goo blog サービス終了のお知らせ 

報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「深夜の帰宅」

2022-09-04 16:04:33 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月19日22:42.天候:晴 長野県北安曇郡白馬村 JR大糸線5355M列車先頭車→白馬駅]

 大糸線では乗り換えが1回ある。
 松本駅から南小谷駅まで走り通す普通列車は少なく、多くの列車が信濃大町で乗り換えとなる。
 これは大糸線の旅客数が、南北で大差あるからだ。
 松本~信濃大町間は、3両1編成で構成される211系という車両が多く充当されており、これはツーマン運転である。
 それが信濃大町~南小谷間は2両編成ワンマン運転の電車となり、更には南小谷~糸魚川間に至っては気動車1両だけのワンマン列車である。
 大糸線で廃止の危機に瀕しているのは、この気動車区間である。
 今回の旅のトップバッターでもあった。

〔ピンポーン♪ まもなく、白馬です。白馬駅では、全ての車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。乗車券、運賃、整理券は駅係員にお渡しください。定期券は、駅係員にお見せください〕

 松本駅から信濃大町駅まで乗った211系電車は、全てロングシートの車両だった。
 これが却って眠れるとばかり、稲生は寝落ちしてしまった。
 今の電車は、ボックスシート付きで、そこに向かい合わせに座っている。
 こちらは勇太だけでなく、マリアも舟を漕いでいた。

 勇太:「は……!」

 車内の自動放送で目を覚ます。
 進行方向逆向きに座っていた勇太は、慌てて後ろを振り向いた。
 運転席右上の運賃表示機には、次駅停車案内も表示されている。
 今時の液晶表示であるが、『まもなく 白馬 です』という表示が見えた。

 勇太:「もう到着だ!マリア、起きて!」
 マリア:「んっ……?あー、つい寝ちゃった……」
 勇太:「白馬駅が見えて来た」

 勇太達の乗っているE127系は、運転室が左半分にしか無い。
 右側はちょっとした仕切りがあるだけで、ブラインドが下ろされることもなく、夜間でも前面展望が楽しめる。
 そのフロントガラス越しに、白馬駅の明かりが見えて来た。
 同時に、運転室からガチャッとハンドルを操作する音が聞こえ、列車が減速する。
 ここで対向列車との行き違いがあると、ATSの警報音なんかも響いてくるのだが(場内信号が黄色、出発信号が赤の為)、こんな時間にそれは無いのか、そのような音が聞こえてくることはなかった。

 勇太:「着いたー」

 そして電車は、本線の1番線に到着する。
 対向電車があったりすると、副線の2番線に止まったりすることもあるが、今回は無いので。
 その為、跨線橋の昇り降りは無い。

〔「ご乗車ありがとうございました。白馬、白馬です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。1番線の電車は、南小谷行きの最終です。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕

 電車を降りると、改札口にいる駅員にキップを渡す。
 白馬駅はまだ自動改札になっていない為、こういう形になるのだ。
 この時は、魔界高速電鉄の高架鉄道線を思い出した。

 勇太:「駅から先は……」
 マリア:「師匠が迎えを寄越すってさ」
 勇太:「そうか」

 駅の外に出ると、ロータリーに黒塗りのベンツSクラスが停車していた。
 勇太やマリアの魔力ではタクシーくらいの車種がせいぜいだが、イリーナが使うと、さすがに高級車が調達できるようだ。
 黒いスーツに白い帽子を目深に被った運転手が、ハイヤーの運転手よろしく、助手席後ろのドアを開ける。
 そして、荷物を入れる為にトランクも開けた。

 勇太:「悪いね」

 本革仕様のシートは、さすがに広かった。
 なかなか滅多に乗れるものではない。
 最後に運転手が乗り込むと、車は夜の駅前ロータリーを出た。

 勇太:「先生が迎えを寄越してくれたってことは、先生はまだ起きてるってこと?」
 マリア:「いや、寝てるだろ」
 勇太:「でも、この車……」
 マリア:「師匠のことだから、魔法石を使っているはず。これに魔力を吹き込めば、本人が寝てても魔法は発動する」
 勇太:「言うは易く行うは難し、かな?」
 マリア:「案外難しいんだ。幸い、人形達は師匠の力を借りてるけどね」

 夜でも人形が夜警を務めていられるのは、イリーナの魔法石によるところが大きい。

[同日23:15.天候:晴 長野県北部山中 マリアの屋敷]

