[3月26日15:20.天候:晴 羽田空港国際線ターミナル1F・バスターミナル]
稲生がチケットカウンターから何食わぬ顔をして、バスのチケットを購入してくる。
稲生:「では、こちらが東京駅行きのバスのチケットです。乗る時に改札がありますので、1人ずつ持ちましょう」
ダンテ:「うむ。ありがとう」
ダンテもまた何の疑いも無く受け取った。
しかし、イリーナは目を細めたまま、マリアに関しては明らかに不審そうな顔で稲生を見据えた。
イリーナ:「ユウタ君……?」
マリア:「ユウタ……?」
稲生:「何ですか?」
マリア:「何で東京駅まで移動するって言った?」
稲生:「え?リムジンですけど?」
マリア:「で、それ何?」
稲生:「バスのチケットです」
マリア:「ユウタ、自分で何言ってるか分かる?」
稲生:「えっ?ええ、まあ……」
イリーナ:「じゃあ、説明してもらいましょうか。私はともかく、ダンテ先生ともあろう御方をバスにお乗せするその理由を!」
稲生:「いや、だって、ほら……」
稲生は他の行き先に向かうバスを指さした。
(写真はウィキペディアより。車体に書かれた愛称に注目)
稲生:「エアポートリムジンって……。首都圏の空港連絡バスと言えば、これが名物みたいなものですから、ダンテ先生はこれに興味をお示しだったのかなぁ……と」
イリーナ:「」
マリア:「…………」
イリーナ組にクソ寒い風を吹き荒ばせた稲生だったが、ダンテは大笑いだった。
ダンテ:「これは素晴らしい!感性だ!この感性が魔道師には必要なのだよ!分かるかね、イリーナ?ん?」
イリーナ:「い、いえ……これは明らかに私の指導不足です。申し訳ありません……」
マリア:「ユウタ、今からでもいい。このチケットはキャンセルして、急いでハイヤーとしてのリムジンを確保してくるんだ。早く!」
稲生:「ええっ!?」
ダンテ:「待ちなさい待ちなさい。今回のルートについては、全て彼に一任しているのだろう?ならば、彼の案を尊重すべきかと思うが、どうかね?」
イリーナ:「ですが、先生。先生ともあろう御方が、バスなど……」
ダンテ:「構わんよ。昔はバスどころか、貨物列車や貨物船に便乗して移動していたではないか」
イリーナ:「それ、100年以上も前の話ですわよ?」
稲生:「ひゃ、100年ですか……!」
マリア:「一桁も二桁も違うのが、魔道師の世界だ、ユウタ」
稲生:「は、はい」
ダンテ:「ま、とにかくだ。何が言いたいかというとだな、私は全然気にしていないということだ。だから、キミ達も気にしないことだ。いいね?」
イリーナ:「分かりました」
マリア:「大師匠様がそう仰るのでしたら……」
そうこうしているうちに、バス乗り場にエアポートリムジンバスが到着する。
羽田空港〜東京駅北口(鉄鋼ビル)の路線は、東急空港交通と羽田京急バスが共同運行している。
どちらも車体にLimousineの愛称が描かれているので、稲生にとっては世話無いことであるのだが。
係員:「お待たせしました。15時30分発、東京駅北口(鉄鋼ビル)行きです」
ドアが開いて係員が案内する。
イリーナ:「申し訳ありませんね。先生ともあろう御方に、こんなエコノミークラスなお席に……」
ダンテ:「心配無いよ。この前、アンと一緒に船旅をした時、船の手配が付かないという理由で、タンカーに乗せられたものだ。あれと比べれば、ちゃんと旅客輸送用に設計された乗り物に乗れるだけマシってなものだ」
イリーナ:「アンのヤツ、そんなことを……。私も相当ズボラな性格ですが、あいつはそれ以上ですからねぇ……」
ダンテ:「魔道師としての素質を持つ者には、ままある性格だよ。……ここでいいのかい?」
イリーナ:「あ、はい。では、どうぞ窓側に……」
ダンテ:「うむ。稲生君、このパターンからして国内線ターミナルで混雑するというものかね?」
