報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「MEGAbyteの日常」

2016-03-31 20:44:34 | アンドロイドマスターシリーズ
[3月16日13:00.天候:晴 東京都内・都営地下鉄大江戸線車内 結月ゆかり]

〔次は蔵前、蔵前。都営浅草線は、お乗り換えです。都営浅草線は、地上乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔日蓮正宗妙縁寺、本行寺、常泉寺へは都営浅草線乗り換え、本所吾妻橋駅でお降りください〕

 結月ゆかりは午前中、整備の為、都心大学に行っていた。
 都営大江戸線で行ける場所にある為、ロイドが単独または複数で向かうのが普通だった。
 で、今日はゆかりが1人。
 新造ボーカロイドでも、定期的な整備は欠かせない。
 そんなゆかりだが、地下鉄で移動中、ドアの前に立っていた。
 ドアの窓ガラスに映る自分の姿を何故か気にしている。
 着ている服にはフードが着いており、用途次第でフードを被ったり外したりしていて、今は外している。
 何故か髪型を気にしているようだが……。

[同日13:20.天候:晴 東京都墨田区菊川・敷島エージェンシー 結月ゆかり、Lily、未夢、井辺翔太]

 電車を降りて地上に向かい、事務所に戻るまでの間にも、ゆかりは自分の髪型を気にしていた。
 そんな感じで、ようやく事務所に戻る。
 平日であっても、売れっ子の初音ミクなどは仕事で引っ張りだこであり、なかなか事務所にいないことの方が多い。
 対してMEGAbyteは、週末のイベントにはよく呼ばれるようになったものの、平日はまだそんなに仕事が多いとは言えなかった。
 なので事務所に戻り、奥の控室に行くと、メンバーの未夢とLilyがいた。

 ゆかり:「た、只今戻りましたー」
 未夢:「お帰りなさい。その様子だと、整備中異常無かったみたいね。良かったわ〜」
 Lily:「同じく」
 ゆかり:「…………」
 未夢:「…………」
 Lily:「…………」

 何故か椅子に座ろうとしないゆかり。
 そんなゆかりの様子を見る残りのメンバー。

 Lily:「キュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュル………バッテリー切れ?」
 ゆかり:「ち、違います!」
 未夢:「手足の関節に不具合かしら?」
 ゆかり:「いえ、異常ありません!……あの、私、整備してもらった時に、ちょっと変えてもらったんです」
 Lily:「何を?」
 ゆかり:「何だと思います?」
 未夢:「キュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュル……オイルよね?」
 ゆかり:「オイル交換は当たり前です!見た目を少し変えてもらったんです!」
 Lily:「見た目?……髪でも切った?」
 ゆかり:「切ってません!ちょっと惜しいですけど……」
 未夢:「分かったわ。髪の色を染め直したのね?」
 ゆかり:「染め直してません!」

 Lily、大きく息を吐く。

 Lily:「もう!いい加減、答え言ってよ!」
 ゆかり:「毛先を少しカールさせてみたんですけど、どうですか?」
 Lily:「毛先?……いや、全然分かんない」
 ゆかり:「えーっ!」
 未夢:「私達じゃ、ちょっと分からないわね。シンディさんくらいなら気づけるかもしれないけど……」
 ゆかり:「そんなぁ……!」
 Lily:「イメチェンでもするつもりだったの?だったらせっかくのツインテールなんだから、ミク先輩と同じにしたら?」
 ゆかり:「いやっ、それはダメです!ミク先輩に怒られます!」
 未夢:「ミクさんはそんな怒るような方じゃないと思うけど……。まあ、MEIKO先輩やリンちゃんがイジってくるかしら?」
 ゆかり:「だから、それじゃダメなんですぅ!」
 Lily:「あー、もう!分かったから!そこまで言うんなら、少し協力するよ」
 未夢:「そうね。だったら、私にいい考えがあるわ」

