の足湯を堪能した後、宿泊先のホテルへ向かった。
 ホテルは温泉街を抜けた所に位置しているが、駅から歩ける所でもある。
 山の斜面に沿うようにして建っており、階層的にはそんなに高くないホテルであるが、客室からの眺めは期待できそうだ。
 しかし、その為にはキッツイ坂を登らなくてはならない。
 これ、冬だと雪が積もったら車で登るのは大変そうだ。
 JC達はスイスイと坂を登って行く。

 高野:「ほら、先生。頑張って下さいな」

 高野君が私を年寄り扱いしてきやがるが、しかしマジでキツい。

 高橋:「先生、頑張ってください」

 高橋が私の背中を本当に押す。
 だが、おかげで楽に登れた。
 歳は取りたくないものだな。
 え?私の歳?まあ、アラフォーとだけ答えておく。

 従業員:「いらっしゃいませ。御予約の方ですか?」

 エントランスの車寄せまで行くと、黒スーツ姿のホテルマンが出迎えてくれた。

 愛原:「は、はひ……!と、と、東京から来た……あ、愛原と申し……ひぃ、ひぃ……!」
 高野:「先生、無理なさらないで」

 高野君は私を制すると、ホテルマンに向き直った。

 高野:「株式会社大日本製薬代表取締役社長、斉藤秀樹様の御紹介で参りました愛原学探偵事務所の者です」
 従業員:「愛原様でございますね。お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」

 ホテルマンが恭しく私達をロビーへ通す。

 従業員:「急坂の登攀、お疲れ様でございます」
 愛原:「な、何のそのこれしき……!はははは……はーあ……!」
 高野:「先生、お疲れのところ申し訳ありませんが、先生が代表者なのですから、チェックインの手続きをお願いします」
 愛原:「わ、分かってるとも!キミ達はここで待っていてくれ!」
 高橋:「は、はい」
 斉藤:「きれいなホテルねー」
 リサ:「うん。研究所では絶対に無い光景」
 斉藤:「け、研究所?ま、まあ、お父さんの会社の研究所には無いねぇ……」

 当たり前である。
 私はフロントに行くと、斉藤社長がくれた紹介状を提出した。
 そのおかげで私の財布からお金が出て行くことは無かった。

 フロント係:「それではお部屋が最上階の7階の701号室と702号室をお取りしてございます。あちらのエレベーターで、7階へどうぞ」
 愛原:「よろしく」

 最上階か。
 こういうホテルの最上階にはスイートルームなんかあったりするものだ。
 大抵大きなホテルにはそういった部屋がいくつかあるものだが、このホテルは鳴子温泉の中でも中規模程度のもの。
 恐らくそれは一部屋しか無いだろう。
 二部屋用意されているということは、恐らくそれよりは下位クラスの部屋だと思われる。

〔上に参ります〕

 私達はルームキーを手にエレベーターに乗り込んだ。
 その中には館内の案内図が掲示されている。
 屋上は展望台になっているらしい。
 大浴場は下階にあるようだが、元々が高台に位置しているホテルなので、あえて最上階に大浴場を設ける必要は無かったのだろう。

〔7階です。ドアが開きます〕

 エレベーターを降りると、部屋番号的には角部屋になるので、そこまで向かった。

 愛原:「俺と高橋は701号室に入るから、高野君達は702号室に入ってくれ」
 高野:「分かりました」
 リサ:「同じ部屋じゃないの?」
 愛原:「あいにく男女別にしないといけないんだ」
 リサ:「後で遊びに行ってもいい?」
 愛原:「いいよ」
 高橋:「ええっ!?」
 愛原:「別にいいだろ。どうせさっさと着替えて、温泉に入りに行くんだから」
 高橋:「まあ、それもそうですけど……」

 部屋に入ると、中は思ったほど高級感があるわけではなかった。
 ただ、和洋室ということもあって、2人で使うには広い部屋だ。
 セミダブルベッドが2つ置いてあり、和室も10畳くらいの広さがあった。
 洋室部分もまた同じくらいあるので、全部で20畳といったところか。
 8人くらいは泊まれそうな部屋だな。
 ベッドに2人寝て、和室部分に布団が6つは敷けそうだからだ。

 愛原:「何か広過ぎて落ち着かないな」
 高橋:「泊まり掛けの時はいつも東横インのツインの部屋だから、尚更そうですね」
 愛原:「悪かったな、狭い部屋しか泊まれなくて」
 高橋:「さ、サーセン!」

