報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「霧生市調査中止」

2019-01-30 19:21:42 | 私立探偵 愛原学シリーズ
 ※霧生市調査の日を1月16日としていましたが、正しくは1月18日でありました。訂正してお詫びします。

[1月18日16:06.天候:曇 東京都新宿区住吉町 都営地下鉄曙橋駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は政府エージェントの善場氏に頼まれ、BSAAや自衛隊の護衛を受けながら霧生市の市内調査に同行した。
 ところがそこで想定外のことが起き、上層部の指示で調査が中止になった次第である。
 もはや掃討されていたはずのゾンビが未だに生き残っており、郊外のニュータウンを調査しようとしていた私達に向かって来たのである。
 もちろん同行していたBSAAの隊員達がすぐに退治してくれたが、これ以上『一般人』の私達を危険に晒すわけには行かないということで中止命令が下された次第だ。
 私達は装甲車に乗って町から出ると、再びヘリコプターに乗って都内へ戻ったというわけである。
 今回の件は防衛省の協力があったこともあり、市ヶ谷の施設に出入りした。
 そして色々とまた話をして、それから帰途に就いているわけである。

〔まもなく2番線に、各駅停車、本八幡行きが10両編成で到着します。黄色いブロックの内側まで、お下がりください。ホームと電車との間が空いておりますので、ご注意ください。急行電車の通過待ちは、ありません〕

 愛原:「夕方ラッシュ前に帰れて良かったな」
 高橋:「それにしても、事務所まで車で送れって感じですね」
 愛原:「まあ、しょうがない」

 駅構内はカーブしており、カーブの向こうから電車がやってくるような形になる。

 愛原:「明日は楽しい慰安旅行だ。帰ってそれに備えよう」
 高橋:「それもそうですね」

〔2番線の電車は、各駅停車、本八幡行きです。あけぼのばし、曙橋〕

 イチョウのマークが入った交通局の電車に乗り込んだ。

〔2番線、ドアが閉まります〕

 高橋:「こっちの地下鉄は平和ですね。本場アメリカじゃ、地下鉄もゾンビアトラクションだったわけでしょ?」
 愛原:「それを俺達は霧生電鉄で体験したじゃないか」
 高橋:「まあ、そうですね」

 電車が走り出す。
 霧生電鉄は地下鉄ではなく、たまたま私達がいた所が丘陵地帯で、しかも更に山深い所に向かう為、長いトンネルのある区間だっただけに過ぎない。
 関西に北神急行電鉄という私鉄があるが、あれみたいなものだ。

〔次は市ヶ谷、市ヶ谷、大妻女子大学前。有楽町線、南北線、JR中央・総武線各駅停車はお乗り換えです。お出口は、左側です〕
〔The next station is Ichigaya.Please change here for the Yurakucho line,the Nanboku line and the JR Cyuo-Sobu line.〕

 私達は先頭車に乗っている。
 地下鉄では前面展望は望めない。
 運転室にはブラインドが下ろされ、客室からの照明が入って来ないようにしているからだ。
 せいぜい、乗務員室扉の小さな窓から見えるくらい。

 リサ:「…………」

 リサはその小窓から前方を覗いている。

 愛原:「何か面白いものでも見えるかい?」
 リサ:「研究所に運ばれる時、こういう電車で運ばれたかもしれない」
 愛原:「覚えてるのか?人間だった頃を……」
 リサ:「……まだよく思い出せない。時々夢に出て来るだけ」
 愛原:「そうか……。その電車というのは、霧生電鉄?」
 リサ:「違う。もっと……こう外国っぽい電車。あんな感じ」

 リサは中づり広告を指さした。
 どこかの旅行会社の広告で、アメリカ旅行をPRするものだった。
 その中にニューヨーク行きがあり、ニューヨークの地下鉄電車の写真があった。
 