 未夢、控室を出て事務室へ向かう。
 そして、そこから連れて来るのはシンディだった。

 シンディ:「アタシは社長の相手で忙しいんだけどね?」
 未夢:「そんなこと言わないで。これもボーカロイドの未来の為です」
 シンディ:「しょうがないなぁ……」
 Lily:「何でシンディが?」
 未夢:「シンディさんは衣装の着付けやヘアメイクが得意だって聞いたわ」
 シンディ:「まあ、アタシよりむしろその辺はエミリーの方が一枚上手だったけどね。ま、いいわ。で、私は何をすればいいの?」
 Lily:「ゆかりがイメチェンしたいって聞かないんです。ちょっと協力してもらえませんか?」
 シンディ:「イメチェンねぇ……。ま、そういうことならやってみましょう」
 ゆかり:「ありがとうございます!よろしくお願いします!」

 シンディ、まずはゆかりにマニキュアを施す。

 未夢:「さすがシンディさん、手慣れてますね」
 シンディ:「いや、これはエミリーの見よう見まねだよ。元は、エミリーがミクとかのヘアメイクをやってたからね。今はミクも売れっ子になって、ヘアメイクも人間のプロを頼むようになったけど……」

 メイクを施した後はシンディ、衣装室から衣装を持って来た。

 シンディ:「じゃあ、取りあえず好きな衣装選んで着てみて」
 ゆかり:「分かりました!」

 ゆかりが衣装を選んでいると、井辺が外出先から戻ってきた。

 井辺:「すいません。都営新宿線、ダイヤ乱れで戻りが遅くなりました。……何をしてるんですか?」
 シンディ:「お、ちょうどいい所に審査員が来たじゃない」

 シンディは腕組みをしていたが、顔だけ井辺の方を向いた。

 井辺:「審査員?」

 井辺は首を傾げたが、椅子に座らされ、首から『審査員』と書かれたプレートをぶら下げられた。

 シンディ:「ゆかり、着替えOK?」
 ゆかり:「はい、OKです」
 シンディ:「そんじゃ、アタシのコーディネートをとくとご覧あれ!どやぁっ!?」

 シンディ、臨時更衣室と化した機械室のドアを開ける。
 中から出て来たのは、シンディと同じスリットの深いロングスカートのワンピースを着たゆかりだった。

 未夢:「おおっ!」
 Lily:「へえ……」
 井辺:「いいと思います」

 他のメンバーは、マルチタイプの衣装が意外と似合うゆかりに感嘆した。
 井辺も大きく頷いた。

 ゆかり:「似合いますか、私?」
 Lily:「何か、いかにも右手からマシンガンが出て来そうな感じだね」
 シンディ:「というわけでプロデューサー、今度からゆかりのイメージ、それで売り出してみて」

 だがそれに対し、井辺は声を詰まらせた。
 そして、

 井辺:「検討させて頂きます。……が、恐らく、ほぼ無理だと思ってください」
 ゆかり:「えーっ!?」
 井辺:「確かによくお似合いだとは思いますが、服が似合うからと言って、必ずしもそれが売り上げに繋がるとは限りませんので」
 Lily:「た、確かに……」
 シンディ:「まあ、アタシがゆかりの服着りゃいいってもんじゃないのと同じか。分かった。要は、ボーカロイドにマルチタイプの服を着せるからダメだったのよ」
 井辺:「と、仰いますと?」
 シンディ:「今度はLilyと未夢とで、ゆかりのコーディネートをしてみてよ」
 Lily:「えっ、私がですか?」
 未夢:「あらぁ、何だか面白そう!」
 井辺:「それは良いアイディアですね。何か、良いイメージが掴めるかもしれません」
 シンディ:「まあ、掴めなかったらその時はその時でw」
 Lily:「意味あるの、それ?」
 未夢:「Lilyちゃん、とにかくやってみましょうよ。ダメ元でいいじゃない」
 Lily:「まあ……そこまで言うなら……。ゆかりの為だし。プロデューサー、ちゃんと斬新なイメージを掴んでよ?」
 井辺:「最大限、努力します」