 その時、ピンポーン♪とインターホンが鳴った。

 愛原:「はーい」

 私が出ると、着物姿の女将がいた。

 女将:「失礼致します。御挨拶の方、よろしいでしょうか?」
 愛原:「あ、はい。どうぞどうぞ」

 私がドアを開けると、女将が楚々と入って来た。

 女将:「本日は当、鳴子中央ホテルをご利用頂きまして、ありがとうございます。従業員一同、心より歓迎させて頂きます」
 愛原:「あ、こりゃどうも」
 女将:「あ、どうぞ。お掛けになってください。今、お茶お入れしますね」
 愛原:「ほんと」

 私と高橋は和室にある座椅子に向かい合わせに座った。

 女将:「いかがですか、お部屋の方は?」
 愛原:「いや、思ったより広いね。2人で使うのが勿体無いくらいだよ」
 女将:「いいえ。どうぞ、お寛ぎになってください。窓からの眺めも凄くいいんですよ?」
 愛原:「あ、やっぱりそうなんだ!ちょっと見てみようかな」

 私は席を立つと、窓のカーテンを開けた。

 女将:「裏山が一望できるんです」
 愛原:「いや、確かに大自然を堪能って感じだけど、逆に山しか見えないじゃん!?温泉街とか見えないの?」
 女将:「あ、街は反対側の方になってしまうんですね」
 愛原:「マジかよ……」
 高橋:「クソみてーな部屋だな……」
 女将:「今日はどちらからお見えになられたんですか?」
 愛原:「うん、東京!」
 女将:「東京ですか。こんな田舎の宿にお越し頂いて、本当にありがとうございます」
 愛原:「いやいや」
 女将:「こちらは何かでお調べになったんですか?」
 愛原:「いや、ちょっと仕事関係のね、依頼人さんの紹介でね、泊まらせてもらうことになったの」
 女将:「そうなんですか。どうぞ、粗茶でございますが……」
 愛原:「あ、いやいや、どうも。この辺さ、温泉ってどんな感じなの?」
 女将:「あ、結構色々な種類がございますよ?」
 愛原:「へえ!」
 女将:「当館のお風呂は白く濁ってるんですよ」
 愛原:「ああ!濁り湯ってヤツか!」
 女将:「そうですね。で、もうとっくにお気づきだと思いますが、硫黄の臭いがしますね」
 高橋:「異様な臭い!?」
 愛原:「硫黄の臭いっつってんだろ!」
 女将:「お肌もツルツルになるということで、よく若い女性の方なんかも多くお泊りになって頂いて……」
 愛原:「ああ、隣の部屋?俺の連れなんだけどね、そういう話を聞いたら喜んで入るかもね」
 女将:「ところで、御夕食の方は如何致しましょうか?」
 愛原:「ああ、夕飯?夕飯、何時から?」
 女将:「一応、夕方6時からとなっておりますが……」
 愛原:「ああ、ベタな法則だな」
 女将:「大人数のお客様ですと宴会場を御用意させて頂くんですけども、少人数のお客様には当館内のレストランのお席を御用意させて頂く場合が多いんですよ」
 愛原:「これまたベタな法則だな。いいよ、レストランで」
 女将:「かしこまりました。それでは1階の奥に和食レストランがございますので、そちらで御用意させて頂きますね」
 愛原:「ああ、そういえばロビーの向こうに看板出てたな……」
 高橋:「オバちゃん、大浴場はどこだ?」
 女将:「2階にございますよ」
 高橋:「先生、2階ですって」
 愛原:「そうか。じゃあ、早速浴衣に着替えようかな」
 女将:「どうぞどうぞ。そちらのクロゼットに浴衣が入ってございますので……」
 愛原:「あ、ここね。やっぱこういう所来たらさ、着替えてナンボだよな」
 女将:「そうですね。どうぞ、お寛ぎになってください。あ、それでは私はお隣の部屋へ御挨拶に行かせて頂きますので、何かありましたらそちらの内線電話でフロントにお掛けください」
 愛原:「あ、その電話ね。了解」
 女将:「それでは、失礼致します」

 私達は女将が退室した後、浴衣に着替えた。

 愛原:「まあ、普通なホテルって感じだな。観光地化した温泉街にあるホテルって感じ」
 高橋:「そうですね」

 私達は浴衣に着替えると、同じくクロゼットの中にあったフェイスタオルを手に大浴場へ向かった。
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“私立探偵 愛原学” 「鳴子温泉」

