報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「まずは東京へ」

2017-03-28 22:50:47 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月26日06:50.天候:晴 長野県白馬村 八方インフォメーションセンター]

 イリーナ組を乗せた車が八方インフォメーションセンターに到着する。

 稲生:「ありがとうございます」

 イリーナを乗せているだけあって、ロンドンタクシーのような車より高級感があった。
 トランクからバッグを下ろすのは稲生。
 荷物持ちは新弟子の仕事である。

 イリーナ:「まだ寒いねぇ……。まあ、シベリアの比ではないけれど」
 マリア:「そうでしょうとも」
 稲生:「何でしたら、センターの中に入って待ってましょうか。……あ、いや」

 と、そこへ『Highland Express』とボディに書かれたバスがやってきて、バス停に停車した。

 稲生:「今、来たからいいですね」
 イリーナ:「そだねー」
 運転手:「お待たせしました。7時ちょうど発のバスタ新宿行きです」

 長距離バスなだけに、座席は予約制である。
 乗客名簿片手に運転手が降りて来た。
 大きな荷物は荷物室預けることとなる。
 改札を済ませると、稲生達は暖房の効いた車内へと入ることができた。
 夜行便ではないので、窓にカーテンが最初から引かれているということはない。
 4列シートが並んでいたが、トイレ付きで、シートピッチは広めになっていた。
 イリーナは稲生達の前に座り、稲生とマリアはその後ろに座る。

 イリーナ:「さて、着くまで寝てるか……」

 イリーナは座席に座ると、ローブのフードを被った。

 イリーナ:「座席倒すよー」
 稲生:「どうぞどうぞ。ガッと倒しちゃってください」

 稲生はそう答えたが、窓側席に座っているイリーナの直後に座っているのはマリアである。
 マリアは魔道書でイリーナの席の背もたれをガッと押さえつけ、リクライニングを阻止した。

 イリーナ:「ほお……?」
 稲生:「ま、マリアさん!?」
 マリア:「冗談ですよ」

 すぐに魔道書を放す。

 イリーナ:「だよねー」

 ここが始発停留所であるが、途中でいくつもの停留所に止まるせいか、この時点ではまだ乗客は疎らだった。

 マリア:「それにしても、バスで東京に向かうのはいいとして……」

 マリアは更にもう1枚のバス乗車券を取り出した。

 マリア:「そこから更にバスに乗り継ぐとは、ユウタらしくないな?」
 稲生:「最近は鉄道よりもバスの方が便利になっちゃってるんです。バスタ新宿にこれで行くと、同じバスタ新宿から羽田空港行きのリムジンバスに乗り継ぎできるんです」

 それまでは新宿駅西口だった為、雨が降っていれば濡れてしまう状態だったのだが、バスタ新宿になってからはその心配が無くなった。
 もっとも、今日は都内も晴であるが。

 まだ疎らな乗客を乗せて、始発便のバスは始発停留所を出発した。

[同日09:00頃 天候:晴 長野県安曇野市 長野自動車道・梓川サービスエリア]

 安曇野市内まで停留所に停車し、乗客を乗せて来たバスだが、イリーナの隣は空席のままだった。
 乗車率は90%くらいである。
 そんなバスが最初の休憩箇所に停車した。

 運転手:「梓川サービスエリアです。こちらで15分ほど休憩致します。出発時間は……」

 バスが大型駐車場に止まる。

 稲生:「ちょっと降りてみましょうか」
 マリア:「うん」
 稲生:「先生は……」
 イリーナ:「クカー……」
 マリア:「ほっとけ」
 稲生:「よく寝ていらっしゃいます」

 というわけで、稲生とマリアだけバスを降りることに。

 マリア:「こっちのトイレの方が広くて使いやすそうだ」
 稲生:「そうですよ」

 因みにアルピコ交通バスがこのサービスエリアを休憩箇所とするのは、ここのレストランや売店もアルピコ交通の直営だからである。

 稲生:(寒いからコーヒーでも買って行くか……)