稲生:「恐らくそうだと思います。これから第2ターミナルと第1ターミナルと停車していく上、東京駅行きは需要がありますから」
ダンテ:「そうか。ならばイリーナ、隣に来なさい」
イリーナ:「は、はい。失礼します」
大柄な欧米人同士だと、さすがに座席は狭いかもしれない。
ダンテ:「ん?イリーナ、少し太ったかね?密着度が少しアップした気がするのだが……」
イリーナ:「なっ……!?」
イリーナは顔を赤らめた。
ダンテ:「その体の耐用年数が迫っているのは分かるが、寝てばかりいないで、少しは運動した方が良い。体力が付けば、例え僅かでもその耐用年数はアップする」
イリーナ:「わ……分かりました」
後ろの席に座るマリアは笑いを堪えるのに必死だ。
マリア:(さすが大師匠様。私の言いたいことを代弁して下さった)
発車時間が迫ると、係員が乗り込んできて、メッセージボードを抱えながら車内を一巡する。
そのボードには『シートベルトをお締めください』とか、『座席の専有はおやめください』とか書かれている。
係員が一礼してバスを降りると、バスのドアが閉まって出発した。
乗り場に残った係員達が一礼して、バスを見送る。
この光景は外国では見られず、日本オリジナルのものらしい。
マリア:「バスを降りたら、ホテルはすぐ近くなんだろう?」
稲生:「もちろんです」
マリア:「この前、家族旅行の際に泊まったビジネスホテルとかじゃないだろうな?」
稲生:「大丈夫ですよ」
稲生は大きく頷いた。
バスはターミナルの間を移動し、乗客を拾い集めた。
そして、最後のターミナルを出発する頃には満席に近い状態となったのである。
稲生がチケットカウンターから何食わぬ顔をして、バスのチケットを購入してくる。
稲生:「では、こちらが東京駅行きのバスのチケットです。乗る時に改札がありますので、1人ずつ持ちましょう」
ダンテ:「うむ。ありがとう」
ダンテもまた何の疑いも無く受け取った。
しかし、イリーナは目を細めたまま、マリアに関しては明らかに不審そうな顔で稲生を見据えた。
イリーナ:「ユウタ君……?」
マリア:「ユウタ……?」
稲生:「何ですか?」
マリア:「何で東京駅まで移動するって言った?」
稲生:「え?リムジンですけど?」
マリア:「で、それ何?」
稲生:「バスのチケットです」
マリア:「ユウタ、自分で何言ってるか分かる?」
稲生:「えっ?ええ、まあ……」
イリーナ:「じゃあ、説明してもらいましょうか。私はともかく、ダンテ先生ともあろう御方をバスにお乗せするその理由を!」
稲生:「いや、だって、ほら……」
稲生は他の行き先に向かうバスを指さした。
(写真はウィキペディアより。車体に書かれた愛称に注目)
稲生:「エアポートリムジンって……。首都圏の空港連絡バスと言えば、これが名物みたいなものですから、ダンテ先生はこれに興味をお示しだったのかなぁ……と」
イリーナ:「」
マリア:「…………」
イリーナ組にクソ寒い風を吹き荒ばせた稲生だったが、ダンテは大笑いだった。
ダンテ:「これは素晴らしい!感性だ!この感性が魔道師には必要なのだよ!分かるかね、イリーナ?ん?」
イリーナ:「い、いえ……これは明らかに私の指導不足です。申し訳ありません……」
マリア:「ユウタ、今からでもいい。このチケットはキャンセルして、急いでハイヤーとしてのリムジンを確保してくるんだ。早く!」
稲生:「ええっ!?」
ダンテ:「待ちなさい待ちなさい。今回のルートについては、全て彼に一任しているのだろう?ならば、彼の案を尊重すべきかと思うが、どうかね?」
イリーナ:「ですが、先生。先生ともあろう御方が、バスなど……」
ダンテ:「構わんよ。昔はバスどころか、貨物列車や貨物船に便乗して移動していたではないか」
イリーナ:「それ、100年以上も前の話ですわよ?」
稲生:「ひゃ、100年ですか……!」
マリア:「一桁も二桁も違うのが、魔道師の世界だ、ユウタ」