2019-08-30 19:10:10 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月23日14:41.天候:曇 宮城県大崎市 JR鳴子温泉駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は大日本製薬(愛称ダイニチ。ロゴマークは大日如来を象ったもの)の経営者、斉藤秀樹社長から娘さんのお守りを頼まれ、鳴子温泉までやってきた。
 そういえばこの製薬会社の温泉の素も大人気だが、その中に『鳴子の湯』なんてのもあったなぁ……。

〔まもなく終点、鳴子温泉、鳴子温泉に到着致します。鳴子温泉駅では、全ての車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。【中略】今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 ワンマン運転用の自動放送が車内に流れると、車内の客層の半分以上を占める観光客達が降りる仕度をし始めた。
 この路線で運転されているという臨時快速は完全に観光客向けの列車である為、こういう定期列車は地元客用なのだろうと思いきや、それらしい乗客は散見されるに留まる。
 隣を通る国道47号線では車がバンバン走っていることから、この辺りも地元の人間は列車には乗らず、車で移動するのだろう。
 従ってこの路線も(鳴子温泉駅より西はどうだか知らないが)観光路線にカテゴライズされると思われる。
 幸いにもこの鳴子温泉は温泉通の中でもメジャーな所だから、ある程度の観光客は見込まれているようだ。
 通勤路線でも観光路線でもウハウハの小田急電鉄と東武鉄道は良い商売だと思う。

 斉藤:「それにしても、凄い臭い……」
 愛原:「硫黄の臭いだよ。鳴子温泉には色々な成分の温泉があるが、第一にはやはり硫黄泉だからね」

 慣れるまでは少し大変かな。
 これぞ温泉という匂いではあるのだが。
 列車はゆっくりと鳴子温泉駅の1番線に入線した。

〔「ご乗車ありがとうございました。鳴子温泉、鳴子温泉、終点です。お忘れ物、落し物の無いよう、ご注意ください。中山平温泉、赤倉温泉、瀬見温泉方面、普通列車の新庄行きをご利用のお客様は、3番線から15時ちょうどの発車です」〕

 

 私達は運転席後ろのドアから列車を降りた。

 駅員:「はい、ありがとうございましたー」

 改札口は自動ではなく、1つだけのブースに駅員が立ってキップを回収していた。
 尚、こういう駅でもSuicaは使えるようで、出入口に読取機が設置されていた。
 途中の無人駅であっても、こういうSuicaの読取機だけは設置されているという所もあるらしい。
 駅から外に出る。

 

 そろそろ周辺のホテルや旅館ではチェックインの時間だからか、駅前にはタクシーだけでなく、それぞれのホテルや旅館の送迎車が待っていた。

 斉藤:「愛原先生、ここからどうするんですか?」
 愛原:「歩いて行くよ。もうホテルはすぐ目の前だから」

 私はこれから宿泊するホテルを指さした。
 それは山の斜面に沿うように建っており、駅前から徒歩でアクセスしようとすると、少々キツい坂を登らなくてはならない。
 しかし、部屋からの眺めは抜群であろう。

 愛原:「チェックインは15時だから、少し早い。先に足湯でも入って行くか」
 高橋:「おっ、いいっスねぇ!」
 高野:「でも、タオルが必要ですよね?タオルを持って来てませんよ?」
 愛原:「おっと!俺としたことが!」
 高野:「……という観光客の為に、近くの土産物屋さんでタオルとか売ってたりするんですよねぇ……」
 愛原:「それだ!どうせフェイスタオルなんて安いものだろう。それを買ってこよう!」

 というわけで、私達は近くの土産物屋に入って行った。

 愛原:「んー、これこれ。シンプルに『鳴子温泉』と入っているだけで安上がりなんだよなぁ」

 とはいうものの、JC達はもっとかわいいデザインの入ったタオルを所望したが。
 ま、これくらいの出費はどうでもいいか。
 早速タオルを持参して、駅前の足湯に向かう。

 

 高橋:「デヘヘ……!せ、先生の水虫が俺の足を侵食するぅ〜!」
 愛原:「人聞きの悪いこと言うな!ってか、俺は水虫じゃねぇ!読者が誤解するだろうが!」
 高野:「硫黄泉は水虫にも効きますから、水虫の人が入ったところで、お湯の中で感染はしないと思いますよ」
 高橋:「リサのウィルスも殲滅できるのか?」
 リサ:「望むところ。私のウィルス、侵食させる」
 高野:「大騒ぎになるからやめなさい」
 リサ:「はーい……」

 いや、でも最近のバイオテロ組織はウィルスではなく、新種のカビを使うことがブームになっているそうだ。
 カビキラーでも倒せるのかな?
 そもそも水虫菌だってカビの一種なわけだから、こういう硫黄泉に効くわけだが、カビのBOWには効くのだろうか?