 マリアより先にトイレを済ませた稲生は、建物内にある自販機コーナーでコーヒーを買い求めた。
 缶コーヒーではなく、それより少し高めの紙コップ入りのレギュラーコーヒーである。
 これならキャップも付いてくるので、バスの中で飲むことができるだろう。
 入れている間、BGMに『コーヒールンバ』が流れて来るのは定番か。

 マリア:「私、紅茶がいい」
 稲生:「あ、ハイハイ」

 いつの間にかトイレから戻って来たマリアに、飲み物をねだられる。
 だがそんなマリア、売店でスイーツを買っていたりする。

 稲生:「アイスクリームも?」
 マリア:「人形達にね」
 稲生:「ああ!」

 飲み物や食べ物を買い込んでバスに戻ると、まだイリーナは寝ていた。
 ローブのフードを深く被り、座席を倒れるまで倒している。
 座席に戻ると、荷棚の上に置いたマリアのバッグの中から人形形態のミカエラとクラリスが出てきて、アイスクリームをねだって来た。

 稲生:「はい、お土産」
 ミカエラ:「♪」
 クラリス:「❤」

 稲生はアイスクリームを人形達に渡した。

 稲生:「今回は電車じゃないから車内販売も無く、アイスクリームは無しかなと思っていたんですが、そんなことは無かったですね」
 マリア:「考えが甘いぞ、ユウタ。ファミリア(使い魔)とは、持ちつ持たれつの関係でないとダメなんだ。東アジア魔道団がヘタすりゃ敵だというなら、ミカエラとクラリスに戦ってもらうことになる。アイスクリームで機嫌取れるなら、安いもんだ」
 稲生:「なるほど。(スーパーカップじゃなくて、ハーゲンダッツに手を出している時点で安上がりとは言い難い気もするけど……)」

 いつの間にかバスはサービスエリアを出発していた。

 運転手:「定時出発に御協力ありがとうございました。再び高速道路を走行しますので、シートベルトの着用をお願い致します。次の休憩箇所は、中央自動車道の双葉サービスエリアを予定しております」

 荷棚の上に座り込む人形達。

 ミカエラ:「おいしーね」
 クラリス:「おいしーね」
 稲生:「はは……(笑)、本当に食べてる。僕もいずれは使い魔を使う時が来るんでしょうか?」
 マリア:「必ずしもってわけじゃないよ。私はたまたま人形造りが得意なだけだったから、それを使ってるだけ。師匠だって、特定の使い魔がいるわけじゃない」
 稲生:「あ、そういえば……」
 マリア:「悪魔と契約しているからね。本来、契約悪魔に頼めば何でもしてくれるから、使い魔を必ずしも必要とはしないんだ。それがダンテ一門の魔道師の特徴だ」

 マリアのように悪魔と契約して、更に使い魔も使役しているパターンはダンテ門流では結構珍しい。

 マリア:「ユウタの場合は“色欲の悪魔”との契約が内々定してるから、使い魔は要らないんじゃないか?いや、まだ分かんないけど」
 稲生:「そうですね。まだ実感が湧きませんね」

 それにしても、草食系の稲生が“色欲の悪魔”と契約したら、一体どうなるのだろうとマリアは一瞬思った。
 イリーナは“嫉妬の悪魔”と契約しているが、イリーナ自身がのほほんとした性格なので、他人に嫉妬することはほとんど無い。
 だからこそ、ベストチョイスだったのかもしれないが。

 稲生:「紅茶どうですか?」
 マリア:「美味しい。ベンダーマシン(自動販売機)で売られているものとは思えないくらい」
 稲生:「それは良かったですね」

 マリアは紅茶を飲みながら、ポリポリとクッキーを齧っていた。
 バスはまだ空いている道路を東京へと走行する。
コメント (2)
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