 愛原:「リサは日本人で、日本のアンブレラ研究所で改造されたんだろう?」
 リサ:「うーん……だと思うんだけど……。よく覚えてない……思い出せない……」

 もしも霧生市内での調査が順調に進んだとしても、私達としては大山寺あるいは霧生電鉄の秘密のトンネルまでしか行けないだろう。
 アンブレラ開発センターは、自爆装置が働いて木っ端微塵になったわけだし……。
 リサがどういう経緯であの研究所にいたのかは不明だ。
 本人は気がついたら、あそこにいたということだ。
 しかし日本人離れした顔立ちからして、欧米人の血が混じっているのは間違いない。
 一時でも欧米のどこかの研究所にいた可能性は高い。
 BSAAなどでも調査されているようだが、未だにリサの過去については突き止められていないのが実状だ。
 アメリカのルイジアナ州では、やはり10歳くらいの少女を模したBOWが造られたというが、BSAA北米支部の介入によって鎮圧されている。

 高野:「無理に思い出すこともないでしょう。何かの拍子にフッと思い出すかもしれませんよ?」
 愛原:「高野君」
 高野:「今はこのコの面倒を看ることが依頼なんですから、それでいいじゃありませんか」
 愛原:「そうだな」

 契約期間の終了時期については記載されていないが、善場氏の見解ではリサが大人になるまでであろうとのことだ。
 アメリカ政府エージェントの中に、やはり特殊なウィルスを幼少の頃(ラクーンシティ事件)に体内に宿し、見事なまでに驚異的な身体能力でもって活躍している者がいるとのこと。
 日本政府もそれをリサに期待しているのではないかとされる。

[同日17:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 無事に事務所に帰り着いた私達は、事務作業に当たっていた。

 高橋:「あ、加湿器の水切れた」
 愛原:「乾燥する時季だからな、すぐに切れるだろう」
 リサ:「私、補給する」
 愛原:「おっ、頼むぞ」

 リサがタンクに水をドバドバ入れる。
 その時、電話が鳴った。

 高野:「お電話ありがとうございます。愛原学探偵事務所でございます。……あ、はい。ああ、リサちゃんですか?ちょっとお待ちください」

 高野君は受話器を保留にした。
 今度はショパン作“幻想即興曲”だ。

 高野:「リサちゃん、電話よ。斉藤さんから」
 リサ:「サイトーから?」
 愛原:「あとは俺がやっておくから、リサは電話に出ろよ」
 高橋:「あーっ!俺がやります、先生!」
 愛原:「じゃあ、頼む。……『アリッサー!』ってか」
 高野:「先生、何のネタですか、それ?」
 愛原:「“バイオハザード”とはまた別のジャンルのホラーゲーム」
 高野:「?」

 リサは電話で斉藤絵恋さんと親しげに話をしていた。
 電話を切ると……。

 リサ:「明日の旅行、サイトーが1人だけ来る。だから明日よろしくって電話だった」
 愛原:「そうか。よほど楽しみなんだな」
 高橋:「俺もですよ!?」
 愛原:「あー、分かった分かった」
 高橋:「是非とも部屋割りは先生と一緒で!」
 愛原:「部屋割りもヘッタクレも無いよ。皆同じ部屋だから」
 高野:「そうなんですか?」
 愛原:「結構広い部屋らしいから、中で仕切れるようになってるんじゃない?」
 高野:「なるほど。もしかして、スイートルームですかね?」
 愛原:「いやー、どうだろ」

 いくら株主優待券を融通してくれるとはいえ、スイートは無いと思うぞ。
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“私立探偵 愛原学” 「霧生市の探索」

2019-01-30 10:30:51 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月18日12:00.天候:晴 某県霧生市 霞台団地]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は政府エージェントの善場さんやBSAAに連れられて、あの霧生市までやってきた。
 私のように生きてあの町から脱出した者が、如何にしてあの町を逃げ回ったかの軌跡を調査したいのだという。
 今、私達は霞台団地までやってきた。
 この団地は霧生市のニュータウンとして造成された所であったが、ここもゾンビパラダイスと化していた。

 
(団地の入口で大事故を起こしたまま放置された路線バス。運転手がゾンビ化したか、或いはゾンビ化した乗客が運転手を襲ったか……)

 愛原:「高橋君、このバスに見覚えはあるかい?」
 高橋:「ええ。団地の入口で事故ってたバスですね」
 善場:「一応、ここも調査してみましょう」

 善場氏は乗っている装甲車を止めてもらうと、装甲車を降りた。
 私達も降りる。
 外は長閑な冬の日差しが差し込んでいる。
 とても今はゴーストタウンと化した町だとは、到底思えない。