 愛原:「足湯を楽しんでからホテルに行くのもオツなもんだろう。向こうに着いたら、本格的に温泉を楽しむぞ」
 リサ:「愛原さん、ゲームコーナーある?」
 愛原:「あるらしいぞ」
 リサ:「おー!またサイトーとエアホッケーやるー!」
 斉藤:「も、もえへへへ!モチロンよ!」
 高橋:「何でそこで悶絶するんだよ、あぁ?」
 愛原:「あれ?高橋は俺とはやりたくないの?」
 高橋:「地獄の果てまでも、お供致します!」
 愛原:「だから何で地獄に堕ちる前提なんだよ?」

 足湯を楽しんだ私達は足をタオルで拭くと、今度は宿泊先のホテルへと向かった。
 
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“私立探偵 愛原学” 「奥の細道湯けむりライン」

2019-08-30 15:27:44 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月23日13:46.天候:晴 宮城県大崎市 JR古川駅・在来線ホーム]

〔ピンポン♪ まもなく2番線に、下り列車が参ります。危ないですから、黄色い線まで下がって、お待ちください〕

 昼食を終えた私達は在来線に乗り換える為、地上のホームに向かった。
 新幹線の時は気がつかなかったが、結構風が強い。
 それも、東京では熱風とも言える全然涼しくない風が吹いているのに対し、こちらの風は涼しかった。
 この涼しさが、東北まで来たことを実感させてくれる。
 それでも日に当たれば暑いもので、手元の温度計では30度を差していた。
 東京では35度を記録する中、こっちの30度は涼しいか。

 リサ:「電車来たー」
 高野:「本来は電車じゃないのよ」

 それもそのはず。
 JR陸羽東線は全区間電化されていない為、そこを走る列車は電気で走る電車ではなく、軽油で走るディーゼルカーである。
 貨物列車も走っている路線のせいなのか分からないが、在来線ホームも結構長い。
 8両編成は止まれそうなくらいの有効長である。
 にも関わらず、やってきた列車はたったの2両編成。
 屋根のある部分にしか停車しない。

〔「ご乗車ありがとうございました。古川、古川です。お忘れ物、落し物の無いよう、ご注意ください。2番線の列車は13時58分発、普通列車の鳴子温泉行きです」〕

 昼間の2両編成にしては随分賑わっている状態でやって来たなと思ったが、この駅でぞろぞろと降りて行く。
 で、この駅から乗り込む乗客はそんなに多くない。
 まだ発車まで時間があるからだろうか。
 キハ110系と呼ばれる気動車の前の車両に乗り込むと、ドア付近は通勤電車にありがちなロングシート。
 そこ以外は1人用の座席が向かい合わせになったボックスシートと、2人用の座席が向かい合わせになったボックスシートが並んでいた。
 車両の窓は固定式で開かないようになっているが、冷房がガンガン入っている。

〔「ご乗車の列車は13時58分発、陸羽東線下り、普通列車の鳴子温泉行きです。発車までしばらくお待ちください」〕

 ワンマン運転の為か、車内放送は車掌ではなく運転士が行っている。
 私と高橋、高野君は4人用のボックスシートに座り、リサと斉藤さんは2人用のボックスシートに座った。

 斉藤:「愛原先生、リサさんと外に出てもいいですか?」
 愛原:「いいけど、改札の外には出られないよ?」
 斉藤:「大丈夫です。ホームに出るだけですから」
 愛原:「それならいいよ。あ、降りる時はボタンを押してね」

 この列車は半自動ドアであり、停車時間中のドアの開け閉めは乗客が行う。
 ドアの横に開閉ボタンがある。
 こうすることで、このように停車時間の長い駅に停車しても、ドア開放による空調効果の犠牲を防いでいるのである。
 私は2人のJCをホームに降ろすと、内側からドアを閉めた。
 もちろん、2人が座っている席は荷物を置いて確保しておく。