 山道の県道から、突然車は砂利道の林道に入る。
 その林道を突き進むと、レンガ造りのトンネルが現れる。
 林道自体が1車線程度の幅しか無い為、トンネルもその幅だった。
 しかも、トンネル内には長さの割に明かりが全く無い。
 車は県道走行中からヘッドライトをハイビームにしていたが、林道から先はそうでもしないと本当に見えにくいのだ。
 そのトンネルを抜けると、ようやく屋敷が見えてくる。
 そして、深夜にも関わらず、運転手は正面玄関に着ける時にクラクションを鳴らした。
 これが、中にいるメイド人形達に対する到着の合図である。

 勇太:「どうもありがとう」

 車を降りると、メイド人形達が出迎えた。
 そして、トランクの中から荷物を降ろすのを手伝ったりする。

 勇太:「いいのかな?こんな賑やかで……」

 ここから歩いて行ける場所に、他に家など無いから近所迷惑ってことはないのだが、イリーナは寝てないのだろうか。

 イリーナ:「やあやあ。無事に帰って来れたねぇ」

 エントランスホールに入ると、イリーナもやってきた。
 特に寝ていたという感じは無く、いつもの服を着ていることから、起きていたようである。

 勇太:「ただいま帰りました。こんなに夜遅くになってしまって、申し訳ありません」
 イリーナ:「そうねぇ……。別に、もう一泊してきても良かったんだよ。私のカード、まだまだ限度額に余裕があるからねぇ……」
 勇太:「いえ、そんな、先生のカードで無駄遣いは……」
 マリア:「師匠。お土産のワインと“桔梗信玄餅”です」
 イリーナ:「おお~、こりゃどうも悪いねぇ。長旅で疲れたでしょう。今夜のところは、さっさと寝なさい。大事な話は、明日」
 マリア:「大事な話?」
 イリーナ:「アタシが、ただ単に気まぐれで行方不明になっていたと思うかい?もちろん、色々と立ち回っていたのさ。その1つがこれ」

 イリーナは1枚の書類を見せた。

 イリーナ:「あなた達の結婚許可証。アタシは前々からサインしていたけど、ダンテ先生のがまだだったでしょう?だからさ、何とか捜し出してサインしてもらったよ」
 勇太:「ええっ、本当ですか!?」
 マリア:「……だけどこれ、大師匠様のサインではないですが……?」
 イリーナ:「ダンテ先生は捕まらなかったから、代わりに私にとっての大師匠様にサインを頂いたよ」
 勇太:「ええっ!?」
 マリア:「そ、それって、大師匠様の更に上の……?」
 イリーナ:「ラハブ様さ。いやあ、どちらが先に捕まるかギャンブルだったけどねぇ、ようやくラハブ様に会えたというわけさ。事情を説明したら、快くサインしてくれたよ。ダンテ先生には、ラハブ様から仰って下さるってさ」

 ダンテが孫弟子達には優しく振る舞うのと同様、ラハブも孫弟子たるイリーナには優しいらしい。
 そのイリーナが、祖母におねだりする孫娘のような感じでサインを依頼したのかと思うと、この2人の弟子もまた笑みを隠せないのだった(因みにラハブは女性)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「鉄路上の魔道士達」

2022-09-01 20:21:24 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月19日18:03.天候:晴 山梨県甲府市 JR身延線4009M列車1号車内→甲府駅]

 特急“ふじかわ”9号は、順調に身延線を走行している。
 種別は特急ながら、身延線内における最高速度は時速85キロである。
 東海道本線の時速110キロ運転を除けば、同じJR東海の飯田線を走る特急“伊那路”と同じく、『日本で最も遅い特急』と言われる。
 もちろん、全区間を時速85キロで走るわけではなく、線形の悪い所はもっとゆっくりと走る。
 線形が悪い故の低速度である為、例え種別を急行から特急へ上げ、車両も特急仕様にしたところで、所要時間は急行時代と変わらぬのだそうだ。
 さり気なく急行時代には停車していた西富士宮駅を特急になってから通過しているが、少しでも評定速度を上げたかったのだろうし、創価学会が日蓮正宗から切り離されたことで、大石寺参詣者の利用が見込めなくなったから切り捨てたか
 とにかく、特急にしてはのんびりと走る列車であるから、例え景色の良い所を走るとはいえ……。

 マリア:「

 眠くなるのは必然である。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。ご乗車、ありがとうございました。まもなく終点、甲府です。中央線は、お乗り換えです〕
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、甲府、終点、甲府です。4番線に到着致します。お出口は、右側です。到着の際、列車が左右に揺れますので、ご注意ください。お乗り換えのご案内を致します。中央線下り、普通列車の小淵沢行きは、18時9分に1番線から発車致します。その後、特急“あずさ”41号、松本行きは18時29分に、1番線から発車致します。中央線上り、普通列車、高尾行きは18時9分、その後の特急“あずさ”50号、千葉行きは18時35分、いずれも2番線から発車致します。車内にお忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、甲府です」〕