 その頃、社長室から控室の様子をカメラで見ていた敷島は……。

 敷島:「コーディネートは、こーでねーとw ……ププッwww」

 親父ギャグを飛ばしていた。
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本日の雑感 0330-2

2016-03-30 23:33:59 | 日記
大変な事件起こした…少女誘拐容疑者がメモ所持

 「名前が変」→「多分、中身も変」という法則が当てはまってしまったな。
 恐らく親は“魔法使いサリー”のファンか何かだったのだろう。
 愛国 清澄さんもこの事件について取り上げておられるが、実はパラパラ茜のオバハンも取り上げている。
 その前の総幹部会ビデオ放映のレポと合わせて、比較的まともなことを書いている。
 まあ、文法や文節の区切り方に難ありなのは半島人だからご愛嬌としておこう(本当は半島人にそんな情けを掛けても図に乗るだけなので、むしろそこも徹底的に叩くべきなのだろうが、私もそこまでヒマではない)。

 ということは、アレか?
 この事件の容疑者は在日ではない?
 在日同胞の犯罪はとかく庇いたがる半島人なのだが、珍しくオバハンが叩いている。
 私的にはそんなにキモメンには見えなかったのだが、オバハンの好みではなかったようだ。
 何となく、韓流ドラマに出て来そうな風貌に見えたんだがね。
 韓流ドラマ大好きな茜オバハンが、それに出てきそうな容疑者の風貌を叩いていたことから違うのだろう。
 まあ、そこは在日認定大好きのヤフコメ住民の情報を待つとしよう。
 おっ、そう言えば茜オバハン、そのヤフコメの住民達も嫌っていたな。
 まあ、彼らの言動にも目に余る所が無いわけではないが、いつ茜オバハンも在日認定どころか本名、日本人名から朝鮮人名からバレるので戦々恐々しているってか?
 ヤフコメの皆さん、いいぞ、もっとやれ!

 それにしても、そのうち犯人が、
「被害者のことが好きでたまらなかった。彼女が16歳になったらプロポーズするつもりだった。拉致・監禁のつもりはない。よって、無罪を主張する!」
「当時、被害者は13歳以上だから、本人の同意が成り立つ(ならないと思うが、大卒は変なところで口八丁だからな……)。よって無罪判決を要求する!」
 とか言い出さないだろうな?
 まあ、既にネットでは容疑者の実家の住所やら家族構成やら家族の本名まで全て晒されているらしいから、本人が刑務所に入ればそれで良しの話でもあるまい。
 とどのつまり、一家離散だろうな。
 さぞかし、茜オバハンとしては、それを肴にいい酒が飲めることだろう。
 何しろ顕正会員は他人の不幸を蜜の味にして、それで幸せを感じることを最大の功徳とするからな。
 2ちゃんねらーの皆さん、ご苦労様です!

 そういえばフェイスブックって、それをやっているヤツが捕まったりすると、早速テレビで公開されるじゃない?
 本人からしてみれば、本当に晒し者だ。
 だから私はフェイスブックはやらないんだ。
 え?いや、別に不法・違法行為をするつもりは無いがね。
 作家というのは、謎に包まれていた方がいいんだよ。
 知りたければトチロ〜さんにでも聞いてくれー。
 ん?今のお前のお寺の紹介者は誰だって?
 私はハンネ程度なら教えてもいいと思ってるんだけど、紹介者さんがやめてくれって言うんだ。
 アメブロの住民は変な所に拘るからなぁ……。
 一部の例外を除いて、多くのアメブロ系武闘派の人達って、自分の所属寺院まで公表していないんだよね。
 それってどうよと思うんだけど。個人的にはね。

 茜オバハンも、せいぜい自分の会館参詣日記や芸能以外の時事ネタを取り上げる分には、まだまともなんだけどなぁ……。
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本日の雑感 0330