稲生:「は、はい」
ダンテ:「ま、とにかくだ。何が言いたいかというとだな、私は全然気にしていないということだ。だから、キミ達も気にしないことだ。いいね?」
イリーナ:「分かりました」
マリア:「大師匠様がそう仰るのでしたら……」
そうこうしているうちに、バス乗り場にエアポートリムジンバスが到着する。
羽田空港〜東京駅北口(鉄鋼ビル)の路線は、東急空港交通と羽田京急バスが共同運行している。
どちらも車体にLimousineの愛称が描かれているので、稲生にとっては世話無いことであるのだが。
係員:「お待たせしました。15時30分発、東京駅北口(鉄鋼ビル)行きです」
ドアが開いて係員が案内する。
イリーナ:「申し訳ありませんね。先生ともあろう御方に、こんなエコノミークラスなお席に……」
ダンテ:「心配無いよ。この前、アンと一緒に船旅をした時、船の手配が付かないという理由で、タンカーに乗せられたものだ。あれと比べれば、ちゃんと旅客輸送用に設計された乗り物に乗れるだけマシってなものだ」
イリーナ:「アンのヤツ、そんなことを……。私も相当ズボラな性格ですが、あいつはそれ以上ですからねぇ……」
ダンテ:「魔道師としての素質を持つ者には、ままある性格だよ。……ここでいいのかい?」
イリーナ:「あ、はい。では、どうぞ窓側に……」
ダンテ:「うむ。稲生君、このパターンからして国内線ターミナルで混雑するというものかね?」
稲生:「恐らくそうだと思います。これから第2ターミナルと第1ターミナルと停車していく上、東京駅行きは需要がありますから」
ダンテ:「そうか。ならばイリーナ、隣に来なさい」
イリーナ:「は、はい。失礼します」
大柄な欧米人同士だと、さすがに座席は狭いかもしれない。
ダンテ:「ん?イリーナ、少し太ったかね?密着度が少しアップした気がするのだが……」
イリーナ:「なっ……!?」
イリーナは顔を赤らめた。
ダンテ:「その体の耐用年数が迫っているのは分かるが、寝てばかりいないで、少しは運動した方が良い。体力が付けば、例え僅かでもその耐用年数はアップする」
イリーナ:「わ……分かりました」
後ろの席に座るマリアは笑いを堪えるのに必死だ。
マリア:(さすが大師匠様。私の言いたいことを代弁して下さった)
発車時間が迫ると、係員が乗り込んできて、メッセージボードを抱えながら車内を一巡する。
そのボードには『シートベルトをお締めください』とか、『座席の専有はおやめください』とか書かれている。
係員が一礼してバスを降りると、バスのドアが閉まって出発した。
乗り場に残った係員達が一礼して、バスを見送る。
この光景は外国では見られず、日本オリジナルのものらしい。
マリア:「バスを降りたら、ホテルはすぐ近くなんだろう?」
稲生:「もちろんです」
マリア:「この前、家族旅行の際に泊まったビジネスホテルとかじゃないだろうな?」
稲生:「大丈夫ですよ」
稲生は大きく頷いた。
バスはターミナルの間を移動し、乗客を拾い集めた。
そして、最後のターミナルを出発する頃には満席に近い状態となったのである。
実はビジネスマナー的には、魔道師達の席順は間違い。
最上席者であるダンテが後ろの窓側、準上席者であるイリーナがその前、3番目のマリアがダンテの隣、最下位の稲生はイリーナと隣……というのが本来のマナーである。
だが実際はこのように、上席者の希望を最優先に臨機応変の対応になることが多い。
当作品に限らず、別作品の“Gynoid Multitype Cindy”でも、実はビジネスマナー的には間違っている箇所がいくつもあることに、お気づきの人はとっくにお気づきであろう。
一応、ナレーションで、どうして違うことをするのかの理由を入れてはいるのだが、入っていない場合、私自身が勘違いしていることもある。
もしお気づきの場合は、どうぞ御指摘を賜りたい。