 車内放送でマリアは目を覚ました。
 他の寝ていた乗客も、同じくそのようにしている。
 車内チャイムはオリジナルのオルゴールだが、良い目覚ましになっている。

 勇太:「おはよう。もうすぐ到着だよ」
 マリア:「あ、あー……。いつの間にか寝てしまった」
 勇太:「まあ、眠くなりそうなスピードと、インバータの音だからね」

 因みに新幹線もそうだが、在来線においても、あまり車内放送で『JR東海』とは言わないのがJR東海である。
 何かあるのだろうか?

 勇太:「荷物を降ろそう」
 マリア:「うん」

 マリアは脱いでいた魔道士のローブを羽織った。
 電車の中というと、たまに冷房が効き過ぎて寒いということがままあるが、この373系電車にあっては、そういうことはない。
 デッキのドアが無い上、乗降ドアの半自動機能は使用しないので、駅に停車中は冷房がダダ洩れしてしまうのである。
 甲府駅はJR東日本が管理している。
 ここでは4番線と5番線がJR東海専用ホームで、それ以外がJR東日本である。
 つまり、身延線は4番線と5番線ということだ。
 そのうち、特急は4番線に到着する。

〔「ご乗車ありがとうございました。終点、甲府、終分、甲府です。……」〕

 ドアが開くと、勇太達は列車を降りた。

 勇太:「やっぱり山梨も暑いなぁ……」

 今夜は熱帯夜のようである。
 ここでは、身延線が付属のような感じだ。
 改札階に行くには、中央線上りの1番線を通らないといけない。
 で、改札階に上がると……。

 勇太:「やった!駅弁売ってる!ここで夕食の駅弁が買えるぞ!」
 マリア:「それは良かった。……お土産は売ってる?」
 勇太:「売ってる!甲府のお土産らしく、“桔梗信玄餅”売ってるよ!」
 マリア:「ワインは?」
 勇太:「ある!」
 マリア:「よし。ここで師匠へのお土産をゲットだ」

 他にもNEWDAYSがあり、そこでもお土産は買える。
 駅弁はだいぶ残っているし、営業時間もまだ余裕があるので、先にNEWDAYSに行った。
 駅のコンビニとして、これから必要な物を購入する為だ。

 勇太:「ここで全部調達できるとはね!さすがは、県庁所在地の駅だ」

 ここでマリアは“信州おとなの牛めし”を、勇太は“鰈の西京焼き弁当”を購入した。
 あとは飲み物として、お茶のペットボトル。

 勇太:「こんな所でいいか」
 マリア:「うん。こんなところだね」

 あとは、中央本線下りの2番線に向かう。
 2番線は下り本線で、3番線は副線。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の2番線の列車は、18時29分発、特急“あずさ”41号、松本行きです。……〕

 ATOSと略称される、東京圏輸送管理システムならではの言い回しの放送が流れる。
 中央本線では、この甲府駅が導入駅の最東端である。
 尚、あくまでもこのシステムはJR東日本のオリジナルである為、JR東海の身延線ホームでは流れない。
 JR東日本ではこのように、放送で『JR東日本』とよく言うのだが、JR東海は何故かそのようなアピールをしない。

 マリア:「12号車って、1番後ろ?」
 勇太:「いや、1番前」
 マリア:「狙ったの?」
 勇太:「いや、JR東海の券売機じゃ狙えなかった。……から、偶然だね。因みに“ふじかわ”は、あの先頭車だけが指定席だったから」
 マリア:「そうか……」

[同日18:29.天候:晴 JR甲府駅→中央本線5041M列車12号車内]

〔まもなく2番線に、特急“あずさ”41号、松本行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまで、お下がりください。この列車は、9両です。……〕

 12号車があるのに9両編成というのは、基本編成のみの編成であり、附属編成である3両編成(1号車から3号車)が連結されていないという意味である。

 マリア:「新宿駅からはよく乗ったけど、ここから乗るのは初めてだな」
 勇太:「そうだね。で、この駅も発着しているはずなんだけど、よく覚えてないっていうね」
 マリア:「確かに。だいたいこの辺りだと、寝てるもんな」