2016-03-30 19:53:16 | 日記
 祖母の葬儀を終えて職場に戻ったら、今度は上司が忌引でござる、と。
 おかげで4月1日の公休は潰れてしまった。
 毎月1日に何か宗内行事があったような気がするが、これで今回も参加が潰えたことになる。
 ま、不良信徒だから、そんなことはどうでもいいんだけど、今回はあれだ。
 親族だけの葬儀に参加したら、お家断絶を眼前にしたというもの。
 前にコメント欄でつぶいやいたと思うが、やはり子供の数が少ないと思ったことだ。
 そして、“少ない”のはまだ良い方で、“いない”のも珍しくはなくなって来ているのだと。
 それに対して、伯母は、あっけらかんとしていて、
「天皇家ですらお世継ぎに神経を尖らせているのに、ましてや下々の私達があがいてもしょうがないじゃない」
 とのことだ。
 祖母の私に対する言葉、フィギュア云々の話が実質的に私への遺言になったことを考えると、母方の家系はかなりドライであるらしい。
「物事は永遠に続くわけじゃないんだから、ユタの代でお家断絶になることぐらい想定してるわよ」
 とのことだ。
 おー、随分気が楽になること言ってくれるなぁと思っていたのだが、どうも伯母の近所ではDVで逮捕者が出たり、従姉の近所では子供への虐待で逮捕者が出ているらしく、そういうのを見て来ただけに、
「法統相続なんかの為だけに、自分が不幸になっては元も子もない。家は断絶してもいいから、自分の幸せを死守しなさい」
 とのことらしい。
 無論、従姉のように結婚して子供を産み、育てることが幸せだというのなら、それは大いに結構だということだ。

 実は職場には昨年、40歳で結婚した同僚がいる。
 そんな彼の悩み事は、
「年取って結婚したせいか、なかなか子供ができない」
 のと、
「奥さんに頼み事をしても聞いてくれない」
 とか言っていた。
 結婚の意味あるのか、それ?と思ったが、コストパフォーマンス最優先の私から見れば首を傾げるものでも、本人はちゃんと愛情で結婚したというから、それでいいのだろう。
 そういえば、前の現場の年下の上長も結婚して僅か2年ほどなのだが、こんなことを言っていたな。
「未だにデキ婚について批判的な人がいるけど、子供が欲しい人には、それが1番手っ取り早くて楽なルートなんだよ」
 と。
 私にはとても実感の湧かない話であるが、今の職場の同僚の話を聞いてみて、そうなのかなと思った次第だ。

 何にしろ、特に危機感の無い私なのだった。
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“大魔道師の弟子” 「稲生とマリアに迫る影」

2016-03-29 20:58:48 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月12日04:27.天候:曇 快速“ムーンライト信州”81号・1号車内 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。「皆様、おはようございます。列車は現在、定刻通りに運転を致しております。まもなく松本、松本に到着致します。【中略】松本を出ますと、次は豊科に止まります」〕

「う……」
 マリアは訳の分からない夢を見て目が覚めた。
 車中泊だ。
 目の前に座っている師匠以外、なかなか爆睡できる乗客はいないだろう。
 実際、今の放送で目を覚ました乗客は多かったみたいだが、イリーナはまだ眠っていた。
「……!?」
 ふと隣の席を見ると、そこに稲生の姿は無かった。
 昨夜は車内の照明が減光されると、稲生が手を握って来た。
 手袋越しならもう震えることも無くなり、マリアも握り返してやった。
 だが、さすがに素手だとまだ震える。
 “狼”達にさんざん体を汚された傷痕は、そう簡単に癒えるものではない。
 魔道師になれば治るものだろうと思ったが、物凄く甘い考えだった。
 むしろ、過去の傷が呪いと化して、却って括り付けられるだけだと気づいた。
 それに気づかせてくれたのが稲生であった。
 最近では、“魔の物”はそういう所を突いて来るのではないかとも思っている。
 で、稲生はどこに行ったのだろう?
 まさか、途中で降りた?
「!」
 そういえば昨晩のエレーナのメッセージ。
 電車が立川を過ぎた辺りで、もう1回メッセージが来た。
 エレーナ就寝前のメッセージだったらしい。
 どうも、イリーナ組が周囲からあまり良いイメージを持たれていないらしい。
 それは知ってる。むしろ、今さらだ。
 そうではなくて、マリア自身のイメージが悪いらしいのだ。
(そりゃ、私も人付き合いは苦手だ。だからといって……)
 と、そこへ稲生がデッキから出て来た。
「あっ、マリアさん。起きましたか」
「ユウタ……!何も無かった?」
「えっ!?いや、別に!」
 稲生は突拍子も無いことを聞かれたと思って、びっくりした。
「むしろ、何かあるんですか?」
「いや、何でもない。……どこ行ってたの?」
「トイレと洗面所ですよ」
「そう、か……」
「今、トイレも洗面所も空いてますよ。松本で降りる客、結構いるみたいなんで。行くなら今のうちだと思います」
「う、うん。それじゃ」
「はい」
 マリアは被っていたローブのフードを取ると、デッキに向かった。

[同日04:32.天候:曇 JR松本駅5番線 稲生勇太]

 列車が長野県でも屈指のターミナル駅に到着する。

〔まつもと〜、松本〜。……〕
〔「ご乗車ありがとうございました。松本、松本です。この電車は4時35分発、大糸線直通の快速“ムーンライト信州”81号、白馬行きです。豊科、穂高、信濃大町、神城、終点白馬の順に止まります。発車まで、3分ほどお待ちください」〕

「ふーむ……」
 稲生は何を思ったか、財布とスマホだけを持つとホームに降りた。
 向かうはホームの自動販売機。
 ピピッと手持ちのSuicaを当てて、缶コーヒーを買う。
 自分の分だけでなく、マリアのも買った。
「ん?」
 首都圏でもよく見かけるようになった大型モニタ式の自動販売機。
 そのモニタが一瞬砂嵐になったかと思うと、血文字のような文字が出て来た。
『出ていけ……!狼は出ていけ……!』
「何だろう?何かの演出かな?」
 それでも少しびっくりした稲生だったが。
『マリアンナ……裏切り者……!』
「あっ!?」
 さすがにマリアの名前が出て来たことで、単なる自販機の広告だとか、そんな類ではないことに気が付いた。
「……消えた」
 モニタは消えて、また商品一覧の表示が出て来た。
「今のは一体……?」

 稲生が茫然としていると、ホームに発車メロディが鳴り響く。
「おっと、危ない!」
 首都圏でもよく聴けるタイプのメロディだが、これが却って焦燥感を煽らせる。
 稲生は最寄りのドアから列車に乗り込んだ。
 すぐに列車はドアを閉めて、北に向かって走り出した。

〔「この電車は大糸線、白馬行きの臨時快速“ムーンライト信州”81号でございます。全車両指定席となっております。次は、豊科です。……」〕

 稲生は急いで1号車に戻った。
 2号車から1号車に入る時、デッキを通ると、洗面所のカーテンが閉じられていた。
 で、何故か床が水浸しになっている。
 稲生はすぐにそれがマリアだと分かった。
「マリアさん、どうしました?」
「ユウタか……」
 マリアは憤慨した様子で、カーテンを開けた。
「あっ!?」
 何故かずぶ濡れのマリアがいた。
 マリアは手持ちのタオルで、濡れた顔だとか髪を拭いていた。
「どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもあるかっ!洗面所の水を出したら、いきなり噴水みたいに出て来たんだ!」
「そんなバカな!?僕が使った時、むしろ水圧が足りないくらいだと思ってたんですよ?」
 189系の普通車だが、トイレも含めて、水回りはそんなにリニューアルされなかった。
 未だに手動で、レバーを引いて水やお湯を出す方式である。
 稲生がレバーを弾いてみると、チョロチョロと水が出た。
「……うん。僕が使った時もこんな感じでした」
「だが、私が使ったら、いきなり噴き出てきたんだ!」
「鉄ヲタ歴12年ですが、そんな話、初めて聞きます。悪魔の嫌がらせだったりして」
「あぁ!?」
 マリアはデッキの陰で見ているベルフェゴールを睨みつけた。
「ボクじゃないよ、ボクじゃ……」
 ベルフェゴールは慌てて1号車の客室内に入って行った。
「とにかく、着替えを持ってきます」
「バッグごと持って来てくれればいい」
 稲生はあまりマリアを見ずに言った。
 何故ならブラウスに水が掛かったせいか、そこが透けて水色のブラジャーが見えてしまっているからである。
「ちょっと待っててください」
 稲生も客室内に入っていった。
(さっきの自販機のこと、言っておいた方がいいかなぁ……?)
 荷棚に乗せたマリアのバッグを持って、再びデッキに取って返す稲生はそう思った。

 この時、稲生はまだ悪魔、つまり“魔の者”やその手先による嫌がらせ程度にしか思っていなかった。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「ガイノイドの帰京」 2

2016-03-28 19:21:01 | アンドロイドマスターシリーズ
[3月12日13:00.天候:晴 東京都墨田区菊川・敷島エージェンシー 井辺翔太、鏡音リン・レン、MEIKO]

 敷島とシンディは新幹線を大宮駅で降りた。
 恐らく、大宮近辺の一部だけ雷警報が発令されたことだろう。
 ボカロ達は東京駅まで乗り、井辺が迎えに来た車に乗って事務所まで戻った。

 井辺:「それでは皆さん、仙台までの遠征、お疲れさまでした。仕事の方はほぼ成功だと、社長から伺っております」
 MEIKO:「お安い御用ですわ、プロデューサー」
 リン:「リン達なら、宇宙までもライブに行っちゃうYo〜!」
 レン:「リン、宇宙ステーションにライブできる所なんて無いよ」
 井辺:「頼もしい言葉です。しばらくの間は都内での仕事が中心になりますので、明日からまたよろしくお願いします」
 リン:「明日?」
 井辺:「はい。急きょ、こちらに回してもらえるイベントの仕事があるということで、鏡音さん達が御指名です」
 リン:「おぉ〜!」
 レン:「お役に立てて何よりです」
 井辺:「詳細については、後ほどお2人のデータに送信しておきます」
 レン:「お願いします」
 井辺:「MEIKOさんは本日18時より、京王プラザホテルでディナーショーが入っております。明日の仕事はオフで、都心大学工学部で全般整備に入ります」
 MEIKO:「分かりました」
 井辺:「それでは、よろしくお願いします」

 ロイド達相手でも丁寧な対応をする井辺。
 本来の担当はMEGAbyteなのであるが、だいぶプロデューサー業務にも慣れて来たようで、敷島のいない間は売れっ子ボカロのマネジメントも手伝っている。

 リン:「ねぇ、プロデューサー。みくみくは?」
 井辺:「初音さんは、大江戸テレビで旅番組にゲスト出演しております」
 リン:「おぉ〜!売れっ子じゃん!」
 井辺:「明日のイベントにはマスコミも取材に来ますから、鏡音さん達もテレビに映ると思いますよ」
 リン:「やった!」
 レン:「歌が歌えるんですね」
 井辺:「はい。お台場でのイベントですので、海に因んだ歌を歌って頂くことになります」
 リン:「“リグレットメッセージ”とか?」
 レン:「あまり明るい歌じゃないから、いいのかな、それ?」
 井辺:「いいと思います」
 レン:「えっ?」
 井辺:「鏡音レン君には、“Re-birthday”を歌って頂くことになりそうなので」
 レン:「それ、海と関係あります?」
 リン:「レン、歌えるだけでいいじゃない」
 レン:「まあね。少し、声出ししてきていいですか?」
 井辺:「どうぞ。調子の悪い所がありましたら、すぐに教えてください」
 レン:「分かりました」
 リン:「るりら〜♪るりら〜♪」