 愛原:「この辺は風が強いのか、それともゲリラ豪雨のフラグでも立っているのかね?」
 高野:「あー、天気予報だと真夜中に雨マークが付いてますねぇ……」
 愛原:「それでも真夜中なのか。何か、今にも降ってきそうな天気だけど……」
 高野:「先生の行いが良いので、何とか持ってくれているんですよ」
 愛原:「お、そうなのか。上手いこと言うな」
 高橋:「けっ、アネゴも先生に媚び売りやがって!」
 高野:「その先生の良い行いを踏みにじって、雨を降らさないようにね?」
 高橋:「あぁっ!?」
 愛原:「はは、そりゃそうだ」
 高橋:「先生、ヒドイ!」

 風が常にビュービュー吹いているというよりは、時折突風が吹くといった感じ。
 もちろん常に吹いている風自体は、そよ風なんかよりずっと強いものだが。
 リサはTシャツにショートパンツだからいいが、斉藤さんはもっと高い服を着ているから動きにくいのではないだろうか。
 もっとも、あの恰好が富豪の娘であることを示唆しているが。

[同日13:58.天候:晴 JR陸羽東線1731D列車内]

 高野:「2人とも、早く戻って来なさい」
 リサ:「はーい」
 斉藤:「はーい」

 発車の時間が迫り、高野君が2人を呼びに行く。
 こういう時は女性がやってくれると良い。
 斉藤さんのスカートが時折吹く突風で捲れそうになるが、さすがに下にオーバーパンツくらいはいているようだ。

〔「お待たせ致しました。13時58分発、普通列車の鳴子温泉行き、まもなく発車致します」〕

 車掌ではなく、運転士が乗務員室窓から顔を出し、ピイッと笛を吹く。
 そして車掌スイッチを扱うと、それで閉扉操作を行った。
 元々ドアが閉まっているので、内側から見ればドアボタン操作可能を示すランプが消灯するだけである。
 外側だと赤い側灯が消えるわけだ。
 運転士はそれを確認すると、車掌スイッチのキーを抜いて乗務員室窓を閉め、運転席に座った。
 ガチャッ!とハンドルを操作する音が客席まで聞こえて来る。
 そして、電車ならモーターの音が響いて来るところだが、これは気動車。
 ディーゼルエンジンの甲高い音が聞こえて来る。
 昔のキハ58系とかのそれは随分と重々しく、発車も汽車並みに重々しく発車するものだっだが、今では随分と軽快なものになった。
 さっき運転席をチラッと覗いてみたが、運転機器とかも最近の電車と大差無いものになっている。

〔今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は“奥の細道湯けむりライン”陸羽東線下り、各駅停車の鳴子温泉行き、ワンマンカーです。これから先、塚目、西古川、東大崎、西大崎の順に止まります。途中の無人駅では後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、塚目です〕

 愛原:「斉藤さん、その服はとても似合っていて、よそ行きには十分だと思うんだけど、ちょっと動きにくいかね?」
 斉藤:「そうなんですよぉ。私もリサさんみたいな動きやすい服の方がいいんですけど、お父さんとかが許してくれなくて……。これでも、まだいい方なんですよ」
 愛原:「というと?」
 斉藤:「もっとスカートが長い服を着せられそうになって、それだともっと動きにくいじゃないですかー。リサさんなんか、私服は動きやすいものを着られて羨ましいと思ってるんです」

 ま、あまり高い服を買ってあげられないという事情もあるのだが。

 愛原:「外、風強かったから尚更だろう?」
 斉藤:「そうですね。だからこそ、私もリサさんみたいな服がいいって言ったんですけど……」
 リサ:「風でよくスカートが捲れてた」
 高野:「無理して外に出なくていいのよ?」
 斉藤:「いえ。たまにはリサさんと2人っきりになりたくて……」
 高野:「あらあら」
 高橋:「先生!俺達も是非2人っきりの時間を!」
 愛原:「仕事はいつも2人でやってるだろ。何を今更……」

 私は斉藤さんに向き直した。

 愛原:「でも大丈夫かい?さすがにスカートの下は見せパンくらいはいてるんだろうね?」
 斉藤:「はい、それは大丈夫です。ちゃんとペチパンツはいてます」
 リサ:「さすがサイトー。そこはガード固い」
 斉藤:「も、もへへ……ま、まぁね……。で、でも、向こうに着いたら浴衣に着替えましょうね」
 高橋:「浴衣の方がもっと動きにくいと思うけどな」
 愛原:「まあまあ。今のはあくまで移動中限定の話だから。ホテルに着いたら、着替えてナンボだと思うぞ?」
 高橋:「先生がそう仰るのでしたら絶対です」