 そんなことを話しているうちに、列車がやってくる。
 そこそこの乗車人数が乗っていたが、甲府駅でぞろそろと降りて来た。
 “かいじ”と合わせて、特急が賑わうのはここまでのようである。
 が、そこはさすがに本線を走る特急。
 身延線のようなローカル線を走る特急の3倍の車両が連結され、グリーン車も連結されているということもあり、賑わいは別格だった。
 車内に入り、指定されている席に向かう。
 座席のシートピッチは広いとは言えないが、座席の形状はJR東日本の新幹線の普通車のものによく似ていた。
 今度は進行方向左側に座り、テーブルを出して駅弁と飲み物を置く。
 停車時間は僅か1分なので、そうしているうちに列車が走り出す。

〔♪♪♪♪。この列車は、特急“あずさ”41号、松本行きです。停車駅は韮崎、小淵沢、富士見、茅野、上諏訪、下諏訪、岡谷、塩尻、終点松本の順に停車致します。……〕

 勇太:「先生には途中経過を報告しなくて大丈夫だろうか?」
 マリア:「大丈夫だろう。一応、今日の予定は師匠に伝えてあるし、何かアクシデントがあった時だけ報告すれば」
 勇太:「そうか」

 冬ならもう真っ暗という時間帯だが、真夏の今はまだ明るい。
 西日が眩しいくらいだ。
 列車は西に向かって走っているので、正に『夕日に向かってダッシュ!』といったところか。
 2人の魔道士は、夕食である駅弁を楽しみながら帰宅の旅を続けた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「下山2人旅」

2022-09-01 11:51:55 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月19日16:00.天候:晴 静岡県富士宮市 JR富士宮駅]

 藤谷のベンツが富士宮駅前に到着する。

 藤谷:「ここでいいかい?」
 勇太:「ありがとうございます!」

 勇太とマリアは、車から降りた。

 藤谷:「気をつけて帰れよ」
 勇太:「はい!ありがとうございました!」

 藤谷も、このまま静岡市内まで帰るという。
 今日は平日だが、前日までの連休は働き詰めだった為、今日は休業にしたとのこと。
 勇太とマリアは車を降りて藤谷に分かれを告げ、駅構内へと入る。

 勇太:「そうだ。先にキップを渡しておこう」
 マリア:「ありがとう。これは乗車券だけを、改札機に通すんだっけ?」
 勇太:「そう!」

 改札口の近くで、勇太はマリアの分のキップも渡した。
 ここから白馬駅までの乗車券と、ここから甲府駅までの特急券、甲府駅から松本駅までの特急券である。

 勇太:「飲み物でも買って行くか。車内販売なんて無いし」
 マリア:「そうなんだ」
 勇太:「まだ電車が来るまで、時間がある。気掛かりなことがあったら、今のうちにね」

 列車を待ちますか?

 『はい
 『いいえ』

[7月19日16:26.天候:晴 JR富士宮駅→身延線4009M列車1号車内]

 

 富士宮駅のホームは2面3線。
 1番線専用のホームがあり、あとは2番線と3番線が共用する島式ホームが1つだけある。
 で、現在は殆ど2番線と3番線しか使われていない。
 というのは、1番線はその昔、創価学会専用列車が発着していたホームだからだ。
 1番線だけ有効長が長いのは、各地から学会員を満載した団体列車が発着していたからである。
 この駅に乗り付けた学会員達は、2階の改札口を通らず、そのまま専用の出口から駅の外に出て、そこに横付けされている貸切バス(大富士観光バス?)に乗って大石寺を目指した。
 身延線が富士~富士宮間だけ複線化されている理由は、そこにある。
 また、かつては富士宮駅構内に、学会員専用列車を留置した広大な留置線があったが、今はそれも無くなっている。
 晩年は草が生い茂っていたそうだ。
 アンチ日蓮正宗の学会員は、『学会員のいなくなった大石寺は荒れ果ててペンペン草が生えている』と言っていたそうだが、実際にペンペン草が生えたのは、そのような留置線や駅の施設だったのである。

 
(創価学会が破門されたことで学会員専用列車の留置が無くなり、荒れ果てた留置線。夏はペンペン草が生えてもおかしくない)

 恐らくは顕正会の前身、妙信講も日蓮正宗追放(事実上の追放。本来の処分内容は、創価学会と異なる)前は団体列車で登山していたと思われるが、あまり追放前の事は語りたくないのか、創価学会ほど資料は残っていない(が、団体列車で登山していたことがあるのは事実のようである。それが妙信講専用列車だったのか、或いは他の法華講支部との混乗だったのかは不明)。