 愛原:「そろそろお昼だな、高橋君」
 高橋:「そうですね。団地に入って、最初の交差点を左に曲がった先にラーメン屋がありましたよ」
 愛原:「アホ。あの時、あのラーメン屋は火事になってただろうが。だいいち、営業してるわけ無いっつの」
 高野:「むしろ、今営業してたらウケるね」

 福島第一原発の方は、立入制限が解除された所から徐々に復興しているようだが、ここは無理だな。

 善場:「そろそろ、昼食にしましょう。お弁当は用意してありますので……」
 愛原:「ありがとうございます」
 善場:「一応、安全の為に装甲車の中で食べてください」
 愛原:「そうですか。今はこんな長閑な雰囲気になっているのに、何だか勿体無いですなぁ……」
 高野:「ゾンビさえいなければ、いい所だったんでしょうけどね」
 愛原:「そうだな」

 だが!

 リサ:「そこ!何かいるよ!」

 リサが両目を金色に光らせてバスの床下を指さした。

 ゾンビA:「ウウウ……!」
 ゾンビB:「アァァ……!」
 愛原:「ええーっ!?」

 何と!バスの床下からゾンビが2体這い出て来た!
 あの事件からもう2〜3年は経ったというのに、まだ『生きている』ゾンビがいたとは!

 愛原:「高橋、下がれ!」
 高橋:「はいっ!」

 ゾンビ達はようやく立ち上がるのがやっとといった感じであったが、痩せこけて、腐った肉は殆ど付いておらず、骨と皮だけの状態であった。
 すぐに護衛に付いていたBSAA極東支部日本地区本部の隊員達が配置に付いて、手持ちのマシンガンやショットガンでゾンビを蜂の巣にしてくれた。

 BSAA隊長:「この辺りを探索して参ります!」

 BSAA隊長は善場氏にそう言うと、隊員数名を引き連れ、団地の方に走っていった。
 残った隊員は死んだゾンビの調査に当たっている。

 愛原:「ゾンビさえいなけりゃ、いい所なんだけどな!」
 高橋:「全くですね!」

 あとは自衛隊員が死体と化したゾンビを装甲車(もちろん私達が乗っているBSAAのではなく、自衛隊の)に収容した。
 もう1台、BSAA隊長らが乗っていた装甲車からは無線が聞こえて来ている。
 どうやら団地内には、まだ動けるゾンビが他にもいたらしい。
 市街地のように(ラーメン屋やガソリンスタンドなどを除いて)火災がそんなに発生しなかった場所なだけに、焼死したゾンビはいなかった。
 その為、BSAAの掃討作戦から漏れた(恐らく普通の死体と思われた)死体が今ゾンビ化しているのかもしれないというやり取りが聞こえて来た。
 さすがに完全に白骨化した者はゾンビ化しなかったようだが、少しでも脳味噌が残っている死体はゾンビ化するのだろう。

 愛原:「あの……善場さん」
 善場:「何でしょうか?」
 愛原:「とても弁当食ってる気分になれないんですけど……」
 善場:「そうですね。昼食の時間と場所は変えましょう。これならむしろ市街地の方が良かったかもしれません」

 しかしあそこは紛争の後といった感じで、雰囲気的には落ち着かない。
 ま、確かにゾンビは全くいなかったのだが。
 無線からは、他にもハンターやリッカーの死体が見つかったというのも聞こえて来た。
 ハンターはミイラ化しており、リッカーは白骨化していたという。
 これらもいずれは回収の対象となるだろう。
 どこかの研究所に運ばれるのかもしれないな。

 善場:「……はい。というわけでして……はい」

 善場氏は電話で上層部とやり取りをしているようだった。

 善場:「……はい、了解しました。申し訳ありません。……はい」

 そして、善場は電話を切る。

 善場:「愛原さん、申し訳ありません。上層部からの指示で、本日の調査は中止せよとのことです」
 愛原:「……だろうなぁ」
 高橋:「おいおい、クソ忙しい先生の貴重なヒマな時間を無駄に使わせやがったこの落とし前はどう付けてくれるつもりなんだ?あぁ?善場さんよ?」
 愛原:「高橋、日本語整理してから善場さんに文句言え」
 善場:「もちろん報酬は支払わせて頂きます。まさか、未だに『生存』しているゾンビがいたとは想定外でした」
 愛原:「2〜3年もの間、どうやって飲まず食わずで『生きて』いたのやら……」
 善場:「実は旧アンブレラ社の研究レポートには、似たようなことが書いてあるものがあったそうです。ただ、他の研究者からは一笑に付されていたらしいのですが……。どうやら、そのレポートは本当だったようです」