 もちろん、部屋は2つ取られている。
 男女別に分かれるわけだから……高橋のヤツ、何も心配せんでも、結局は部屋で俺と2人じゃないか。
 ……まさか、襲ってきたりはしないよな?
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“私立探偵 愛原学” 「JR古川駅」

2019-08-28 21:23:02 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月23日12:51.天候:曇 宮城県大崎市 JR古川駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、古川です。陸羽東線は、お乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。古川の次は、くりこま高原に止まります〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 私達を乗せた東北新幹線“やまびこ”47号は、定刻通りに古川駅に接近した。
 仙台駅の次の駅で、ここで乗り換えることになる。

〔「まもなく古川、古川です。11番線に到着致します。お出口は、左側です。古川からのお乗り換えをご案内致します。“奥の細道湯けむりライン”陸羽東線下り、普通列車の鳴子温泉行きは、2番線から13時58分の発車です。上り、普通列車の小牛田(こごた)行きは、1番線から13時15分の発車です」〕

 愛原:「よし、ここで降りるぞ」
 高橋:「はいっ!」
 高野:「ていうか先生、乗り換え時間長くないですか?」
 愛原:「高野君はお腹空いたかい?」
 高野:「ええ、まあ、お昼時ですし……」
 愛原:「昼食時間も込みでの乗り換え時間だよ」
 高野:「あ、そうなんですか」
 高橋:「アネゴはよー、先生のよー、御心がよー、分かってねーのかよっ、あぁっ!?」
 高野:「聞かないと分かんないじゃん。てか、今のケンショーブルーの物真似?」
 高橋:「あぁっ?何だそれ?俺がしたのはサトー様の物真似だぜっ、あぁっ!?」
 高野:「サトー様も新潟でその名字だから、在日朝鮮人疑惑が出てるんだよねぇ……」

 列車はポイントを渡り、下り副線ホームに入線した。
 停車時間が1分しかない所を見ると、ここでの通過待ちは無いのだろう。
 待避線があったら、ほぼ通過待ちを行う東海道新幹線の“こだま”号とは違うみたいだ。

〔「ご乗車ありがとうございました。古川、古川です。車内にお忘れ物の無いよう、お降りください。11番線の電車は……」〕

 私達はここで列車を降りた。

 リサ:「愛原先生、お腹空いたー」
 斉藤:「もうお昼の時間ですわよ、先生?」

 言葉遣いといい、そのワンピース型の高そうな服とベレー帽といい、正しく大富豪の御嬢様といった感じだ。

 愛原:「ああ、分かってる」

 私達は新幹線コンコースに下りると、一旦改札口の外に出た。
 ここでは特急券だけが回収されて、乗車券だけが向こう側から出て来る。

 愛原:「ここで斉藤さんには庶民の感覚を味わってもらいます。そしてリサには、初体験をしてもらう」
 斉藤:「お父さんの意向ですから、それは構いませんわ。それに、リサさんと一緒なら……」
 リサ:「おー!初体験!どんなの!?」
 愛原:「あの店だ!」

 私が指さしたのは立ち食いそば屋。

 高野:「さすがは先生ですわね。いや、ホントこのチョイス、アレだわ……」
 高橋:「先生の御心を拝するに……何だっけか?」
 高野:「無理に顕正会員の物真似しなくていいのよ?」

 私達は立ち食い蕎麦屋に入った。
 ここの券売機で食券を買う。

 高橋:「先生は何を?」
 愛原:「俺は海老天そばかな?」
 高橋:「俺も先生と同じので!」
 斉藤:「リサさんは何にするの?」
 リサ:「きつねうどん」
 斉藤:「私も〜」

 尚、1万円札とカードしか持っていないであろう斉藤さんだったが、ちゃんと1000円札を持っていた。
 だがどうやらこれは、宇都宮駅でシンカンセンスゴイカタイアイスを買った時のお釣りらしい。

 斉藤:「立ち食い蕎麦、大宮駅でよく見ましたけど、初めて利用します」
 愛原:「あ、一応初見済みなんだ」

 確かに大宮駅には、コンコースにもホームにもあるなぁ……。
 新幹線しか利用していないというイメージのある斉藤さんだが、在来線の方も利用したことはあるらしい。
 何故なら、大宮駅の立ち食い蕎麦は在来線にしか無いからだ。
 お昼時だからか、店内には当然ながら私達以外の乗客もいた。
 中には中学生とか小学生くらいのコまで。
 小学校低学年らしき女の子はカウンターに背が届きそうに無いが、どうするのだろうか?

 店員A:「お客さん、子供用の椅子、1つで大丈夫ですか?」
 JCα:「あ、どーもー」

 背の高い中学生らしき女の子が、小学生の女の子をヒョイと抱えて椅子に座らせた。
 それより背の低いもう1人の女子中学生は、何やら腑に落ちないような顔をしている。

 JCβ:「『1つで』ってさ、もしかして私のこと言ってない?」
 JCα:「気のせいでしょ?」
 JCβ:「いや、絶対私の方見てたし」
 JCα:「ウチら荷物多いから、荷物置き用に椅子もう1個いる?って聞いたんじゃないの?別に要らないじゃん」
 JCβ:「いや、だからさ、要らないの分かってて聞いたってことはさ……」
 JCα:「しつこい」

 店員B:「はい、お待ちどう様でした」
 愛原:「どうも」

 次々に私達の注文した蕎麦やうどんが出て来る。
 尚、こっちのJC達は普通にカウンターに背が届く高さだ。

 愛原:「停車時間はたっぷりあるから、ゆっくり食べよう。どうせ夕食は、ホテルで立派なものが出て来るからな」
 高野:「それは楽しみですねぇ」
 斉藤:「いただきます」
 リサ:「いただきます」
 高橋:「意外とうどんとか蕎麦とか、少年院や少年刑務所じゃ出て来ないんですよ」
 愛原:「そうなのか?どうしてだ?」
 高橋:「多分、すぐ伸びるからじゃないですかね。その証拠に、パスタやラーメンも出て来ませんでしたし」
 愛原:「なるほどな」

 高橋の矯正施設あるある話は、何気に聞いていて面白い所はある。
 元受刑者の告白手記なんかよく出版されているが、それと同時に元刑務官の告白手記なんかも出版されている。
 同じ事柄なのに、元受刑者の立場と元刑務官の立場で見たのとでは全く違う描写になっているのは面白かった。
 さすがの高橋も死刑囚になったことは無いから、そっちの立場の描写は話せまい。

 高野:「つゆが跳ねて他の受刑者に当たり、ケンカの元になるからって聞いたことがありますよ」
 愛原:「なるほど!」

 連れのJC達にはよく分からない話だろうが、幸いその2人の少女は自分達の話で盛り上がっていた。
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“私立探偵 愛原学” 「“やまびこ”47号」

2019-08-27 19:24:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月23日11:02.天候:晴 JR東北新幹線47B列車8号車内]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、大宮です。上越新幹線、北陸新幹線、高崎線、埼京線、川越線、京浜東北線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。大宮の次は、宇都宮に止まります〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 東北新幹線の東京から大宮までは、およそ新幹線らしからぬ低速走行区間だ。
 これは線形の悪さも去ることながら、新幹線開通前に起きた反対運動(騒音問題)によるものの名残らしい。
 いざ開通してみれば、開業当時の200系もこのE5系と比べればなかなか賑やかな走行音だったようだが、当時の国鉄は並走する埼京線にあえてもっとうるさい103系を導入してプチ復讐しをたという逸話が残っている。
 103系が廃車になったら、次にうるさい205系をしばらく使い続けた。
 反対の為の反対は、地域の為にならないということだな。

 リサ:「サイトー、ここから乗って来る!?」
 愛原:「そうだよ。ちゃんと席空けてあげるんだよ?」
 リサ:「分かってる!」

 列車がホームに入線した。
 私達は8号車でも、だいぶ前よりの座席に座っている。
 特に私はホームに接する方の窓側席に座っている為、ホームの様子がすぐに分かった。
 列車は速度を落として行き、そして所定の停止位置に停車した……。

 愛原:「! 斉藤さんがいないぞ!?」
 高野:「ええっ!?」
 高橋:「ほほう……先生とのお約束をドタキャンするとは、いい度胸ですねぇ……」
 高野:「リサちゃん!早く斉藤さんに連絡して!」
 愛原:「停車時間は1分だけだぞ!?」
 リサ:「こ、こうなったら……新幹線止める……!」
 愛原:「こら、やめなさい!!」

 危うくリサがBOW(Bio Organic Weaponの略。『生物兵器』と訳されることが多い)に変化するところだった。
 今は完全に人間態の姿をしており、角も鋭い爪も触手も隠れている。
 赤銅色の肌や八重歯のような牙は生えているが、まだ許容範囲であろう。

 高野:「先生、こいつは契約不履行ですよ?斉藤社長をそれで訴えて違約金をせしめることが……」

 ホームから発車ベルの音が聞こえて来る。

〔17番線から、“やまびこ”47号、盛岡行きが発車致します。次は、宇都宮に止まります。黄色いブロックまで、お下がりください〕

 と、そこへ!