 マリア:「お待たせ」
 勇太:「おっ……」

 マリアがトイレから戻って来た。
 富士宮駅のトイレは駅の外の公衆トイレの他、改札内においてはホーム上にある。
 1番線には無い。
 あったとしても今は閉鎖されているだろうし、当時のスケジュールから察するに、学会員達は駅でのトイレ休憩は取られていなかったものと思われる。

 勇太:「大丈夫なの?」
 マリア:「まあね」

 マリアがトイレに行ったのは、何も具合が悪いからではない。
 ショーツが尻に食い込んでいるのが気になって、直しに行っただけである。
 欧米人女性がよくTバックを穿いているのは、ここに理由がある。
 アジア系よりも尻が大きくなりやすいので、Tバックの方が都合が良いらしい。
 だが、勇太はあまりTバックが好きではないらしい。
 そこで、マリアもそれは穿かないようにしているのだが……。

 勇太:「……お尻が大きくなった?」
 マリア:「あのね!……そこは『体が成長した』って欲しいな」
 勇太:「ご、ゴメン!た、確かに胸も少し大きくなったよね」
 マリア:「ベルフェゴールがね、『結婚に近づく度に、体を普通の成人に近づけてやろう』なんて言ってるの」
 勇太:「ベルフェゴールの暇潰しか!?」

 確かに出会った当初、勇太はマリアを小中学生くらいの女の子だと思ったくらいだ。
 体が小さいのは生まれつきである。

 マリア:「どうだろうね。悪魔の考えてることは、全て理解できるわけじゃないから……」
 勇太:「まあね」

 勇太と『先行お試し契約』となっているアスモデウスはアスモデウスで、契約時まで童貞だった勇太を『性の匠にしてやろう』と言って来た。
 そのせいだか分からないが、アジア人よりはイきにくいとされる白人のマリアを、まるでエロゲ―の主人公の如く何度もイかせる性技を披露している(AVで白人女優に対し、日本人男優が必ず電マなどを使用するのはその為。白人はイきにくいのだそうだ)。

〔ピンポーン♪ まもなく、下り列車が参ります。危険ですから、黄色い点字ブックの内側まで、お下がりください。まもなく、列車が参ります。ご注意ください〕

 そんなことを話していると、簡易的な接近放送がホームに鳴り響いた。
 2両編成ワンマン列車の時は、特に他に放送は無いのだが、今度のは特急ということもあり……。

〔「今度の3番線の列車は、特急“ふじかわ”9号、甲府行きです。停車駅は内船、身延、下部温泉、甲斐岩間、鰍沢口、東花輪、南甲府、終点甲府の順です。ご乗車には乗車券の他に、特急券が必要です。列車は、3両編成です。自由席は中ほど2号車、後ろの3号車です。……」〕

 駅員の肉声放送も流れる。

 

 しばらくして、列車がやってきた。
 特急車両ではあるのだが、乗降ドアは両開きの2枚扉で、実はデッキが無い。

 

 車内はリクライニングシートが並んでいる所は、特急仕様である。
 先頭の1号車に乗り込むと、2人は指定されている進行方向右側の座席に座った。
 マリアはいつもの通り、人形の入ったバッグを荷棚に置く。
 バッグの中からは、コミカルな人形形態をしたミク人形とハク人形が顔を出した。

〔「3番線、ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 ドアチャイムが鳴って、ドアが閉まる。
 座席の部分とは仕切り板があるのだが、デッキのドアが無い為、ドアチャイムの音色がダダ洩れである。
 音色はJR東海の在来線そのまんま。
 東京だと京王電車のそれと同じ。
 そして、列車はインバータの音を響かせて発車する。
 その音色はJR東日本とはまた違うタイプで、どちらかというとJR西日本で聴けるような、眠気を誘う音色と言えば良いのか。

〔ご乗車ありがとうございます。特急“ふじかわ”9号、甲府行きです。次は、内船(うつぶな)です〕
〔「富士宮からご乗車のお客様、お待たせ致しました。ご乗車ありがとうございます。特急“ふじかわ”9号、甲府行きです。停車駅は……【以下略】」〕

 

 座席を横から見ると、こんな感じ。
 特に広いわけではないが、シートピッチは首都圏で運転されている中距離電車のグリーン車と同じである。

 勇太:「特急といっても、これから山あり谷あり川ありの所を通って行くから、そんなにスピードは出せないらしいよ」
 マリア:「そうなの」
 勇太:「ここから単線になるしね」

 特急“ふじかわ”の最高速度は110キロであるが、これは東海道線内における最高速度。
 身延線においては、時速85キロが限界だそうである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「多宝富士大日蓮華山」 3