 温かい血肉を求めて彷徨い歩く、餓鬼道を地で行くゾンビが数年間も飲まず食わずで『生き』られるとは普通思わないだろう。
 恐らくそこが、昔ながらのゾンビ映画に出て来るゾンビとは違う所なのかもしれない。

 善場:「上層部としては既に安全が確認されている市街地のみを調査するものと思っていたようです。郊外部分につきましては、未だに安全宣言を出すわけには行かないことが判明しました。それだけでも、この調査は意義のあるものだったと私は思います」
 愛原:「できれば霧生電鉄の駅や大山寺境内も調査してみたかったですね」
 善場:「はい。それも追々お願いすることになるかと思いますので、その時はどうぞよろしくお願いします」

 私達はBSAAの隊員達の帰還を待って、それから装甲車に乗ると来た道を引き返した。

 善場:「明日はご旅行ですか?」
 愛原:「そうなんですよ。うちの事務所の慰安旅行でしてね。まあ、1泊2日の温泉旅行ですが……」

 ふと道路沿いの看板を見ると、『新日蓮宗大本山 大山寺』の他に、『霧生温泉』の看板もあった。
 バイオハザードさえ起こらなければ、いい町だっただろうに……。
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“私立探偵 愛原学” 「出発前日」

2019-01-28 18:50:11 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月18日09:00.天候:曇 某県霧生市上空]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は訳あってヘリコプターに乗っている。
 BSAA極東支部日本地区本部が、久方ぶりに霧生市内の探索を行うのだという。
 正直私達はあの悪夢の聖地に足を踏み入れたくは無かったのだが、日本政府エージェントの善場さんが是非と押してきた為、私達は参加せざるを得なかった。
 いつもは事務所で留守番の高野君もついて来ている。
 そして、リサもだ。

 パイロット:「まもなく霧生市です。自衛隊の臨時警備本部に着陸します」

 福島第一原発の立入制限区域の入口には民間委託の警備員が立哨しているが、霧生市は自衛隊が直々に行っている。
 これは前者と比べても、とても危険な地域であるということに他ならない。

 愛原:「全く。明日は温泉旅行だってのに……」
 善場:「もちろん、今日中に帰りますよ。愛原さん達のあの時の行動を教えて頂きたいのです」

 朝早くに連れ出され、自衛隊の駐屯地に連れて行かれたかと思うと、すぐBSAAのヘリコプターに乗せられた。
 そして、私達は霧生市の入口にある自衛隊臨時警備本部に着陸した。

 高橋:「おお〜、先生。カプコン製のヘリなのに墜落しませんでしたよー?」
 愛原:「何を言ってるんだ、オマエは……」
 高野:「そのネタ、一部の人にしか分からないよ」

 ヘリコプターを降りると、臨警本部事務所に連れて行かれ、そこで自衛隊のお偉いさんとBSAAのお偉いさんと話をした。
 ここ最近、霧生市内の安全が確認されつつあるので、私達のように無事に市内を脱出できた者について、当時の行動を把握したいのだという。
 要するに、アレだな。“はだしのゲン”みたいに、どうやって原爆の中から生き延びたかという証言を得るのと同じことだ。
 東日本大震災でも、現場から生き延びた被災者の当時の証言は確かに今後の防災計画の役に立つ。
 しかし私達の証言は、果たしてバイオテロ対策の役に立つのだろうか。
 そんなことを考えつつ、私達は自衛隊の装甲車に乗り込んだ。
 これまでも何度もBSAAなどの武装組織が市内に入り、ゾンビやクリーチャーの掃討作戦に当たって来た。
 ここ最近はその目撃証言も無くなり、ある程度の安全が確認されつつあるわけだが、万が一ということもある。
 さすがのゾンビも装甲車の窓ガラスまではブチ破れないから、その中にいれば安全ということだ。