 斉藤:「ごめんなさい!」

 デッキのドアが開いたと思うと、そこから斉藤さんが飛び込んで来た。
 と、同時に車両のドアが閉まる。
 ん?ホームから乗り込んで来た様子は無かったぞ?一体どうした?

 リサ:「サイトー、来たー!何があった?」

 リサは斉藤さんの両手を握った。

 斉藤:「ごめんなさい!いつもグリーン車だったから、いつもの感じでそっちに乗っちゃって……」
 高橋:「けっ、金持ちはいいなぁ、おい!」
 愛原:「高橋。……とにかく、無事に合流できて良かったよ。斉藤さんの席はそっちだ。まあ、グリーン車より狭い席だけと我慢してくれ」
 斉藤:「大丈夫です。狭いということは、それだけリサさんと密着できるということですから
 高野:「あらあら。仲がよろしいこと」
 高橋:「うむ。その通りだな」

 高橋はそこは禿同という感じだった。
 いつもなら、『けっ、キモいレズビアンが!』とか言うくせに。

 高橋:「じゃ、先生。俺達も密着しましょう」
 愛原:「オマエもさらっとキモいこと言ってんじゃねー!」
 高橋:「先生のツンデレも素敵です」
 愛原:「ちゃうわ!」

〔「大宮からご乗車のお客様、お待たせ致しました。本日も東北新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。これから先止まります駅の到着時刻をご案内致します。次の宇都宮には11時25分、【中略】古川には12時51分、くりこま高原には13時1分、【中略】」〕

 斉藤:「リサさん、シンカンセンスゴイカタイアイスって知ってる?」
 リサ:「知らない。何それ?」
 斉藤:「車内販売で売られているカップアイスのことよ。とても美味しいんだけど、買ってすぐには硬くて食べられないの。スプーンが折れてしまうくらいよ」
 リサ:「何それ!?食べてみたい!」
 斉藤:「言うと思ったわ。私が勝ってあげる」

〔「……尚、この列車には車内販売の営業はございません。予めご了承ください。次は宇都宮、宇都宮です」〕

 斉藤:「はあ!?何それ!?予めご了承なんかないわよ!どうなってんの!?」
 高橋:「おーおー、出た出た。ワガママ御嬢様様トーク!」
 愛原:「“なすの”号に続いて、“やまびこ”号でも車内販売が廃止されたんだよ」
 斉藤:「そんなぁ……!」
 愛原:「飲み物だったら、次の駅で買いに行けるよ。宇都宮駅で“はやぶさ”の通過待ちがあるから」
 高橋:「さすがは先生です」
 愛原:「俺は関係無いだろ」
 高野:「斉藤さん、もしかしたらね、ホームの売店で買えるかもしれないよ?何も車内販売だけで売ってるわけじゃないみたいだから」
 斉藤:「そ、そうですか」
 高野:「停車時間は6分。コンコースのNEWDAYSも探せばあるかもね」
 斉藤:「行ってきます!」
 高橋:「で、タッチの差で乗り遅れると。そこで俺達の本編と、レズビアン共のリベレーションズ・シリーズが始まるわけだ」
 愛原:「何の話だ?」
 リサ:「私、レズビアンじゃないよ?」
 斉藤:「もえっ!?」
 高橋:「あー、悪ィ悪ィ。バイセクだったな」
 リサ:「自転車?が、どうしたの?」
 高橋:「バイセクォル(Bicycle)とは言ってねぇ!」

 私はリサとは親子のように見られるが、高橋とは兄妹みたいな感じだな。
 リサがボケ役、高橋がツッコミ役だが、時たまそれが逆転する時がある。
 高橋が私にデレてる時とかだ。
 もっとも、かくいう私が高橋とは、私がツッコミ役、高橋がボケ役なわけだが……。
 お笑いの世界において、ボケ役とツッコミ役、両方できる芸人は優秀だと言われるが、高橋が正にそうだとすると……。

 愛原:「ま、とにかく宇都宮駅で買って来るといい。乗り遅れの無いように」
 斉藤:「分かりました」
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