[3月12日13:30.天候:曇 埼玉県さいたま市大宮区・とあるレストラン 3号機のシンディ、敷島孝夫、アリス敷島、トニー敷島]

 敷島家、親子水入らずのランチなので、シンディは外で待っている。
 黒スーツにサングラスを掛けているその出で立ちは、まるで女性SPのようである。
 スリットの深いロングスカートが特徴のワンピースをいつも着るわけではないということ。
 今回のように、あくまで敷島家のSPとしての役回りである時はスーツにサングラスという姿になることがある。
 そんなシンディの耳(集音マイク)に、こんなやり取りが聞こえて来た。

 アリス:「タカオ、お会計よろしく……って、何逃げてんの、アンタわ!?」

 アリス、会計ばっくれようとしたダンナを羽交い絞めにする。

 孝夫:「いでででで!ちょっとトイレに……!」
 アリス:「トイレはあっちよ!今絶対、外に出ようとしてたでしょ!?」
 孝夫:「い、井辺君に電話しないと……!」
 アリス:「シンディに頼めば代わりにやってくれるでしょ!?言い訳しなさんな!」

 シンディ、オーナー並びにユーザー夫妻のやり取りに溜め息をつく。

 シンディ:(これが『ケンカするほど仲が良い』ってヤツなのかしら)

 と、そこへ、シンディの目の前をバージョン4.0が通過する。
 右腕には『17』とペイントされていた。
 シンディの方を向いて、ペコリと頭を下げる。

 シンディ:「ああ」

 シンディも頷いた。
 普通に稼働しているだけか。
 手にエコバッグを持っている所を見ると、オーナーから買い物でも頼まれたのだろう。
 するとその17号機、とある幹線道路の方を向いた。
 その視線の先には、横断歩道の前で待っている5歳くらいの男の子がいた。
 車の往来は途切れることなく、渡れずにいる。
 だが、シンディはそこは心配していなかった。
 ただ、慌てて飛び出さないかは気になっていたが。
 そこへ17号機が幼児の所へ向かって行く。

 シンディ:「あ?渡れないようだから手伝うって?それはいいけど、子供を反対側に投げたらブッ壊す」

 シンディは17号機の行動を読んだ。
 17号機は子供を抱き抱えた。
 その仕草はかつてテロリズム用途とは思えぬほど優しいものであったが、シンディの嫌な予感は当たった。

 シンディ:「くぉらぁーっ!何やってんだーっ!!」

 17号機は横断歩道を無理に渡り出した。
 たちまち、事故多発地帯と化す交差点。

 シンディ:「感応式信号だから、ボタン押せば済む話だろうが!」
 17号機:「横断歩道ハ、歩行者最優先デス」
 シンディ:「それは信号機の無い横断歩道の話!」

 子供は無事であったものの、大型トラックが1台大破、乗用車が3台大破、うち1台が炎上。
 そもそも信号機自体が車の衝突により倒され、信号機自体が消灯したという。
 信号無視はダメ。ゼッタイ。

 孝夫:「よーし!信号が消えたということは、横断歩道渡り放題だな!でかしたシンディ!」

 店から出て来た孝夫は、交差点内がパニックになっているのを横目に、横断歩道をダッシュした。

 シンディ:「はあ!?アタシ何もしてないよ!」
 アリス:「シンディ、捕まえて!タカオのケータイに、どう見ても仕事関係以外の女の電話番号が入ってたのよ!」
 シンディ:「かしこまりました!オラぁっ!責任取って、テメェも手伝うんだよ!」

 シンディは17号機の首根っこを掴み上げた。
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