 善場:「それではまず、愛原さん達が最初にゾンビ達と遭遇したレストランに行きましょう」
 愛原:「はい」

 あの時、私と高橋君は仕事が終わった打ち上げをしていた。
 そんな時、1人のゾンビが店の中に入ってきたのがきっかけだったな。
 呻き声を上げながらフラフラやってきたので、私つい、飲み過ぎて吐きそうになった酔っ払いが店の中に入ってきたとしか思わなかった。
 店員もそのように思ったのだろう。
 その酔っ払いらしき男に近づいた途端、そいつは牙を剝いた。
 店員はそのゾンビに噛まれつつも、何とか店の外に追い出し、ドアに鍵を掛けた。
 そしてそれを合図にするかのように、ゾンビの大群が店の窓ガラスをバンバン叩き始めたのだ。

 愛原:「何だかまるで外国の町みたいだな。紛争地帯の町って感じだ」
 高橋:「そうですね」

 悲惨な状態となった国内の町は東日本大震災で見たつもりだったが、これは全く違う。
 私達が通っている場所に死体が転がっているということはなかった。
 ただ、死体は市外に搬出することは許されず、そのまま火葬されたという。
 これは死体をそのまま外に持ち出して、それがまたゾンビ化したりしたら大変だからだ。
 また、そうでなくても死体はウィルスに汚染されている恐れがある。
 遺品などもちゃんと消毒された上で、遺族には遺骨の状態で返されたとのこと。
 さすがに骨になってまでゾンビ化することはないからだ。

 BSAA隊員:「まもなく、件のレストランです」

 市街地は殆ど焼け野原となっていた。
 確かに私達がゾンビの攻撃を交わしながら進んでいた時、あちこちで火災が発生していた。
 消防署もあのゾンビパラダイス状態では、ロクな消火活動もできなかっただろう。
 ゾンビに阻まれただろうし、第一、消防士自身がゾンビ化して歩いているところを私は一瞬だけ見たことがある。

 愛原:「降りても大丈夫ですか?」
 隊員:「はい。この辺りは安全が確認されています」

 私達は装甲車を降りた。
 因みに装甲車は、他にも自衛隊員やBSAA隊員を乗せた物が前後1台ずつ挟むようになっている。

 善場:「調査によりますと、この辺りが愛原さん達が食事をされていたレストランのあった場所です」
 愛原:「そうですか。ここが通りであるならば、入口はこの辺に確かあって……」

 私達はまだ焦げ臭い臭いの残るレストラン跡に入った。

 愛原:「この辺りで高橋君と夕食を取っていました。確かあの時、テーブル席は満席だったので、カウンター席で並んで座っていたんです」
 高橋:「そうでした」
 善場:「なるほど……」

 善場さんは手帳に私の証言をメモしている。

 愛原:「そしたら、1人の酔っ払い……実際はゾンビでしたが、それが入ってきたんですよ」

 そこから私達は店の裏から逃げたこと。
 それでもゾンビ達の魔の手は迫っていたことを証言した。
 それから私達はマンションの屋上に逃げたはずだ。
 マンションは黒焦げになりつつも、何とか残っていた。

 愛原:「あのマンションの屋上で、クリムゾンヘッドに襲われたわけです」

 1度死んだゾンビが、体内に残ったウィルス活動の激化によって再び蘇ったもの。
 ただ単に蘇ったのではなく、両手の爪は長く鋭く伸びて、体中は赤く染まり、特に頭部が真っ赤に染まったのでそう呼ばれた。
 全てのゾンビがそうなるわけではなく、未だにどういうゾンビがどのような条件でそうなるのかまでは不明なのだそうだ。
 せいぜい対処法として頭を吹っ飛ばしてやるか、体をバラバラに解体してやる、或いは焼却してやることだ。
 実際、火災の酷かった地帯ではクリムゾンヘッドの発生は報告されていない。

 善場:「分かりました。それでは、次に行きましょう」

 私達はこの地で会った警視庁の刑事と一時行動を共にした軌跡を辿ることになった。
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“私立探偵 愛原学” 「出発前の計画段階」

2019-01-28 10:22:18 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月12日10:30.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日から3連休であるが、予定は仕事のみ。
 こうして事務所も開けている。
 私は事務所で電話をしていた。
 いや、これは別に仕事の電話というわけではないのだが……。