2022-08-31 20:38:20 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月19日14:15.天候:晴 静岡県富士宮市上条 日蓮正宗大石寺・奉安堂]

 御法主日如上人猊下:「遠ごん各地よりジンシンのトウザン、願い出により、本門戒壇之大御本尊御開扉奉り、無始以来、謗法・罪障消滅……【中略】……懇ろに申し上げました」

 カタカナはどういう漢字を書くのか不明。
 多分、ジンシンは『深信』または『深心』、トウザンは『当参』と書くのではないかと思われる。
 御開扉は内拝、つまり秘密の儀式に当たる為、文言が明文化されていないようである。
 もちろん、御法主上人猊下は基本的に最初の文言以外は一字一句変えることはない。
 もしも海外信徒が多い場合は、『海外を始め』という文言が加わり、支部総登山での参加者がいると、『支部総登山を始め』という文言が加わる。
 両方とも多い場合は、『海外並びに支部総登山を始め、遠ごん各地よりジンシンのトウザン』となる。
 ここから推測できるのは、御法主上人猊下は、予めその日の信徒の顔ぶれを大方知らされているということだ。
 まあ、当然か。
 信徒以外の者は入れないのだから、どういった信徒が来ているのかは添書の内容で一目瞭然だろう。

〔「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」〕

 御法主上人猊下の御説法が終わると、すぐに唱題に入る。
 今度は、本門戒壇之大御本尊が御安置されている御厨子を閉め、厳重かつ頑丈な鎧戸を閉めるのである。
 厨子の閉扉は僧侶が行い、鎧戸の閉扉は自動で行われる。

 勇太:(そういえば、あの御厨子の扉は電動じゃないな……)

 閂が付いているタイプの、手動式観音扉。
 多分、あえてそうしているのだろう。
 日本のタクシーのドアは自動開閉なのに、それより高級なハイヤーのドアが手動なのと同じ理由なのかもしれない。
 鎧戸まで閉まり切ると、ここで唱題は一旦終了。
 御法主上人猊下が離席される。
 この時、猊下は信徒席に向かって必ず一礼して下さるので、信徒側もそれに対して答礼する。
 この際、信徒は席に座ったままで良い。
 席に座ったままで良いのだが、答礼の際は必ず合掌をしたままである。
 立ち上がったり、顕正会員のように伏せ拝をする必要は無い。
 信徒が猊下に伏せ拝をするのは、大坊での御目通りの時くらいか?
 猊下や他の御僧侶が退場される際、再び唱題が行われる。
 退場が終わると、そこでようやく『御開扉』は終了となる。

〔「退場に際し、注意事項を申し上げますので、席を立たずに、そのままでお待ちください。……」〕

 人数が多い場合は、各ブロックごとに分割して退場の指示が出るのだが、空いている場合は一気に退場の指示が出る。

〔「それでは、席をお立ち下さい」〕

 藤谷:「よし。それじゃ、帰るとするか」
 勇太:「マリアを迎えに行きませんと」
 藤谷:「それもそうだな。電車の時間は何時だ?」
 勇太:「16時26分発です」
 藤谷:「そうなのか。まだ、2時間くらいあるな。どれ、お土産でも買って行くか?」
 勇太:「そうですね」

 奉安堂を出てから、勇太と藤谷は仲見世売店に向かった。

[同日14:30.天候:晴 大石寺売店“藤のや”]

 大石寺の裏門を出た所の前に、仲見世商店街がある。
 そこの一画に、“藤のや”という喫茶店がある。
 マリアはそこで待機していた。

 勇太:「お待たせ」
 マリア:「おっ、勇太、お疲れ。藤谷さんは?」
 勇太:「タバコ吸いに行った。その間、僕もコーヒー飲んでてってさ」
 マリア:「そう」

 勇太はマリアの向かいに座った。

 勇太:「すいません、アイスコーヒー1つください」
 女将:「はい、アイスコーヒーですね」

 因みにマリア、勇太達が戻ってくるまで、紅茶を2杯しばいていた。
 さすがにケーキは1つだけだったが。

 マリア:「ケーキはいいの?」
 勇太:「班長がタバコから戻って来るまでの間だから」

 少しして、アイスコーヒーが運ばれてくる。

 勇太:「んー!これだ!」

 読経と唱題で喉が渇いた勇太には、素晴らしい清涼剤だっただろう。

 勇太:「電車の時間まで少しあるから、お土産でも買って行こうと思うんだ」
 マリア:「それはいいね。私もルーシーに送ってあげようと思う」
 勇太:「ルーシーかぁ……。エレーナにはいいの?」
 マリア:「どうせスズキが買ってるだろ?だからいいよ。ルーシーと師匠にだけ買えば」
 勇太:「そ、そうか」