 斉藤秀樹:「我が全日本製薬は鬼怒川に保養所がありますが、そこ以外にもありますから御紹介させて頂きますよ」
 愛原:「そんな、お気遣い無く」
 斉藤:「いいえ。私の学生時代の謎を解いて頂いた御礼です。あの後も、当時の先生の行方は追っていますからね」
 愛原:「ええっ?」
 斉藤:「例え墓場でも、それがどこにあるのか突き止めたいのです。あ、これは私の私怨ですから、愛原さんを巻き込むつもりはありません」
 愛原:「私怨!?」

 斉藤社長の高校時代、科学の教師だったという日本アンブレラの研究員。
 その本体であるアンブレラ・コーポレーションは、アメリカ中西部の町で大規模なバイオ事件を引き起こし、その隠蔽工作に奔走したものの、結局は失敗。
 政府より業務停止命令を受けて信用を失い、株価は大暴落。
 当然ながら経営が破綻し、それで幕引きとなった悪の製薬会社である。
 ただ、政府の方もアンブレラ社におもねっていた部分があって、ヘタすりゃ政界にも飛び火する恐れがあったので、慌てて経営破綻させて幕引きを図ったことが現在発覚している。
 日本アンブレラ社はアメリカ本体より経営が切り離されて細々と活動していたが(むしろ日本を拠点に再興しようと考えていた)某県霧生市のバイオ事件を機に完全に消滅してしまった。
 この辺、日本の方がむしろ冷たいもので、斉藤社長率いる全日本製薬会社を始め、全ての取引先が逃げ出した為に再興など土台無理であった。
 私はこの見事なまでの遁走ぶりが、むしろ怪しいような気がしてしょうがない。
 斉藤社長は、私の前では良い顔をして下さるが、実は裏の顔なんかあったりしてな。
 ま、この会社も国内では有数の大製薬企業で、その経営者ともなれば、いくつもの顔を持つのは当然だろうが……。

 愛原:「そ、それで私達はいつ出発すれば良いのでしょう?」
 斉藤:「もちろん愛原さん達の御都合で結構ですよ。何しろ、娘のお守りをして頂けるということで、ありがとうございます」
 愛原:「でもこの3連休はさすがにムリ?」
 斉藤:「そうなんですよー。何しろ、勉強は不出来な娘でして、今頃は学校で追試です。明日は日曜日ですが、赤点対象者の特別補習があります」
 愛原:「うわ……」
 斉藤:「愛原さんの所は大丈夫でしたか?」
 愛原:「リサですか?うちにいますから、多分赤点は取っていないかと」
 斉藤:「素晴らしい。いや、実に素晴らしいですな」
 愛原:「リサは……違った意味で特別ですから」
 斉藤:「ええ、分かってますよ」
 愛原:「来週の土日は何も予定が無いので、この日を開けておこうかと思います」
 斉藤:「了解しました。私が株主になっているホテルがありますので、その優待券を駆使させて頂きましょう」
 愛原:「何から何まですいませんね」
 斉藤:「いえ、これは私からの依頼と報酬ですよ」
 愛原:「ん?」
 斉藤:「まだあなたには私の学生時代の謎を解いて頂いたという報酬をお支払いしておりませんでしたし、今度は娘のお守りをして頂くという依頼の報酬を先払いさせて頂くだけの話ですよ」
 愛原:「なるほど。そういうことでしたか」
 斉藤:「もしも契約書が必要でしたら、サインしに伺いますよ?」
 愛原:「あ、いや。正式な仕事の依頼ではないですからね。そのご足労は無用ですよ」

 私は笑みをこぼしながら答えた。

 愛原:「それにしても、斉藤社長はどうしてここまで私を目に掛けて下さるんですか?」
 斉藤:「そうですねぇ……。全て説明しようとすると、日が暮れてしまいます。それくらい複雑な事情があるんですよ。まあ、簡単に一言で言ってしまえば、『私怨を晴らしてくれるのは愛原さんしかいない』とそう思ったからです」
 愛原:「また私怨ですか……」
 斉藤:「愛原さんは義憤に燃える正義感をお持ちであるとお見受けします。それを買いたいのです」
 愛原:「失礼ながら、些か買いかぶり過ではないかと思いますが……。ま、全幅の御信頼を頂いた以上、報酬に見合った仕事はさせて頂きますよ。……はい、分かりました。では、また後ほど」

 私は電話を切った。

 高野:「斉藤社長がいい支援者になってくれそうですね」
 愛原:「俺なんか買っても、あまり大した利益は出ないと思うんだが……」
 高橋:「そんなことないですよ。その社長、ちゃんと人を見る目があるってことですよ」
 高野:「そうですよ。さすがは大企業家は違いますね」
 愛原:「うーん……」

 何か、話が出来過ぎているような気がする。
 嫌だね。
 こんな仕事をしていると、すぐ人を疑う癖が付いてしまう。
 職業病だな、これは。

 高野:「予定表に、『温泉旅行』って書いておきますね」
 愛原:「おいおい……」

[同日同時刻 天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家]
(ここから三人称となります)

 電話を切った斉藤秀樹。
 ここは斉藤家の応接室である。
 斉藤の向かい側のソファには、来客が座っていた。
 煙草を嗜んでおり、テーブルの上の豪華なクリスタル製の灰皿に灰を入れている。

 斉藤:「随分と絶好調のようだな?キミが面倒を見ている、この愛原学探偵事務所とやらは……」
 ボス:「おかげさまで。私もこちら側の人間とはいえ、探偵の端くれ。依頼人の御要望には、極力応えるものだ。どうやら、その成果に御満足頂けたようだな」
 斉藤:「御苦労……」
 ボス:「いや、なに……。私が後見している彼らを使って、どうするつもりなのかね?」
 斉藤:「電話で言った通りさ。この業界のイメージをどん底までダウンさせたアンブレラの連中を、徹底的に叩き潰す。それだけさ」
 ボス:「しかし、製薬会社としてのアンブレラはもうこの世から消え失せた。今存在しているのは、民間軍事会社としてのアンブレラだ。それを潰す気か?」
 斉藤:「いや、そういうことじゃない。ま、見ていてくれ。悪いようにはしない」
 ボス:「そうかね。(……この男、他に隠し事があるな。恐らく、本来の目的は愛原君ではなく……)」
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“私立探偵 愛原学” 「1月10日」

2019-01-27 19:17:56 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月10日13:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 サピアタワー→JR東京駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は世界探偵協会日本支部の会合があって、サピアタワーまでやってきた。
 日本支部事務所は別の場所にあるが、大きな会合がある時は大きな会議場を借りる。
 だから、場所はその時によって違う。

 愛原:「終わった終わった。昼飯食ってから帰るか」
 高橋:「それにしても先生、こんなデカいビルの会議場借りるなんて、協会は金あるんですね」
 愛原:「そう思うか?ま、その金の出所は俺達協会員の賛助金なんだがな」

 私達はタワーの外に出た。
 超高層ビルが建ち並ぶ場所なだけに、強力なビル風が私達を包み込んだ。

 愛原:「うー、寒い寒い。早く駅の中に入ろうぜ」
 高橋:「はい!」

 私達は寒風から逃げるように、東京駅日本橋口から駅の中に入った。
 さすが駅の中は暖かい。

 高橋:「どこで昼飯にします?」
 愛原:「そうだなぁ……。あ、マックでいいや」

 高橋はズッコケるような感じになった。

 高橋:「先生、マックは駅の反対側ですよ。もっと近場にしましょうよ」
 愛原:「つっても、どこにするんだ?俺はあんまり東京駅は来たことないからなぁ……」
 高橋:「地下街に行けば何かありますよ。行ってみましょう」
 愛原:「あ、ああ」

 私達は地下街に下りた。

 愛原:「ラーメンでいいよ、ラーメンで」
 高橋:「じゃあ、こっちです」
 愛原:「オマエ、詳しいな」

 まさか高橋、私がここに来ることを既に想定して下調べしていたんじゃあるまいな?
 時間帯的にはお昼時のピークを過ぎてはいたが、それでも少し並んでから店内に入ることができた。

 高橋:「そういえば先生、リサのことなんですけど……」
 愛原:「リサがどうした?」
 高橋:「ほら、あいつのダチが言っていたという旅行の話……」
 愛原:「ああ、確か温泉がどうとか……」
 高橋:「そうなんですよ。あれ、いつどこへ行くんですかね?」
 愛原:「そういえばまだ詳しい話を聞いてなかったなぁ。まあ、慰安旅行も兼ねて一緒に行ってもいいんだが……」
 高橋:「おおっ!」
 愛原:「だけどぶっちゃけ、斉藤社長の家族旅行にくっついて行くようなものだろ?何か気まずいなぁ……」
 高橋:「もしも電車で行くなら、離れた席に座ればいいんですよ」
 愛原:「いや、そういう問題じゃないだろう」

 運ばれて来たラーメンに箸を付ける。

 高橋:「先生、コショー……」
 愛原:「俺は要らんよ。……あ、オマエが使うのか?ほら」
 高橋:「いえ、違いますよ。俺の時計、故障したっぽいです」
 愛原:「紛らわしいな、おい!……電池切れか?後で時計屋に持って行けよ」
 高橋:「そうします」

[同日14:15.天候:晴 JR東京駅丸ノ内北口バスプール→都営バス20系統車内]

 昼食のラーメンを食べた私達はその足でバスプールに向かい、バスに乗った。

 愛原:「あとはこのまま帰るだけだな」
 高橋:「そうですね。アネゴにこれから帰るってLineしておきましょうか?」
 愛原:「ああ、頼む」

 高橋がスマホを操作していると、発車の時刻になった。

〔発車致します。お掴まりください〕

 バスは定刻に発車したようだ。

〔毎度、都営バスをご利用くださいまして、ありがとうございます。この都営バスは東京都現代美術館前経由、錦糸町駅前行きでございます。次は呉服橋、呉服橋。……〕

 高橋:「先生」
 愛原:「何だ?」
 高橋:「温泉旅行の件なんですけど、どうやら今度の3連休はムリぽのようです」
 愛原:「斉藤社長にも予定があるんだろ。ってか、どうして高野君がそんなこと知ってるんだ?」
 高橋:「リサが帰って来てるようですね。……あ、また来た。……えー、何でも、『斉藤絵恋さんが中間テストで赤点を取ったので、3連休は補習と追試で【お察しください】』?」
 愛原:「リサは赤点取らなかったのかな?」
 高橋:「せっかくの3連休を……!」
 愛原:「長期休暇の宿題が少ない代わりに、終了直後に試験を行うことによって、遊び過ぎを防止する策か。考えたな」

 私が感心していると……。

 高橋:「先生、笑い事じゃないですよ。俺、楽しみにしてるんですから」
 愛原:「そんなに行きたいのかい?」
 高橋:「もちろんですよ!」
 愛原:「ふーん……」

 まあ、荒れた10代を過ごした高橋だから、家族で温泉旅行なんて機会も無かったのだろう。
 私の場合は……まあ、いいじゃないか。
 で、結局いつ行くことになるのか。
 それはそれで気になるなー。

[同日15:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

〔5階です。ドアが開きます〕

 事務所のビルに無事帰り着く私達。
 エレベーターを降りて、数歩左斜めに歩くとすぐに事務所の入口だ。

 愛原:「ただいまァ」
 高野:「先生、お疲れ様です」
 リサ:「お帰り、愛原さん」
 愛原:「おう」
 高野:「ちゃんと先生のサポートは上手くできた?」
 高橋:「当たり前だ。ナメんじゃねぇ」
 高野:「今、お茶お入れしますね」
 愛原:「ありがとう」

 私はコートを脱いで、自分の席に座った。

 愛原:「リサ、何か旅行が延期になったっぽいなー?」
 リサ:「大丈夫。元々想定内だったから」
 愛原:「想定内?」
 リサ:「どうせサイトー、追試と補習は込みで計画してたみたい。だから、次の土日だって」
 高橋:「ただの負け惜しみにしか聞こえねーなー」
 愛原:「こらこら。俺達は連れて行ってもらう側なんだぞ?」
 リサ:「ところがその土日は、サイトーのお父さんとお母さんが行けない」
 愛原:「ん?じゃあ、また次の週か?いっそのこと、2月の方が閑散期で料金も安いんじゃないのか?」
 高野:「今月下旬も変わりませんよ」

 肝心の言い出しっぺ本人が決めてくれないと、私達もこれ以上何もできない。
 幸か不幸か、今のところ来週の土日は全く仕事は入っていないが……。
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