[同日14:45.天候:晴 大石寺売店“藤巻商店”]

 女将:「シイタケ茶をどうぞ」
 勇太:「あ、ありがとうございます」

 あの後、藤谷が戻ってきて、会計は藤谷がしてくれた。
 さすがに財布の中から現れたのは、1000円札である。
 2000円札は、本当に御開扉御供養料だったのだろう。
 退出してから、同じ並びの土産物店に入ってみた。
 すると、お茶の接待をしてくれたのだが……。

 マリア:「こ、これは不思議な味!」
 勇太:「シイタケ茶だって」
 マリア:「See……?」
 勇太:「Shiitake mushroom.これを粉末にしたお茶だよ」
 マリア:「なるほど。キノコのお茶なのか。キノコと言えば……」
 藤谷:「スーパーマリオ?」
 勇太:「リリィだ!」
 マリア:「リリィだね。よし。これは、リリィへのお土産にしよう」
 勇太:「ワンスターホテルに送るの?」
 マリア:「いつ、リリィが魔界から戻って来るか分からない。どうせうちの屋敷にエレーナが来るだろうから、その時、エレーナに渡せばいいと思うよ」
 勇太:「エレーナに頼んだら、『配達料もらうぜ』ってならないかな?」
 マリア:「……すいません。これ、『普通の』宅急便でお願いします」
 女将:「はい、ありがとうございます」
 勇太:「エレーナの配達料、バイク便やメッセンジャー並みの値段なんで」
 藤谷:「そりゃ高いな。だが、それだけ急いで送るのにはいいんだろうな」
 勇太:「それはまあ、確かに」

 尚、イリーナには酒もいいだろうと思ったマリアだったが、恐らく大石寺売店で土産用の酒は置いていないと思う。

 勇太:「電車で甲府を通るから、甲府駅の売店でワインとか買えるかもね」

 山梨県は国産ワインも多く作られている。
 身延線の北の終点は甲府だから、乗り換えの時に買えるのではないかと勇太は思った。

[同日15:00.天候:晴 大石寺売店“大日蓮出版”]

 マリア:「難しい……。魔導書並みに難しい……。まだ、聖書の方が簡単かもしれない……」

 マリアは御書を見ながら、眉を潜めた。

 勇太:「そりゃ、聖書は現代語訳されて出版されてるからね。御書は違うんだよ」

 現代語訳版があっても良いだろうと作者は思うのだが、そうしてしまうと、本当に顕正会の言う通り、『正しく拝せない』のかもしれない。
 もちろん、御講の際に、お題の御金言を現代語に訳して解説してくれるのだが。

 勇太:「ラテン語で書かれている、大師匠様の魔導書よりはマシだと思う」
 マリア:「勇太にとっては、まだこっちの方が日本語だもんね」

 お土産や出版物を買い求めた勇太達は、これにて下山することにした。
 尚、後日、シイタケ茶を受け取ったリリィは大喜びだったが、実際にそれをお湯に溶いて飲用したわけではなく、魔法薬の材料にしたという。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「多宝富士大日蓮華山」 2

2022-08-30 20:14:52 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月19日12:00.天候:晴 静岡県富士宮市上条 日蓮正宗大石寺・“なかみせ”]

 BGM:https://www.youtube.com/watch?v=SJujngB8vAo(東方Projectより、“蓬莱伝説”)大石寺境内のテーマ。動画内のイラストは大石寺のどこか?参詣している2人は?

 藤谷:「えっ、鬼怒川のケンショーサティアンぶっ潰したの、キミ達だったの!?」
 勇太:「いや、僕達というか、ケンショーグレー(T田)の自爆です」

 昼食を食べながら、近況について報告する勇太。

 藤谷:「あのスケベ理事、最近見ねーと思ってたら、あんな所にいたのかよ」
 勇太:「何で鬼怒川なんですかね?」
 藤谷:「そりゃ、あれだろ。鬼怒川も不景気で、潰れたホテルや旅館がそのままになってるから、新興宗教は乗っ取りやすいし、昔はあそこで夏合宿やったこともあるから、『夢よ、もう一度』みたいな所があるんだろ」
 勇太:「夏合宿ですか。慰安旅行じゃなくて?」
 藤谷:「まーだ慰安旅行の方が良かっただろうよ。まあ、何でも支部総登山の真似事だったんだと」
 勇太:「そうなんですか」
 藤谷:「だったら他の宗教団体みたいに、専用の合宿所でも作って、『支部総登山』モドキでもやりゃあいいんだよ」
 勇太:「確かに顕正会は、会館はあっても、研修施設みたいなものはないですね。学会なら……あるのかな?」
 藤谷:「分かんね。まあ、日蓮正宗も、別に無いからな」

 日蓮正宗は総本山があるので、あえて信徒用の研修施設は必要無いのだろう。
 逆にそういう所に行くのなら、1日でも多く登山しろということだ。

 藤谷:「地方に会館作る金があるなら、それこそ潰れたホテルや旅館安く買い取って、研修施設とか保養施設でも造ってやれば、会員も定着すると思うぜ」
 勇太:「で、そこに突撃しに行く妙観講」
 藤谷:「その通り!」
 勇太:「……って、あー、ゴメン、マリア。こんな話、つまんないよね?」
 マリア:「ここでは私は部外者なんだから、しょうがない。それにしても、横田には参った」

 さすがに勇太、藤谷にはマリアのスパッツとショーツを横田に取られたことは話していない。

 藤谷:「どれ、食べ終わったことだし、ちょっくら売店内を散策するかな」
 勇太:「それはいいですね」

 3人は席を立った。
 食器などは下膳口に戻す。

 藤谷:「ごっそさんね!」
 女将:「はい、ありがとうございましたー」
 勇太:「御馳走さまでした」
 マリア:「Thank you for meal.」

 料金は前払いなので、食器を片付けたらそのまま出て良い。
 因みに……。

 
(マリアが食べたカレー。野菜の煮物はオマケである)

 
(勇太と藤谷が食べたチャーシュー麺)

 勇太:「どこへ行きます?」
 藤谷:「お土産とか買って行くか?」
 勇太:「あー、そうですね。でも、それだったら帰りの方がいいんじゃ?」
 藤谷:「それもそうだな。まあ、ちょっと俺はタバコ吸ってくるよ」
 勇太:「分かりました」

[同日13:00.天候:晴 大石寺・“藤のや”]

 因みに大石寺境内にある仲見世のことを、通称『売店』と呼ぶ。
 どこの宗派でも、大寺院にはこういった仲見世商店街があるのが通例だ。
 勇太達は三門より北側にある仲見世売店を訪れたが、実は南側にも存在する。
 また、古くから営業している店の中には、『法華講員の店』という札を掲げている所も存在する。
 今の日蓮正宗からすれば当たり前なのだが、創価学会が破門される前はもちろんのこと、破門されてからもしばらくは境内に学会員の店が営業していた時期がある。
 作者が東日本大震災前に参詣した時点においても、まだその店舗が確認できたほどだった。
 尚、2022年現在においては確認できていない。
 かつて学会員の店があった場所は撤退後、建物は取り壊されて更地になっている。
 『法華講員の店』という札が掲げられていた理由は、偏に学会員の店と区別する為であった。
 ほぼ100%法華講員の仲見世と化した現在において、その札は有名無実化していると言って良い。
 当然、勇太達が訪れた“なかみせ”や、マリアが時間潰しに利用している“藤のや”も『法華講員の店』である。

〔「安倍元総理を射殺した山上容疑者について、容疑者は旧統一教会の……」〕

 この店内にはテレビがある。
 マリアは紅茶とケーキをしばきながら、時間を潰していた。
 この店は喫茶店である。
 尚、この店でカレーを注文すると……。

 

 こういうのが出て来る。
 “なかみせ”と比べて、前者は食堂のカレー、後者は正に喫茶店のカレーと言えよう。
 どちらが良いかは、その人の好み次第である。

 マリア:「おっ?」

 勇太から借りているタブレットが光る。
 水晶玉では通信関係において、通話しかできない為、メールのやり取りができるよう、勇太からタブレットを借りていた。
 そのタブレットでのやり取りの相手は、イギリスにいるルーシー。
 魔界の女王とは名前が同じだが、名字が違う。
 もちろん、関係性は無い。
 エレーナとはケンカ仲間だが、ルーシーとは良い友人関係である。
 マリアは現況をルーシーに伝えた。
 帰りはまた、鉄道での移動となるとルーシーに伝えると、とても羨ましがっていた。

 ルーシー:「早く私も日本に行きたい」

 と、イギリスのロンドンにいるルーシーからの反応だった。
 あとは本当に、魔女というよりは普通の女子の会話。
 『彼氏(勇太)とは上手くいってる?』とか、『エレーナは元気?』とか、そんなやり取りだった。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする